ローマでMANGA[144]おせっかいおばさんの演説
── Midori ──

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ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりして行きます。

●今年度の授業、完了!

これを書いているのは(書き始めたのが)6月28日、金曜日。私の受け持ちの日で、今年度の最終日だった。先月の記事にも書いたように、生徒は卒業制作のマンガ作品二作を仕上げるのに懸命の時期だ。

卒業試験ならぬ講評は7月5日。つまり、残すところ一週間ですべて仕上げねばならないのだ。1分でも制作に打ち込みたいところだろうけど、最終日の今日、おせっかいおばさんをやろうと決めていた。

授業の最後の30分を使って、演説を打とうと決めていた。前の晩から頭の中で、言うべきことをシミュレーションして、ぬかりなく準備した。





日本のメンタリティでは「節目」と言うものを大事にする。入学式、卒業式、始業式、終業式、学期の始めと終わりにも「式」というほど大げさでないにしろ、朝礼で校長先生が話したりする。一日の始めと終わりも朝礼、ホームルームがある(今もあるのかな)。社会に出た後も、朝礼をやる会社は少なくないと思う。

ヨーロッパでは、そういうことがない。学年の終わり、夏の始めに、イタリアでは学生たちが風船に水を入れて膨らませたものをぶつけ合う行事が恒例になっているけど、オフィシャルではない。「終わった!」という気持ちを表現したいというのは誰にでもあるものなのかも、と思える恒例行事ではある。

それで、「おせっかいおばさん」で私なりの節目をつけようと思った。普段通りに授業をして、普段と変わらずに「良いウィークエンドを!」で別れるのは寂しいではないか。

●脚本術でいう『テーマ』が自分

おせっかいおばさんとしては、これから社会に出て頑張ってね、ではなく、もうちょっとこれからの人生に役立つような訓示をしたいと思った。

最近出会った本が二冊あって、まったく違う分野の話をしてるのに、共通点がある。

一冊は脚本家のための本で「感情から書く脚本術」(カール・イグレシアス著)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4845915820/dgcrcom-22/


↓ざっくりコメント
https://bookmeter.com/books/10790174


↓かなり詳しいこの本の解説
https://akkungo.com/emotionalimpact1/


もう一冊は成功哲学、自己啓発本
「七つの習慣」(スティーブン・R・コヴィー著)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4863940246/dgcrcom-22/


↓3分で読む要約
https://jmatsuzaki.com/archives/3346


↓10分で読む要約
https://type.jp/tensyoku-knowhow/skill-up/book-summary/vol1/


二冊目はかなり有名らしいので、すでに読んだ方もいるかもしれないけど、私は最近出会った。まだ読み始めたばかりだけど、20代の頃に読んでいれば! と思った本。

そこで、脚本家のための指南書と成功哲学&自己啓発の本に共通点がどこにあるのかと言うと、ここです。

「感情から書く脚本術」で、「テーマ」について語る章がある。テーマは物語の核、何を語りたいのかの芯になる物。テーマがはっきりしていれば、物語の中に何が必要で何が必要ではないのか、はっきり理解することができる。

「七つの習慣」で「主体性」について語っている。他人に依存したり、物に依存したり、立場に依存したりというのでは、自分の主体性がない。主体を自らに置いて生きれば、他人の言葉に翻弄されたり、何かを持ってたり持ってなかったりで右往左往したりしない。

主体性がある人は自分が人生で何をなすのか、どう生きるのかを知っているから、外からの刺激に翻弄されない。なにが必要で何が必要でないのか、はっきり理解することができる。

正確な言葉使いは違うけれど、私の理解はこうだった。おせっかいおばさんの演説ではこれを軸にした。

授業は9時半から12時半まで。授業開始と同時に、12時になったらおしゃべりを始めるので、原稿制作を続けていてもいいから聞きたい人は聞いてね、と言っておいた。

脳内シミュレーションとは裏腹に、話しているうちに、感情が高ぶってしまって、頭が白くなり、次の言葉が出てこなくなってしまった。まぁ、幸い、すぐに持ち直して言葉を継ぐことができた。

昨年の「無事全過程終わってよかった〜、じゃーね」とはうって変わって、生徒の将来に対する不安に感情移入して、我が子たちが小舟で大海原に出ていくのを見送る親の心境だった。

上記の二冊の本に繋げて言ったのは、次の言葉。

「みんなには幸せになってほしい。ただ、幸せっていうと何を思い浮かべる? 夢が叶ってプロの漫画家になること? なんの不自由なく生活できること? 

なんでも好きな物が買えること? でも、なんでもすぐ手に入ると人間ってだめになるんだよね。それに今言ったことって、何かに依存してるってこと。本当の幸せは、自分自身でいられること。脚本術でいう『テーマ』が自分。」

「今後、いろいろネガティブなことが起こると思う。でも、起こったそのこと自体には意味がない。ただのファクト。意味をつけるのは、それぞれがどんなふうに対処するのかによって決まる。禅はあるものをあるがままに見る修行で、起こったことを感情のフィルタを通さないで見ることができるようになると、色々楽になるよね」

そして、最後にニューエイジ風だけど、核になる「自分」っていうものを、本当はみんな知っている。よーく自分の心の中を見つめてみると(それが瞑想。お皿洗いなど、考えずにできる単純作業でも可)きっとわかる。

そして、下手な習字で「自信(自分を信じる)」と書いたものを生徒に渡した。若いみんなは不安でいっぱいなのだ。

もっとも、私だって「起こったそのこと自体に意味はない」と、スッと思えるほど悟りを得てるわけじゃないけど。でも指針があるのとないのとでは違う。大海原で迷った時に、磁石を持ってたり、星を見て方角を知る知識があったりすれば、方向を定めることができる。

●SMAの結果、まだ?

