装飾山イバラ道[230]「没後50年 藤田嗣治展」を見た/武田瑛夢

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今週は敬老の日があったり、シルバーデーの曜日を外したりで、展覧会に行くには金曜日が最適ではないかということになった。雨の予報ではあるけれど、かえって空いているかもしれないし。

・没後50年 藤田嗣治展
http://foujita2018.jp

藤田嗣治は高校の頃から気になる画家の一人だった。美大受験の頃に、私は講師から「もっと藤田を見るべき人」だと言われた。この言われ方というのが、何を意味しているのかを説明するのはとても難しい。





美大受験という世界に入ったことのある人にはわかるかもしれないけれど、こうすればいいというアドバイスには、すぐには自分ではわからないものも多いのだ。

絵がなかなかうまくいかなくて壁にぶつかっている時に、他の人には答えに直結する作家がバッチリとわかるようなのだ。その人がうまく行くためのヒントを山ほど持っている画家なんだから、もっと見てヒントにすればいいのにということらしい。

ピカソも使えるというのでピカソの画集はよく見たけれど、当時は藤田の絵からはなかなか具体的なヒントを得られなかった。「色抑え目の中での表現」ということかなと思うのがやっとという感じだ。「絵を見る」といったって、絵の何を見て何を掴むかは、そう簡単ではない。

不思議なことに大学を出てデジタルアートに進み、こんなに歳を取った私が日常で画集をそばに置いている作家が、藤田なのである。使える考え方やヒントを、山ほどいただいている気がする。それは自分が素直になったからなのか、見えるものが変わったからなのかはわからない。

藤田嗣治のこの大規模な展覧会は、没後50年ということで開催された。1968年に亡くなっているのだけれど、どこかで見た数字。それは私が生まれた年だからだ。私にとっても、50年はリアルな数字になってしまったのだ。

展覧会は若い頃パリに行って花開く藤田の、画風の変遷がよく分かるものだった。模様のある布や花や猫というテーマは、私の好きなものと恐ろしく一致していて嫌になるくらいだ。

人物の顔や雰囲気は自由な解釈で表現しているように見えるのに、布の模様は克明に描写していて面白い。テキスタイルの作り手が見たとしても、感謝するだろうと思うほど、忠実に描いている。

それは布を作った職人への愛でもあるけれど、忠実に描く力があるからこそ、面白がって挑んだ結果でもあるように思う。

確かに昔の西洋画でも、布地の柄を怠っている有名な絵などないし、布の折重なりで変化する模様を描きながら追うのは楽しい。描きたいパーツなのだ。

藤田は作品のテーマを匂わせるような模様の布を選び、絵の中に自然に織り混ぜる。気に入っているものが出している雰囲気を、そのまま絵の中に永遠に定着させる。

かなり変化する作風の中で、私は女性や猫の時代の絵が明るくて好きだ。絵の中に好きなものがいっぱいなのを見ると、安心するからかもしれない。

そして巨大な戦争画の暗さや、激しさには圧倒された。暗い時代には、それを絵に残すことに使命を感じていたのだと思う。絵と向かいあって生きた人だからこそ、心の色が暗ければ正直に暗い中にいられるのだ。

藤田は国を渡り歩いて、出会う人も、関わる女性も変えながら、人間たちの生活から目に映るものを描いてきた人だ。外から見て感じたのか、中から見て感じたのかは絵によって様々だ。

どこにいても日本人として感じたものを出すことで、負けない部分を作っていたのかもしれない。

最後の展示室に、十字架型でキリストの絵が描かれた美しい木製の箱があった。これを奥さんの君代さんが、亡くなるまでずっと寝室に置いていたというエピソードを読んでグッときてしまった。

関わった女性はたくさんいたけれど、最後の奥さんが藤田が亡くなった後も、しっかりと彼を思い続けて暮らしたことは素敵だ。

絵を描く人の目線で展覧会を見ていたのに、最後にフッと妻目線で妻の気持ちに同調したというのは初めてだ。長く生きると今までとは違う見方が広がるのは面白い。感じることの多い展覧会となった。


【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
http://www.eimu.com/

東京都美術館での藤田の展覧会では、グッズが多く企画されていたので、展覧会図録と共にたくさん購入した。図録ってカラー印刷でこれだけの厚さのしっかりしたものと考えたらすごく安いものだと思う。黒い服の女性のポスター(カフェ)が表紙のものもあったけれど、会場限定版にした。

・図録 会場限定版 2400円
http://eimu.com/dgcol/fouji.jpg

グッズは逆で、企画をモノにするとこれだけ上乗せされます(笑)、という見本のように高めだ。しかし、商品の可愛さや素晴らしさに賛同する想いを伝えるには「買う」のが一番で、それ以外にはないのだ。

レジのところで横の人が購入していた絵皿にも未練があったりして、長居するとキリがなくなりそうだった。

・クリアファイル、トート、クッキー缶
http://eimu.com/dgcol/focoki.jpg

「没後50年 藤田嗣治展」は東京都美術館での展覧会が10月8日までで、終わると京都国立近代美術館に場所を代えて、10月19日から始まる。本当に見応えたっぷりの展覧会だったので、これから行く人は時間を多めに考えておくことをオススメしたい。