[4725] 腕時計と掛時計◇二回目のマイクロビット講座◇サスペリア

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《小4の女の子二人がプロジェクトリーダー》

■腕時計百科事典[72]
 腕時計と掛時計
 吉田貴之

■クリエイター手抜きプロジェクト[571]IoT編
 二回目のマイクロビット講座は一回目とは違っていた
 古籏一浩

■映画ザビエル[70]
 決してひとりでは見ないでください
 カンクロー




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■腕時計百科事典[72]
腕時計と掛時計

吉田貴之
https://bn.dgcr.com/archives/20190218110300.html

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腕時計の販売や修理をしていると、掛時計や置時計について問われることも少なくありません。正直興味の範疇からは外れていますが、実際に掛時計を選ぶ機会があると、それなりにこだわりをもって選ぶようにしています。腕時計好きの経験から、実用的な掛時計の選び方について考えました。

▽置時計と掛時計

「腕時計ではない時計」にもいろいろありますが、家庭でみられるのは棚などに置いて使う「置時計」と、壁などに掛けて使う「掛時計」に大別できます。今回は「掛時計」について考察しています。

▽大きさ

掛時計のサイズは、概ね最長の辺や径が30cm前後であることが多いようです。おそらく20畳程度までの部屋であれば、これで問題ないはずです。掛時計のサイズで迷ったときは「大きい方」を選ぶのが正解です。なお、針の可動範囲が1mにも及ぶ、デザイン性の高い掛時計も販売されています。

▽表示方法

腕時計と同様に、掛時計にもアナログ表示のものと、デジタル表示のものがあります。メリットやデメリットも腕時計の場合と同じで、ぱっとみて時刻がわかるのがデジタル表示、任意の時刻間の時間差がわかりやすいのがアナログ表示です。

デジタル表示のものは液晶のコントラストが高いか、LEDなどで発光するタイプのものでなければ、広い部屋では使いづらいかもしれません。

▽駆動方式と精度

掛時計でおすすめなのはクォーツ式、あるいは電波式のものです。掛時計では、サイズが大きくなるほど設置場所が高所になりますので、運用やメンテナンスになるべく手間がかからないことが重要です。毎日手巻きをしなければいけないとか、月に一回時間を調整しなければいけないものは論外です。

▽デザイン

掛時計は部屋の印象に大きく影響を与えます。センスの良い家具や高額な家電を揃えていても、掛時計のデザインがイマイチだと残念です。

腕時計同様、掛時計にも「視認性」が求められます。デザインに凝りすぎた時計では、無用の長物となってしまうでしょう。時計として最適なデザインで、なおかつ部屋の雰囲気に合うものを選びましょう。

▽価格

掛時計は買い換える頻度がそれほど高くないと思いますので、お気に入りのものを時間をかけて探しましょう。気に入ったものが少し高いと感じても、使用する年数を考えると割があうはずです。


【吉田貴之】info@nowebnolife.com

イディア:情報デザインと情報アーキテクチャ
https://www.idia.jp/

腕時計ポータルサイト:腕時計新聞
https://www.watchjournal.net/


兵庫県神戸市在住。Webサイトの企画や制作、運営を生業としながら、情報の整理や表現について研究しています。


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■クリエイター手抜きプロジェクト[571]IoT編
二回目のマイクロビット講座は一回目とは違っていた

古籏一浩
https://bn.dgcr.com/archives/20190218110200.html

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今回は先月末に行った、マイクロビット講座についてです。昨年も一度マイクロビットの講座を行っていますが、当初の募集人数よりも多かったため、二回に分けたという経緯になっています。

講座で使う機材や進め方は一回目も二回目も同じです。しかし、子供達によって講座の中身が変わってしまうということがあり、なかなか興味深い体験を得ました。

一回目はLEDなどをブレッドボードに差し込んで、どうなるか確認したり、どちらかというとハードウェア的なものと、ピアノボードなど音楽に興味を持つ子供が多くいました。

ところが、二回目は女の子が多かったせいか(人数の約半分)、音楽やグラフィック方面に興味を持つ子供が多いような感じでした。ちなみにグラフィックはマイクロビット用の専用のものがあり、160×128ドット65536色まで表示できます。

・1.8inch TFT LCD
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音楽は無線通信を使いタイミングさえあわせれば、マイクロビットで同時演奏が可能です。二人でタイミングあわせて演奏するようにしていましたが、少し苦労していたみたいでした。

