映画ザビエル[77]よさこいみたいなもの
── カンクロー ──

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◎作品タイトル
アメリカン・アニマルズ

◎作品情報
原題:American Animals
公開年度:2018年
制作国・地域:アメリカ、イギリス
上映時間:116分
監督:バート・レイトン
出演:エヴァン・ピーターズ、バリー・コーガン、ジャレット・アブラハムソン、ブレイク・ジェナー

◎だいたいこんな話(作品概要)

アメリカ、ケンタッキー州のトランシルヴァニア大学図書館に、時価1200万ドルのヴィンテージ本が所蔵されている。それは、ジョン・ジェームズ・オーデュボンの画集「アメリカの鳥類」で、近年までオークションに出品されるたび書籍の最高落札価格を更新してきた貴重本だ。

アートの才能を評価され大学へ進学したスペンサーは、高校時代からの親友で破天荒な性格のウォーレンに、その本を見学した話をした。たわいもない会話のつもりが、いつの間にか、それを盗み出す計画へと話が変わっていった。

本は図書館の特別室に展示されており、閲覧は完全予約制で、担当司書が必ず同伴するシステムになっている。ウォーレンは、展示室から持ち出すルートや闇の買取業者の確保など、計画を進めるほど他にも仲間が必要だと言い出した。

結果、FBIを目指す秀才のエリック、筋肉おたくだが家柄が良く既に実業家として成功していたチャズを加え、平凡な4人の大学生は熱に浮かされたように貴重本の強盗を実行に移すのだが。





2004年に実際に起きた事件の映画化作品。

◎わたくし的見解/恵まれているという事への劣等感

何故よさこいを踊るのか、私は不思議でならなかった。

高知県の人が、よさこい祭りで盛り上がるのは大いに結構。他の祭りでも、その地域の人々が熱く血をたぎらせることにはまったく抵抗がない。むしろ岸和田の人には、だんじりに命をかけていて欲しいし、徳島でも阿波踊りを踊りまくっていて欲しい。

しかし、神戸まつりのメインイベントが盛大なサンバ・パレードであることに、20年以上かけてようやく慣れた私にとって、ゆかりのない土地の何かに熱を上げる様子は理解できなかった。

そのような、高知のよさこい祭りから独立して発展している「よさこい」は、もはや昨今は「YOSAKOI」になっているらしく、すでに「祭り」ではなく「ダンス」なのだと解釈すべきなのかも知れない。日本人なのに、小学校の授業でヒップホップダンスを踊るのだ。YOSAKOIだって踊るだろうさ。

増え続けるYOSAKOI人口を尻目に、ふと、よさこいが不登校や素行の悪い若年層の更生に一役買った美談を、TVショウで見た記憶が蘇った。

その時、感じたのは「よさこい」に格別そういった悩める若者への特効薬的要素があった訳ではなく、成長過程のある時期には(あるいは、どの世代にとっても人間というものは)熱中できる何かが必要なのだということだった。

ここで、ようやく「アメリカン・アニマルズ」の話になる。1200万ドルの価値の本を盗み出して、人生を一変させたい若者たちが主人公なのだが、この子たち、一見大金に浮かれているようで実は違う。

もちろん(取らぬ狸なのだけど)想像もできない巨万の富に心踊らせてはいる。しかし明らかに、犯罪という非日常に足を踏み入れれば必ず何かが変わるはず、という期待の方が大きい。

4人は高校の同級生で、それぞれ違う大学に進学している。逃走するための高度な運転技術が買われて、最後に加えられたメンバーのチャズは、資金力もあてにされる上流階級の出身だが、他の3人も中流家庭の何不自由ない環境で育てられた幸せな若者たち。

リーダーのウォーレンは、アメリカの食料廃棄の多さに異議をとなえながら、廃棄を減らすためだとアルバイト先のスーパーでハムやら何やら盗み出したりしていたものの、それでも他の3人同様に、高校時代の恩師に言わせれば素行の良い問題のない生徒だった。

皆、それぞれの得意分野が認められて大学に入り、大きな挫折を味わう事もなく、このまま何となく上手くやっていけそうではある。けれども、無難に上手くやっていく事に熱意を持てない。平凡な人生に何か起爆剤が欲しい。特別な何者かになりたい。という閉塞感が、彼らを犯罪行為に没頭させていく。

本作は、オープニングで「This movie is based on a true story.(この話は、実話に基づいている)」というよくあるクレジットから、"based on"の文字がこぼれ落ち、「This movieis a true story.」つまり、実話に基づいているのではなく、実話だと宣言して始まる。

犯人たち本人のインタビューと交互に、時には交錯しながら、俳優たちが演じた当時のエピソードが紹介されていく構成で、ドキュメンタリーとフィクションを合体させた作りだ。とは言え、もし全編ドキュメンタリーだとしても他者(制作側)の視点で編集が加えられた時点で、それは実話とは異なるようにも思える。

ところが、この映画はそれも想定内と言わんばかりに、独自の真実を見せてくれる。事件当時のさまざまな出来事について、4人の犯人たち本人が語る真実に少しずつ食い違いが出てくるのだ。映像作品として、この部分の表現は巧みだった。

特に中心人物スペンサー本人が、親友ウォーレンとの記憶のズレについて語った「ウォーレンの語る真実を信じたいと思ったし、それを信じる事にした」という言葉は興味深い。

私たちの日常にも、そこにいる人それぞれの真実があって、時には他者の真実に知らず知らずのうちに、あるいは意図的におもねる事があるように思う。その意味では、幾つかの視点による真実を見せようとするこの映画は、実話に基づいた物語よりも確かに実話なのだと私は感じた。

いかにも、ドキュメンタリー出身の監督らしい手法である。同時に、ドキュメンタリーとも一線を画すべく、しっかりエンターテインメント性を発揮した作品でもある。

4人が強盗のシミュレーションをした時、参考にしたクライムムービー「レザボア・ドッグス」や「オーシャンズ11」さながらの華麗さで、鮮やかに盗み出す姿を夢想をするシーンは愉快だ。

残念ながら犯人達にとっては周到な計画も、若気の至りの多分にもれず短絡的で、お粗末なものだった。今時の子らしく「絶対に成功する強盗のやり方」とグーグル検索したり、犯罪に使用する連絡先をうっかり普段使っている自分の携帯やアドレスにしてしまったり。

ものの見事に失敗する様を見て、まざまざと「よさこい」の価値を実感した。若者(人生)に熱中するものが必要だとして、それは犯罪以外の何かにすべきだったのだ。それまで、良い子で通ってきた4人だけに周囲の失望は大きく、その事が彼ら自身を最も後悔させていたのが印象的だった。


【カンクロー】info@eigaxavier.com

映画ザビエル
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映画については好みが固定化されてきており、こういったコラムを書く者としては年間の鑑賞本数は少ないと思います。その分、だいぶ鼻が利くようになっていて、劇場まで足を運んでハズレにあたることは、まずありません。

時間とお金を費やした以上は、元を取るまで楽しまないと、というケチな思考からくる結果かも知れませんが。

私の文章と比べれば、必ず時間を費やす価値のある映画をご紹介します。読んで下さった方が「映画を楽しむ」時に、ほんの少しでもお役に立てれば嬉しく思います。