ローマでMANGA[133]やっててよかったハイブリッド!/Midori

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ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりして行きます。

●夏休みの予定

マンガ学校は6月の末に終わり、10月の半ばに次の学年度が始まるまでかなり時間がある。だから、あれもしよう、これもできる、と頭の中で予定を立てていた。

我が家は、ローマ郊外の、かつてムッソリーニの時代にベネト地方からの移民に農業を営むべく土地を与えた、といういわれのある場所で、我が家を含めてどこも農地を含んだ一軒家。庭というより果物の木が70本ある農地は、いくらでもやることがある。

ここ数年、墨絵風の描き方に惹かれて、あれこれ描いている。昨年、この描き方で大東亜戦争中の母をモデルにmanga作品を作ろう、というアイデアを得た。いろいろ資料集めをしていたので、それを少しづつ形にする夏にしよう、と予定を立てた。

(戦争中の庶民の生活というテーマで、あれこれmangaが出ているのを知った。そのmangaを知って企画を立てたわけではない。要するに、ご時世ではないかと思う。日本人があの戦争を庶民レベルで見直そうという空気が出てきた、ということなのだ。)

この二つが頭にあったのだけど、現実に予定外のことが起こるのはよくある話で、私の場合もそう。





まず、農地。入り口から母屋へ向かう道に、夾竹桃と松が交互に植わっている。
落ちた松葉が重なり、さまざまな雑草がかなり伸びている。7月に入ってから
松一本のまわりを一区画と決めて、毎朝そこの雑草雑木を処分していった。

それから墨絵。濃い墨と水をかなり入れた薄い墨と水彩のように使って、陰影をつけるのが墨絵の美だと思う。前衛書道のように大胆な下書きなしの筆さばきに憧れるものの、ちいさなコマに大胆な筆さばきで描いていって、内容がわかるように処置できる自信はない。

やり方を見つけるのと、作品に必要な昭和時代の家屋や茶の湯などの伝統文化、庶民の様子などを撮った写真を集め、それを見ながら毎晩一枚、夕食の食器洗いが終わってから描くようにした。

(↓ここで何枚か見られます)
https://www.instagram.com/midoriyamane

どちらも、最初の10日くらい過ぎると段々と速度が落ちていった。

(幸い)日本人観光客の送迎のお仕事や、別の県に住む親戚が来たり、数が多いダンナの友達との会食など、生活に必要な用事が次々と湧き上がってくるのだった。

特に墨絵の方は、これで生活の糧を得てるわけではない、という負い目もあって、どうしても他を優先してしまう。コマ割りした原稿の試作を何枚か描いて見る、という企てが実現しないまま、もう8月も終わろうとしてる。

●「天才的な企画」も進行中

学校の同僚二人と組んで進めている「天才的な企画」も、夏休みに進めるものの一つだ。

教務の手伝いもしている物語の作者は、学校業務が済むまで落ち着いた時間が取れずに、作品の第1巻の最終章をなかなか仕上げてくれなかった。やっと7月の半ばに受け取り、ストーリーボードに取り掛かった。

日本に負けず、こちらも熱風で40度くらいになる厳しい夏だった。加えて「生活に必要な用事」が次々と湧き上がる中、これも生活の糧に(まだ)なってない作業を、忙しくしてる旦那の前で進めるのは精神的にストレスだった。

そこまでオドオドしなくていいと思うものの、家人の顔色を伺ってしまうのは小さい頃から根付いてしまった性癖なので、おいそれと自由になれない。

それでも絵師の作業が止まってしまい、企画のボスであり作家のフランチェスコがFBのグループメッセンジャーで「この速度では10月の(イタリア最大のコミックスフェアであるところの)ルッカに間に合わない」と言ってきたのを読んで、私もはっとしてしまった。生活の糧ガーとか言ってる場合ではない。

日本では敗戦記念日、キリスト教的には聖母昇天祭、イタリアでは古代ローマからのお祭りフェッラゴーストの8月15日が夏の節目。この日までに13章を仕上げてしまおう! と頑張った。

(↓フェッラゴーストについて書いた私のブログ)
http://midoroma.blog87.fc2.com/blog-entry-398.html

そして残りの14章は、なんとか8月が終わるまでに仕上げよう。生活に必要な用事が次々と出てくるだろうけど。

●アナログで描くネーム

この企画が始まった遠い2015年の終わりは、ノートにスケッチをしてそれを元にPhotoshopでタブレットを使って鉛筆で描いたような雑なラフ、必要であれば参考になる写真をモンタージュして、色もざっとつけて絵師に送っていた。

それから元コミックスタジオ、今のクリップスタジオを購入し、配置しやすいのでセリフも入力して提出した。

さらにiPad proとApple Pencilを手に入れ、iPad用のクリップスタジオが出現したのでそれも手に入れ(最初の6か月は無料)、これでネームを作り始めた。

https://howto.clip-studio.com/library/page/view/clipstudiopaint_ipad_hajimete_001