マイクロビットの講座は3時間で、1時間目が基本操作の学習、2時間目は好きな項目を選んで学習、3時間目が全員で信号機を制御します。3時間前は簡単なプロジェクトです。

一回目は人数が多かったのでふたつの班に分けましたが、二回目は人数が微妙だったので、全体でひとつのプロジェクトを実現することにしました。

一回目はプロジェクトリーダーがいませんでしたが、二回目は関わる人数が多いため、二人の女の子がプロジェクトリーダーをやることになりました。(ちなみに小学4年生です)

プロジェクトの目標は、交差点の信号を作るというものです。簡単なものですが信号の点灯時間や、どういう交差点にするかを決めなければいけません。普通は講師からアドバイスとかするんじゃないかと思いますが、ここは基本ほったらかしです。

時間は1時間弱なので手際よくやらないといけません。女の子二人は初めてのプロジェクトリーダー(マネージャー)なので、思いついたところからやりはじめました。

どういう交差点にするかを、紙に描き始めました。本番用の紙ではなく下書きとしてです。この交差点のお絵かきに30分近くかかりました。その間、他の人への指示はまったくなし。その後、二人でプレゼンが行われました。そして、信号機を何秒間点灯させるかの仕様が決まった段階で、残り20分弱。

ここで面白かったのが、残りの人の行動です。信号機を作るという目的は決まっていますが、作成する信号機は4つ。信号機を作らない子供は何か交差点に関するものを作らないといけません。

プロジェクトリーダーの二人の女の子は、交差点で流す音楽を作成すると公言していましたので、残りの人は何か別のものを作る必要がありました。しかし、誰が信号機を作って、誰が他のものを作るのか、ほとんど決まらず進行していきました。

ここで講師の出番。こういう事態は実際のプログラム開発/プロジェクトではよくあることだと説明。そこで、こんな場合に、作成する側はどう対処したらよいかをアドバイスしました。

どのみち信号機を作ることは決まっているので、あらかじめ組み立てて用意しておくのがポイントです。プログラムも仕様が未確定でも、ある程度動くものを用意しておく。この時、小学4年生の女の子がなかなかいい質問をしてくれました。

「待ち時間が0msecのブロックは消した方がいいの?」

待ち時間が0msecということは、消しても動作には影響がありません。しかし、今回のような仕様が確定していない場合、このような意味のないブロックは残しておく必要があるとアドバイスしました。仕様変更で待ち時間が変わってしまったり、追加されてしまうことがあるためです。

プロジェクトリーダーが全体の進行状況を把握することをしていないので、残り時間だけ適度にアナウンスするようにしました。

仕様通りに信号機制御のプログラムを作った女の子が、とあることに気づきました。それも5分前に。

「仕様がおかしい」

実は赤色→青色→黄色となる場合の、時間配分が間違っていました。プロジェクトリーダーは気づかなかったのです。そして、ここでどうすべきか? が議論されました。

(1)プロジェクトリーダーに伝える
(2)プロジェクトリーダーには伝えず、制作側で口裏をあわせて仕様を無視して動くように作る

結局のところ(1)が選択されました。そうなると、当然仕様変更がかかります。結局1台(1人)は対処できず、動くプログラムをコピーして使うという案配になりました。

ゲームプログラマになりたいという男の子がいたのですが、せっかくなので一番難しい液晶モジュールを使ったグラフィックに挑戦してもらいました。苦戦しながらも、どうにか簡単なグラフィックを表示することができました。交差点の大型ディスプレイっぽいような感じです。

時間を5分ほどオーバーしたところで、ようやく信号機が配置され、動くものができました。無事に動くものができてよかったのですが、4人で作るか7(+1)人で作るかで、かなり違いました。それでも、小学4年くらいでいろいろ学べるマイクロビット講座でよかったんじゃないかな、と思いました。


【古籏一浩】openspc@alpha.ocn.ne.jp
http://www.openspc2.org/


ロボットを制御したい、という子もいました。マイクロビット用のロボットもいくつか出ています。まあ、来年度もこういうマイクロビットの講座があるかどうかはわかりませんが……。

二月なのに寒い長野県塩尻市で雨が降るという、異常気象っぽい状態。天候不順だと農業系困るんですよねぇ。

・創って学ぼうプログラミング
https://news.mynavi.jp/series/makeprogram


・みんなのIchigoLatte入門 JavaScriptで楽しむゲーム作りと電子工作
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[正誤表]
http://www.openspc2.org/book/error/ichigoLatte/


