ユーレカの日々[71]海賊たちとの闘い・マンガ編/まつむらまきお

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●違法ダウンロード規制強化の動き

映画や音楽、ゲームに限られていた違法ダウンロード規制を、マンガやイラスト、論文などにまで拡大する法案が提案され、各方面で驚きや不安が広がった。文化庁は強気で通そうとしたが、寸前のところで首相の鶴の一声で差し戻されたそうだが、まだどうなるかはわからないようだ。

昨今の省庁の言動はもう、この国は終わりじゃないかと思うくらい、無茶苦茶な話が続出しているが、今回の話は統計調査不正などと比べて地味な分、とても恐ろしい。

文化庁は文化の振興が目的なはずだが、どうやらそれを産業の保護と同じと考えているらしい。既存の産業の保護を優先するばかりで、文化の発展という視点がまったく欠如していて、腹立たしい。

今回の法案の発端は、漫画村というWEBサイトの存在が問題視されたことにはじまる。アンダーグラウンドで配布されている、マンガ作品海賊版ファイルへのリンク集で、ぼくはまったく知らなかったが、若年層には有名だったそうだ。

僕自身はもう、「元」と言っていいほど久しくマンガの仕事をしていないし、単行本をガンガン売るような作家でもなかったので、傍観者を決め込んでいるが、教え子がプロの作家になるにつれ、今後この産業はどうなっていくのか、気にしないわけにはいかない立場だ。

違法ダウンロード強化の動きは、現行の著作権、知的財産権に関するルールが、現実(=インターネット、デジタルコンテンツの普及)にまったく追いついていないことに起因している。そして、法律だけでなく、ビジネスモデルが現実に追いついていないことも大きいだろう。

そこで今回は、マンガというビジネスについて考えてみようと思う。





●マンガの連載はペイするのか

日本のマンガビジネスは現在、雑誌で作品が連載され、それをまとめた単行本を販売することで成り立っている。作家から見た場合、雑誌掲載の時点で原稿料が得られ、単行本では印税が得られる。

一見、二度美味しいように見えるが、原稿料は商業マンガ雑誌で、1ページ1万前後。単行本200ページ分で、200万円。これをひとりで、何日で作れるかということになる。1ページに1日8時間かかると、時給換算で1,250円が200日。

新卒サラリーマンは年間250日×8時間で、平均年収が240万くらいなので時給換算1200円。サラリーマンの平均年収は400万くらいでこちらだと時給換算2,000円。1日1ページの生産スピードだと新人サラリーマン並、1日2ページだと平均サラリーマン並ということになる。

一見、そう悪くないように見えるが、サラリーマンと違って、仕事場の家賃やパソコンなどの経費は本人負担。アシスタントをたのんだりすると、時給はコンビニバイトよりも低くなって、最悪持ち出しさえありうる。

また、どれくらいまで生産スピードが上げられるかは、作品内容、作風、作家の能力にかかわってくる。『ちびまるこちゃん』と『アキラ』の作画は、だれがみてもかかる手間が大きく異なるが、同じ作家同じ媒体なら、手間が違っても原稿料は同じ。

マンガの面白さ、ヒットするかどうかは、絵の手間暇とは無関係なので、手間のかからない方法をとらないと、原稿料だけでは喰っていけない。

●リスキーな印税収入

それでも、表現者の性で、手間暇かけて作りたがる。それが可能なのは、単行本収入を見込んでいるからだ。500円の単行本の印税が8%として、一冊40円。10万冊で400万円。100万部で4千万。これだけ売れれば、アシスタントを使ってさらに量産することも可能となる。

しかし昨今、新人マンガ家の単行本初版部数は、メジャー誌以外だと1万部を切ることもめずらしくなくなった。1万部だと40万にしかならない。200ページで原稿料200万とあわせて、240万円。週刊連載なら年に3巻出せるので、720万になるが、そのペースで連載するならアシスタントも必要で、とても原稿料だけではペイしない。

実際、新人が週刊連載を始める時、貯金を切り崩す、親から借金をするという話をよく聞く。今は、アシスタント補助金がついたり、連載ペースを遅くするなど、昔よりは改善されていることもあるようだが、それでも多くのマンガ家が、印税を当てにして、赤字レベルでの生産を行っている。

