[4693] manga言語でネームができているか◇正しく読んでもらえない

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《いきなり海に放りこまない》

■ローマでMANGA[137]
 ちゃんとmanga言語でネームができているか
 Midori

■グラフィック薄氷大魔王[590]
 「広告なしでYouTube」「正しく読んでもらえない」他、小ネタ集
 吉井 宏




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■ローマでMANGA[137]
ちゃんとmanga言語でネームができているか

Midori
https://bn.dgcr.com/archives/20181205110200.html

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ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりしていきます。

●誰の目から見ているのか

今回は講師をしている学校の話を。

昨年始まった学校の三年目の専門コース「EUROMANGA」の今年のクラスは十四名。昨年は八名だったので約倍になったわけ。十四名というと、三時間の授業中に一人づつ課題を見るのにギリギリの人数だ。それでも興味を持つ生徒が増えてくれるのは嬉しい。

私の担当はmangaの構築法、というか、manga文法の解説で、かつ実技でなるべく解ってもらう。もう一人の講師は、主に作画の指導にあたる。

manga文法の大きな特徴は、シーンごとに誰の目から見て語っているのか分かること。

全部が全部そうでないにしても、マンガに比べると「語り手」がはっきりしている場合が多い。これは読者が語り手に感情移入をして物語をキャラと一緒に生きる、というmangaの大きな性質を実現するための手法なのだ。

読者は観客席にいて、舞台の上の役者の演技を見ている状態に似ている、マンガと一線を画す。もちろん、芝居の舞台を客席から見ていても、ちゃんと感動するわけだけど、キャラの一人になりきって、他のキャラと一緒に物語を生きるのは臨場感が違う。

あるシーンを誰かの目から見て語っている、というのを読み取る練習から始める。いくつか割と適当に選んだmanga(なるべくイタリア語に訳されている作品から選ぶ)の見開きページをコピーして生徒に配る。

同じものを教室のコンピューターに入れて、大きなモニターに映し出して解説に使う。モニターに映すと、カーソルを動かして「このコマのこの構図が……」と説明しやすくなる。

授業中は、まず私が読み取って解説する。漫画家によって、シーンによってはっきりと語り手がいる場合と曖昧な場合があって、漫画家の特徴も分析することになって面白い。

たぶん、漫画家さんも「このシーンはこのキャラから見た感じで……」と意識して構成する場合ばかりではないと思う。多分ほとんどの場合、無意識に流れの良さを主に考えながら構成してるのではないかと思う。

でも、mangaを読んで育ってmangaを制作すると、自然に誰かの目から語るようになっていく。一番顕著なのは、感情をベースにせざるを得ない、恋愛ものを描く少女mangaだ。

とりあえず、授業の例としてコピーを配ったのは、

1:(古いところで)ファイアー!(水野英子)(飛びページで見開き二枚)
2:乙嫁語り(森薫)(続きで見開き二枚)
3:20 century boys(浦沢直樹)(続きで見開き十一ページ)
4:あっかんべぇ 一休(坂口尚)(続きで見開き二枚)

まぁ、出てきた順番でどのキャラから見たのかわかりやすい→困難になってます。3の「20 century boys」の場合は、最初の半分が思い出なので、このページだけ見るとどのキャラが主題なのか間違える。

4の最初の見開きページは、六人のキャラが出てきてそれぞれの思惑を語っているので主題のキャラが六人、でも、実は主人公の一休さんが最重要。

どれが主題のキャラなのか、だけではなくて、なぜ読者は誰の目から語っているのか分かるのかを解説し、そのキャラの感情、その感情はどうして私たち読者がそう感じることができるのか、を解説する。そして最後にこの見開きで作者は何を伝えたかったのか、を分析して解説する。

manga家になりたい人への解説だから、どういう描き方(構図とか)をすれば主題のキャラとして描けるのか、キャラの感情を描けるのかを、なるべく丁寧に解説する。受け取る生徒側の理解の深さは、生徒によりすごく違う。

