わが逃走[228]瀬戸内 ホースの巻きっぷり の巻/齋藤 浩

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ホースの巻きっぷりを美しいと感じ、眺めるだけにとどまらず、わざわざ写真まで撮ってコレクションしているうちに、けっこうな数になった。



ことのおこりは2008年の6月に尾道を訪ねた際、「銭湯の駐車場壁面に巻かれたホースが妙に気になり、じっと見ているうちにそれがまるで抽象芸術のように思えてきた」ことだった。

思わずシャッターを切った。
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帰宅後、旅の写真をずらっと並べて見ていると、無彩色の背景の中心に描かれた、鮮やかな緑の楕円が目に飛び込んできた。確かにこれは面白いかもしれない。しかし何故イイのか。どこがイイのか。




(以下仮説)
芸術は、単純化していけばいくほど作為的な部分が目立ってくる。対して巻かれたホースは芸術ではないので、そもそもそこに作為は存在しない。美しく表現しようという下心など最初から皆無なのだ。

つまり、考えて考えて考え抜かれて作り出された芸術を、非芸術が軽々と飛び越え、しかも制作者すら存在しない(=本人が意識していない)という状況が爽快であり、圧巻だったともいえる。


露出を変えて、複数枚撮っておくべきだったと後悔した。実際、ちょっとピンボケ。また尾道に行くときは、ぜひこのホースに会いに行こう! そう心に誓った。

翌年訪ねてみると、ホースの脇には看板が掲出されてしまい、あのミニマルな美からは遠のいてしまった。その数年後銭湯は営業を終了。

そこで、思ったのは、たかが巻かれたホースですら一期一会だということだ。会いたいと思ったらすぐ会いに行こう。ホースですら会えなくなるんだから、人なんてすぐ死んじゃうぞ。



話を戻そう。そんなことがあってからというもの、ホースを見かけるたび、その巻きっぷりを確認し、面白ければ記録するようになった。

これは2014年、竹原にて撮影したもの。
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重量感のあるダイナミックな巻きっぷりと、鉄板が立てかけられた木造家屋という背景のコントラストに惹かれた。

ホースは単なる中空の円筒にすぎないのに、ベルベデーレのトルソを想起させるこのマッス、力強さは実に彫刻的といえよう。

当然だが、巻いた人はそんなことを全く考えていないのだ。



これは、昨年の春、尾道で出会ったホース。
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今までは家屋の陰に隠れていたのだが、手前の家が取り壊されたため出会うことができた。別れがあれば出会いもあるのだ。

まずは離れて、シンメトリに均整のとれた輪を鑑賞。y軸を中心に最も外側、中心から等しいポイントに、端が来るよう巻かれている。美しい。つぎに近づいて、輪ひとつひとつが形成するリズムをめでる。

さらにオブジェクトの奥行き、つまり壁面からの距離(z軸)が最も遠いポイントを目測した後、実際に側面から見てみる。想像以上に距離があった。

こういう発見もまた、欄間の細工やレリーフを鑑賞するようで、実に優雅な気分だ。

また、ホースを引っ掛ける針金の、現場合わせ的造形が巻かれたホース全体のフォルムと類似する点も見逃せない。



そして先月、しまなみ海道ツアーで出会ったのがこちら。
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伯方島の元?ガソリンスタンドにて。壁面に落ちる影がまるで書のようである。また影だけを見てこのホースが想像できるか。いやできまい。などと反語ごっこを楽しむのも一興。



大三島にて。
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大山祇神社の参道にかかる橋のたもとに、ワイルド&アバンギャルドな巻きっぷりを発見。

立地的に川のすぐ脇であり、また蛇口がグランドレベルより低いなど、ミステリアスな魅力あふれる物件である。

なぜここに存在し、なぜこのように巻かれたのか。蛇口より低いところには川しかない。川に水を撒くとも思えんし。

参道を清めるにしても、なにもここに蛇口がある必然性が不明だ。また巻きつけるためのホルダーの形状も独特である。

今回は以上5点を紹介したが、最後に注意点。

凝視しないこと。不審者と間違われます。

いつかホースの巻きっぷり鑑賞という趣味が市民権を得るまでは、なるべく普通の観光客を装うことだ。

しかし、もし趣味として一般化してしまうと、こんどは作為的にホースを巻くやからが増えるだろう。ああ、どうすればいいんだ。

などと本気で考えない方がいい。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。