まにまにころころ[152]ふんわり中国の古典(論語・その15)言葉はいいから態度で示せ
── 川合和史@コロ。 Kawai Kazuhito ──

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コロこと川合です。みなさんNHK大河ドラマ、見てますかー? 昨日は第一話でも出てきた、ストックホルムオリンピックの代表選考会の話でした。金栗四三が、頭から赤い塗料をたらしながら、フラフラでゴールインする話。

え? 今年の大河は見ていない? 興味がない? んー、それでは今回も前回に続き、今年の大河に少し興味を持ってしまうようなエピソードを、ふたつほどご紹介。

まずひとつめ。大阪のシンボルとも言えるグリコのマーク。ランナーが両手を挙げてゴールしているやつ、ありますよね。金栗四三さんは、あのランナーのモデルのひとりだと言われています。公式見解としては、特定のモデルはいないとのことですけども。

あのマークのきっかけは、創業者の江崎利一さんの、郷里である佐賀県の神社で駆けっこしていたちびっこが両手を挙げてゴールしていた姿らしいんですが、その姿と、当時の陸上界で有名だった何人かのランナーの姿とをイメージしてできたのがあのマークらしいです。

ではもうひとつ。これは、昨日かその前の週の放送を見た方には分かりやすいんですが、金栗さんが選考会に挑むにあたって、足袋を履いて走ることを思いつかれるんですね。

その足袋を作ってくれた足袋職人の役をやられているのが、電気グルーヴのピエール瀧さんで。「播磨屋」という足袋屋の、黒坂辛作という大将の役なんですが。

ドラマ好きの方はもうこの時点で笑ってるかもしれませんが、ピエール瀧さん、一昨年にTBSでやっていた『陸王』というドラマで、ランニング足袋を作ってる主人公を散々馬鹿にして邪魔する、アトランティス社の小原賢治という役でして。「あれだけ足袋をディスってたのに!」と、一部で話題になっています。

ただ、それを狙っての配役かと思いきや、ご本人いわく、大河の役のほうが先に決まったとのこと。偶然にしてはできすぎた話だと思うんですけどね(笑)

どうでしょう? 少し興味出てきました? だめ? ……大河のことは忘れて、論語に移りましょうか。






■──巻第三「公冶長第五」七

・だいたいの意味

孔子先生が「道が行われない世の中だな。もういかだに乗って海に出ようか。私についてくるとすれば、由(子路)かな」と仰った。子路はそれを聞いて喜んだ。すると孔子先生は、「由は勇敢さは私以上だ。ただ分別が足りない」と仰った。

◎──巻第三「公冶長第五」七について

なんだ、このほのぼの師弟トークは。『論語』の編者はこのエピソードから、いったい何を伝えたかったのか。なんかちょっと和むけども。


■──巻第三「公冶長第五」八

・だいたいの意味

魯国の大夫である孟武伯が、「子路は仁でしょうか」と尋ねた。孔子先生は「知りません」と答えたが、孟武伯はそれでもまた尋ねたので、「由は千乗の大諸侯の国でその軍の出納を任せることができる人物だが、仁であるかどうかは知らない」と答えられた。

孟武伯はさらに「求(冉有)はどうでしょうか」と尋ねた。孔子先生は「求は千戸の村や百乗の大夫の家で宰相を任せることができる人物だが、仁であるかどうかは知らない」と答えられた。

孟武伯はさらに「赤(公西華)はどうでしょうか」と尋ねた。孔子先生は「赤は礼服を身につけて朝廷に出仕し、賓客の対応を任せることができる人物だが、仁であるかどうかは知らない」と答えられた。

◎──巻第三「公冶長第五」八について

ずーっと先ですが、「先進第十一」という篇の二十六で、孔子先生がここに出てくる三人に「認められて職に就くなら何をするか」とお尋ねになって、そこで三人が答えた内容が、おおむねここにでてきたような仕事です。

つまり、それと合わせて考えると、この三人の自己評価は孔子先生も認めるものと言えるんですが、仁者と言えるかどうかは話が別、と。

そこはさすがに孔子先生、やすやすとは認めてくれません。


■──巻第三「公冶長第五」九

・だいたいの意味

孔子先生が子貢に「お前と回(顔回)では、どちらが勝っていると思うか」と尋ねられた。

子貢は答えて「私がどうして顔回に勝ることなど望めましょうか。顔回は一を聞いて十を知ります。私などは一を聞いて二を知る程度です」と。孔子先生は「及ばないねえ、私もお前も顔回には及ばないよ」と答えられた。

◎──巻第三「公冶長第五」九について

顔回の優秀さ、評価の高さがうかがえます。子貢の謙虚さと素直さも。

講師の弟子は人数が多い上に呼び方が様々でややこしいですよね。私ももう、正直なところ誰が誰だかよく分からないです。合間合間にちょいちょいまとめて紹介しながら進めていこうと思いますが、まあ分からなくなっても、それで困りはしないと思うので、気にしないでください。

ただ、頻出の弟子だけでも分かるようになると、ちょっと親しみが持てたりも。「ああこの人、こういうとこあるよなー」とか。(笑)


