羽化の作法[84]現在編 平成は闇、令和は光
── 武 盾一郎 ──

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●令和最初のニュースが……

令和になって最初のニュースは、スターリンの遠藤ミチロウさんの訃報でした。享年68歳。


遠藤ミチロウさんとは2006年の『寿町フリーコンサート』で、ライブペインティングをした時に出演されていて、握手とサインをして貰ったのが唯一の接点です。
http://kotobukifree.web.fc2.com/kako03.html


バンドをやっていた20代では、ザ・スターリンも当然コピーしてました。日本のパンクのカリスマとして、知ってて当たり前の存在でした。

映画『爆裂都市(BURST CITY)』と、丸尾末広の漫画の印象がとても強いですよね。



石井聰互(現・岳龍)監督の映画『爆裂都市(BURST CITY)』と丸尾末広の漫画『少女椿』は、言ってみればバイブルのような作品でした。

『爆裂都市 バースト・シティ(予告編)』

『「少女椿」予告編』


(「少女椿」の実写映画版があったんですねえ。ちなみに単行本はアマゾンでプレミアムが付いていました。誰かにあげてしまった。。。)

しかし、私はリアルタイムで70後半〜80年代前半のパンクを聴いたわけではありませんでした。知らなかったというのもありますが、10代後半あたりまではパンクは好きではなかったのです。





例えば、ブーツィーコリンズみたいファンクとかが最高だと思ってたところがありました。またはハービーハンコックのような。ビートが気持ちいい音楽と言ったら良いでしょうか。ボーカル(歌詞)にはあまり関心がなかったのです。

『Party On Plastic』Bootsy Collins

『Rockit』Herbie Hancock


パンクは遠目に眺めてました。怖くて汚いイメージ……だったのです。ビートがクリアではなく、ぐちゃっとした感じに聞こえて、それが嫌だったのです。(とは言うものの、高校一年の時にバンドでアナーキー(亜無亜危異)をコピーしてたのですが)

『平和の裏側』アナーキー

(なんと2017年のライブの動画が見つかりました。まだやってたんですねえ!)

たとえが下品で申し訳ないのですが、私にとってはパンクとは、「うんこを無理矢理食べさせられて、うんこに開眼してしまった。そして自分がうんこになってしまった。」という激しい体験だったのでした。

岡本太郎の言葉を借りれば「なんだこれは!! 醜悪だ。だが美しい、逆に。」といったところでしょうか。

聴くのがシンドイ。受け入れがたい。それが翻って虜になってしまう。そんな奇妙な心の現象です。

とは言うものの、パンクの王様セックス・ピストルズの曲は、メジャーコードでメロディもポップで心地良さがあります。

『Anarchy In The U.K』Sex Pistols


セックス・ピストルズやクラッシュといったパンクの王道、メジャーコードの心地良いメロディが大好きだったのは、言うまでもありません。

『 I Fought the Law』The Clash


そこに来て、ザ・スターリンはまるで心地良く感じられませんでした。だけど、です! だからこそ、すごく影響を受けてしまったのでした。

『ロマンチスト』The Stalin

『Stop Jap』The Stalin


ザ・スターリンが影響を受けたであろう、イギリスのハードコアパンクバンドのディスチャージやG.B.Hとかは、ザ・スターリンよりもなんと言うか、もうちょっとカラッとした硬い感じがあるのに対して、スターリンはジメジメと湿った重暗さを感じたのでした。

アルバム『Hear Nothing See Nothing Say Nothing』Discharge

アルバム『City Baby Attacked By Rats』G.B.H


ステージで豚の内臓とかを投げたり、全裸になったりおしっこしたりと、伝説が強烈だったからでしょうか、それとも日本の湿度が高いからでしょうか。どうも遠藤ミチロウさんには、ドロドロとした土着的な印象があります。

分かりやすい例えで言いますと「寺山修司的な暗さ」というか。実は私、宮澤賢治にも似たような暗さがあると感じます。

遠藤ミチロウ、寺山修司、宮澤賢治。バラバラなのに似た何かを私は感じていて、ハタと気が付いたのです。東北! 3人とも東北出身です。ひょっとしたら、東北地方独特の「暗さ」ってあるのではないでしょうか? それと学生運動が挫折した後の、「時代性の暗さ」みたいのもありそうです。