そもそもが、マンガの単行本は安すぎるのだ。子ども向けの商品だったからで、200ページで500円前後というのは、新刊文芸書や実用書ではまずない。マニア向け、大人向けの作品なら、ちょっと大判で1,000円くらいというのもある。1,000円の単行本なら1万部で印税が80万になるので、これくらいが妥当だと思うのだが。

本の仕様は普通、雑誌ごとで決まってくるので、それほど人気がないのに単行本も安い設定、という辛い状況が生まれる。もともと、雑誌ごとで単行本が全部同じサイズになっているのは、書店の棚に並べるという事情からだ。リアル書店がこれだけ壊滅している状況なんだから、内容にあわせて大判高額本などがもっと増えてもいいように思う。

●ビジネスモデルとしての限界

さて、そういった産業で、海賊版の存在が問題となった。月間で1億人近い利用者がいたとされている。一人が一回につき、市販だと500円分くらいを海賊版で読むとしよう。その分、本が売れていたとすると、年間の売上相当額は6,000億円、印税相当額は480億円。

日本で単行本だしているマンガ家の数は6,000人(メディア情報白書2010)くらいだそうで、マンガ家ひとり平均年間800万円の損失という計算になる。新人漫画家が初版1万部に対し、ワンピースだと初版400万部くらい出ているので、作家によって400倍くらいの差があるが。

マンガの出版社は講談社、小学館、集英社、カドカワ、秋田、白泉社、スクエニの7社で9割は占めているだろう。出版社の取り分が定価の4割として、1社あたり月28億円、年間336億の損害という計算。

小学館の年間売上高が945億、すべて出版物の収入として計算してみるが、出版社の取り分が同じく4割として378億。あれ? もし本当にそんな損害が出ているなら、これは会社つぶれてる。この10年でじわじわと売上が落ちているが、それでもいきなり半分になったなんてことはないから、ここまでの計算のような損害は、そもそもが出ていないことになる。

なので、海賊版サイトの脅威というのは、ちょっと眉唾にも思えるのだが、作家にすれば必ずしも割りがいいわけではないこの産業で、海賊版の存在で売上が低下するのは死活問題と感じるのには違いない。

しかし、作家の立場だけで見れば、原稿料でペイしていれば単行本の海賊版が出回っても、死活問題にはならないはずだ。単行本収入を見込まなければ成り立たないビジネスモデルだから、海賊版が死活問題となるのだ。とすれば、このビジネスモデルにも問題があるのではないか?

●プリンタービジネスはどうなった

他の産業で似たような事例がある。プリンターの世界だ。高性能なインクジェット複合機を1万円で売るのは、インキを買ってもらうことを期待しているからだ。ところが、海賊版ならぬ「互換インキ」が登場し、純正インキは思ったように売れなくなる。違法性を訴えるも、裁判でも敗退、最近では従来のビジネスモデルをあきらめた「エコタンク」モデルが売れ筋となった。

インクジェットの互換インクが合法なのに、なぜ、マンガの海賊版は違法なのか。著作権と特許、独占禁止法と、適合する法律が異なるのでなんとも言えないが、「単行本の売上を見込んで原稿料だけでは赤字なのをよしとする」のと、「インクの売上を見込んで本体の価格が赤字なのをよしとする」のは、ビジネスモデルとしては同じ発想で、互換インクや海賊版の登場で思惑がはずれたのも同じ構造のように思える。

大手ならそれでもいいだろう。出版側から見れば、マンガというコンテンツは少ない投資で、アタリが大きく、投資先の数が多いという、投資には理想的な事業だ。雑誌は単行本を生み出すインフラなので、雑誌は赤字でもかまわない。だが、個人作家ばかりのマンガの世界で、こういったビジネスモデルは健全とはいえまい。

●クラウドファンディングはどうか

問題は、制作費が安すぎるという構造にある。出版社がもっと投資してくれるのが一番いいのだが、そうなると今度は、今よりもデビュー、連載をとるのが狭き門になる。

ならば、雑誌連載ではなく、描き下ろし作品をクラウドファンディングで資金を集めるのはどうだろうか? たとえばマンガの新刊を出す制作費500万円をクラウドファンディングで募る。1冊500円として、1万人出資してくれれば、製作に専念でき、それ以上の売上が利益となる。