■──巻第三「公冶長第五」十

・だいたいの意味

弟子の宰予がさぼって昼寝をしていた。孔子先生は「腐った木に彫刻はできない。ボロボロの土で作った垣根は上塗りもできない。予(宰予)にはもう、何も叱ることもしない」と仰った。

孔子先生は続けて「以前私は人に対し、その言葉を聞いて、その行いを信じるようにしていた。今私は人に対し、その言葉を聞いて、その行いを観察して、確かめるようになった。予(宰予)のことがあって改めたのだ」と仰った。

◎──巻第三「公冶長第五」十について

宰予は口ばっかりの人で。こいつはもはや叱っても意味がない、と。孔子先生の態度まで改めさせるとは、ある意味すごい。

もはやこれ、破門ですよね。

口だけのお前には愛想が尽きたと。もう叱りもしない。なんていうか、私もいくつも思い当たることがあって、自分が責められているようで辛い……口ばっかりでごめんなさい……


■──巻第三「公冶長第五」十一

・だいたいの意味

孔子先生が「私は未だ剛の者を見たことがない」と仰るので、ある人が「弟子の申トウはどうですか」と言った。孔子先生は「申トウには欲がある。どうして剛を得ることができようか」と。

◎──巻第三「公冶長第五」十一について

ここでの「剛」は、腕っぷしの強さではなく、もっと奥深く、芯の部分の強さのことのようで、揺るがない意志の強さ、といった感じです。

欲が強いと、心は揺るぎやすい。申トウはまだその程度ということです。申トウの「トウ」は、「木偏に長」の字です。


■──巻第三「公冶長第五」十二

・読み下し文

子貢曰わく、我人のこれを我に加うることを欲せざるや、吾もまたこれを人に加うること無からんと欲す。子曰わく、賜や、なんじの及ぶ所に非ざるなり。

・だいたいの意味

子貢が「私は、人から私にされたくないことは、私も人にしないようにしたい」と言うと、孔子先生は「賜(子貢)よ、お前にできることではない」と仰った。

◎──巻第三「公冶長第五」十二について

ひどい!(笑)

ただこれもまた先の方で出てくるんですが、孔子先生も、人にされて嫌なことは人にしないようにしなさい、って教えてるんですよ。

「己の欲せざるところは人に施すことなかれ」って。

仁を志すものの心構えとして。なのに、子貢がそうありたいと言ったら、お前には無理だと。子貢とすれば、どういうことですかって話ですよね。

これは推測ですが、さっきの口だけ男・宰予の話がありましたよね。あの話と合わせて考えると、言うは易し行うは難しというか、そんなこと言葉で安易に「こうしたい」って言ってるうちはダメだと。言葉はいいから、態度で示せと。そういうことなんじゃないかなって思います。

決意表明としてはいいのかもしれませんが、したい、じゃなくて、しろ、と。難しいことだし、できるかどうかはともかく、そうしなさいと。少なくとも、言葉で「こうしたい」なんて言ってるうちはダメだ、ってことかなと思います。

せめて「しないようにしたい」でなく、「しない」だったら良かったのかな。

子貢、今回二度目の登場ですが、すごい弟子なんですよ。弁舌に優れ、政治も経済もその手腕は超一流。その才能は孔子以上とも言われたり、一部では信仰の対象になるほどの人物で、子貢がいたからこそ、その先生である孔子の名が広まったとまで言われる超人です。

当時から広く名を馳せるほどの大人物なんですが、褒められるたび「いやいや孔子先生はもっとすごかった」と子貢が言うので、孔子の名も上がったと。

子貢の孔子先生への崇敬は相当なもので、また孔子先生も子貢の才能を愛して厳しくも優しく指導していきました。ここでの厳しさも、その表れです。

そんな子貢がとてもかなわないと評し、孔子先生もあいつにはかなわないよねーと言ってしまうような顔回って、どれだけの才能を持ってるんだっていう……

でも、その顔回は孔子先生よりも先に亡くなってしまうんですよ。そりゃもう、孔子先生の嘆きようは相当なものでした。ネタバレしちゃいましたが、いずれその話が出てくるので、それまで覚えていてください。


◎──今回はここまで。

いつもこの連載を書くにあたって数冊の論語解説本を参照しているんですが、そのうちの二冊が天牛堺書店という古書店で購入した本でして。

その天牛堺書店がつい先日、破産してしまったんですよ……

・天牛堺書店、2019年1月27日全店閉店-1月28日に破産申請
https://toshoken.com/news/14895


それはそれは突然のことで、破産のニュースが流れた前日までツイートもあり、まさに寝耳に水のニュースで、大阪の本好きにはとんでもない驚きでした。

なんなら私のほうが先に破産する勢いでよく行ってたのに。

今ごろせっせと管財人が処理を進めているんでしょうけど、どこかそのままで引き取ってくれるような企業出てこないかな……

そんな企業があれば破産前に譲っていたでしょうから、望みは薄いかな……

残念で仕方ないです。


【川合和史@コロ。】koro@cap-ut.co.jp
合同会社かぷっと代表
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