先月書いたように、白髪宣言をしてから世間との関わり方が変わって、ちゃんと大人の態度で、客観的に物事を見られるようになってきた私は、今までの授業では生徒が本当に理解したかどうかよりも、私の説明するイタリア語がおかしいと思われてないかとか、講師としての威厳は保たれているかの方を心配してしまっていたこと(無意識に、なんだけど)に気がついたので、日本語アクセントのイタリア語の出来を気にするよりも、生徒の理解度を気にするようになった。

だから、決めた授業プログラムをきちんと進めることよりも、クラスの理解度を計り、プログラムは臨機応変にしている今年のクラスなのだ。ちゃんと生徒に目がいっていれば、プログラムをどのように変えていけばいいのかわかる。今までの生徒には申し訳なかったね。

主題のキャラを見極め、そのキャラを主題と読者に伝える技、伝えたい感情を表現するための構図や表情など、グラフィック的構成要素を分析する、というのは演出の頭をもつ、ということなのだ。

言葉だけで「次からmangaを読むときは監督の目で読んでね」と言うだけでは、生徒には解ってもらえない。例を示した後、自分たちの頭で考えてもらう。

そのために宿題として好きなmangaの見開きを選び、

1:主題のキャラ
2:主題のキャラと理解した要素
3:主題のキャラの感情
4:その感情を表現している構成要素
5:見開きで作者が伝えたいこと

この五つを書いてもらうことにした。

宿題にすることで、誰がどのくらい解っているのか、こちらも判断できる。

●4/14(十四分の四)

宿題の課題は、上記五項目の他に、提出するものは選んだ作品のコピー、それに名前を大文字で書く(イタリア式筆記体ってすごく読みにくい)、書き文字の場合も大文字で書く、という条件を出した。

提出の仕方に色々細かい条件を出す、という案も浮かんだ。manga家は職人、だと思っている。作品を買ってくれる相手がいる。時には自分を売り込むマネージメントをしなくてはならない。提出条件をクリアするのも、プロとしての大事な要素だ。

でも、今回はあえて細かい条件を出さなかった。どんな風に提出してくるのか、それも生徒のレベルの判断にしようと思ったのだ。

その結果、合格(日本製の「よくできました」のハンコを押す)したのは十四名中の四名。

四名のうち二名はコンピューターで書いてプリントアウト。残りの二人は紙にボールペン書き、すべて大文字。

四人とも(提出条件として言ってないのに)選んだ作品のタイトルと作者名を書き、特にプリントアウト組はかなり丁寧に分析結果を書いていた。コピーの方にもタイトルが書いてある。

手書きの一人は、四作品を選んだ。内、二作品はアメコミだ。日本のmangaから選んで、と断らなかったので間違いではない。

アメコミとmangaを比べることになるので分析の幅が広がるし、このコースはEUROMANGAなのだから、ハイブリッドへの道も正しい。四作品をシーンごとに色違いで囲み、最初のシーンで使った色の紙に分析を書く、という楽しいグラフィックデザインをしてきた。

もう一人の手書きは、そうした遊びをせず、分析結果もプリントアウト組ほど丁寧ではなく、淡々とした感じ。でも分析内容は正しい。

この四人の提出態度というのは、他に情報を伝達する意識があるということだ。自分が分かってればいいという態度ではないということ。

「よくできました」のハンコを押せなかった生徒の回答には、いきなりキャラの名前が文章の中に出てくる。私、その作品知らないんですけど。

自分が知ってることは、他の人も知ってるという前提で書いている。あるいは、「他の人」という意識がないと言った方がいいかもしれない。他に見せるという意識がないのだ。

合格の四人は、回答にキャラの名前を出して、カッコ内に何コマ目で出てきてどんな外観をしているキャラなのか簡単に説明をつけて、そのキャラを知らない人が読んでもわかるようにしている。

ほら、やはり、「情報を伝達する」という意志があるのだ。詳細をいうなら、「ある情報を、その件を知らない人に伝達する」ということだ。

自分から伝える時に「他」が意識の中にある四人は、「他」が自分に伝えようとすることに対してもセンシブルでいられるようだ。この四人の分析は的確で、ちゃんと作者が伝えたいことを受け取っているからだ。

