ローマでMANGA[131]フェデリカとフェデリコが問題だ/Midori

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ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりしていきます。

●Euromangaコース第一期

私が講師をしているマンガ学校で昨年10月に出発した、最終学年三年生の専門コース「Euromangaコース」第一期が6月で終わろうとしている。あ、ちなみに欧米の一学年は、秋に始まって夏ちょっと前の6月で終わります。

我がコースを選択した三年生は8名。過去にこのコースとメンバーについて書いているので、興味のある方はこちらから。

http://bn.dgcr.com/archives/20171206110200.html
http://bn.dgcr.com/archives/20180207110200.html

2月の中間考査の後、6月21日の最後の授業までに、課題が三つある。

▽3月末締切のサイレント・マンガ・オーディション9への参加

http://smacmag.net/map/?_ga=2.234279581.2056468640.1528667364-941717016.1528667364

▽midoriに提出する20ページまでのオリジナル作品

▽もう一人の講師・パオロに提出するオリジナル作品

三課題とも、原稿はインクもいれて最終形態まで持っていくのが条件。

その他に、スケッチブックを購入して、私は授業が終わるまで毎日、顔を3つづつ描き続けること、パオロは毎日4コマを2〜4点描くことを宿題とした。





2月の中間考査で見た限り、ほぼ皆がこの毎日の宿題もやっていた。

顔を3つ描く、というのはmanga「子連れ狼」で有名な小池一夫塾で実践していたものだ。プロの作家で大事な要素「コンスタントに制作すること」の筋肉を強くするのにうってつけ。

さらに同じもの(もちろん、皆違う顔を描いているが、「顔」という同じものという意味で)を描き続けると、微妙な線の違いで出てくるバリエーションに気がつくことになる。

5月の終わり、あまり描画のレベルが高くない生徒が「ねぇ、Midori…」と嬉しそうな顔をして話しかけてきた。

「今、描いてるこの作品(私用のオリジナル作品)、すごく気に入ってるんだ。今まではNarutoみたいなファンタジーを思い描いていたけど、自分の体験をもとに小さなストーリーを丁寧に作っていくことがすごく嬉しかった。自分でもなにかできるんじゃないかって思えた。だからMidoriに感謝してるんだ」と言ったのだ。

彼のキラキラした目を見ながら、この言葉を聞いていると、私の垂れ下がった目がうるうるしたのだった。

実は、彼の作品レベルはまだまだ低い。キャラの手はいい加減に描いてて凍傷にでもかかったようだし、キャラの表情を描くのに色々なmangaの本から一番近いコマを見つけ出して、ほぼ写している。

それでも、パオロの特訓でだいぶペンの使い方がうまくなったし、私の特訓で感情を表現するための演出ということをかなり会得した。自由に表現できるようになったと感じているのかもしれない。

この言葉をきけただけでも、この最初のコースは成功したと言えるのではないかと思ってしまった。

●フェデリカの逆襲

授業が始まって以来、日に何度もネームを送ってきたフェデリカは、中間考査で30点満点で24点だった。ちなみに18点が最低でそれ以下の場合は落第。まぁ、私立の専門学校の場合は、よほど欠席が多くない限り落第させることは滅多にない。

フェデリカは日に何度もネームを送ってくるくらいだから、すごく熱心な生徒だ。それでも絵の仕上がりに不足があるし、内容も不足がある。

一緒に講評をした教務課長のジョルジャに、あくまでも結果を評価するので、どのように向き合ったかは評価に入れなくていいのかと聞いた。結果のレベルで評価するということだったので、かわいそうに思ったけれど24点にした。

24点の後の授業日に、フェデリカは下から私を見上げて「もう少しいい点かと思った」と不服を隠さなかった。それでも立ち上がって、「最終で28点を取ってマスターコースに行く」と言い出した。

フェデリカはプログラム通りにSMA(サイレント・マンガ・オーディション)への応募作品を仕上げ、着実に卒業制作に当たるパオロ用と私用の作品にとりかかった。

私の担当である火曜日の授業で、フェデリカのネームや原稿制作を点検する度に、二人の合言葉は「この原稿は完璧でなければならぬ!」。

なんとかフェデリカの頑張りに見合う点数、少なくも28点を最終試験で取らせてあげたい。最終考査には学校外の編集者も来るので「原稿は完璧でなければならない」のだ。

画面構成や流れは悪くない。それでも細かいパースの狂いがあちこちに見られるので、いちいちそれを指摘していった。私は優秀な絵描きではなく、パースだって自分で描くとわからなくなったりする。

でも、見ることは見られるので、パースの狂いがあるとそれを発見することはできる。なぜ狂っているのか、正しいのはどれか、をフェデリカと一緒に探したりした。

私の作品では、「実際に資料になる背景を自分で見つけて手に入れること」も条件のひとつにしていた。フェデリカはローマの地下鉄を舞台にした物語を作った。学校に通うとき実際に地下鉄を使うので、「馬鹿かと思われるほど地下鉄や構内の写真を撮りまくった」とフェデリカ。

鉛筆書きの段階での見直しの時のエピソード。あるコマに改札口があった。

ローマの地下鉄の改札は、細長い腰の高さの箱状のものに切符を差し込み、二つの箱の間にあるガラスの扉が左右に開いてすり抜けて行くもの。

ところが、フェデリカのコマの中では細長いはずの箱が、2倍くらいの幅になっている。それを指摘しつつ、ちゃんと写真を撮ったのかとも聞き、Google様で画像検索して見つけたものを、片っ端からFacebookメッセンジャーで送った。
https://goo.gl/1j7vTq