また、雑な分け方ですが、海外のパンクは敵を外部に置いてそれを攻撃するような外向きの印象があるのですが、日本のパンク(だけに限らないのですが)は、内向して掘って暗くなって行く印象がとても強いのです。偏見かもしれませんが。音はカラッとしたガレージパンク系バンドも、歌詞は意外にも内向的だったりしませんか? 日本。

内向性を様式美化している表現を、ざっくりと「ゴス(ゴシック)」と呼ぶとすると(ゴス好きな人に怒られるかもしれませんが)、日本は特にゴス傾向が強いと私は思っています。

遠藤ミチロウも「ゴス」と重なってるところがあります。その証拠、と言えるかどうかは分かりませんが「BUCK-TICK」が遠藤ミチロウをカバーしています。

『おまえの犬になる』BUCK-TICK


心地良くない衝撃の強い音楽。重くて気味の悪い世界観。底なし沼に自ら溺れて行くような快楽。私は闇へ闇へとどんどん深みにハマっていったのです。そのキッカケの一つが、遠藤ミチロウさんであったことは間違いないでしょう。新宿西口地下道ダンボールハウス絵画の「ドロッと暗いアバンギャルドさ」に、その影響は現れてるんじゃあないでしょうか。
http://cardboard-house-painting.jp/mt/archives/2004/09/post_117.php


「元々フォークの人」、「年賀状を出すと丁寧な手書きで返事をくれるような人」、という噂を昔は聴きました。その噂は本当みたいで、ウィキペディアを見るとパンクをやる前は友部正人さんと一緒にやったり、一人で弾き語りをしていたようです。

『一本道』友部正人


実際に遠藤ミチロウさんと会った人は誰でも、「優しくていい人だった」と証言していますが、当時の一般人からしたら、YMOを痛烈にディスる怖い人と思われていたのもまた本当でした。

ミチロウさんはスターリンを復活させますが、「スターリンは苦痛だった」と、何かで聞いたか読んだかした記憶があります(勘違いかも知れませんが、なぜか合点がいくものがあったのです)。

そもそもミチロウさんは、真面目で大人しくて優しい人だった。だからこそ、パンクに触発されて、最も過激なパフォーマンスができたんじゃないかと思うのです。

しかし、歳をとると青年期の反逆や無茶は削れていって、再び本来の自分に戻ろうとする。青年期の特殊な衝動の表現で名を馳せてしまうと、加齢で本来の自分に戻ろうとした時に、その本能的なものとも戦わなければならなくなる。

心底パンク好きならストレスはないだろうけど、ミチロウさんは実は違ったんじゃないかなあと私は思ってしまうのです。

また、スターリン解散後にソロでどれだけ弾き語りをやっていても「スターリン」が付き纏うってのも、相当に苦しかったのかもしれない。

私も段ボールハウス絵画でもっと有名になって、その芸風で食べられるようになっていたら、今のような線画は描いてないでしょう。私自身ですら気持ち悪くなるようなグロい絵を描き、路上で異常な緊張を強いられるイリーガルな表現をし続けないと思うと、結構それは地獄だなあって思うのです。

20〜30代よりも50になった今の方が、自分に素直になってる実感があります。これで食えるようになれば、残りの人生は無理なく生きていける。そう考えてみると、「若気の至り芸」で食えなかったことが、とてもラッキーに思えてくるのでした(笑)。

成功体験は必要なのですが、その時の考え方に執着すると苦しくなってしまいます。また、過去のイメージを期待されてしまうと、そこから自由になるのもまた難しくなってしまいます。

寿命は不可解なものですが、遠藤ミチロウさんはすごく無理をしていたんじゃないのかなあと勝手に思ってしまうのです。なので、「お疲れ様でした。ゆっくり休んでください。」と思わずにはいられませんでした。


仰げば尊し 我が師の恩
今こそ別れめ いざさらば!