●ネームつくりへ

分析して監督の目を手に入れたら、次は実技だ。スピーゲルマンの「マウス」の一ページを題材にする。

アート・スピーゲルマン
http://bit.ly/2RxPuQa


正しくは二コマを題材にする。

「マウス」は、作者のスピーゲルマンの父親が、アウシュビッツで生き延びた実話を題材にしている。

採用した二コマは、主人公のヴラディックと女友達がベッドで事を終えた場面で、二人の会話が吹き出し四つで語られる。

女「ヴラディック、婚約しましょう」
ヴ「もう、遅くなった。家に送るよ」
女「いやよ、お願い」
ヴ「ほら、ご両親が心配してるぞ」

この四つの吹き出しを利用し、ヴラディックから見たシーンとして一ページに引き伸ばして、感情がよくわかるように構成し直す。

昨年は、主題になるキャラを生徒に選ばせ、「はい、では一ページに引き伸ばしてください」と放り出したけど、今年はある程度、枠を決めた方が、迷う人が少なくて済む、と思った。

いきなり海に放りこまない。浮き輪を与え、側について段々手を離していく方法を選んだ。

だから、主題はヴラディックと決め、クラスで二人の関係を決めた。二人は恋人同士ではなく、セックスフレンド。女のセリフは、本気ではなくふざけているだけ。ヴラディックは早く家に帰りたいのでちょっとうんざりしている。

愛し合ってるわけではない二人、という関係に挙手が多かった時、「ロマンティシズムは死んだ!」と叫んだ生徒がいたけど、本当だね。

女がふざけて言っている、という結構癖のある設定にしたため、主題が女になってしまう例が多かった。あまり癖のない方を主題にすると、どういう態度を取らせたらいいのかわからなくて難しいのだよね。

この実技でも、「他」を意識していた四人はそこそこいい結果を出した。

これは初めてのネーム作り。提出させ、私は家に持ち帰って、フォトショップでお直しをした。

「他」を意識した四人のネームもお直したけれど、さっさとお直しができた。直すと良くなる部分がすぐわかる、ということは、ちゃんとmanga言語でネームができているということなのだ。私と同じ言葉を話すので意味が通じる。

伝達できない生徒は、ただ単にコマを分け、セリフを散らしているだけ。カメラの位置も同じ。直したら良くなる部分を探すのが大変で脳みそが疲れ、やたら時間がかかる。

この作業をしながら、ネーム作りのお手伝いを仰せつかってる女性とチャットをしていた。締め切りがあるので、こちらが作業中でも放って置けないのだ。

私の作業の困難さを言うと、「なぜその構図にしたのか、と聞いたら?」という案をくれた。あまりにも時間がかかる場合は、そのようにした。初めからやり直せ、と言いたいところなのだから。

つまるところ、どうしたら「他に伝える」ことを意識できるようになるのか、それを見つけると指導の質があがるのかも。


【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師】

着物に興味が出てきてから、あれこれ取り揃えたい欲望はあるものの、なんだかんだ言って高い。着物はまっすぐ縫うだけだから覚えれば簡単、昔は皆自分で縫っていた。という話をネットで読んで、これだ! と思って、縫い方の本を取り寄せ、ジーンズ生地を買ってきて一枚縫い上げたのが昨年5月。

着物好きのイタリア人友人のお誕生日に、一枚縫ってあげようと思い立ったのが昨年12月(彼女の誕生日は12月)。昨年クリスマスからお正月にかけての里帰り時に、あまり高くない反物を買ってきてそのままになっていたのを、今年の誕生日にはあげようと、今必死に縫っている。

縫ってみると、着物の構成の巧みさに感心してしまう。最初の時も現在の二枚目も、襟の部分が今ひとつきれいに行かないのだけど、縫い目をごまかせるように、共衿というものを上にかぶせてごまかせるようになってて感心してしまう。

