羽化の作法[82]1998年、神戸から戻ってきて
── 武 盾一郎 ──

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羽化の作法[79]しんげんちペインティングと新宿西口段ボール村の火事
https://bn.dgcr.com/archives/20190219110300.html

の続きです。デジクリサイトでは「現在編」と書いてありましたがそれは間違いです。申し訳ございません。

●デザインフェスタビル丸ごとペインティング

1998年2月25日。神戸市須磨区下中島公園テント村「しんげんち」コンテナハウス・ペインティングを一旦切り上げ、神戸を後にしました。

時は遡りますが、前の年の1997年に「デザインフェスタビル丸ごとペインティング」という制作をやっていました。

裏原宿にある三階建のこのビルは、当時はなんとなくさびれた外国人アパートでした。3階の一番奥の部屋にデザインフェスタのオフィスが出来て、臼木さんという女性がリーダーになって、「デザフェスをさらに盛り上げよう!」と気合が入っていたところだったのです。

そこでオフィスの内装画と、ビルの外壁画のオファーが来ました。当時デザインフェスタにガンガンにコミットしていた、イトヒサこと鷹野依登久が臼木さんから話を振られたのでした。

「それじゃあみんなでやってやろう! ビルを丸ごと絵にしちゃおう!」ということになったのです。

絵描き3人(武盾一郎、鷹野依登久、斉藤ヨーコ)と造形1人(スズキくん)の4人チームで制作しました。

https://www.facebook.com/pg/junichiro.take/photos/?tab=album&album_id=2449932905051582







外壁はビルを取り囲むように足場を作ってもらいました。ペインティングは外壁だけでなく、屋上にも登って描きました。さらには屋上の上にある貯水タンクにも描きました。

クライアントはビルのオーナーで、不動産会社だったと記憶しております。その会社がデザフェスも運営してたのだと思います。当時、「不動産会社が税金対策でデザフェスを始めたんだよ」という噂を小耳に挟んだりしました。もちろん、本当かどうか定かではありません。

現在、このデザインフェスタビルは全てギャラリーとなっていますが、私たちがビル丸ごとペインティングをしてた頃は、様々な外国人が暮らしていました。

ビルの外壁だけでなく、階段の天井、壁、廊下と、全ての平面に筆を走らせていたのですが、住人からクレームが来たのでした。どうも住人たちは壁画制作は知らないようだったようです。

「僕らは頼まれてやってるんです!」と言っても日本語が通じないので、デザインフェスタの臼木さんに頼んで、ビルの全部屋に壁画制作することをきちんと知らせてもらいました。

「もし、塗装業者ならきっと何のクレームも言われないんだろうなあ」なんて思ったのでした。住民たちは、デザインフェスタの事務所がビルに入り、そして壁画を描き始めたものだから、追い出されてしまうのではないかと不安に感じたようでした。

そこで「決して今すぐ追い出すようなことはありません」と、デザインフェスタのスタッフたちが住民全員に説得して回ってくれたようでした。とはいえ、排除される側の段ボールハウスに絵を描いている自分としては、ちょっと複雑な気持ちでした。

また、この壁画の制作中に脚立に乗って天井を描いていたイトヒサが、脚立ごと倒れ、頭を打って入院する、という大事故もありました。

そこから再び「Sakura A House」のペインティングの依頼が来たのですが、どんな仕事をしたかはあんまり覚えてません。ひょっとしたら、デザインフェスタビルの空き家になった部屋か、別の壁の壁画だったかも知れません。その仕事を3月に行ったと日記には記してありました。

●ラブホ駐車場の壁画を制作

そして4月。千葉のラブホテル「プレ・ステージ」駐車場の壁画を絵描き4人(武盾一郎、鷹野依登久、斉藤ヨーコ、和田綾子)で制作します。

https://www.facebook.com/pg/junichiro.take/photos/?tab=album&album_id=2450008338377372


この仕事は以前、ラブホテル「インター・ユー」の壁画を制作した時と同じ会社が、クライアントでした。デジクリでは以下の6つのコラムで、ラブホテル「インター・ユー」の駐車場外壁画と301号室の内壁画について書いています。

1・羽化の作法[08]ラブホテルに絵を描く仕事が来た
https://bn.dgcr.com/archives/20151216140100.html


2・羽化の作法[13]ラブホテルでの制作・ヤマネ失踪事件
https://bn.dgcr.com/archives/20160329140300.html


3・羽化の作法[14]辻仁成さんのコラムで新宿段ボールハウス絵画が紹介される
https://bn.dgcr.com/archives/20160412140300.html


4・羽化の作法[15]段ボール村とラブホテルのクリスマス戦線
https://bn.dgcr.com/archives/20160510140300.html


5・羽化の作法[25]再びラブホテルへ
https://bn.dgcr.com/archives/20161018140300.html


6・羽化の作法[26]ラブホテルの305号室に暮らしながら301号室を絵で埋め尽くす
https://bn.dgcr.com/archives/20161101140300.html


