ローマでMANGA[138]学校のユーロマンガコースのお話/Midori

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●新年初授業

昨年度から始まった正式コースのユーロマンガは、昨年10月の新学期でようやく2年目へ突入した。

日本の「サイレントマンガオーディション」への参加を、授業の一環にしている。幸い、毎回マチマチだった締め切りが定まったので、授業に安心して組み込める。春の回は3月末日。クリスマス休みが明けた1月始めの授業から、授業と一緒にオーディションへの準備を始める。

授業は火曜日と金曜日で、私は金曜日の担当。1月の授業は火曜から始まって、生徒は火曜にオーディション応募作品のアイデアを担当講師が出させた。





なんと説明したらいいかな。日本のこういう専門学校で仕事をしたことがないので、こちらと同じ仕組みになのかどうかわからない。こちらでは、講師は契約雇用ではなく、部外の協力者という形をとる。報酬は授業を行った時間で換算する。

昨年は初めてのコースということで、報酬が発生しない火曜日にも顔を出し、授業に口を挟まないけれど生徒たちとコンタクトを取った。

今年は個人的にやることも色々あるし、家の修理の半分引越騒ぎで後片付けもあるし。そこで、自分の授業がある金曜日にだけ顔を出すことにした。

顔を出さなければ、火曜担当の講師と密にコンタクトを取る機会が減る。その講師も時間外に私に、逐一誰がどういうアイデアを出したかと、わざわざ時間を割いて報告しない。

だから、別個に生徒から再び案を提出してもらうことになる。生徒からしてみれば二度手間だ。このことから、イタリアのお役所仕事での利用者側の二度手間、三度手間になる仕組みがよく理解できる。

初めての私の授業時に、アイデアを再び出してもらった。クリスマス休みに出した宿題と一緒に。流行感冒に倒れて欠席の3人、まだアイデアが出ていないという2人を除いて9人が提出。

そのうち8人が、宿題をビニールケースに入れ、宿題の紙にちゃんと名前を大文字で書く、という「他に伝える」ことを実践してくれていた。嬉しいね。これはすべて受け取って、家で見ることにする。

●演出への考え方をどうやったらわかってもらえるか

クリスマス休暇前に提出してもらった宿題を見直していたら、やっぱり一番難しいのは、キャラの感情を表すための技法。要するに演出力。演出の力は経験を積まないとつかないのは当然なんだけど、意味がわかってないということがよく見て取れた。宿題は大事だね。

キャラの感情というのは、顔の表情と台詞だけで出すのではない。その感情を読者に分かってもらうためには、別の演出が必要だ。

例えば、はじめてのデートで緊張してるならコーヒーカップを持つ手が震えてるとか、あるいは、コーヒーが飲みかけのまま減ってないとか、学校で親友が自分が好きな男子と親密にふざけてる場面を見てチクっと胸が痛んだら、なぜか風が吹いてきてゴミが目に入ったとか。

そこで今年最初の授業は、既成のmangaのコピーを見ながら感情を表現する、あるいは、あることを伝えるために作者がどういう演出をしているか分析する授業にした。

何度も同じものを見ればその対象への洞察力が上がるので、コピーは何度も使用する。今回使用したのは、1)ファイアー!(水野英子)の見開き、2)乙嫁語り(森薫)の見開き、3)あっかんべぇ一休(坂口尚)の見開き、4)Wat’sa wpunderful world(浅野いにお)の短編の最初の1ページ

「ファイアー!」から選んだ見開きは、主人公の若きギタリスト兼ボーカルのメンバーの姉に対する憧れ、家庭への憧れを表現するページ。

「姉」がメンバーにステージに上がる前に食べて行きなさいと夕食を用意してくれる。一人っ子だから兄弟が欲しかったな、という主人公に「じゃぁ、お姉さんになってあげるわ」と言い、ほつれたベストを繕ってくれる。「手作りの夕食」と「繕う」という行為が演出だ。

「乙嫁語り」の見開きは、山に住む雄ヤギの全身(読む進行方向に向かって頭を上げて、王者の風格で高台に立っている)。そして頭と目のアップが右ページあり、左ページは雄ヤギがサッと飛び出し、矢が岩に当たる場面。この見開きを見てどういう感覚をおぼえるか、生徒に言ってもらう。

表現の読み方、とでも言える分析力がまだ乏しいというか、受けた感覚を言葉に置き換える能力が乏しいというか、目ぼしい答えが返ってこない。

雄山羊の雄々しさは、次に出てくる未熟な少年との対比であり、背景の雄大な山は雄ヤギと主人公たちが住む環境の厳しさと、それが日常であることを示している。

浅野いにおの作品は、日常生活の中の小さな機微を描き、その機微を表現する演出に長けていると思う。

例に使ったのは、オムニバス形式の中の「8th Untitled」という作品。開始の1ページ目だから左ページ。縦に三段横長のコマがあり、一コマ目:読者の視線が入る右上にはトーンを貼ってグレーになった雑草があり、そのやや下にビールの空き缶が配置され、ほんの数センチの水かさの川に捨ててある。缶と雑草の下は影で黒くなっている。

画面の左側には、ちょっと背の高い雑草がツンツン生えているこの「ツンツン」と缶と雑草の下の黒は大事な表現なのだ。「ちょっと痛い」のだ。そして、水かさの低い川は「淀んでいる」。