既成の反物はちょっと小さめなので、昨年ジーンズ地で縫ったみたいに、服地の方が十分に幅も長さもとれていいみたい。オンラインショップで生地屋さんを早速見つけて、いくつか生地をほしい物リストに入れている。あれこれやってみたいことが尽きなくていい青春だ。

[注・親ばかリンク]息子のバンドPSYCOLYT


MangaBox 縦スクロールマンガ 「私の小さな家」
https://www-indies.mangabox.me/episode/58232/


主に料理の写真を載せたブログを書いてます。
http://midoroma.blog87.fc2.com/


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■グラフィック薄氷大魔王[590]
「広告なしでYouTube」「正しく読んでもらえない」他、小ネタ集

吉井 宏
https://bn.dgcr.com/archives/20181205110100.html

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●広告なしでYouTube

待望の「お金は多少払ってもいいから広告なし視聴を!」が実現。YouTube Premiumが始まった。
https://www.youtube.com/premium


予想より少々高いな……と思ったら、聴き放題のYouTube Musicと兼ねてるんだって。それなら納得だけど、聴き放題はApple MusicやSpotify、Amazonもあるのでかぶってしまう。ミュージックなしで300〜500円くらいなら飛びついたのになあ。しばらく様子見。

AmazonのPrime Musicってぜんぜん使ったことなかったんだけど、Prime会員は無料なのね。有料サービスのUnlimitedと混同してた。Unlimitedの2500万曲に対して100万曲だそうだけど。内容的にはApple Musicとかぶるだろうしね。

Apple MusicはiTunesのライブラリと一体化してるから外せないけど、たぶんAmazonで動画も音楽も統一しちゃうのがシンプルなんだろうな。

音楽・動画配信だけでなくカレンダーやドキュメントなど含めて、一社のサービスだけ使えば便利なのに、各社をいいとこ取りで使うとかぶったり煩雑になってしまうのが残念。

●正しく読んでもらえない

ちょっと前にベストセラー「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」を読んだ。「大学生が真面目に例題テキストを読んでも3割以上が意味を取れてない」んだそう。

この本に出てくる例題を「へ〜! こんなので間違っちゃうなんてどうかしてるわw」とか思いながら流して読んでたら、自分も間違ってしまった。ヤバい!

Twitterでも何でも、適当に読み飛ばしてる人に、ちゃんと読んで意味を汲んでくれると期待するほうが間違いなんだろう。長文なんてほとんど誰も読まないだろうし。

明らかに意味を取り違えて、的外れな反論してる人はいくらでもいる。Twitterの「前提を省略した短いテキスト」は誤解多いだろうな。連続投稿の前後さえ、ちゃんと読まないのは当たり前。危険すぎて、最近はツイートできないw

●iPadのキーボード付きカバーと、活躍の可能性

ちょっとした遠出のときなど、出かける間際まで「キーボード付きカバー」か「単なるカバー」か迷ったあげく、後者を選ぶ。たぶん、キーボード付きを選んで出かけたことないんじゃないかな。

付けるとノートパソコンのように重くなってしまうし、フタをパッと開けて使える手軽さがなくなっちゃうから(マグネットから素早く剥ぎ取ればいいんだろうけど、たいていパカパカと変な開き方して手間取る)。

というのは、新iPad Proを買うときに、キーボード付きカバーをどうしようか迷っててw 今までのiPad Proにもそれぞれ買ったのに、実際ほとんど使ったことがないから。

これから先、新iPad ProでPhotoshopが使えるようになったりして、従来とは別次元で活躍する、または活躍できるようにがんばって使うとすれば、やはりキーボードはほしいかな……。いや、また使わないに違いない、とか堂々巡り。

iPad Proで全部の仕事をこなせるかもしれない! という期待はあるけど、3DCGやFinder的ファイル操作は、今のところ期待薄。それに、iPad Proでできる作業でMacを明らかに上回るのは、「Pencilを使った手書き」の作業のみ。

iPad Proは「AstropadとProcreate専用」とか、完全に割り切っちゃうのがいいかもね。

●Blenderが一新?

