グラフィック薄氷大魔王[592]メイキング・オブ・デジクリ原稿
── 吉井 宏 ──

投稿:  著者:



一度くらいはなぜ書いてるのか? どうやって書いてるか? など、デジクリ原稿のメイキングを説明してみたい。

●書くのは好き

昔、筒井康隆や伊丹十三などのエッセイが好きで、その時の出来事や考えやうんちくを書くのにあこがれた。雑誌や新聞に連載コラムを持っている人がうらやましかった。オールナイトニッポンで、フリートークのコーナーを持つタレントも同様。

いろんな面白ネタを無尽蔵に出し続けられる人になりたい! と思ってた。そういう人は作家やライターや放送作家を目指したりするんだろうけど、僕はそちらに興味はなく、単に書きたいだけ。

90年代半ばに、デジタルクリエイション系の雑誌に連載記事をいくつも持つようになって、やりたかったのは、やはり「本文の他にカコミでコラムを書くこと」だった。作家でもないのに商業誌にコラムを書けるのはめちゃくちゃ楽しかったなあw (連載マンガのコマ外の、作者の近況などのラクガキが大好きだった)

そして、2003年から始めたブログ。TDWを一日一枚載せるのと並行して、あれやこれや長文を書きまくった。

2005年3月からこの連載は始まった。デジクリは以前から購読してて、いろんな人がいろんなことを書いてるのを常々うらやましいと思ってた。たまたまイベントで柴田編集長に会う機会があり、「書きたいです!」と言っちゃったのでした。

1日数10アクセス程度のブログより、1万人を超える読者に向けて毎週書くほうが刺激的に決まってる! 「書く場所の決定版」を手に入れた気分だった。





●ネタ集め、ネタ育て

Macの前に座って「さあ書こう」っても、何も思いつかないし、まったく書けない。なのに、「いい方法を思いついた」「すごい新製品を買った」などは、変換ももどかしいくらいすごい勢いで書いたりする。特にノリノリで書けるのが「失敗談」だったりw

イラストやキャラクターやグラフィックを仕事にしている僕の、興味あること全部ネタにする。「グラフィック」とタイトルに付けてるので、そこから離れすぎないようにはしてる。

面白がってたり失敗したりしたことをみんなに知らせたい。何かネタになるものはないかと目ざとくなる。

「玉ヒモ」というものがある。トリのキモで、タマゴになりかけの丸いのが繋がったやつ。ネタが育っていくのはあんなイメージ。思いつきの小さいネタが、だんだん大きくなって連載用にまとまっていく感じ。で、最終原稿としてポコッと出るw

繰り返し書くネタとしては、「ペンタブ」「スケッチ」「Apple製品」「便利なアプリ」「立体制作」「僕的ライフハック」「音楽・映画」など。

以前書いたネタとかぶってないか、全原稿が入ってるEvernoteでいちおう検索する。チェックをサボった結果が、#4569と#4604。「SketchBook無料化」で同じテキストを載せてしまったが、誰にも気づかれてなかったようだw

2009年からは、Twitterに書き散らかしたツイートをまとめたものが多くなる。2011年頃からFacebookに移行して、同じく小ネタをたくさん書いて選んで編集する感じに。

●ボツと先送り

使えるネタだけでなく、状況や考えが変わるなどして古くなったり、旬を過ぎて載せられなくなったネタ、怒りにまかせたネタ、書いたもののちっとも面白くないネタ、などいっぱいある。Evernoteで616個のノート、ネタ数だとたぶん1000個以上ある。

ときたま、そういったネタをサルベージして使おうと試みる。しかし、古くならない普遍的なネタでも、考えが微妙に変わってたり現在とノリが違ったりするため、あまり使い物にならない。

また、次週分が完成していても、急な事件や新製品ニュースなどでどうしても今入れたいネタが出てくる場合、文字数に応じて「いつ載せてもかまわないネタ」は先送りする。

何度か先送りするうちに古くなってしまい、結局載せる機会を失ってしまうことも。

●書けなくなったネタ

何かに対して一方的に怒りを表現するようなものは、最近はぜんぜん書けなくなった。いろんなところで繋がってたりしてて、関係者がいそうなものは特にw 批判に対して予防線を引きまくらなきゃいけないようなネタは、ほぼ避けてる。

議論を呼びそうなもの、特にネットで大激論になってるような、後でめんどくさくなりそうなものは避ける。楽しく書きたいだけなのだ。それで、ネタの幅が狭くなってるのは自覚してるけど。