『仰げば尊し』ザ・スターリン


生き残った私は、闇から光へと向く方向を変えました。そこで、過激な表現の後ガラッと変えて成功したモデルとなるアーティストはいないか、考えてみました。

●過剰な表現から芸風をガラッと変えて生き残っているアーティスト

いました! アート・リンゼイです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%BC%E3%82%A4


1978年、ブライアン・イーノがプロデュースした、伝説のコンピレーション・アルバム『No New York』に収録されている、D.N.A.というバンドのボーカル&ギターの人です。

『NO NEW YORK』


これらのバンドのムーブメントを、「ニュー・ウェイヴ」に対抗して「ノー・ウェイヴ」と呼ぶようですが、分かり易く乱暴に言うと、「アート系パンク」です。実は私、「音楽だけ」で言えばこっちの方が好みなんです。

アート・リンゼイはギターのチューニングのやり方を知らず、ドラマーは日本人女性で初心者だったという。

『Blonde Red Head』D.N.A.


ガチャガチャのギター、シャウトするヴォーカル。ノイジーでかっこいいんです。こんな前衛的な音楽をやっていたアート・リンゼイですが、後にこんな風になります。年代はちょっと分からないのですが。

『Arto Lindsay live』


「素敵なボサノバかよ!」と、激しくツッコミを入れてしまいそうですが、ギターソロで「ギャーッ!」って鳴ってるだけの音を出し、若かりし頃の面影を醸し出しています。

ウィキペディアによると、アート・リンゼイは3歳から17歳までをブラジルで過ごしていたので、ブラジル音楽であるボサノバ風になるのは至極自然なんだということが分かります。

青年期の一瞬、前衛的で実験的で過激なムーブメントの「はしか」にかかったようにうなされて、そしてその後には馴染みのある故郷に戻って行く。その時に、いかにこじらせないか。変わるところと変わらないところの匙加減が寿命をも左右する、と実感する今日この頃です。

ちなみに『NO NEW YORK』に参加してるバンドでは、コントーションズが一番好みでした。

アルバム『Buy』Contortions


そして「変わるところと変わらないところの匙加減」が、天才的にうまいと思うのが電気グルーヴの石野卓球さんです。
https://twitter.com/TakkyuIshino


卓球さんは「電気グルーヴ」の前は「人生(ZIN-SÄY!)」という、パンク(?)グループを組んでいました。当時の印象は本当に「やばい人たちいる!」でした。深夜テレビで初めて卓球さんを見た時、「この人頭おかしい!」と正直そう思ったのです。

当時ナゴム系インディーズバンドでは「筋肉少女帯」がスターでした。
『元祖高木ブー伝説 by 筋少』


一方「人生」はメジャーデビューは絶対に無理、と確信を持つほどにお下劣なグループだったのです。(私の印象です)

『人生(電気グルーヴ)- 第二回ナゴム総決起集会』


最後に客に向かって「僕は君たちが大嫌いです」と言いますが、それがこの時代のパンク魂を感じさせます。遠藤ミチロウさんも、客に向かって「お前らなんて知らねえ〜っ!」って叫んだりしてましたよね(笑)

上の動画を見て分かることがあります。「人生」の時から現在の卓球さんのツイートまで、首尾一貫してるところがあります。言葉の選び方でしょうか。「暗くない」と言ったらいいのでしょうか。

しかし、何かは完全に変わっています。「人生」の頃は、音楽がある意味では「主」ではない感じがありましたが、電気グルーヴは「音楽」なんですよね。

Denki Groove - Niji [Live at FUJI ROCK FESTIVAL 2006]


(余談ですがこの『虹』という曲に対して、伊集院光が「どこまでが便意でどこまでが排泄か分からない」と最高の賞賛をしています)

電気グルーヴの相方・ピエール瀧さんが、コカインで逮捕されてからのバッシングに対する一連の態度。かつては「頭おかしい人!」と思っていた卓球さんが、今では「最もまともな大人の鏡」に感じます。

時間ってすごいなあと思ったのでした。

私は平成の30年間、ずっと闇に向かって突き進んでいた感じがします。遠藤ミチロウさんは「平成」とともに、私から「闇」をも持ち去って逝ってくれたような気がしました。

平成は闇を生きた。
令和は光を生きる。

【武盾一郎(たけじゅんいちろう)/愛と光】

◎初恋118人展
令和元年5月1日〜31日(木金土日祝)
参宮橋 Picaresque
https://picaresquejpn.com/staff-letter/hatsukoi-118ninten-picaresque-artist-introduction-part23/?fbclid=IwAR1TO-tkNRMUbHTYD7maSMCWw7NSfk0UeZsC5YDrBg0c1E5wbIDr3mgv75o

出展しております! ぜひお立ち寄りください!

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