真ん中の二コマ目は橋の遠景。コマのほぼ中央に橋が渡り、橋の真ん中に主人公の女の子がいて下を覗いている。

コマの真ん中にある橋は「宙吊り」なのだ。いにお氏はこのコマ、橋の上の空に雲を描かずに白く残した。橋とその下の土手はコンクリで、やはり白く残している。川はややグレー。殺風景で寒くて痛い。

最初の二コマで、この短編のトーンを語ってしまった。凄腕だね。

三コマ目では、さっさと主人公の紹介に入る。主人公の顔のアップ。髪を染め(白い)ピンで無造作に前髪を止めていて、身なりに構わない大雑把な子、あるいは外見に気を使う心境にない子、だと示している。

髪を染めるくらいだから、本当は外見にこだわりはあるのかもしれない。何が彼女をそうさせるのか、ページをめくって知りたくなりますね。

このページに対しても、一応生徒に何を読み取れるか聞いてみた。期待せずに。とりあえず、少しでも考えて欲しいから。前回の投稿で挙げた「優秀生徒」の四人はよく発言する。

結局のところ、学ばねばならない事に比べて授業数が十分でない、ということなので、来年度からはこの演出に初めから集中してしまった方がいいような気がしてきた。

●SMA(サイレントマンガオーディション)へのアイデア

学校の授業日に提出しなかった生徒のために、後で送ってくれるように、授業の終わりに私のメールアドレス、電話番号、フェイスブックアカウントを黒板に書いた。

初めて披露したわけではない。最初の授業でも黒板に書いた。それなのに、今更のようにスマホで写したり、書き取ったりする生徒多数。何度も何度も繰り返すコマーシャルが有効なわけだ。

日本で利用者が多いLINEと同じ機能を持つ、WATTSAPPというアプリがこちらでは主流で、この日、すでに出来ていたクラスのグループに組み込まれた。クラス全員が入っているので、緊急連絡や授業外でネームのお直しを伝えたりできるので便利だ。

アイデアへの感想をWATTSAPPで書き送った。スマホで打ち込むのは、どうも誤打が多くなるので、iPadのGoogleドキュメントで作成し、それをスマホで開けてコピペでWATTSAPPに送る。便利なのか不便なのか、よくわからないけど。

次から次へと送っていると、次から次へと返事が来て、ビービーとうるさく鳴るスマホ。次から次へと返事を書き送って、何というか、充実した数時間を過ごした。

SMAは毎回テーマがあって、今回は「約束」。ほとんどが「子供の頃仲良く遊んだ二人が将来になにか(結婚とか、助け合うとか)約束して、離れ離れになり、成長してから再会して約束を果たす」というパターンだ。

まぁ、SMAで見るのは、ストーリー自体の面白さではなく表現力だから、いいんだけど、時間の経過を表現するのって難しいよね。あまり結果に期待できないなぁ、と思ってしまったのだが、導く方の力不足でもある。

クラスの14人の他に、かつての教え子一人、去年の教え子一人がおずおずという感じで連絡を取ってきて、SMAに参加するつもりだけど、ネームを見てくれないかと言ってきた。もちろん、見る。

2017年に散々お直しをして、グランプリを取ったエレナの夢よ、もう一度!これが仕事になると一番いいのだけどね。

かつての教え子二人のアイデアは、クラスの大半のアイデアよりストーリーとして面白い。私の手元から二人、三人と受賞者が出てプロへの道を歩いていくようになるといいなぁ。


【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師/将来キーボード奏者】

クリスマスに旦那と息子とが共同で電子オルガンをプレゼントしてくれた、と大晦日のご挨拶に書いた。CANONのかなり本格的なキーボードで、一人でオーケストラをやれる機種だ。

音楽はいいよね。子供の頃、母親の夢でヤマハのオルガン教室に二年ほど通わされた。これ以上続けるためにはピアノを買ってくださいと言われたそうで、母によるとずるく「どうする? 続ける?」と幼いみどちゃんに聞いたそうだ。

毎日の練習に嫌気がさしていたみどちゃんは、「おんがくは聞くのが好きなの」と答え、無事にピアノに出費せずに済んだというわけだ、と電子オルガンをプレゼントされたことを報告した年始の電話で言っていた。

Apple Storeで「シンプルピアノ」というアプリをダウンロードし、無料の一週間試してみて、よさそうなので一年分支払って全行程使えるようにした。

それ以来、義務から逃げたい性癖も手伝って、毎日30分は行程にそって練習している。右手だけのドレミファソから始まって、12日経った今、右手も両手も1オクターブ(白い鍵盤だけね)、全音符、二分音符、四分音符、八分音符の音の長さと違いを、ちゃんと演じることを要求されるまで来た。

楽譜を読めるようになってきてるのもすごい。目標の「月の光」にはまだ遠い。よく出来たアプリで、その丁寧さ、シンプルから複雑への持って行きかたがうまくて、授業作りの参考になりそう。

[注・親ばかリンク] 息子のバンドPSYCOLYT


MangaBox 縦スクロールマンガ 「私の小さな家」
https://www-indies.mangabox.me/episode/58232/

主に料理の写真を載せたブログを書いてます。
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