●作業とストック

ぼーっとした考えがひとかたまりのテキストにまとまって、オチというかサゲというか、締めがきまってくれるとすごいうれしい。

集めたネタは「勢い・鮮度」があるものはすぐ書ける。調子に乗って大量に書いてしまうこともある。しかし、鮮度が落ちてしまってボツにすることも。

夏休みと冬休みの数週間に、5〜6回分の原稿を仕上げておいたりする。新しいネタを適宜追加しつつ、次の休みまで逃げ切ろうとがんばるのだが、たいていの場合追いつかれてしまってちょっと焦る。

逆に、ノリノリで書いた数回分のストックがあるときはとても幸せw

●TDWとの関係

13年以上続いてるデジクリ連載と同じく、まもなく20年になるTDW/The Daily Work。一日一枚何か作ってブログにアップするもの。3DCGで作るようになってから3日に1個のペースになってる。

http://yoshii-blog.blogspot.com/


こちらもある程度作り置きしておかないとすぐ底をつくので、時間があるときに必死で作り貯める。10個作れば一か月は気持ちがラクになるw 作れば作るほど他のことができるようになるから。

デジクリ連載とTDWは、僕の中では「仕事じゃないけど、やっておくといろいろお得な、ちょっとしんどいノルマの両輪」と言える。

どちらも冷静に考えれば「しなくても誰にも責められない、しんどいノルマに四苦八苦するのはアホらしい」と思う一方で、「ごくときたまでも、無理に続けてなかったら出てこなかったものが出た喜び!」があるから、やめるわけにいかない。

●どのくらい読まれてないか?w

以前、説明動画をYouTubeにアップしてリンクを記載した。デジクリ配信後、しばらくしてチェックしたところ、増えた再生回数は「5回」だったw ほとんど誰も読んでないじゃないかww いや、読ませる努力をしてないし、僕だって他の人の連載はあんまり読んでないし。

たいして読まれてないのを自覚してからは、自分の楽しみや記録のためと半分割り切ってる。

●所要時間

ノリノリで書けるときは2〜3時間で一回分だが、滅多にない。手こずる場合は、調べものしたり、検索して裏を取ったりなど含めて、4〜5日くらいかかることもある。

たいていは数週間にわたって少しずついじり続けるから、合計すると一回分に丸一日かかるくらいだと思う。それでも、今回分だけでなく次回以降の分のネタ集めなど同時にやってるので、週に1.5〜2日くらいはデジクリ原稿のために使ってることになりそう。

●文字数について

長すぎると読まれないのは承知してる。連載を始めるとき、柴田編集長に「内容はまったくご自由 文章量もご自由 でもコラムは1,500字くらいがいいと『超』文章術の先生もいってます」と言われてた。

読みやすいのは1300〜1500字前後だろう。初期はそう心がけてたのに、一年過ぎた頃からすっかり忘れて3000字を超えるようになった。

今までで最も文字数が多い回は『第442回「スマホネックのひどいやつ」「追悼・長岡秀星」他、小ネタ集』
7013字。

さらに例外として『第398回「インターネットタイム」他、賞味期限切れ/半端ネタ大放出』9844字、という悪ノリ気味の在庫一掃もあるw 

普通にまとめると2000字程度なのに、何度も手を入れるうちにすぐ3000字超えになる。調整する個所も多くなり、どれだけいじっても脱稿できなくなってしまう。

特に、「これを書いたのなら、前提となる説明も必要」とか「ツッコまれないようにあちこち補強」してると際限なく長くなっていく。それで疲れてしまったり、手を離れる前に飽きてしまう弊害も。

ああ〜、もう3900字を超えてる。前後編に分ければ二回分にできるわけだが、年内最終のキリがいいところなので、まあいいや。

来年は1500字を目指す!


【吉井 宏/イラストレーター】
http://www.yoshii.com

http://yoshii-blog.blogspot.com/


連載原稿のフォルダが現在5,975,033バイト。2バイト文字換算で300万文字=原稿用紙7500枚。単行本15冊分w

「一度くらいはどうやって書いてるか説明したい」とか書いたけど、念のため検索したら、9年前の「連載200回記念、今までとこれから」で似たようなこと書いたことあった。
https://bn.dgcr.com/archives/20091118140100.html


・スワロフスキー「HOOT HAPPY HOLIDAYS 2018年度限定生産品」
https://bit.ly/2QbNMmg

・スワロフスキー「SCS ペンギンの妹 PATTY」
https://bit.ly/2OZa3n9