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・Illustrator自動化基本編
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・4K/ハイビジョン映像素材集
http://www.openspc2.org/HDTV/


・クリエイター手抜きプロジェクト
http://www.openspc2.org/projectX/



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■映画ザビエル[70]
決してひとりでは見ないでください

カンクロー
https://bn.dgcr.com/archives/20190218110100.html

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◎サスペリア

原題:Suspiria
公開年度:2018年
制作国・地域:イタリア、アメリカ
上映時間:152分
監督:ルカ・グァダニーノ
出演:ダコタ・ジョンソン、ティルダ・スウィントン、ミア・ゴス、クロエ・
グレース・モレッツ

◎だいたいこんな話(作品概要)

1977年のベルリン。スージーは、「マルコス・ダンス・カンパニー」の入団オーディションを受けるために、米国オハイオ州から単身でやって来た。

スージーは、カンパニーの代表作「民族(VOLK)」の作者であり振付師のマダム・ブランの目に留まり、一気に主役の座に登りつめる。

マダム・ブランの指導の下、スージーは舞踏にのめり込むあまり一時的な虚脱状態を引き起こす。時を同じくして、カンパニーで不可解な出来事が続く。

すでに退団したとされるダンサー、パトリシアの失踪を、主治医だったクレンペラー博士が警察に調査依頼するが、カンパニーは無関係を装う。しかし、姿を消したダンサーは、パトリシアだけではなかった。

団員のすべてが共同で生活を送っている名門カンパニーで、一体何が起こっているのか。

1977年制作、ダリオ・アルジェント監督によるイタリア・ホラー映画の金字塔「サスペリア」のリメイク作品。

◎わたくし的見解/里帰りしたオカンに魔女がめっちゃ怒られる話

私は、77年のオリジナル作品「サスペリア」を観たことがありません。76年生まれなのでリアルタイムでは無理ですが、後追いで鑑賞する機会はあったのに、ただ単純に好きではなかったのです。

若かりし頃の私は、血がいっぱい出てくる、いわゆるスプラッタホラーの類は、中身のないつまらない映画だと決めつけていました。それでも「決してひとりでは見ないでください」というキャッチコピーは印象的で、どのタイミングで目にしたのか耳にしたのか、不思議と記憶に残っています。

今回のリメイク作品は、旧作とはかなり違うと評判です。

実際、オリジナルを知らないながらも、ホラー映画としてはあまりに複雑な内容について色々調べていく中で、「リメイクではなく再構築だ」「トリビュートだ」というメディアのコメントに、私もまったく同感です。

とくに本作の肝は、オリジナルではまったく触れられていない、77年のドイツ、という舞台を前面に打ち出しているところです。カンパニーとクレンペラー博士の住まいは、西ドイツの西ベルリンにあります。

当時のドイツは東西に分かれており、ベルリンも壁によって分断されていました。カンパニーの目の前にベルリンの壁はそそり立ち、クレンペラー博士は東ベルリンにある別荘と頻繁に行き来する際、その都度税関のような場所で許可証やパスポートを提示する手続きを行います。

ストーリーは、カンパニーの内部で秘密裏に行われている残忍な魔女の儀式が軸ですが、その背景では、ドイツ赤軍が行なったハイジャック事件の報道が連日くり返され、一般市民の生活も脅かされている様子が描かれています。

ヒロインのスージーが、アメリカからベルリンへやって来た当日も、街で爆破事件が起きていたり、77年の後半は「ドイツの秋」と名付けられるほど、多くのテロ事件が勃発していました。

「ベルリンの壁崩壊」以前の分断された時代のドイツの社会情勢について、実はあまり知りませんでした。しかし70年代は、ドイツに限らず世界中で、資本主義と共産主義の争いが水面下だけにとどまらず、内戦やテロなどの暴力に発展していたのも事実。

ハイジャックや赤軍と聞けば、日本でも「よど号事件」がすぐに連想されたりと、不穏な時代であったことは想像できます。暗い社会背景とカンパニーでの不可解な出来事は、相乗効果で観るものを不安にさせます。