使い慣れて機能がわかってくると、セリフの入力も楽だし、Apple Pencilの描き味は良いし、彩色もあっという間にできるので、雑ではあるけどこのまま原稿にしちゃってもいいんじゃないの? というとこまで描いてしまうようになった。

幸い絵師とはスタイルが全然違うので、絵師は私のネームに見る絵には影響を受けずに、ちゃんと自分の絵を描いてくる。当たり前か。

一つだけ、私の腕では描ききれないバックに写真を埋め込みたい時に、どうやったらいいのかわからなくて、iPadのクリスタからiMacに送り、フォトショで写真を埋め込んでそのままフォトショで仕上げたり、またクリスタに落としたりして仕上げた。

ただ、どういうわけか、夏に送られて来た13章はどうしてもデジタルで描くのがおっくうで仕方がなかった。

いつものようにザッとノート上でレイアウトを決めたら、使ったコピー用紙(捨てないで取ってある)の裏に鉛筆で描いた。薄くざっとレイアウトを置き、決まったら力を込めて濃く描いていく。

間違ったり、描いてるうちにもっといい案が出ると、消しゴムでザクザク消してまた上から描いた。なんか、すごく自由に感じる。デジタルの方がきれいに消したりできるのにね。

彩色は色鉛筆。鉛筆のザラザラした髪に、またこれもザラザラした色鉛筆で色を乗せる。肌にちょっと影までつけたりして。そのザラザラの感じがいい味出してるなんて思ってしまう。

やっぱりアナログ人間なんだろうか。デジタル好きなんだけど。使用しているiPadが9.7インチと小さいから不自由に感じるのかな。

(↓例)
https://drive.google.com/open?id=1fiHVhPYQ6kdlUvUf-UMIX-fxrC66VZqN

●ハイブリッドだから楽しい!

この企画を出発させて本当によかったなぁと、ネームが進むほどに思う。最初の考えでは、イタリア人が作った原作をもとに、私がmangaの構築法でネームを作り(要するに演出をmanga風に)、イタリア人が作画するというハイブリッド制作システムであった。

ネーム、演出の部分でもハイブリッドにならざるを得なくて、それが楽しい。上に例としてあげた2ページの中に一つ、大きなコマに遠景で二人の人物が配置され、周りのスペースに人物を取り囲むように吹き出しが8つも置いてある。8つも。

「人物のアクション時間と読みの時間は一致する」「一つのコマには一つの出来事。行って帰ってのやりとりの吹き出しが4つ以上あるなんてもってのほか」というmanga構築法の基礎から大きく逸脱している。

マンガのやり方だと、キャラに感情移入をしなくてよいので、物語る視点が第三者であることが多い。私のハイブリッドネームにも第三者の視点から語る事が多々ある。

この大きなコマもそれで、カメラはキャラから遠く離れ、シーンが変わる時のように遠景になる。キャラが一人、あるいは二人でも、黙っていてこの構図だと孤独を感じるキャラとか気まずい空気の中にいる二人とか、キャラに感情移入ができる。視点がキャラにある。

でも、8つも吹き出しがあると、視点はキャラに行かない。視点は第三者、読者は神の目を持って状況を見守ることになる。

読者は8つものセリフを読まねばならないので、キャラが構図の中の姿勢のまま長い時間止まっているのを見ることになる。

このコマの場合は姉妹がそれぞれの内面を語り合っているので、固くなったまま姿勢を崩さないでいることに不都合はない。さらに、マンガでよくあるように、セリフの内容が重要なので、絵で「邪魔」されないのも都合が良い。

このやり方で、沢山のセリフを一つのコマに収めることができると、他のところで視点をあるキャラに乗せて、感情を表現するために無声のコマを入れたり、読みの速度をゆるめたりするのに使える。そうしょっちゅうは使ってないけど。

第1巻、最終章14はセリフの量がそれほど多くないのでmanga式に、視点を持つキャラを決め、感情を描きつつ進められそう。


【Midori マンガ家/MANGA構築法講師】

日本でもかなり報道されたジェノバの高速道路の橋の陥落。39名も犠牲者を出してしまった。

予算がないからとメンテナンスを怠り、劣悪な材料を使ったりするとどうなるのか、という例を示した形になった。

もっとも、イタリアの場合は、公共事業というと書類さえ揃えば予算が出てくるので、着服するためのダミー会社を作ったりして、予算はとっても実際にその金額を工事に使われなかったりする。「予算がない」からメンテナンスをしない、というのとちょっと違うかも。

「イタリアの癌は汚職だ。汚職を一掃する」と言って政権の座についた、五つ星運動党に期待。


[注・親ばかリンク]息子のバンドPSYCOLYT


MangaBox 縦スクロールマンガ「私の小さな家」
https://www-indies.mangabox.me/episode/58232/

主に料理の写真を載せたブログを書いてます。
http://midoroma.blog87.fc2.com/

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