フェデリカの返事はちゃんと写真を撮ったし、これはラフだから原稿にするときはちゃんとするから安心して、だった。

鉛筆での清書段階でもまだ箱が太い。そしてのっぺらぼうだ。もう一度問いただすと、好きなmangaで地下鉄を描いてるコマがあってそれを真似した、と言う。それって東京の地下鉄でしょ?

http://www.nbpress.online/archives/4879
(↑確かに太い箱もある)

なんでそういう思考になるのか、よくわからない。写真を撮りまくったのに。「ローマの地下鉄なのに、なんでローマの改札口を描かないの? それからこれは機械であって、アマゾンの段ボールじゃないんだから、なにか窓とかあるでしょ(通行可の緑色の矢印や通行不可の赤いX印が出たりする)?」

なぜかフェデリカは東京の地下鉄の改札口を気に入っていたが、「原稿は完璧でなければならない」ので、私の言うことを聞かねばならないと思っているようで、素直に「分かった、箱を細くする」「分かった、窓をつける」と言った。

そして今、デジタル彩色で仕上げに向かっている。

●フェデリコの沈没??

イタリア、というか欧米では、聖人の名前をつけるが普通なので男女でかぶったりします。イタリア語の場合、女子名だとAで終わり、男子名だとOで終わる。マリアとマリオとか、バレンティーナとバレンティーノとか。

で、このフェデリコは前述のフェデリカの打ち間違いではなく、そういう名前の男子生徒で、フェデリカとは別人28号(なつかしい!!)なのだ。

フェデリコは8人のコース選択者の中で唯一、mangaに興味なく育ってきた人で、自分の枠を広げたいからとEuromangaを選んだ変わり者だ。

絵がうまく(マンガ学校で「絵がうまい」という評は変に聞こえるかもしれないけれど、実際コース内にもこれで三年生? と思ってしまう生徒がいる)、授業が始まってすぐに、ある本のイラスト制作の仕事が入り授業欠席が多くなったが、これには目をつむった。

たまにやってくる授業も熱心に聞き、すごく面白がっていた。2月の中間考査前に本が出版になり、考査では本も対象になって28点を得た。

3月末のSMAにはちゃんと予定通り、ちゃんとネームのやり直しも受けて、締め切りに間に合って参加できた。

そして、その後問題が起こり始める。こんなに頭が硬いとは思わなかった。

先に、私とパオロからの毎日の宿題の話を書いた。フェデリコはその宿題が遅れているからと、授業の度に顔を描いたり、4コマを描いたりしている。

パオロも私も、その宿題よりも優先順位の高い卒業制作たる作品制作をするように言うのだが、どうしても順番に仕上げていかないと気が済まないというのだ。ネームなどに手を付けてみるのだが、どうしてもやり残しになっている顔と4コマが気になって気になってできないのだ、と。

「わかってるよ、わかってるけどできないんだ。絶対に全部期日中にしあげるから!」と、顔を描いているスケッチブックを隠そうともしない。

「誰が授業料を出しているのか知らないけれど、ネームを見せてくれなければ直すことも出来ずに、あなたは学習することができない。授業料が無駄になってると思わないの?」と言ってみるけど「わかってる、わかってる」を繰り返して頑なにスケッチブックを離そうとしない。

うーーん、これでは最終考査で何点あげられるやら……。

あとわずかな授業日数でどこまで進められても、高い点を上げる気持ちになれない。次期の指導の参考にすべきエピソードだなと感じた。


【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師】

告白します。ゲーム中毒者です、私。今やってるのはiPadで「Fishdom」。いや、お金はかけない主義。ゲームデザイナーと会社には悪いけれど。

もともと、同じ柄を3つ合わせて消滅系、玉を当てて消滅系が好きで何も考えないで実にリラックスできる。

舅を我が家で看取った後、気が狂ったようにそれ系のゲームをダウンロードしては、レベルが高くなってなかなかクリアできなくなると、別のゲームをダウンロードして……を繰り返した。

実は、こうした電子機器でのゲームが出てくる前は、トランプの一人遊び中毒だった。それがかなわない時は枝毛切り。

舅を看取った後のストレス解消は意味があるけど、それ以外はどちらかという逃避。勉強中、あるは仕事をしつつ、ちょっと詰まると、そこで思考を深めないでゲーム。思考を深めるという作業をするための、心の筋肉を鍛えることを怠ってきたのだ。

それでも、他のゲームをアンインストールしてFishdomだけにした。ちょっと詰まってゲームを起動すると、一時間はそこで費やしてしまう。

それも一日に一回ではない。それで「あー、時間が足らない。だから家事もちょっと手抜きで……」はないよねぇ。

まだFishdomをアンインストールする決断はつかないけれど、昨日は二回、今日は一回のプレイに留まっている。禁煙を目指す喫煙者が、吸う本数を減らしている感じかな。

ゲームを否定しているわけじゃなくて、私とゲームのつきあいかたが間違っているのでなんとか正そうとしているところ。ちなみに今、レベル1362。


[注・親ばかリンク] 息子のバンドPSYCOLYT


MangaBox 縦スクロールマンガ 「私の小さな家」
https://www-indies.mangabox.me/episode/58232/

主に料理の写真を載せたブログを書いてます。
http://midoroma.blog87.fc2.com/

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