最初に描いたラブホテル「インターユー」壁画の写真がなかったのでアップしました。


日記を読み返してみると、プレステージの壁画は二回に分けて制作しています。4月から5月11日までと7月4日〜7月27日です。理由は6月21日(日)に神戸でテント村のお祭り「しんげんちまつり」があるので、その準備で神戸に行くからでした。

7月27日にプレ・ステージの壁画が終わると、翌日に社長が矢板温泉のビラに4人を招待してくれました。


そしてその後、私と和田綾子さんの2人で、8月にもう一度矢板温泉に行きます。ビラのお風呂場の壁に絵を描く依頼が来たのでした。矢板温泉に着くと、ちょうど台風が来て橋が流されてしまい、橋が復旧するまでの12日間、矢板温泉ビラに留まることになってしまいました。お風呂場の壁画を描き上げたので、ビラ所有の軽トラックにもペインティングしました。


その後、二人は東京へ戻らずに福島に行き、そのまま北上して車の中で生活を始めるのでした。(つづく)

さて、ここで時代を今に戻しましょう。

●現在編 新元号が「令和」になった

新元号が「令和」になりました。「平成」に慣れないまま元号が変わってしまった印象です。「令和」を使うことはさらに少なくなるような気はしますが、それでもどこかリセットされた感じはありますよね。

私は新元号をツイッターで知りました。初めて見た時に、意外だなって思ったと同時に、なんか悪くないな、と感じました。これはほとんど無意識的な直感です。

それはなんでだろう?とちょっと考えてみました。まず、読み方の音の響きが「レイ」であることが関係してるように思いました。

私は線譜『レイ -霊・零・Ray-』というシリーズ作品を描いたことがあります。

https://www.facebook.com/junichiro.take/posts/1845366505508228


https://www.facebook.com/junichiro.take/posts/1845366568841555


https://www.facebook.com/junichiro.take/posts/1723805137664366


https://www.facebook.com/junichiro.take/posts/1723805150997698


https://www.facebook.com/junichiro.take/posts/1723805227664357



Spirit、soul、ghostといった霊(たま)の意味としてのレイ、数字の0(ゼロ)のレイ、線の英語Rayのレイ、を掛け合わせたタイトルの作品です。

そして今制作中の大作、仮タイトルは『ツイン・レイ』で対(双子)のレイ(霊・零・Ray)でした。それは霊の対話、霊話です。令和。


なので、勝手に親近感が湧いてしまったのでしょう。ちょっとだけ「おお!これからは俺の時代だ!」なんて無意識で感じたのかもしれません。

新元号の発表の後には意味についてのツイートがいろいろ流れてきました。「令和」は万葉集からサンプリングしてリミックスしたようです。

「初春の令(よい)月、気淑しく風和(やわ)らぐ」
「このましく、やわらか」という意味とのことです。


一方、BBCのニュースでは、
“Japan reveals name of new imperial era will be 'Reiwa'”
https://www.bbc.com/news/world-asia-47769566


“Japan has announced that the name of its new imperial era,
set to begin on 1 May, will be "Reiwa" - signifying order and harmony.”

「order and harmony.」とその意味を書いてます。直訳すると「秩序と調和」でしょうかね。

また、万葉集が出典とのことですが、元を辿ると中国だと指摘するツイートもありました。

「『仲春の令月、時和し気清らかなり」(張衡「帰田賦」『文選15)が原型。漢文からとらず「日本の古典」からとったと主張するは奇妙な話である。(後略)」


そこら辺を岩波文庫編集部のツイートが解説していますね。


ツイッター眺めてるだけでも勉強になりますねえ(笑)。

ただ、普通に考えると「令」の字から連想される言葉は、「命令」とか「律令制度」などがパッと思い付くのではないでしょうか? ちょっと威圧的なニュアンスと言ったらいいでしょうか。

そしてその後ろに「和」があるので、「政権の命令に従えば平和に生きていける」みたいな、ディストピアな印象を持った人も、結構いるのではないでしょうか。

または、「令」の字で「令嬢」を真っ先に思い浮かべる人もいるでしょう。その場合「和」の字では「和服」を思い浮かべるはずで、「和服を着た令嬢」がいろんなシチュエーションで脳裏に浮かんだことでしょう。それも楽しそう。

新元号にどんな恣意性があるのかは私には分かりません。こういうのって、それぞれ自分の思考に当てはめて、意味を解釈するんだなあって思いました。

意味を解釈する前に、パッと湧き上がったものを掴み取るのがアーティストの仕事です。直感的にスッと入ったポジティブな印象だったので、それ以上でもそれ以下でもない、として収めようようと思います。

【武盾一郎(たけじゅんいちろう)/霊輪・零話・Ray war】

アートラッシュ『車輪-進み続ける表現-』展
2019年4月3日(水)~4月22日(月)
AM10:00~PM6:00 火曜日定休(入場無料)
https://twitter.com/artsrush

出展します!

=参加作家=
Gimmel Garden(彫金)
江島多規男(宝飾)
東田亜希(絵画)
渡辺正明(手造り時計)
武盾一郎(線譜画)
草薙能子(造形)
橋本岳到(鉛筆画・絵画)
野谷美佐緒(アラビア書道・絵画)
ぜひお立ち寄りください!

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