もじもじトーク[91]新・まちもじ特集 その1 ~「愛」はゴシック体?~
── 関口浩之 ──

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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。

まずは、台風21号で被害にあった皆様にお見舞い申し上げます。僕の住んでる街では、小さな看板が外れたりした程度で、大きな被害はありませんでした。

ただ、東京から千葉方面に向かう電車は大混乱でした。僕が通勤で使っている東京メトロ東西線は、雪で止まることは当たり前なんですが(笑)、今回の強風で、帰宅ラッシュの時間帯に、数時間、電車が止まりました。





東京メトロ東西線は、地下鉄とはいえ、西葛西駅から西船橋駅まで地上なのです。しかも高架線なので、強風には弱い路線なのです。

今から40年前の1978年に、東西線の荒川に架かる鉄橋で、強風により電車の転覆事故があったのです。

1987年といえば、僕が高校卒業後、東京に上京した年じゃん……。思ったほど昔の話じゃない。

脱線事故の写真を見つけたので、リンクを掲載します。
https://mobile.twitter.com/shounantk/status/1036955717427576833/photo/3


近代化の象徴でもある東京メトロの車両が走行中に、バッタリ、倒れている……。この橋は、僕が住んでいるマンションから徒歩5分ぐらいのところにある鉄橋なので、人ごとには思えません。

過去に、そんな重大な事故があったというトラウマを持っている地下鉄東西線にとって、今回の台風で、早めに運転中止したのは正しい判断だと思います。

天候の回復をみて運転再開したので、いつもの3倍時間が掛かったけど、無事、帰宅できました。

さて、今日のテーマは「新・まちもじ特集 その1」です。3年前に「街中で見つけた素敵な書体たち」シリーズを4回やりました。
好評だったので(のはず…)、復活したいと思います。

「通勤途中や散歩中に見つけた楽しげな文字」「おっ、これ文字、大好き」とか、「この場面でこの書体はやばいんじゃね」などを紹介したいと思います。

文字オタクの観点ではなく、初心者目線で、肩の力を抜いて楽しめる企画にしたいと思います。

●「愛」はゴシック体、それ以外は明朝体

最近、気になったポスターなんですが、こちらをご覧ください。
http://bit.ly/2wNYY1b


最近のアイフルは、「愛がいちばん~」がキャッチフレーズなのかしら。僕がイメージするアイフルは「どうする~、アイフル~」なのです。そして、わんちゃんが出てきて、「アイフルです」で終わるやつです。

それはそうとして、「愛」の書体をじっくりみてください。

おっ、ゴシック体だけど、なんか風情のある「愛」ですよね。

この書体を作ったのは、フォントワークスの書体デザイナー藤田重信さんです。もじもじトークで、何度も登場しています。

「愛」の文字は「筑紫アンティークゴシック」という書体です。フォントにある程度詳しい人であれば、「筑紫ゴシック」は知ってますよね。つまり、アンティーク(100年以上の古さがあり貴重なもの)な、筑紫ゴシックということです。

一方、それ以外の文字は明朝体です。でも、ちょっと待って。なんか、このひらがな、すげ~風情ありませんか?

「筑紫Cオールド明朝」という書体です。オールドスタイルな筑紫明朝ってことですね。でも、こんな、こねこねした感じの「ん」とか「が」とか、見たことないよね。なんか新鮮な感じもするし、コクもあります。

筑紫オールド明朝シリーズの仮名セットは、Aタイプ/Bタイプ/Cタイプがあって、Cになるほどバビューンって感じで振り切ったスタイルです。

この「筑紫アンティークゴシック+筑紫Cオールド明朝」で『愛がいちばん』と表現すると、なんかしゃべってる感、でてませんかせんか?

この書体の組み合わせで、漫画の吹き出しに文字組みしてみたくなりました。

そうそう、明朝体とゴシック体が組み合わされた書体を、アンチゴチ、と表現します。アンチゴチという言葉、聞いたことある人いますか?