ずいぶん前に一度だけ試しに使ってみたことある、オープンソースの3DCGソフト、Blender。機能はハイエンドに迫るほどスゴいらしいのだが、誰もが言うように「他ソフトと使い勝手が違いすぎ」が原因で、即座に投げ出した(ショートカット等ある程度設定できるらしいが)。

今回のアップデートで、一般的な3Dソフトとそう違わない使い勝手になったとすれば、爆発的に普及する可能性も。

まあ、Blenderを使う前に、現在のZBrushや3D CADソフトをなんとか使えるようにしたいけどね。Modoだってちゃんと使いこなしてないのに、ってのも。

チュートリアルやTIPSサイトの大量な動画リスト見るたびに「僕、まだほとんどModoのこと知らないや」って落ち込む。

そもそも、MAYAの三年サブスクリプションがあと一年残ってるのに投げ出したままなので、無料のBlenderを入れるのは気分的に大きな敗北感がw

「Blender 2.8 Beta リリース! GUIや操作性の一新!リアルタイムレンダラーEEVEE! 大きな更新だらけ! オープンソースの3DCGソフトウェア!」
http://3dnchu.com/archives/blender-2-8-beta/


●「アルバイトしたほど好きだったラーメン屋」の続報

実家に用事があったので、先日の「バイトに行ったくらい好きだったラーメン屋」のホテーフーヅにも行ってきた。刈谷駅近くのアピタ3階のフードコート。

結論から言うと、ごく普通のしょうゆラーメンでした。あの「カリカリの豚肉のかけらが浮いた透明スープ」ではまったくなかった。普通においしかったけどね。隣がスガキヤラーメン。どっち食べるか迷うなこりゃw
http://www.yoshii.com/dgcr/hotey_180827


【吉井 宏/イラストレーター】

http://www.yoshii.com

http://yoshii-blog.blogspot.com/


ホテーフーヅのホームページで見つけた関連会社(?)の布袋食糧というパンや製麺などやってる会社のパン屋さん「よいことパン」。

ビジュアルがめちゃくちゃかわいいので、名鉄名古屋駅改札前の店にはぜひ行って見たかったのだった。夕方だったのでパンは売り切れてて残念。
http://www.yoshii.com/dgcr/yoikotopan_170626

・スワロフスキー「HOOT HAPPY HOLIDAYS 2018年度限定生産品」
https://bit.ly/2QbNMmg


・スワロフスキー「SCS ペンギンの妹 PATTY」
https://bit.ly/2OZa3n9



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編集後記(12/05)

●阿川佐和子・大塚宣夫「看る力 アガワ流介護入門」を読んだ。94歳の阿川弘之を看取り、いまは認知症の母を世話する、介護経験豊かな阿川と、高齢者医療の第一人者が語り合う、親&伴侶の正しい介護法、理想的な老後の生活術、だという。わたしも妻も、もう親はいないから、「看る」も「看られる」も夫婦間の現実となる。これは避けては通れない。なにしろ当事者なんだから。

タイトルが全然違うぞ。これは「アガワ流介護入門」ではない。大塚先生のきっぱり正々堂々の意見に、介護に一家言ある、口の達者な阿川でさえ翻弄される痛快&スーパーリアルな対談である。阿川は「看る側」の心構えとして「介護は長期戦と心得よ」を挙げる。平凡である。相手が悪かった。いや凄すぎた。

認知症とは一言でいえば「記憶の障害があるゆえに、自分の中に入ってきた新しい情報をうまく処理できなくなっている状態」だという。基準となる照合すべき記憶に到達できないので、今の状況をどうしていいかわからない。それでも、本人としては少ない記憶を駆使して自分なりのベストの判断で行動するのだが、たいていは間違っていて、周りから叱責されたり咎められたりする。

人の非難を聞くと自分が何か悪いことをしたのかと不安になり、おどおどする。この混乱が次の混乱を呼び、認知症の症状が悪化したようにみえる最大の理由である。認知症になった相手には教育的効果は絶対期待してはならない。言われたことを覚えていられない。学習はおろか、新しく記憶ができないのだから。