この事例はすでにたくさんある。続編を書きたい、とか、単行本担ってない作品など。しかし当然ながら、作家としての実績がないと出資者を募るのは難しいだろう。工業製品ならば、製品の仕様で前払いしても、ちゃんと機能するのであれば問題ない。マンションを建設前に契約するのと同じ。

しかしマンガや映画となると、仕様どおりであることと、面白さなどのクオリティは必ずしも一致しない。作家の才能に投資するには、作家に実績がないと難しい。作家側も、人の性で、お金を先にもらってしまうと、作るモチベーションは確実に下がる(笑)。

●音楽のサブスクリプションに注目せよ

この10年でビジネスモデルが大きく変化した先輩に、音楽産業がある。生演奏しかなかった時代から、レコードを販売することで、大きく成長した音楽産業だが、レンタル店が登場し、パソコンでCDが簡単にリッピングできるようになり、ブロードバンドの普及で、そのデータがネットに違法流通するに至って、もう音楽で生活するのは、一部のスター以外は無理ではないかと思われた。

しかし、この数年で、事情は変わってきたようだ。サブスクリプションの登場だ。会員から定額の会費を徴収し、聴き放題を提供するこのビジネスモデル。当初は日本のアーティストは皆懐疑的で、楽曲の提供を渋っていたようだが、現在ではすっかり定着した。

僕自身、AppleMusicをサービス開始以来利用している。当初は新譜は聴き放題に出てこないので単体で購入していたものだが、ここ数年は新譜もすぐにサスクリプション枠で配信されるようになったため、単品でアルバムを買うことがすっかりなくなってしまった。

その背景には、配信された楽曲の再生をカウントし、権利者への支払いが計算される仕組みが、従来と同様のペイになっているからだろう。ヒット曲はもちろんだが、マニアックな楽曲でユーザーが少数であっても、何度も再生されればその分、権利者にペイされる。

ファンの数が少なくても、何回も繰り返し聞いてくれれば、ヒット作と同等のペイが期待できるわけだ。新譜を出せば、過去作を聞いていたユーザーにお知らせされるので、アルバムを販売するより、確実に聞いてもらえる。

何度もヘビーローテーションされると、配信業者側は丸損のように見えるが、一人の人間が費やせる時間には限りがあり、ユーザー数が多くなれば、全体の収支はバランスが取れる。AppleMusicは月980円、3か月に一枚CDを買うの同等で、過去の自分の購入量と同等といえる。

何より、知らなかったアーティストの楽曲が気に入って、何度も聞くことが多くなった。実際収支がとれているのかどうかはわからないが、そうやって聞くことで、新人にもペイされている。また、中古CDを買うこともなくなった。古い楽曲でも権利者に聴くたびにペイされる。健全なビジネスモデルといえるだろう。

動画のNetflixも同様のビジネスモデルで大成功を収めた。会員からの収入だけで、ハリウッドの大手映画会社以上の売上。アメリカのテレビ三大ネットワークの視聴者よりもその数は多く、現在では巨額の投資をしてコンテンツを制作するまでになっている。

●出版社まるごとサブスクはどう?

さて、本である。マンガの売上はついに、電子書籍が紙の本を抜いたという。その背景は、マンガは点数が多く書店で探すのが大変、近くに書店がない、巻数が多く本棚に余裕がないなどの理由が一般的だろう。

僕自身、当初は電子書籍よりも紙の本の方を選んでいたが、大学で学生に例示するのに、ものすごく便利とわかってからは、Kindleオンリーになっている。紙の媒体がない分、もうちょっと安くてもいいんじゃないかと思うのだが。

さて、AmazonではKindle Unlimitedという、サブスクリプションサービスがある。しかしまだまだ読める本が少なく、ユーザーとしては不満。いくら全部で何万点が読み放題といっても、好きなジャンルの本が少なければ意味がない。なら、なんでも読める、よりも特定のジャンルやブランドごとで、サブスクリプションサービスを作った方がよいのではないか。

