わが逃走[236]量販店で扱うプラモは玩具だが、模型店で買うと教材になる。の巻/齋藤 浩

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北陸のとある街にて、美術教育に関する意見交換ということで(ということにして)友人Tと飲んだくれたのだが、開始時間まで余裕があったため、ちょいと地元のステキな店に行ってみようということになり、案内してもらった。

ステキな店とは、星2つのマークが掲げられた個人経営の模型店のことである。

ガラス戸の向こうには、箱がぎっしり。営業中の札がかかってはいるものの、店内は暗い。客がいないときは店の照明を切っているのだ。

引き戸を開けると奥から店主(オヤジ)が現れ、蛍光灯をつけてくれた。こういう店は何も買わずに出るのが難しい。

店内は子供の頃に通った昭和の模型店そのものである。





棚を見上げると、いつか作りたいデカイ箱が、紐でふんじばって鎮座している。1/6のバイクや1/350の戦艦なんかだ。

手の届かないところにある「あこがれ」が、自身の成長とともに近づいてくる構造。

さらに、懐かしい絶版モノも多数。しかしそれらが私にとって必要かといえば、そうでもないところも絶妙だ。

車、戦車、ヒコーキ、キャラクターものから鉄道模型までなんでもある。塗料や工具も充実しており、ある種の「夢の空間」だった。ガンダムに偏る都会の量販店にはない、教育的文化を感じる。

ガンダムを否定するわけではない。模型製作の楽しさを万人に知らしめたガンプラ(ガンダムのプラモデルの意)の功績は大きい。

しかし、ガンダムを入口とし、そこから先に進む道が開かれていることこそ、人が成長する上で重要なのだ。と言いたい。

よい書店とは、売れる本だけでなく、イイ本が置いてある。

漫画を買いに来た少年が、たまたま隣の棚にあった洋書と出会い建築家になった、なんてことを聞いたことがある。

模型店にも同じことが言えるのではないか。目の前の興味の対象=ゲームのメカデザインや、アニメ設定の“元ネタ”を、隣に積まれている戦車や飛行機から学び、それらを組み立てることで歴史や構造を学ぶ。

例えばあの赤いモビルスーツは、第一次大戦時の戦闘機乗りが使った赤い飛行機にアイデアのルーツを見ることができるし、連邦軍とジオン軍の対立は第二次大戦の連合国と枢軸国の図式になぞられる。

また動力モデルに目を向ければ、そのギミックから機構自体の仕組み(回転運動を往復運動に変換するなど)を知り、力の伝達を視覚的にも触覚からも学べるわけだ。

興味を持ったら、次のステップが隣に積んであるという高揚感・安心感は、模型を通して文化を育てようという、送り手側の心意気によるものだろう。

これぞ真の教育! 重要なのは「それがなにか」ではなく、「そこから何を学ぶか」なのである。学びの機会と出会う場所、それこそが町の模型店なのだ。

圧倒的な量の積み箱に囲まれながらしばし店内を歩く。まさに至福の時間。

さて、とくに気になるものがなければ消耗品(接着剤や塗料)でも買って帰るか、と思ったところ友人Tが1/35の恐竜を手に取った。タミヤのトリケラトプスだ。

タミヤの恐竜シリーズは地味ながらも息の長い商品で、たしか私が小学生の頃にはすでにあったはず。その後、ジュラシックパーク公開のタイミングでさらにラインナップが拡張されたと記憶している。

恐竜プラモの面白いところは、発売時の学説がプロポーションに反映されている点だ。

たとえばティラノサウルス。シリーズ初期のものはゴジラのように直立していたのに対し、後発のものは地面と背骨が並行になるような姿勢になっている。その両方がいまでも手に入るのだ。

さらに現在の学説を取り入れるとすれば、今後羽毛が生えたものが登場するかもしれない。

また、恐竜プラモは塗装の自由度も高い(なにせホンモノの恐竜を見た人は存在しないので)。

昔の図鑑風に地味なグレイ系で塗るのも迫力があって面白いだろうし、南国の鳥や熱帯魚のようなパターンを極彩色で入れてみても楽しいと思う。

調べて、作ることで進化の過程や骨格の構造を知り、わからないところは想像で補いながら。モノとしての完成度を高めてゆく。イイねえ。これぞ醍醐味。

友人Tは迷った挙句、トリケラトプスとステゴサウルスを購入した。私はそれをうらやましそうに眺める。そんなぼくらはアラフィフである。

その後、店を後にした我々は超実力派居酒屋にて北陸の幸を味わいつつ、美術教育に関する真面目な話から、彫刻とフィギュアの境界線はどこかといった話になり、「スター・ウォーズ」はミニチュアで撮るからこそリアリティがあったのだ、あたりでヘベレケになり、もしもエイリアンの「あの」シーンがボツになってなかったら、あたりでグデングデンになったのでした。


後日、実家の物置を片付けていたところ、タミヤ製「トリケラトプス」が出てきた。中学生のときに買って安心して、そのまま寝かせていたものだ。

なつかしいタミヤマークのチューブ入り接着剤も同包されている(現在は接着剤別売)。

パーツを見ると、思った以上にメリハリがある。背中の皮膚の表現が繊細。かと思えば、腰の筋肉やツノの付け根は、ノミの痕跡を感じるほど荒々しい。

こういった「動き」を「止め」で表現する工夫、何を生かし何を省くかといった彫刻的な表現を、タミヤはプラモデルというマスプロダクトに落とし込んでいたのだ。

パーツを切り取る前の状態で、すでに原型師や設計者の考え方がわかる。当時(35年前)は気づかなかったメーカーの心意気を感じてしまうのだった。というわけで、タミヤのトリケラトプス、当時価格は500円。今でも500円!


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。