かなり認知症が進んでも、ある程度のレベルを保つ生活は充分可能である。一人暮らしもできる。まわりの人がいうほど危険なことはまず起きない。余計なお世話は不要、もっと世間が寛容になるべきである。世間の不寛容さが、結果的に本人のもてる能力を削ぎ、衰弱を早める。高齢者医療の第一人者が、こう力強く言ってくれるのだから間違いないだろう。阿川はやや及び腰であるが。

「孤独死で何が悪い」というのは大塚。人のいるところでなきゃ、死んではいけないのか、と。孤独死は「社会や国のせいだ」「家族が悪い」という論調で、「人は必ず誰かの見ているところで旅立つべきだ」といった「あるべき論」が盛んなことを、高齢者の現場で奮闘する大塚は苦々しいと思っているようだ。

一人、あるいは高齢者同士の暮らしは、少々体調が悪くても自分で動かなければならないから緊張感がある。一見苛酷にみえても、老化防止や認知症の進行を防ぐ特効薬である。周囲の人が助けたり、施設にいれてしまうと、それまで自分なりにやって来た生活全般が人任せになる。気力が失われ、体力が低下する。認知症に拍車がかかる。よけいなお世話が、何もできない存在を作り出す。

「認知症の方の言動は全部、その人なりの理由があります。本人にとって正しいことなんです。だから、周囲はすべてを受け入れて対処するしかありません。となれば早期診断は、ご家族が対処の仕方を早く学べるという意味でメリットがある。認知症のいちばん辛いところは、本人はともかく周囲が、それを『なかなか受け入れられない』という点ですから」。年寄りのいる家族、読むべし、読むべし。

この対談は、老人の取り扱い説明書として有効である。「高齢者の認知症の始まりは、周囲は何となく分かる。何となく雰囲気が違う、人柄が変わったように思える、と感じたら認知症を疑ったほうがいいかもしれない」「75歳より前に死んでしまえば、認知症になる可能性がぐっと減る」いいね。(柴田72歳)

阿川佐和子・大塚宣夫「看る力 アガワ流介護入門」2018 文春新書
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4166611720/dgcrcom-22/



●Amazon Prime Musicでは、最近ジョジョの主題歌集を聞いている。寝る時はアプリ内のタイマーをセットして「睡眠」関係の音楽を、最小ボリュームでかける。

「Feeling Good」が急に聞きたくなって検索。いろんな人が歌っていて、マイケル・ブーブレ、ニーナ・シモンときて、ジョージ・マイケルへ。で、なんとなくジョージ・マイケルを聞き始めたら、自分の部屋が自分の部屋じゃなくなった(笑)。上手いなぁ。

/上沼恵美子を若手芸人が批判と謝罪という記事を読んだ。更年期は45〜55歳ぐらいなので、上沼恵美子は当てはまらない。男の更年期は40歳以降。批判した方がこれから苦しむことになるかもしれないのになぁ。

「女性の更年期は閉経期をはさんだ数年間であるのが一般的なのに対し、男性更年期障害は概ね40歳以降、60代、70代でも発症の可能性があります。しかも女性より長期間つらい思いをすることもあるのです」

「売れるために審査員」っていうのにも驚いた。これ以上売る必要ないでしょう。上沼恵美子は頭の回転が速く、天才だと思う。彼女の番組に呼ばれていたこともあるという話なのに、凄さがわからないなんて。彼女から学べることは多かっただろうになぁ。 (hammer.mule)

ジョジョの奇妙な冒険 in Prime
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B07KG2FD1M/dgcrcom-22/


上沼恵美子を「更年期」「オバハンにはうんざり」
https://netallica.yahoo.co.jp/news/20181204-27395617-techinq


とろサーモン久保田かずのぶとスーパーマラドーナ武智が『M-1』巡り上沼恵
美子へ謝罪
https://news.nifty.com/article/entame/other/12173-138348/


働き盛り世代を襲う男性更年期障害 男性ホルモン低下が招く多様な症状
http://www.nippon-shinyaku.co.jp/healthy/male_urinaryorgans/male_menopause.html