たとえば早川書房。国内外のSFとミステリー、そして科学、人文ドキュメンタリー方面を専門としている出版社だ。普段ほそぼそと(失礼!)愛好者向けに出版しているが、たまにハリウッド映画原作だとか、白熱教室のようにベストセラー翻訳があたる。

もし月々980円で早川の出版物読み放題なら、会員登録する人は一定数いるだろう。過去作も読み放題なら、最近はあまり読まなくなっている層も戻ってくるだろうし、その結果、新しい作家の本も読まれるようになる。いや、しかし市場を考えるとこれは980円では運営は無理か。早川なら月2,000円くらいでも会員は集まりそうだが。

●マンガはブランドごとでサブスク

サブスクリプションは読まれたページ単位でペイされる。作家にとっては、早く大量のページを読んでもらえて、さらに気に入ってもらえれば繰り返し読むマンガは、サブスクリプションが有利という話がある。なるほど、音楽と似た特性を持っているのがマンガということか。

マンガなら、ジャンプやモーニングあたりがサブスクリプションにいいだろう。実際、dモーニングなど、すでに雑誌単位のサブスクリプションもあるが、コンビニで立ち読みできるものをサブスクリプションしても、あまりありがたみを感じられない。もっと利便性が欲しい。

ならば、雑誌単体ではなく、雑誌ブランドでサブスクリプションする。ジャンプであれば、ヤンジャンも、ビジネスジャンプも、モーニングならイブニングもアフタヌーンも読めるようにする。

さらに、これらのブランドで出ている単行本もすべて読み放題。月々500円程度で、それら雑誌の最新号から、最新単行本、過去の単行本まですべて読み放題ならどうだ? ワンピースからハレンチ学園まで読めるのなら、老若男女問わず、相当数の会員が見込めるし、ここまでやってはじめて、マンガというビジネスモデルが大きく変わる。

●サブスクにするメリット

さて、これが本当に成り立つのか。原稿料は今と変わらない、と仮定して考えてみよう。雑誌だと1週間〜1か月で次の号が出る。基本、その期間に掲載されていることに対するペイが原稿料と考えると、サブスクリプションでも最初の1〜2週間でのビューは支払われない。これにより出版社は、公開直後のビューに対して、出費を抑えられる。

その期間をすぎると、今度は単行本扱いで、ページビューごとで印税が支払われる。これだと、紙の単行本になるよりずっと早く印税が得られるので、作家側にとってかなりありがたい。

単行本の存在意義も変わってくる。毎号サブスクリプションで読んでいる人は、単行本がリリースされても、読むとは限らない。逆に過去作は単行本の方が読みやすく、ニーズがある。

ウェブトゥーンのように、端末で読むにはよいが紙の媒体にするには面倒なコンテンツも、サブスクリプションで継続的に収入が得られる。もっと活発になるだろう。

紙の本は製造流通にコストがかかるので、売れなくなると絶版になる。過去の本が古書店やオークションで売買されても、作者には一銭も入ってこない。サブスクリプションになると、この問題もなくなる。

今のマンガビジネスは、一部の一時的な単行本のヒットに依存しているが、サブスクリプションだと多くの作家が長く収入を得られることになる。その方が産業としては健全な気がするがどうだろうか。

現在ヒット作がある作品は、サブスクリプションだとかえって分が悪いかもしれないが、そういった作品は従来どおり、物理的な本も売れるだろう。コンビニに新刊が並ぶレベルの作品は、サブスクリプションと物理的な本の両方にすればよい。

出版社にとっては、売れる本だけを物理的な本にすればいいのでリスクが少ないし、作家はヒットの報酬と、長く売れるサブスクリプション両方のメリットを享受できる。物理的な本にするかどうかは、サービス内でクラウドファウンディングしたり、オンデマンドサービスがあれば魅力的だ。

●価格設定はどうか

価格設定を考えてみよう。まずはユーザーの立場から。週刊モーニングは370円なので月に1,480円。週刊ジャンプは270円なので月1,080円。マンガ好きなら、週刊マンガ1誌と月刊マンガ2誌購読、単行本を4冊1,500円で買うとして、月に3,000円〜5,000円程度の出費だ。