なんにしても、とりあえずの目標はプロの漫画家になること。

3月締め切りの「サイレントマンガオーディション」に課題の一環として強制連行、違った、強制参加をさせた。6月28日に「結果が出るよー」とオフィシャルサイト、FB、ツイッターにお知らせが出たので、何度も何度も確かめに行ったけど、発表がないまま三日が過ぎた。

SMA(サイレント・マンガ・オーディション)で賞をとると、賞金の他に担当編集者が付き、作品を上げるとサイトに掲載されて、原稿料が払われる。

mangaとアニメで漫画家になりたいと思うようになった生徒にとって、日本で作品が掲載されるというのは「夢の達成」に等しい。マンガ/mangaだけで食べて行けるようになるには、さらなる険しい道を歩いていかなければならないのだけど。

SMAをキッカケに(+本人のたゆまぬ努力と実践)、世に出たナポリ出身の若者がいる。

サルバトーレ・パスカレッラ君だ。百科事典分割販売の「デ・アゴスティーニ社」で「manga&Anime」シリーズの監修をした時に、ウェブの同タイトルコミュニティで知り合った。もう10年前の話だ。

その時から熱心に課題をこなし、質問してきたり積極的にコミュニティに参加し、真剣にプロになりたい人集まれ! とグループを作って自費出版を何年か続けたりした。

そしてサイレント・マンガ・オーディション。台詞なしの演出だけでmanga作品を作る、というmanga言語の特訓のようなオーディションだ。

「北斗の拳」の原哲夫さん、「シティハンター」の北条司さんなど、大御所が立ち上げた出版社コアミックス主催。

印税がガポガポ入ってくる先生方がいらっしゃるせいかどうか、同社刊の雑誌がそれほど売れてるとはおもえないけど、海外の受賞者を渡航費用など会社持ちで授賞式に招待するなど、大判振る舞いをしてくれる。

海外のmanga好きにはありがたい、manga言語を広めたい私にとってもありがたい存在だ。

SMAのURL
https://www.manga-audition.com/


サルバトーレ君は2016年にたて続けにグランプリを獲得した。
http://smacmag.net/v/smaex1/a-smiling-tree-by-salvatore-nives/
GRAND PRIX
http://smacmag.net/v/sma5/your-sound-by-salvatore-nives/
GRAND PRIX
http://smacmag.net/v/sma6/basket-children-by-salvatorenives/
the ECXCELLENCE

その翌年も賞を獲った。つまり、manga言語を理解した、と言うことだ。

その後もコアミクッス編集部とコンタクトを取りつづけて、短編が同ウェブサイトに掲載された(ちゃんと原稿料が出るそうです)。

サルバトーレ君はあちこちに売り込んで、ついにフランスからmanga(たぶん、主に絵柄のことを言ってるのだと思う)を出版するところで、まずウェブ掲載、そして今年の6月19日に本の出版と相成った。

フランスの出版社「Editions H2T」
https://www.editions-h2t.fr/catalogue-manga

(サルバトーレ君の紹介は下の方、SHONENで出ています。「FLARE ZERO」)

この時期、パリで開催される「Japan Expo」の同社のブースに招待され、本の販売促進に貢献中。
https://www.hachette.fr/actualites/japan-expo-20e-impact-le-programme-de-nos-maisons-dedition


サルバトーレ君のFBプロフィール。ここでも、japanExpoの様子が見られます。
https://www.facebook.com/profile.php?id=1450883937


先月の記事にも書いた通り、海外のmanga家志望者が日本で出版しようと、自国でやるように日本の出版社とコンタクトをとるというのは、言葉の問題と日本国内にいないために旬がわからない、という問題でとても難しい。

でも、外から攻めていくという方法があり、SMAはその足がかりになる。なによりもmanga言語の特訓法だから。

大海原に出て行く我が子たちにも、SMAにどしどし参加するように呼びかけてSMAの工作員みたいになってる私だった。


【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師/】

G20、議長国として無事終了。日本がここまで国際社会に認められるようになったのをこの目で見ることができるとは……。

ツイッターで、安倍おろしをしてるのを見た。首脳陣全員が集まるところで、安倍首相が中央で待機し、各国首脳が次々に入場。その時に全員から無視されているという動画をあげているのだ。恥ずかしい、というコメントとともに。

その前段階の動画は切り取っている。つまり、入り口で安倍首相が各首脳を一人づつ迎えて握手、抱擁を交わすシーンだ。なんで日本人なのに(日本人なのか?)貶めよう貶めようとするのか、どうしても理解できないんですけど。

息子のバンドPSYCOLYT [注・親ばかリンク] (活動停止中)


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