もじもじトーク[109]伝統の継承から伝統の発展へ──筑紫書体の魅力(第3話)
── 関口浩之 ──

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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。

前回と前々回のもじもじトークは、フォントワークスの藤田重信さんが制作し続ける「筑紫書体」のお話をしました。

・文字に潤いと体温を 筑紫書体のコンセプト(第1話)
https://bn.dgcr.com/archives/20190523110100.html


・既存概念にとらわれない未知なる領域へ──筑紫書体の魅力(第2話)
https://bn.dgcr.com/archives/20190606110100.html


今回のもじもじトークは、「伝統の継承から伝統の発展へ──筑紫書体の魅力」をお送りします。





●筑紫アンティークゴシックの衝撃

まずは、こちらの広告をご覧ください。ジャーン!
http://bit.ly/2Xn4NBh


一つ目と二つ目の写真は、テレビコマーシャルを見てて、「おっ、なんだ、このフォントは!?」と気になり、写真を撮りました。

そして、三つ目の写真は、通勤時に電車の中で広告を眺めていたら、「なに、このフォント。ゴシック体なの!?」と気になり、写真を撮りました。

これら広告で使われている文字は、「筑紫アンティークゴシック」という書体です。2015年にリリースされた書体です

このゴシック体が、なぜ、衝撃的だったかというと、「ゴシック体とはこういう書体だよね」と理解していた範囲から、明らかにはみ出ていたからです。今までのゴシック体とは何かが違う……。

ゴシック体の代表選手といえば、「MSゴシック」「メイリオ」「新ゴ」「ヒラギノ角ゴ」あたりですよね。最近では、「游ゴシック」もゴシック体の代表選手に加わりました。

筑紫アンティークゴシックは、それらとは、明らかになにかが違うゴシック体です。

「最近、転校してきた女の子は、美人タイプというわけでなく、かわいいタイプというわけでもない。でも、すごく気になる存在。そして、出会って三日目に恋に落ちました」って感じでした。

書体も同じで、それぞれに素晴らしい個性を持っているのです。好みは人それぞれですが、僕は筑紫アンティークゴシックに恋をしました。

金属活字や写植文字の伝統を継承しつつ、それは単なる復刻や改刻ではなく、新たなる発展を遂げている。

それが筑紫書体なのです。

●藤田さんが丸ゴシックを手掛けるとこうなる

丸ゴシック体といえば、「優しい雰囲気の書体」とか、「かわいい書体」とイメージする人が多いと思います。

詫び状で丸ゴシック体を使うと、「優しい雰囲気になり、嫌われないかも」という意見もありますが、一方で、「お詫びするのに丸ゴシックはふざけている、けしからん」となる可能性もあります。僕は、後者の意見に賛成です……(笑)

それでは、藤田さんが、丸ゴシック体を作るとどうなるのでしょうか。こちらをご覧ください。
http://bit.ly/2MYpkZ7


2010年にリリースされた丸ゴシック体です。今までの一般的な丸ゴシック体と雰囲気が違います。優しさと可愛らしさだけでなく、上品さがあり、伝統も感じます。

筑紫丸ゴシックは、平仮名/カタカナ/欧文記号の雰囲気が異なる2タイプ(Aタイプ、Bタイプ)があります。筑紫A丸ゴシックと筑紫B丸ゴシックです。

筑紫丸ゴシックは、macOS(OS X El Capitanから)にバンドルされた書体ということで、Macパソコンがあれば誰でも使えるようになりました。

コンビニのポスター、食品や飲み物の広告やパッケージの文字に、最近、どんどん使われています。
http://bit.ly/2ILY8Hq


上品さがあるので、使いやすいということもあり、セミナーのスライドで筑紫丸ゴシックを使う人、最近、よく見かけるようになりました。

●現在制作中の筑紫アンティーク丸ゴシック

藤田さんは1年後、2年後にリリースしようと思っている新書体のアイデアを、Twitterで公開しています。みんなの反応を確認しながら、書体制作しているようです。

新製品のアイデアは、普通の企業ではトップシークレットだと思いますが、藤田さんの場合は違います。

アイデアが浮かんだ時に、ササッとIllustratorで文字のアウトラインを描いて、Twitterにアップして、利用者の反応を確かめます。

ユーザーニーズが多様化し、かつ、変化し続ける昨今、このアプローチは、マーケティングの王道だと、僕は思います。

また、リリース計画された書体の試行錯誤の制作過程もアップされています。猫や薔薇も多めですが、文字のお話も、ちゃんと、出てきますよ! 藤田さん
のTwitterは、こちらです。
https://twitter.com/Tsukushi55