仮にサブスクリプション1ブランド500円とすれば、5ブランドに会費を払って月2,500円。これはどのユーザーでもかなりお得感がある。出版社側ははたしてこれでペイできるだろうか。

まず、物理的な雑誌、単行本を製造し、流通させる経費が相当抑えられる。コストが見合わないために絶版にしていたコンテンツも収益物件にできる。

また、マンガは海外にも売れる。電子版が出版のデフォルトになれば、多言語化ももっと模索できそうだ。たとえば映画の字幕のように、欄外や吹き出しの上に他言語訳を乗せるとか、音声翻訳をつけて、海外の会員を増やすことが可能である。

次に作者に払うペイパービューが、現状の印税より多くならないかという不安。Kindle Unlimitedスタート時に、たしかこれが問題となった。しかし、読み放題と言っても、読者は全ページ読むわけではない。マンガ雑誌を購読していても、ごく一部の作品しか読んでいないという読者の方が多いだろう。

また、いくら好きなマンガを何度も読み返すといっても、何十巻もある作品を毎回通読するわけではない。気に入っているシーンを繰り返し眺める程度。一人のユーザーが、マンガを読むのに割ける時間は限界がある。

だからサブスクリプションであっても、作家への支払いがまかなえないということにはならないだろう。もしまかなえなくても、人気の新刊には広告を入れるという手がある。ワンピースの最新刊の帯に広告枠をもうければ、いったいいくらで売れるだろうか?

というわけで、1雑誌ブランド500円。なんとかならないだろうか。

●コンテンツは他社に降ろせる

いままで出版社が自社のサブスクリプションに踏み切れなかった理由は、書店や取次といった、従来の関係があるからだろう。しかし、これだけリアル書店が減ってきた現在、もうそんなことを言ってられないところまで来ているように思える。

ならば大手書店に対しては、サブスクリプションコンテンツを卸すというのはどうだろうか。電気ガスが自由化され、うちでも電気を大阪ガスで買っている。格安simは大手の電波を卸値で買っている。ならば大手書店側は複数の出版社のサブスクリプションをまとめて割引したり、リアル本と連携したサービスを行えば、双方、メリットを見つけることができそうだ。

一番割を食うのは、取次と印刷かもしれないが、これはもう、ネットが普及した時からの流れだ。電子決済も急速に普及しようとしているのだから、直売が多くなるのはもう止められない。今のうちに、違う事業を模索してもらうしかないだろう。

●海賊サイトはどうなるか

さて、ビジネスモデルをサブスクリプションサービスに移行することは、海賊版対策になるだろうか?

先にも書いたが、個人的には海賊版サイトによる損失は、案外少ないと思っている。海賊版が成立する一番大きな理由は、消費者の多くが未成年というとだろう。未成年であればお金も払いたくないし、クレジットカード決済が難しいから、海賊サイトがあればそちらに流れる。

つまり、もともと海賊サイトのユーザーの多くは、海賊サイトがなくても、マンガにお金を払わない層だ。コンビニで立ち読みしたり、友達が持ってきたのと回し読みしたり、マンガ喫茶や、古書店で購入したり。どれももともと、一銭も払っていない。あれ? そう考えると、海賊版サイトの収益は、本来出版社が得ていたものではないってことだ。出版社ができなかった、広告による収益モデルを創出していることになる。

じゃあ、出版社側も広告でまかなうビジネスモデルに転換すればいいかというと、マンガ制作に投資が必要なので、広告だけではまかなえない。海賊サイトのようにやりたいと思ってもできない。

では、黙認するというのはどうだろう? もともとが収益できない部分の収益なんだから、黙認したって損ではないはず。だが、黙認してると、あらゆる本の海賊版が簡単かつ安全に手に入り、本当に本物をだれも買わなくなる。だから、黙認するわけにはいかないというのが今の状況。なるほどこれは、打つ手がなく、違法ダウンロードの拡張となるわけだ。いやぁ、消耗戦である。

だからといって、スクリーンショットまで違法だぞ! なんて威圧的なキャンペーンは、マンガそのものに対するイメージを損ない、マンガ離れを加速しかねない。

そうじゃなくても、携帯ゲームにシェア(余暇時間の消費)をガンガン奪われているのだ。海賊サイトに行くより、メリットが多いサービスを実施し、長く利用してくれるユーザーを継続的に確保することが重要。となってくると、やはりサブスクリプションが魅力に感じる。

●未成年ユーザーはどうする?

