はぐれDEATH[64]乗り物酔いしないはぐれが語る乗り物酔い
── 藤原ヨウコウ ──

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●船や飛行機が揺れても平気

実を言うと、物心ついてから乗り物酔いなるものになったことがないので、かなり無理があるネタなのだが、先日某SNSで「?」と思ったことがあったので、備忘録代わりに思いつくまま記すことにした。

体質もあるのだろうが、乗り物酔いとやらはどうも平衡感覚を司る脳(なのか神経組織なのか)が、不慣れな動きの変動で情報処理が追いつかなくなって起こるらしい。

てっきり三半規管が強いか弱いか、というだけの話だと思っていたのだが、三半規管はあくまでもセンサーの一種であり、最終的な情報処理はあくまでも脳、というのが現代医学の知見のようだ。





中学だったか高校だったか忘れたが(どっちも修学旅行先が九州だった)、熊本から長崎に連絡船で移動した時、付き添いの先生を含めて全員が船酔いする中、舳先に近いところで一人平気な顔をして喜んでいたのがボクである。

それなりに波は高かったし、結構な雨も降っていたのだが、連絡船が出る程度である。しかも内海。外海の荒れ方に比べればたいしたことないと思うのだが、まぁそのような状態になったので、それなりに揺れていたのだろう。

そのうち喜んでいる場合ではなくなったので、即席看護係をやらされたのだが、とにかくなんで船酔いするのかがさっぱり分からないので、正直あまり役に立たなかったと思う。

船酔いが軽微な人に「遠くを見ろ」と言っても、遠くが見えない天候なのでどうしようもない。もちろん、最初は症状が軽微でも悪化する。

それまで乗り物酔いになったことがなく、道中のバスの中で車に酔った同級生をからかっていた連中も、もれなく船酔いしたのには苦笑したが。

船の揺れ方、というのは陸上の乗り物の揺れ方より、ある意味エゲツない。

陸の上なら地面や線路の揺れ程度で済むのだが、海はこれに波が加わる。そもそも安定度から言えば、陸よりもはるかに不安定であることは言うまでもあるまい。

そんなとき、船は横波を受けないように航行するのが鉄則である。横波をモロに受けたら転覆するからだ。だから波に対して垂直に向ける。

荒れていなければ、まぁさしてたいしたことはない。波が高くなると、エラいことになる。

波は高さにかかわわず、それなりの周期でやってくるのだが、まず波を越える時に舳先が持ち上がる(当たり前や)。波を越えたと思ったら、舳先から海面に落ちる。

この高低差だけでも乗り物酔いに弱い人はやられるのだが、ここに妙なウネりが加わると左右にも揺らされる。で、波は一回で済むはずがなく、また高さもけっこう変わったりするので効果覿面である。

さらに横波に関して言えば、船には「復元力」というヤツが設計時におりこまれている。要は横の力で斜めになった船体を、正常な位置に戻すだけの話なのだが、モノの本によると復元力が強すぎるのもあまりよろしくないらしい。

振り子と同じなのだが、復元力が強すぎると慣性モーメントが強すぎて、戻った時に舷側から浸水し、ひどい場合は横転の恐れもあるらしい。

要するに、前後左右の揺れにはそれぞれ作用反作用が当然のことながらあり、これらが複合的に起こりやすいのが船なのだろう。

だろう、としか言えないのは、飛行機に乗って多少揺らされても酔えない、というアホな現実がボクの場合あるだけだし、海の波に比べれば雲上まで上がってしまえば空は快適そのもの、というアホな思い込みがあるからだと思う。実際、雲の上まで上がってしまえば気流は比較的安定してるし。

このようなボクが自動車で酔うはずもない。

●アウト・イン・アウトとはなにか

ところで、先日とあるSNSの書き込みで「山道を運転する時のコーナーの曲がり方はアウト・イン・アウトで、これは乗り物酔いしやすい人の苦痛をやわらげる」というとんでもないものがあったからだ。

SNSで物議をかもすつもりはなかったので、放置しながらTLを眺めていたのだが「???」という方向にどんどんいってしまい、尻すぼみ状態で終わった。

もちろん、「アウト・イン・アウト」と「乗り物酔い」の因果関係はほぼ皆無である。

軽く「アウト・イン・アウト」について説明すると、道の路側からコーナーに侵入して、コーナーの頂点ではセンターラインに近いところにステアリングを切って、路側に進行するというだけの話である。

加えるとすれば、コーナーに侵入する際、減速して出口でアクセルを踏むということだろうか。まぁ、アクセルを踏むタイミングは、人それぞれだが。もっと手っ取り早く言えば、早い速度でコーナーを曲がるテクニックであり、乗り物酔いとは基本関係ない。

それはともかく、ここでまるっと抜けているのは慣性モーメントの話である。

コーナーの手前で減速といっても、80km/hから30km/hへの減速距離が短ければ、当然のことながら、進行方向へ大きな荷重がかかる。そこへもってきて、アクセルをいきなりどかんと踏めば、今度は進行方向と逆の方向へ大きな荷重がかかる。

