ローマでMANGA[142]映画もmangaも感情商売だ/Midori

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ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりして行きます。

今日は、ちょっと話題が飛びます。

●コーヒーとmanga

たった今、コーヒーを淹れた。モカと呼ばれる、イタリアの家庭には必ずある6角形のコーヒーメーカーで淹れた。
https://www.bialetti.it/it_it/caffettiere/moka.html?p=1

上下に別れた下の部分に水を入れる。中間にじょうご型のフィルターを入れて、そこに粉状のコーヒーをいれる。ギュっと閉めて火にかける。水が沸騰するとその勢いでフィルターを通り、コーヒーの間を通ってくるので上の部分にコーヒーとなって上がってくる。





日に何度も作るのに、今作ったのは、水がちゃんと上がらなくてやたら濃くて美味しくなかった。すごく単純な方式で作るのでまったく難しくないのだけど、さまざまな要素が微妙に噛み合って、同じコーヒーメーカーで同じコーヒーの粉を使っても出来上がりの味が微妙に違う。

水と粉の分量と割合、コーヒーメーカーに対しての水と粉の割合。フィルターが粉で詰まってきても味が変わる。今回の出来の悪さは、もう一つの部品、ゴムのパッキンが古くなってきっちりと閉まらなくなり、水が上がってくるときに隙間から水が溢れつつ空気が変に入って、煮詰めたコーヒーの味になってしまったことにある。単純な器械なだけに微妙な要素が大きく作用してしまうのだね。

と、まったくmangaに関係のない話で始めてしまった。

しかしながら、ある真実は他の分野にも応用できるのだ。正確な内容は忘れたけど、科学である分野の真実は他の分野でも真実である、みたいな文章を読んだことがある。初めて飛行機でヒマラヤの上を飛んだとき、確かにそうだと思ったことがある。

紙をくしゃくしゃとして、何かの粉を上から撒いたような光景がそこにあったのだ。つまり、地球規模と机の上の規模という違いはあっても、物理的に起こることは同じ。圧力が加わって紙も地表もくしゃくしゃになって隆起し、くぼみに粉や植物が残る。

コーヒーメーカーで作るコーヒーの出来具合とmanga/マンガにも、「さまざまな要素が微妙に噛み合って」結果が変わってくるというところが共通している。

●コマの中のキャラの位置

我が、ユーロマンガコースでは、無事に3月のサイレント・マンガ・オーディションへの提出が終わって、卒業制作に入っている。

7月初めの卒業試験(課題の講評)に向けて、おおかたの生徒がネームに入っている。

「微妙な要素」のひとつに、manga/マンガでは構図がある。大胆な変わった構図の意味ではなくて、コマの中の微妙なキャラの位置。

クラス14人中の精鋭4人以外は、コマの中に人物をほぼ中央に体の中心線を真っ直ぐに立てて配置する。顔のアップだったり、全身だったり、横顔だったりの違いはあっても、全部真っ直ぐ、真ん中なのでパッと見て1ページ全体の印象が薄い。水が多すぎるコーヒーみたい。もちろん薄い印象のページがあってもいいのだけど、リズムがない。

精鋭4人とそれ以外の生徒の違いって、結局、経験値なのかと思う。年齢は皆さほど変わらない。でも、精鋭4人は描いた原稿の数が違う。課題以外にもどんどん描く。描くから自分に欠けているところ、難しいところがわかる。既成のmangaを読んで、読み方が演出家の読み方になって、取り入れるべき部分を吸収していく。

●私の果たすべき仕事

ユーロマンガコースはmangaでもあり、作画家ではなく自分が言いたいことを表現する作家を目指す。つまり、物語を作ることも授業の一環なのだ。

私は読み手としては長年の経験があるけれど、自分で物語を作ったことはあまりない。教えるために作り手側のノウハウを手に入れようと、脚本の本を読んだりする。

生徒に勧めているのはブレイク・スナイダーのSave theCat
https://maamaa-create.com/save-the-cat/

著者はハリウッドの脚本家で、映画とmangaは共通点があって、mangaの物語作りにもすごく役に立つ。読んで目からウロコがいっぱい落ちた。

最近見つけてKindleで購入して読書中なのが、カール・イグレシアスの「感情から書く脚本術」だ。
https://akkungo.com/emotionalimpact1/

最初の方でこの本の核となる文にぶつかって線を引いた。「映画は感情商売だ。そして脚本家の仕事は読者の感情を掻き立てることなのだ」

残念なことに、イタリア語訳は出ていない。でも、きっと読めるからと英語版を買うように勧めた。

私の果たすべき仕事は、「読者の感情を掻き立てる」方法を生徒にわかってもらうために、どのような課題を考案するか、なのだ。そして、それを表現するための演出(さまざまに噛み合う微妙な要素)。

●日本のmanga賞入賞者のその後

「サイレント・マンガ・オーディション」で、ごく近い知り合いのイタリア人が2人、最優秀賞を勝ち取っている。
http://www.manga-audition.com/japan/

授賞式とマスタークラスに招待されて日本へ行ったほかに、ショートを描いて同サイトのページに掲載されたりしている。
http://smacmag.net/v/mc1shot2j/pizza-king-by-salvatore-nives-j/

うち、ひとりは自ら売り込んで、昨年のイタリアの最大コミックスフェアである「ルッカコミックス」でコンファレンスを行った。「イタリア人女性初の日本での受賞者」ということで、いくつかのマンガ情報誌にインタビューが載ったりしたけど、イタリアで本を出したわけではないので知名度は今ひとつで、あまりお客さんがいなかったらしい。でも、実績を作っていくのが大事。

そのせいか、この4月末にナポリのコミックスフェアにはゲストとして、上記URLの作家と一緒に招待されて講演をした。

2人ともナポリの人だから、凱旋を飾った、という意味合いもあって大いに盛り上がったらしい。私は副業のガイド業があって行けなかったのが残念。

日本主催のコンクールで受賞して本国で活躍できるようになると、manga言語が広まっていくことになって、嬉しい展開。イタリアのマンガ界が広がっていくきっかけになるといいね。イタリア人作家がイタリアで仕事ができるようになるといいね。

【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師/】

20年来とっておいた書類や本を捨てた。私のスタジオとして構築した小さな部屋は倉庫と化していた。

マンガ家、ガイド、講師という業務で必要だった書類、地図、本、をとっておいたのをいきなり「必要ないじゃん」と思えたのだ。今まで、捨てることに不安を覚えて捨てられなかった。

地図やある地域の情報は、いまやネットで手に入る。思い出としても、私にしか意味がなく、残りの人生がそう長くあるわけではないし、今までも見返して思い出に浸ったわけでもない。

まだまだ捨てるものがたくさんあるけど、とりあえず、年金生活者となった旦那が事務所の自分の部屋から持ってきた、わずかな書類を置く場所ができた。もっともっとミニマムにしていく。

[注・親ばかリンク] 息子のバンドPSYCOLYT


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