サブスクリプションサービスは、未成年には敷居が高い。マンガにはまる中心は未成年。未成年はあまり消費もしてくれないが、サブスクリプションで締め出してしまうと、マンガ産業そのものが先細りしてしまう。

マンガがなぜ、中高生に読まれるのか、と考えて、ひとつおもいついた。マンガはゲームやテレビと違って、「隠れてこっそり、ひとりで楽しむことができる」のがいいのだ。

ゲームやテレビをやっていると、親がうるさく勉強しろと言う。マンガは小遣いで買ったり、コンビニで立ち読みしたりできる。充電もWi-Fiもいらず、子どもがお小遣いで楽しめる、小さな娯楽がマンガの本質だ。ところが、高校になってスマホを持っても、決済手段がかぎられるので、無料ゲームや海賊サイトに行ってしまうのだ。

そうかわかった。このポイントをなんとかすればいいのだ。

●未成年の携帯をなんとかする

その1:高校生以下のスマホ所持を違法とする。

どうせあいつらは調べ物やニュースなど見ず、LINEとSNS、違法サイトと無料ゲーム無料動画しかやってないのだから(偏見)、もう持たせなくてよい、という考え方。

今のペアレンタルコントロールはこの考え方で、未成年の場合はデフォルトでオンになっていて親が許諾しないとはずせないのだが、いろいろ不便で、ついはずしちゃう。もういっそ、所持禁止にしてほしい、料金高いし(笑)。携帯もってなければ、リアル本のマンガにふれることになるので、業界はこの案を推すとよい。

その2:もしくは、携帯所持免許制の導入。

講習を受け、試験にパスしなければ携帯を持てない。違法サイトがどうして社会悪なのかを啓蒙するのが目的なら、これが効果的。もしくは義務教育で単元化するのがよろしい。道徳よりこっちが大事。

うちの家族もそうだが、皆、セキュリティや紛失、故障のリスクをまったくわからずにスマホを使っていて、あきれる。今のスマホはクレジットカード並にパーソナルで重要なものなのだから、教育が必要なのではというのが、教育者らしい発言でしょ?

その3:高校生以下の電子決済方法の確立。

お小遣いでマンガ本を買うのは簡単だが、オンラインでIDとって、コンビニでプリペイドカード買って、IDにチャージしてからでないと買えない電子書籍なんて、未成年が買うわけがない。だから海賊サイトに直行となる。

高校生以下が日常でつかう電子決済は、nanacoだったり、定期を持っていれば交通系か。だが、これらでは電子サービスの決済ができない。Amazonでnanacoが使えれば、学生でも電子サービスを使うだろう。さらに送金。

子どものnanacoに親がお小遣いを送金できるところまでやれば、高校生以下でも電子決済に移行でき、電子サービスを利用しやすくなる。これ、なんで実現してないんだろう?? なにか法律的な壁があるのかなぁ。国はこれから電子決済を推進するらしいが、高校生以下が焦点だと思う。

なんかマンガビジネスからだいぶ離れてきているが、これらの方策がとられれば、マンガ海賊サイトへのアクセスは絶対減る。特にその3の未成年の電子決済はマンガビジネスのキモとなる。

とまぁ、いろいろ考えてみたが、これくらいやらないと、どうにもならないくらい、ネットや電子コンテンツが日常と切り離せない存在になっているということだ。

ダウンロード禁止だ、スクリーンショット禁止だなんて、前時代的な発想ではなく、読み手も描き手も、だれもがマンガを安全で快適に楽しめる世界を目指すのが、マンガ大国を自負する国のやることではないかと思う。


【まつむら まきお/まんが家、イラストレーター・成安造形大学教授】
twitter: https://twitter.com/makio_matsumura
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mailto:makio@makion.net

人生、何が起きるかわかったもんじゃない。還暦もまだ先なのに、2週間前、孫ができてしまった。