もう少し、詳しく説明してみましょう。

主に漫画の活字書体を指す言葉です。つまり、「アンチック体活字+ゴシック活字体」で、アンチゴチってことです。

多くの漫画のセリフは、ひらがなとカタカナが明朝体太字に似たアンチック体活字、漢字がゴシック体活字で、印刷されていると思います。

昔のアイフルのコマーシャルをみたのですが、「どうする? アイフル!」の文字を観察したら、あれっ、「どうする?」が明朝体で、「アイフル!」がゴシック体じゃありませんか。

ということは、アイフルは、ひとつのキャッチコピーの文章にゴシック体と明朝体を混植させる法則が、昔からあったのかもしれませんね。
http://bit.ly/2M0RXiv


●「でこぼこ感」がしゃべってる感を演出

ゴシック体よりも、明朝体のほうが肉声感(人がしゃべってる感)があると言われています。理由は「でこぼこ感」があるからです。

金属活字の明朝体は、でこぼこ感が更に顕著になります。漢字と仮名が大きさの差があればあるほど、肉声感がでると思います。

更に、骨格が全く違う明朝体とゴシック体を組み合わせれば、更にでこぼこ感が出てきそうですね。

ということは、「筑紫アンティークゴシック+筑紫Cオールド明朝」の組み合わせは、まさに、肉声感を出すための手法なのかもしれませんね。

以前、「フォントソムリエ感」というテーマで記事を書きましたが、それに通じるものがあると感じました。

「このフォントは何という書体か」を見分けることも楽しいけど、「この書体は、どういうコンテクスト(文脈や背景)で使っているのか」を想像することのほうが、更に楽しいと思います。

●秋はイベントシーズン!

みんなから、「関口さんって、いろんなところに出没してるよね」と良く言われます。秋のイベントシーズンということで、フォントおじさん、秋の巡業がはじまります(笑)

フォントおじさんが出演するイベントで、募集開始したものを4つ、勝手にご紹介しますね。お近くで開催されるセミナーがありましたら、ぜひ、ご来場ください!

・2018年9月23日(日)14:30~20:00
Webデザインシンキングセミナー in 広島 with YAT blog
https://yatblog.connpass.com/event/96728/


広島にて、「フォント最新事情×Webデザインシンキング」をテーマでフォント愛を語ります。遊びにきてね~ YATさんとManaさんのWebデザインシンキング講座も必見です。学割もあるよ。

・2018年10月6日(土)13:00~18:20
Web Design Creative Plus 今とこれからのウェブデザイン in 門前仲町
https://wdcp.doorkeeper.jp/events/79575


東京の門前仲町にて、「最新Webフォント極意 フォントおじさん直伝 2018年度版」をテーマでフォント愛と語ります。境祐司さん、森和恵さん、松田直樹さん、生明義秀さん、轟啓介さんも出演するという豪華企画です。SNS/ブログ投稿割もあるよ。

・2018年10月27日(土)11:00~17:00
クリエイティブハント 2018 in 山口
https://creative-hunt.connpass.com/event/97017/


山口県の山口大学にて、「フォントを学んでクリエイティブ力を高めよう ~フォント最新事情2018~」をテーマでフォント愛と語ります。まだ、登壇者情報は出ていませんが、多くの方に申込みいただいています。

では、またお会いしましょう。次回のもじもじトークは、文字に関するお話になる予定です。


【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
フォントおじさん
https://event.fontplus.jp/about/hiroyuki_sekiguchi.html


1960年生まれ。群馬県桐生市出身。1980年代に日本語DTPシステムやプリンタの製品企画に従事した後、1995年にソフトバンク技研(現 ソフトバンク・テクノロジー)へ入社。Yahoo! JAPANの立ち上げなど、この20年間、数々の新規事業プロジェクトに従事。

現在、フォントメーカー13社と業務提携したWebフォントサービス「FONTPLUS」のエバンジェリストとして日本全国を飛び回っている。

日刊デジタルクリエイターズ、マイナビ IT Search+、オトナンサー等のWebメディアにて、文字に関する記事を連載中。CSS Niteベスト・セッション2017にて「ベスト10セッション」「ベスト・キャラ」を受賞。フォントとデザインをテーマとした「FONTPLUS DAYセミナー」を主宰。

フォントおじさんが誕生するまで
https://html5experts.jp/shumpei-shiraishi/24207/