わが逃走[234]日刊アナログクリエイターの巻/齋藤 浩

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●塗料の大革命

先日、ちょこっとプラモデルの話を書いたけど、模型業界ではここ数年、塗料の大革命がおきているらしい。

いままで主流だった「ラッカー系塗料をエアブラシで」から、「アクリル系塗料を筆塗りで」へと急激にシフトしているのだ。

簡単に言っちゃえば、モデラーの意識と年齢が上がってきているから、とも言える。いい大人が有機溶剤をガンガン噴霧する環境にこもるのはもちろん、家族の健康も考えなきゃねえ。という流れと、高性能な水溶性塗料が世界中で開発されて、それらを扱う店舗が増えてきている、といった要因があるらしい。

エアブラシを用いたラッカー系での塗装は、広い面積もムラなく美しいグラデーションで塗装可能。

とても便利ではあるが、油断すると最大公約数的な仕上がりになってしまう。つまり、ラクしてきれいに塗れるので、個性的に仕上げるにはある程度の意識が必要なのだ。

そして有機溶剤の問題と、それ以上に準備と後片付けがものすごくめんどくさい。なので、私はここ10年ほとんど使ってない。缶スプレー(ラッカー系)を屋外で吹いて下地とし、アクリル系塗料を基本色に少しずつ調子を加え、エナメル系塗料でディテールを描き込む方法で、ちまちまと塗っていた。





アクリル系塗料は彩度が高く水で洗えて便利だが、塗膜が弱く乾きが遅いのが難点だった。なのでアクリルカラーをラッカー溶剤で溶くという、環境や臭気の問題を無視したような使い方もしていたのだ。

ところが近年、輸入品の模型用アクリル塗料がそこここで話題となっている。スペイン生まれのファレホカラーや、英仏共同開発というシタデルカラーなどは、筆塗りの際の伸びもよく塗膜も丈夫、しかも速乾性だと聞いている。もちろん無臭。

ファレホは色数が豊富で、戦車や飛行機など専用色のセットなどもあるらしい。しかし取扱店舗がやや少なく、値段が高い。

シタデルは独自のシステムを持ち、カラーチャートと連動したアプリが、必要な色調を表現するまでの重ね方を瞬時に教えてくれる。これはとくに初心者には便利! 塗装の敷居を一気に下げている。しかし、値段がファレホより高い。つまり、とても高い。

むむー、いずれもコストがネックなのだ。うっかり数色買ってしまうと、そのまま買い足し続けることになりそうなのである。

仕事に使えるならまだしも、私の場合そういった言い訳が効かない。試用するにせよ、例えばシタデルを5色買ったら3000円くらいになる。3000円といえば10gpに相当する(300円のガンダムのプラモデルが10個買えるの意)。これはキビシイ。

しかし、いずれも他のアクリル塗料との混色が可能とある。で、あるなら! タミヤなど国内メーカーの模型用塗料はもちろん、画材屋さんで手に入るアクリル絵具を、これらのシンナーで溶けば、かなり面白いことになりそうではないか??

幸いなことに、ホルベインやターナーのアクリルガッシュは部屋の片隅の絵具箱に入っている。四半世紀くらい使ってないけど。フタを開けてみると、チューブの半数以上は固まってなかった。いける!

●シタデルカラーを使ってみる

というわけで、今回はシタデルカラーを使って試してみることにした。単に新宿のヨドバシで扱っていたから、というのがその理由である。初期投資1180円でベースカラー1色(ベージュっぽい明るめのグレー)と、エアブラシ用シンナーを入手。各590円。

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今回購入したベースカラー「RAKARTH FLESH」とシンナー(CASTE THINNER)シンナーが塗料と同量でこの値段というのは模型用としてはやはり高価な印象。ちなみにボトルの大きさは親指の先程度だ。

そんなわけで、ジャンクパーツ入れからテキトーなものを用意。途中まで作って飽きた、ガンダムかなんかのパーツだ。サイズは天地がだいたい38ミリくらい。これに対しサーフェイサーあり/なし、下地にラッカー系塗料を塗る/塗らないで実験してみた。

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左:サーフェイサーなし(=パーツまま)、右:サーフェイサーあり

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それぞれの右半分にラッカー系塗料のグレイを筆塗り。これらに対し、まずシタデルのベースカラーを塗る。

ボトルをよく振ってから平筆ですくい、ペーパーパレットに乗せてみた。サラサラとトロトロの中間的な粘度で、筆塗りに適した印象だ。

ポスターカラーでムラのない色面を作るのに適した濃度に近い。もちろん無臭。筆を一旦水につけ、やや水を含ませた状態で再度パレット上で伸ばす。いい感じになってきたので、まずはさっとパーツに乗せてみた。

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ベースカラー塗装1回目。やはりサーフェイサーを吹いた方が食いつきがイイ。それなりに筆ムラは出るが、気にせず乾燥を待つ。乾くまでの速度はラッカーとタミヤアクリルの中間くらい。

