映画ザビエル[61]絆ブームへのアンチテーゼ/カンクロー

投稿:  著者:  読了時間:6分(本文:約2,700文字)



◎万引き家族

英題:Shoplifters
公開年度:2018年
制作国・地域:日本
上映時間:120分
監督:是枝裕和
出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、城桧吏、松岡茉優

●だいたいこんな話(作品概要)

日雇い労働者の柴田治とクリーニング店にパート勤めしている妻の信代は、治の母、初枝の元に、息子の祥太、信代の妹の亜紀と共に転がり込んで暮らしている。治と信代夫婦の収入は不安定で、初代の年金を当てに、足りない分は万引きして生計を立てていた。

いつものように、治と息子の祥太がタッグを組んでスーパーで万引きした帰り道、寒空の中、団地のベランダに出されて放置されている幼い女の子、ゆりを見つける。

ゆりを一時的に連れ帰り、温かいものを食べさせてから、家まで送って行った治と信代だが、日常的に虐待を受けている様子を知って、信代はゆりを自分の娘として育てることを決める。

ゆりの本物の両親は捜索願いを出さず、ゆりも全く元の家に帰りたがらなかったが、現実的には誘拐してきたことに変わりない。ゆりを家族に迎えたことで、治たちの暮らしに綻びが生じる。

家族であろうとして、取り繕えば取り繕うほど新たな綻びが生まれ、やがて治たちの手に負えなくなってしまう。

死亡している親の年金を不正受給していた家族の事件をきっかけに、是枝監督が「犯罪でしかつながれなかった」家族を描いた。第71回カンヌ国際映画祭、最高賞パルムドール受賞作品。





●わたくし的見解/大人になるって、素敵なことね

20年ほど前、当時小説「GO」が映画化され注目を浴びていた金城一紀さんが、何かしら雑誌の映画特集の中で「キューブリックとカンヌ(映画祭の受賞作品)が良いとか言う大人にはなりたくない」みたいな発言をされていた。

金城さんは近年では、映画化もされたTVドラマ「SP」など手がけられ、小説家でありながら映像作品に強い興味をもつ人である。「GO」の映画化は2001年、20代だった私もキューブリックとカンヌの良さはてんで分からず、その先わかりたいとも思っていなかった。

発言の趣旨としては「キューブリックとかカンヌとかを良い」と言って通ぶるオッサンにはなりたくないって事で、実際そのような玄人気取りの発言に酔いしれがちなのは、一部のオッサンが陥りやすい穴でもある。何も映画に限ったことではない。

おそろしいもので、オバハンになったわたくしも、あれほど忌み嫌っていたキューブリックとカンヌの良さがわかるようになってしまった。言い訳がましいが、映画研究会の大学生じゃあるまいし、決して通ぶっているのではない点をご理解願いたい。

LGBT同様に、映画についても多様性を認めるわたくしは、商業ベースに乗らない作品の良さや意義がわかるようになった。かつてディスっていたものを、やっぱ良いっすね、と掌を返せるようになった点も含めて、大人になったのだ。誰か褒めて欲しい。

さて長々とした前置きで最も重要な部分は、カンヌで評価されるものは、そもそも商業作品ではないと言う事だ。言い換えると、そこに分かりやすい面白さは、まず無いと考えてよい。

「アート作品気取り」「何が面白いのか分からない」

定型文でもあるのかな、と思うほどカンヌ受賞作品の低評価レビューは、概ねこんな感じ。気取っているのではなく、商業作品でない以上、事実アート寄りなのであるし、結果エンタメ的面白さは少ない。

さすが拒否反応を示しているだけあって、実に的を射た意見である。結局のところ、それが好きか嫌いか、ただそれだけの話なのだ。

一口に「読書します」と言っても、古くはシャーロック・ホームズ、昨今なら伊坂幸太郎作品のように伏線を回収しスッキリと終わるミステリーが好きな人もいれば、回収されない伏線がてんこ盛りのまま終わる純文学系が好きな人もいる。

決して、ミステリーが低俗な訳ではないし、純文学が高尚な訳でもない。カンヌ作品は、純文学的だと言える。カンヌ受賞作品の冠は、作品の傾向や性質をあらかじめ示してくれている事に他ならない。

気ぃ付けなはれや!と、親切にもポスターに書いてあるのだから、苦手、あるいは不快ならば観なければ良い。素直に「ミッション・インポッシブル」のチケットを買えばよいのだ。

「万引き家族」もやはり純文学的作品で、回収されない伏線、つまり解決していない問題にもどかしさを覚えることになる。答えが作品の中にあるわけではない。

あえて言及することも憚られるが、万引きして家族を養う彼らを賛美してはいない。子供にまで犯罪の片棒を担がせているのだ。正しいはずがない。正しくない彼らが、それでも少しましに見えてしまう程、実の子供に居場所を与えていない家族の存在が提示される。

万引き家族の中で、父よりも母よりも真っ先に大人になったのは、息子の祥太だった。正しくないことに子供らしく、まっすぐ疑問を持った彼に引っ張られて、家族は変容する。彼の姿には希望が垣間見え、誇らしい。そして、いかなる場合でも成長には寂しさが付き物だ。

作品は答えを示しているのではなく、問題を提起している。家族って何なんだろう。血の繋がりは。いとも簡単に口にされる、絆とは何なのか。答えは、個々の鑑賞者の内にある。内にしかない。

さて、子供たちの演技が評価されがちだが、大人の俳優陣も実に素晴らしかった。ここ近年の是枝作品とは違い、本作はスタア不在で、それがかえってバランスの良いアンサンブルを奏でていた。

是枝作品初参加の若手実力派、松岡茉優さんも、個人的にプロのブスと賞賛している安藤サクラさんも、今後の作品に常連として呼ばれそうなしっくり感であったし、なにより是枝監督の心の母、樹木希林さんがご健在の間にパルムドールを受賞できたのが、きっと是枝組にとって一番喜ばしいことだったに違いない。

ところで、「万引き家族」も面白いが、「ミッション・インポッシブル」も面白い。オバハンになると、キューブリックの良さもスピルバーグの良さも分かるのである。大人になるって、案外いいものなのだ。


【カンクロー】info@eigaxavier.com

映画ザビエル http://www.eigaxavier.com/

映画については好みが固定化されてきており、こういったコラムを書く者としては年間の鑑賞本数は少ないと思います。その分、だいぶ鼻が利くようになっていて、劇場まで足を運んでハズレにあたることは、まずありません。

時間とお金を費やした以上は、元を取るまで楽しまないと、というケチな思考からくる結果かも知れませんが。

私の文章と比べれば、必ず時間を費やす価値のある映画をご紹介します。読んで下さった方が「映画を楽しむ」時に、ほんの少しでもお役に立てれば嬉しく思います。