さらに、柔らかいサスペンションだと、上記した前後の振り子状態が起きやすくなり、前後だけでもじゃんじゃん揺さぶられることになる。

ここに曲がる際の横荷重(外側に向かう)が加わると、もう最悪である。横でも上記した船の復原力と同じ動きをするのだ。さらに車高が高くなると、特に横の揺れは激しくなる。タイヤの接地面と、乗車している人の頭の高さの距離が広がれば当たり前の話ではないか。

別に山道に限った話ではない。市街地を走っていても同様である。

面倒くさいのでさっくり結論から言えば、そもそもスピードを出しすぎているのと、ブレーキの掛け方が荒すぎるだけの話なのだ。

もっと酷い言い方をすれば、教習所で習う模範的な安全運転をしていれば車酔いはある程度回避できる。あくまである程度ですよ。

上記したように、車高が高くなればどうしても揺れ方は大きくなるので確実ではないし、一般的に売られている自動車のサスペンションは、ボクに言わせれば柔らかすぎる。

最近のサスペンションは機能満載なのだが(詳細を書き出すとエラいコトになるので飛ばす)、とにかく揺れ方が不自然で気持ち悪い。

ボクに言わせれば、「地面の状態がタイヤとハンドルに直接伝わって来ない」状態なのだが、これはタイヤとハンドルの間に色々なハードやソフト(!)が加わっているからだろう。だろうとしか言えないのは、ボクが運転したことがある最新鋭に近い車は、妹夫婦の自動車だけだからだ。

ややこしくなりそうなので、自動車のメカニズムそのものについては割愛。

「ある程度」にはと言うのには、もちろん先天的に乗り物に弱い人も含まれている。体質はどうしようもない。めちゃめちゃハードな訓練でどうにかするという手はあるようだが、一般人向きではないだろう(どんな想像してんねん)。

あくまでも「ある程度」という前提で話を進める。

「アウト・イン・アウト」を例に取れば、コーナー前の減速距離を伸ばしたり、最初からスピードを出さずに減速すればイイだけの話である。

40km/hから30km/hの減速なら、下手をするとブレーキを掛ける必要すらないかもしれない。エンジン・ブレーキで充分、この程度なら減速できる。当然、慣性モーメントは少なくて済む。もちろん、その後に急加速してはあんまり意味ないです。

ちなみに、80km/hから70km/hに減速しても無意味であることは、言うまでもあるまい。10km/hの減速は同じだが、70km/hで一般的なドライバーが曲がりきれる山道のカーブはほとんどない。曲がりきれずに自爆で済んでも、後の処理は必ずあるし、他の車や人を巻き込んだらエラいコトになる。

だからといって、80km/hから30km/hに短距離で急減速をすれば曲がれるから安全、というワケではない。乗り物酔いのことを忘れてもらっては困る。そもそも、山道を80km/hで走ること自体無謀なのだし。

山道なら登りだと、本当にアクセルを外すだけでそれなりに減速する。当たり前だけど。降りは逆に加速しやすいので、エンジン・ブレーキで充分に減速して、ちょろっとブレーキを踏めば、あとは惰性でコーナーは曲がれる。あくまでも低速で走っていればの話です。

まぁ、日常的に山道を自動車で走る人なら、それなりの運転をしていると思いたいのですが、そうでもないらしいので恐ろしい。市街地でも普通に(!)危ない運転する人の方が非常に多いしなぁ。

ちなみに、伏見の一方通行になってるような細い路地で「アウト・イン・アウト」なんぞされると危険極まりない。が、恐ろしいコトにやるのだ。

本気で「アウト・イン・アウト」をしているのではなく、単に内輪差を考えずに運転しているだけなのだが、歩行者や自転車などを巻き込む可能性はもちろん高い。

そもそも内輪差のことを、きちんと理解できているのかどうかすら怪しい。これだって教習所でちゃんと教えられているはずで、内輪差を考慮に入れるのは恐らく駐車する時くらいで、それも車体に傷を付けたくないというアホな理由に過ぎないだろう。

全員が全員そうだとは言わない。ただ伏見の路地を歩いたりなんかしていると、思いっきり内輪差を無視した運転をするケースがあまりに目につくのだ。

乗り物酔いそのものは、どんな乗り物に乗ろうが必ずついて回る。もっと言えば、慣性モーメントが存在する限り、脳が動く風景を処理する限りついて回る現象であり不可避なのだ。

自動車に限って言えば、しつこいようだが教習所の教科書に載っているような模範的な安全運転が、一番手軽でハードルが低い方法の一つだろう。

本来、免許所持者はこうしたことが身についているはずであり、責任と義務を負っていることも理解しているはずなのだ。が、現実はあまりに違いすぎる。

乗り物酔いと縁のないボクが、ここまで暴論を展開したのは乗り物酔いを単に個人差のある生理現象と考えて欲しくないからなのだ。

ちなみに、ここで展開した乗り物酔いに関するメカニズムやなんやらは、大間違いをぶっかましている可能性があることを素直に白状しておく。しつこいようだが、乗り物酔いしたことないんだから。

ただ、乗り物酔いは横に置いといてでも、安全運転は率先して実行いただきたい。本当に周囲にとっては危ないので。


【フジワラヨウコウ/森山由海/藤原ヨウコウ】
YowKow Fujiwara/yoShimi moriyama
http://yowkow-yoshimi.tumblr.com