しかしカンパニーの、特に運営側に立つマダムたちは、驚くほど世間に無関心であることが物語のポイントでもあるのです。表向きは舞踏団として生き残った彼女たちは、元来は「魔女」として世の中から迫害を受け、排除されてきた歴史があります。

自分たちを苦しめてきた世間が、東西の分断に苦しめられようとも、目の前に壁があろうとも、知らぬ存ぜぬの姿勢を貫くのは、それほど不思議なことではないのかもしれません。そんな事よりも、自分たちが生き残るため古いしきたりにのっとり、若いダンサーを犠牲にして禍々しい儀式を行うことが重要なのです。

そのカンパニーの中で、マダム・ブランは代表の座を争うほどのポジションにいるのに、少し違う方向性を模索している革新的な存在です。

舞踏団の存続が最重要事項であることは、他のマダム(魔女)と同じなのに、性急に儀式を執り行うことに抵抗を示します。しかし、カンパニーの代表はマダム・マルコスであり、選挙で選ばれた彼女の意向を覆すことは出来ません。

マダム・ブランの葛藤は、スージーが舞踏団に加わったことで、さらに強くなります。他のマダムにとって、スージーは恰好の生贄でしかないのに、マダム・ブランだけは彼女が何か特別な存在であることに気づいていました。

ヒロイン、スージーの設定も実に凝っています。オリジナルでも、世界的に有名なダンスカンパニーに憧れて、アメリカからやって来た設定ですが、旧作はニューヨーク出身なのに、本作ではあえてオハイオ出身であることを強調しています。

旧作のスージーは、魔女の儀式に巻き込まれる被害者的な立ち位置なのに対し、本作のスージーは、運命に引き寄せられ悪い魔女を粛清しに来た、ちょっとヒロイックな存在です。

オハイオ出身のスージーは、自身でもメノナイトであると明かしています。このことは彼女のルーツが元々ドイツにあることを示し、アメリカ生まれなのに、子供の頃から何故かベルリンへの執着が強かったスージーは、数世代ぶりに故郷に帰って来たという筋書きです。

帰郷の目的は、いつの間にか間違った方向に邁進する魔女たちの道を正すため。初めは自覚もなく、引き寄せられるようにやって来たスージーは、カンパニーのどの魔女よりも大きな力を持つ、始祖(母)であった。と言うオチなのですが、そんなの正直めっちゃ分かりにくいです。

オリジナル作品の持つ要素を、監督独自の視点で解釈し、かなり深く掘り下げ再構築しているため、とても複雑であらゆる情報が渋滞しています。ただ、それらの情報が、後出しジャンケンのような乱暴な詰め込み方ではなく、丁寧な散りばめ方をされている点は敬服しました。

初見で理解するのは簡単ではありませんが、複雑な要素を改めて紐解くのは、個人的には興味深い作業でした。難解でも気になってしまう感じは、「エヴァンゲリオン」に初めて遭遇した時に少し似ていて、作品の面白さを支えている部分でもあると思います。

実は鑑賞中の特に前半は、あまりの気味の悪さに後悔していました。ところが見終わってみると、案外悪くないと思えたのです。

コンテンポラリーダンスの演出は圧巻ですし、トム・ヨークの音楽は実に効果的に機能しています。同時に、この上なく不気味な美しさを放つ作品を支持したいけれど、このような賢しい作品が嫌われるのも理解できます。

ちなみに、ひとりではなく何人で見ようとも、おぞましさは変わりません。タランティーノがこの作品を観て涙したと言われていますが、つくづく変わってる人だなと思いました。

でも、ちょっと分かる気もします。

作品の中で、マザーと呼ばれている存在は、世の中の分断について無関心であることは恥で、罪悪感を抱くべきだと考えていました。また、すでにその事に心を痛めている人へは、その重荷を解き放ち去っていきます。やはり案外、悪くない物語なのです。


【カンクロー】info@eigaxavier.com

映画ザビエル
http://www.eigaxavier.com/


映画については好みが固定化されてきており、こういったコラムを書く者としては年間の鑑賞本数は少ないと思います。その分、だいぶ鼻が利くようになっていて、劇場まで足を運んでハズレにあたることは、まずありません。

時間とお金を費やした以上は、元を取るまで楽しまないと、というケチな思考からくる結果かも知れませんが。

私の文章と比べれば、必ず時間を費やす価値のある映画をご紹介します。読んで下さった方が「映画を楽しむ」時に、ほんの少しでもお役に立てれば嬉しく思います。


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編集後記(02/18)

