ショート・ストーリーのKUNI[249]【番外編】文体かもしれない/ヤマシタクニコ

投稿:  著者:  読了時間:5分(本文:約2,000文字)



(いつも原稿を出すのが遅いと柴田編集長に叱られ、今回はあわてて、とにかく何でもいいから早く書こうと思って書いた)

人生いたるところ文体あり。と以前も書いたような書いてないような。

最近またそう思ったきっかけは、6月16日に東京で行われ、話題になっていた「年金デモ」である。ネットを通じて呼びかけた人たちは、このデモは年金問題というシングルイシューにしぼったものであること、用意された「年金返せ」「年金払え」の文言がデザインされたポスターを、各自プリントして掲げるように、他の文言は控えてください、とあらかじめ指示していた。

ふーん、とちょっと気になったのだけど、やはり当日デモが行われると「年金返せ? 今まで払った年金保険料をすべて返せというのか」「じゃあ返してあげれば」といった書き込みが出たし、「年金払え」も「いや、払ってるだろ」「まだもらえる年齢じゃないだろ」と言われそうである。





もう30年ほど前のことだが、地元で「○○病院よくする会」という会があって、活発に活動していた。入社間もない私がよく知らないまま校正をしていて、記事を書いた人に「○○病院をよくする会、じゃないの? 『を』が抜けてるよね?」と言うと「いや。それは、『○○病院の民間移譲に反対し地域医療をよくする会』の略称やねん」と教えられ、がーん! となった経験がある。

その略称のほうが正式名称より圧倒的によく使われていて、事実私の勤務していた地域紙でも、正式名称が載ることはほとんどなかったように思う(たぶん……です)。本文ではさらに略して「よくする会」となっていたりした。

確かに「○○病院をよくする会」なら、○○病院によくないところがあって、それを改善しようという風に聞こえる。そうではない。私の質問は内容をまったく理解していないあほの質問なのだろうけど、それじゃ誤解されるのじゃないかなと、説明を聞いたあとも思った。

だけど、たぶん、そういう世界ではそういう略し方が普通なのである。そうするもの、なのである。それがその世界の文体なのである。

「年金返せ」というのも、「消えた年金」問題があったし、「とかした年金」問題もある。自分たちがまじめにはらってきたお金を勝手にどうこうしないでほしいという気持ちが、たぶん「年金返せ」になっている。知らんけど。

「年金払え」は、同じ日のデモで「生活できる年金払え」というコールもされていたし、そういう意味合いであろうことは、察することはできる。だけど、揚げ足をとることもできるよね。

集団行動って難しいと思う。さまざまな混乱も予想される。だから主催者側はあらかじめ文言を統一する、それも短くてインパクトのあるものをと、いろいろ考えた末のことだったのかなと思う。つまりこれも、こうした世界の文体なのではないか。30年前の「○○病院よくする会」みたいに。

また、実際にデモの様子の動画が流れていたが、「年金寄越せ」のフレーズでリードをとっている人に対し「寄越せって言葉を使ってほしくない」と苦言を書き込んでる人もいて、同感だと思った。

デモでそんな甘っちょろいこと言ってられるか、細かいことにこだわるな!……とは言えないような気がするんだよね。むかしならいざしらず。

もちろん、私はデモという行動に対して批判する気は全然ない。気持ちはわかるし(退職金をもらえない非正規労働者やシングルの人が多い、そしてこれからも増えるだろうことを考えると「老後に2000万円」どころではないはず)、実際に自分の貴重な時間を割いて参加する人たちを、なんとかエモンみたいにばかにしようなどと思わない。ただ、難しいもんだなと、つくづく思うのだ。

ついでに。言葉つながりでいくと、最近ネットで見かけて気になるのが「義両親」という言葉だ。配偶者の両親、つまり義父と義母のことだろうけど、「え?」と思う。

辞書には載っていない。初見ですぐに意味がわかるんだから使用に問題ないといえるかもしれないが……ためしに入力してみるとATOKも、なんと、ことえりも変換してくれた! これはもう広く受け入れられている言葉なのか。いや、ことえりが変換するということは、単なるぼけの可能性があるな……。

なんだかひっかかる、できたら使いたくない言葉ではあるが、そうこう言ってる間にこれが普通になるかもしれないのが、言葉のおそろしいところだ。ちなみに「義理の実家」という言い方も見かけたが、これは意味が崩壊してるよね。


【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
http://midtan.net/
http://koo-yamashita.main.jp/wp/

最近ショックだったこと。カメムシに布団に卵を産み付けられていたこと。それに気づかないまま、その布団で数日間寝ていたらしいこと。気がついたときには、すでにいくつかの卵が孵化したあとだったこと。孵化したやつが見つからないこと(どどどどどこに行ったんだー!)

以来、洗濯物や布団を取り込むときにはメガネをかけ、しつこく、しつこくチェックしております。そろそろ産卵の季節も終わると思いますが……。