現在、開発中の筑紫アンティークゴシックに関する資料、藤田さんから許可をいただき、公開します。
http://bit.ly/2MWfHKc


なんか、すごいでしょ。「七草粥」や「君の友」とか、なんか、びっくりしちゃうでしょ。だけど、その雰囲気にあっています。

筑紫アンティーク丸ゴシックは、1950年代に写研からリリースされた「石井丸ゴシック」や、それ以前の鋳造活字の「五號丸ゴヂツク」のようなふところの狭い書体を、藤田重信流に発展させた新書体なのです。

●筑紫AMゴシックの衝撃

僕が主宰している「筑紫座談会」という名の、8名前後の小規模勉強会があります。

「ブックデザイナーや書体デザイナーだけでなく、普段から書体を使っているグラフィックデザイナーやWebデザイナーやエンジニアなど、現場の方々と意見交換したい」という藤田さんの考えに賛同したものです。

藤田さんが勤務している「フォントワークス」は、僕が勤務している「ソフトバンク・テクノロジー」の関連会社なので、藤田さんが福岡から東京出張があるとき、その前日に行います。すでに6回ぐらい開いています。

藤田さんは、書体制作のヒントを得るために、祖父江慎さん、鈴木一誌さん、鳥海修さんと定期的にお会いしているようです。

第2回「筑紫座談会」の参加者から「フーツラ(futura)に合う日本語がなくて困っている。できないでしょうか」という意見がありました。

藤田さんは、その日、ホテルに戻ってすぐにパソコンを開き、文字サンプルを作ったそうです。それをTwitterにアップしたら、大反響だったのです。

それが、来年リリース予定の書体になっちゃったりするのです。すばらしいですね。ということで、「筑紫AMゴシック」のスライドを掲載します。ジャーン!
http://bit.ly/2WN0JuC


ねっ、すごいでしょ! たしかに、幾何学的なFuturaによく似合うかも!

この書体で書いた「恋するフォーチュンクッキー」を食べたら、恋は、必ず、実りそうですね。そのくらい、この書体にはインパクトがあります。

●文字を作る人、文字を扱う人

やっぱ、文字を作る人って、すごいなぁーー。

一方、文字を扱う人って、デザイナーだと思っていませんか? 実は、そうではなく、もじもじトークの読者の皆さんも、文字を扱う人なんです。

パワーポイント、ワード、keynoteなどで、資料を作ったりしますよね。年賀状や招待状を作ることもありますよね。

そんな時、この書体を作った人はどんな想いで書体制作したのかと妄想したり、今回の案内状は丸ゴシックで組んでみようかなとか、いろいろと試すといいと思います。

でも、Windowsマシンにおいては、搭載書体が物足りないかもしれません。藤田さんが所属するフォントワークスでは、年間1,200円(mojimo-kirei)から使えるmojimoシリーズを販売しています。
https://mojimo.jp/


この価格なら個人でも買える価格帯ですね。


【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
関口浩之(フォントおじさん)

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1960年生まれ。群馬県桐生市出身。1980年代に日本語DTPシステムやプリンタの製品企画に従事した後、1995年にソフトバンク技研(現 ソフトバンク・テクノロジー)へ入社。Yahoo! JAPANの立ち上げなど、この20年間、数々の新規事業プロジェクトに従事。

現在、フォントメーカー13社と業務提携したWebフォントサービス「FONTPLUS」のエバンジェリストとして、日本全国を飛び回っている。

日刊デジタルクリエイターズ、マイナビ IT Search+、Web担当者Forum、Schoo等のオンラインメディアや各種雑誌にて、文字やフォントの寄稿や講演に多数出演。CSS Niteベスト・セッション2017にて「ベスト10セッション」「ベスト・キャラ」を受賞。2018年も「ベスト10セッション」を受賞。フォントとデザインをテーマとした「FONTPLUS DAYセミナー」を主宰。趣味は天体写真とオーディオとテニス。

フォントおじさんが誕生するまで
https://html5experts.jp/shumpei-shiraishi/24207/


Webフォントってなに? 遅くないの? SEOにはどうなの?
「フォントおじさん」こと関口さんに聞いた。
https://webtan.impress.co.jp/e/2019/04/04/32138/