●偏屈映画案内:「サウルの息子」

図書館のDVD棚で見つけた古い作品。背のタイトル「サウルの息子」だけじゃ意味不明だから、パッケージの文字情報を読む。黄色地の表面の3/5を占めるのは、布で鼻半分くらいまで覆った男の頭部と肩あたりまでの、くすんだ色の写真。彼が主人公・サウルであろう。鋭いが何も見ていないような目である。

「だれも観たことがなかった特殊部隊“ゾンダーコマンド”疑似体験映像。」とある。「1944年10月アウシュヴィッツ・ビルケナウ収容所、ハンガリー系ユダヤ人のサウルは、ゾンダーコマンダとして任務に就いている。それは、ナチスが選抜した、数か月の命と引き換えに、同胞であるユダヤ人の死体処理に従事する特殊部隊のことである」という。初めて知ったが、疑似体験などイヤだ。

この極限下で、「発見した息子の死体を正しく埋葬しようとした、勇気と感動の二日間の記録」がこの映画であるらしい。残酷な強制収容所の映画なんて本当は見たくはないが、手に取って解説まで読んだのだから、これもご縁である。ほぼ解説通りのストーリーだったが、読まずに見たら理解不能だったと思う。

彼がそこで生き延びるためには、人間としての感情を押し殺すしかすべがない。もちろん、ガス室送り執行猶予の身だから、生きていられるのはあとわずかだろう。ある日サウルは、ガス室で生き残った少年を発見、自分の息子だと思うが、目の前で殺されてしまう。医師も囚人だからサウルに同情し、解剖も焼却もせずに、今夜5分間だけ会わせてやるという。サウルは死体を盗み出して隠す。

サウルはユダヤ教の教義に則って手厚く埋葬しようと、ラビ(聖職者)を捜すため収容所内を歩き回る。そんな中、ゾンダーコマンダの何人かによる収容所脱走計画が秘密裏に進んでいた(ということは後から分かった)。やっと見つけたラビは拒否し、川に逃げ溺れるので、追って助け出す。全身ずぶ濡れのはずだが、衣装はそのままお話続行という、映画でよくあるご都合主義だ。

よくわからない展開が続く。わたしが洋画を見ているときによくある怪現象だが、わたしの理解力不足が原因であろう。数人が脱走を図る。サウルも加わるが息子の死体を抱えている。森の中で埋葬しようとしたが失敗、自称ラビは偽者だった。脱走者たちは川に逃げ、サウルの抱えていた息子の死体は流れ去る。彼らは川を渡り、森の中にあった納屋に逃げ込む。全身ずぶ濡れのはずだ……。

納屋を覗き込む農民の少年がいる。サウルと目が合い、サウルはこの映画の中で初めての笑顔を見せる。彼は映画の初めからずっと、何の感情も表さなかったのだ。少年が納屋から離れると、武装した親衛隊が納屋に向かい、銃声が響く。サウルが息子だと主張する少年はたぶん他人だろう。サウルは狂っている。狂わなければやっていけない、ゾンダーコマンダの真実を描いているのだろう。

カメラは最初からずっと、広角でサウルを捉えている。バストショットでは、彼以外はフォーカスがいってない。サウルの視点で捉えられたホロコーストは、臨場感は充分にあるがもやもやした映像で、何だかよくわからない。音響効果は充分にある。映像にはなんの感情も入っていない。重い、重すぎる。(柴田)

第88回アカデミー賞外国語映画賞受賞、第68回カンヌ国際映画賞グランプリ受賞、第73回ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞受賞と表示あり

「サウルの息子」 2015 ハンガリー
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B01FS30KRQ/dgcrcom-22/



●MacBook Pro。届いてから約3週間放置。すぐに開封したい気持ちと、セッティングのめんどくささがせめぎ合い、周辺機器の買い揃えなどで先送り。

印刷物仕事をしていると、保存の遅さにイライラした。待っている間にお茶を入れて、戻ってきても終わっていない。つい他のことをしてしまい、集中力が途切れ、効率が落ちる。

先に買い換えた人から、5年前のものと比べて、とてもスピードが速くなったと聞き、決断しないとなぁと思っていたのだが、Web制作仕事をしていると、さほど不自由は感じなかったので、ま、いっか、次に新しいのが出たら考えよう、と。続く。(hammer.mule)