気温や湿度によっても違うと思うが、「気がついたら乾いてた」という印象。筆を動かさないときは、常に水の入った筆洗につっこんでおいた方がイイ。

おそらくエアブラシを使う場合は、足元に水を張った大きめのバケツを用意し、ハンドピースごと突っ込んでおかないとすぐ目詰まりするのではなかろうか。

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ベースカラー塗装2回目

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ベースカラー塗装3回目

3回塗ったところ、ムラのない均一な塗膜ができた。水で薄めながら素早く筆を動かすと、ディテール部分に細かい泡が発生することもあるが、放置しておけばほぼ消えるし、ブロワーで軽く吹けばすぐなくなる。

ちなみに今回はあくまでも試し塗りなので、多少のホコリ混入などは気にせず塗っている。さて、ここでアクリルガッシュの登場。

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若かりし頃使っていたアクリルガッシュを、

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混色し、程よい色をつくる。ちょっと赤みのある茶色を作り一旦筆を洗い、あらためて少しだけすくった赤茶に、シタデルのシンナーを一滴垂らして伸ばしてみた。わりとシャバシャバな濃度。これをパーツ全体に乗せてみた。

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シタデルベースカラーの上に、シタデルのシンナーで溶いたアクリルガッシュをのせたところ

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別角度。ここへ来て、サーフェーサーの有無による差が出てきた。手作業なので厳密ではないが、サフを吹いた方が食いつきが良い印象。微細とはいえ凹凸があることで、薄く溶いた絵具の引っ掛かりが増しているのだと思う。

この上からシタデルベースカラーとアクリルガッシュの緑、白を同様に混ぜ、さらに乗せた。

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シタデルとガッシュをペーパーパレットで混色し、

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乗せた。嬉しいことに、混色は全く問題ない。補色を加えることでナマっぽさがなくなり、落ち着いてきた。

さらに明るいグレー(アクリルガッシュ)でハイライトを入れた後、油彩系の塗料(GSIクレオスのウェザリングカラー)をのせた。彩度の高い青と茶色。

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ハイライト追加

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さらに油彩系塗料を乗せる。下地を侵すことなく自由度も高い印象。

ここまでの作業を振り返るに、絵画用のアクリルガッシュをシタデルのシンナーで溶けば、模型用塗料として充分に使えるのではないか。と思うのだった。

塗膜の強さを検証。パーツ下部のエッジをワイヤーブラシで軽くたたく。軽くこする。

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ワイヤーブラシでたたく

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別角度。まあ、普通にハゲるわな。サフなし(左)は白いプラがそのまま出るので、ちょっとカッコ悪い。とはいえ、塗膜は必要にして充分の強さだ。

ここで、ラッカー系の模型用つや消しクリアをスプレーした。

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つや消しクリアをスプレー

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別角度。下地が侵されることもなく、問題なし。つやが整い、より落ち着いた印象。さらに、パーツ上半分をエナメル系塗料でドライブラシ。

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エナメルでドライブラシ

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別角度。もともとエッジに明るい色を置いているので、今回はさほど効果ナシ。

パーツ下半分にコピック(アルコール系マーカー)で調子をつけてみた。つや消しクリア層のおかげで、染み込むように定着する。

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まずはパネルラインを囲むように色を置き

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カラーレスブレンダーを使ってなじませた

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別角度。かなり味わい深くなってきた。

仕上げ。コピックは使いやすい画材だけど、つやの処理が少々悩ましい。水性トップコートでのオーバースプレーを試したこともあるが、調子の面白さがなくなってしまうのだ。

なので今回は、明るいベージュ色のパステルを、紙やすりの上で粉状にしたものを用意し、軽く筆で撫でて仕上げとした。当然触れただけで落ちる。なので触らない。最後に一部のエッジに鉛筆をあてて輪郭を際立たせている。

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パステルと鉛筆

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別角度。ブレードランナーを見ながら塗っていたので、なんだか色調がそんな雰囲気になってしまったが、絵を描く感覚で楽しく塗装ができた!

シタデルカラーの高性能っぷりはよくわかったが、私にとっては高価だ。幸いにしてアクリルガッシュはたくさん持ってるので、適宜まぜこぜしつつ使っていきたい。

こんどは全工程アクリルガッシュで作ってみるのも楽しそうだ。そうそう、ファレホも試してみたいものよのう。

●立体に立体の絵を描く

最後に模型の塗装に関する私の考えを書いておきます。まず、これは単なる趣味なので、楽しけりゃイイ。

極端な話、塗らなくても満足であればそれでよいのです。その上で、塗りたくなったときは、どのように意識して作業を進めるべきか。私の場合、「立体に立体の絵を描く」ことを念頭においています。

つまりドイツ軍のIV号戦車の形をしたキャンバスにIV号戦車の絵を描く。ガンダムの形をしたキャンバスにガンダムを描く。ということです。

絵の描き方にもいろいろあります。ペン画に軽く色をつけることもあれば、絵具を何層も重ねていく表現もある。

こうしなきゃダメなどというルールはないので、そのときの気分で、そのときに楽しいと思う表現を選択すればいいのです。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。