ローマでMANGA[145]ユーロマンガコースの卒業講評
── Midori ──

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ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりして行きます。

●卒業講評

7月5日に卒業試験に当たる講評があった。卒業講評には外部から講評者を呼ぶ。昨年に引き続き、マンガ家・編集者のビンチェンツォ・フィローサ氏にお願いした。
https://www.facebook.com/profile.php?id=1295001512


フィローサ氏はマンガ・mangaが大好きで、生徒の作品やスケッチをいくら見ても疲れない。昨年は8人の講評をするのに一人に1時間くらいかけて、終わったのが午後6時過ぎだった。ほかのコースでは昼食時間前後に、さっさと終わってしまっていたのに。

でも、最終学年でこれで学校を出るという生徒の作品をじっくり見て、今後のサジェスチョンをしたいよね。

今年のユーロマンガコースは14人。一人にかけられるのは20分から25分くらいだ。とりあえずそのように、事前にフィローサ氏にお願いした。結局、もうちょっと時間がかかってしまったのだけれど。





特に最初の二人には、ほぼ1時間くらいかけてしまった。名簿順で上手い子たちが二人続いたし、今年最初に見る作品ということで、フィローサ氏は嬉しそうにじっくり見てしまったのだ。

しかも、「上手い子」は仕事が早くて、宿題もきちっとやってくるので、講評に持ってくる作品の総数が多い。

部屋に私とフィローサ氏が並んで座り、生徒が一人づつ入って、テーブルに作品群をのせる。フィローサ氏が作品をめくり、私は説明するように生徒を促す。

フィローサ氏は優しいので、度々「ワオ!」と感嘆する。良いところを見ようとする態度だ。レベルが低い生徒には、一日にどのくらい絵を描くのか聞いた。2時間くらい、と答えると、「少ないね。10時間は描かないと」と言っていた。

お昼休みの12時過ぎ、まだやっと3人目に入ったばかりだった。フィローサ氏にスピードアップをお願いした。持ってきた作品をじっくり見ても、さっと見ても、作者の力量はわかる。じっくり見るのは、見て楽しいからにすぎない。

最終学年の最終講評は、プロのレベルにどのくらい近づいているか、それが評価基準になる。

点数は5項目について30展満点で評価して、5項目を合計して5で割った数字が最終の評価点になる。

項目は以下の通り:探究と企画 / 物語 / スタイルの探究 / プロフェッショナル度 / 彩色とインク

結果、満点の30点を獲得したのは、年間を通してその優秀さを示した4人プラス一人。この最後の一人は、この一年間で自分のスタイルを見つけて、また卒業制作には新たなやり方を試したりして、順調に、確実に育って行った。

もともとmangaにはそれほど興味ないんだけど、と言いながらオリジナル作品を作るという授業に惹かれて、ユーロマンガコースを選んだ生徒。

欠席が多く、なんでこの学校に来てるのか分からない生徒は、ギリギリ卒業証書がもらえる18点。落第させてもよかったんだけど、卒業証書自体に意味がないし、とりあえず最終講評日に来たことを評価した。

あまり点数が良くなかった(23点)一人は、点数が発表になってからボイスメッセージを送ってきた。「なぜなの? ただ、ただ、理由が知りたい」

かなりショックを受けた様子がわかる。でも、あの作品でもっといい点を取れると思う時点でわかってない。23点はまぁ、彼女なりに頑張ったから、という、頑張り点であって、プロには程遠い。

そのことを説明したメッセージを返し、また彼女から「それなら何で講評の時に褒めたの? 意味がないじゃない」。理解が及ばないのでは仕方がない。可哀想だけどそのままにした。

●SMAの結果

3月31日締め切りの「サイレント・マンガ・オーディション」第11回に、授業の一環として強制参加させた。件の優秀生徒4人はどこかに引っかかるのではないかと、期待していたのだけど、まったくダメだった。

https://www.manga-audition.com/sma11-silent-manga-audition-2019-award-winners/


(今回、最優秀賞は該当作品なし。イタリアからの入賞は3人。インドネシアが健闘)

ものすごく責任を感じてしまう。

14名のネームを見るのには時間がかかる。効果的に見る方法を考案しないといけない。それには、SMAのネームにかかるまでにmanga文法をしっかりわかってもらう必要がある。それには授業内容を見直す必要がある。

●来年度の授業内容変更

ユーロマンガコースがこの二年間、何が問題だったのか。何が良かったのか。

一つには、manga構築法、manga文法は言語を学習するのと同じく、学習すべきことが沢山あること。もう一つは、講義を聞くだけではなく、実践しないと作品に反映できないこと。

これを実質半年、いや、二か月半で習得してもらわねばならない。無理、と言ってられないので、良い方法を考案せねばならない。

セミナーだった頃から、最初の授業にやる「マンガとmangaの違い」をアルゼンチンのエンリケ・アルカテーナ氏の「コナン」と、井上雄彦氏の「バガボンド」を使って解説するのは残す。

今まではその後、読みの速度をフキダシの位置でコントロールすること、誰の視点からその場面を描くのか、コマの大きさと形の意味をそれぞれ独立して解説していた。

これを一緒くたに説明することにして、キャラの感情を描いているページをいくつも用意して、徹底的に分析解説する。さらに宿題としてそれぞれが選んだ(あるいは課題として全員同じ題材の方がいいかな?)ページの分析をしてもらって、演出の目を養うことをしたらどうだろうと思ってるところ。

1ページで分析しやすいものから始めて、ページ数を増やしていく。できれば16ページほどの短編まで持っていく。

最初は分析の項目をしめす。例えば、誰の視点から描いているか。描かれた感情はどんなものか。その感情を読者に示すためにセリフの位置、コマの大きさと形、構図、表情、小道具、背景はどんな選択をされているか。などなど。

この方法に合うmanga作品を選ばねば、の、夏休みになりそう。


【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師/】

あいちトリエンナーレ:「アート」と言えば何でもOKになるのか?「表現の不自由展」は内容から見て、公的資金で展示するものではないと思う。だいたい、あの「作品群」は「反日をテーマにした罵倒」であって、アートではないと思うけど。

どの「作品」にも「美」はかけらも認められないし哲学もない。誰かをバカにしたり、罵倒したりする場面を見るのは気分が悪い。

猛暑:連日30度超え。しかも、湿度が高い。地中海の夏はもっとさっぱりしてたはず。郊外だから日が沈むと気温が下がって、熱帯夜にはならないのが救い。

Unlimited:キンドルの読み放題に手を出してしまった。ちょっとハマった「神様とお話」系と漫画を読む。コナリミサトさんの「凪のお暇」が気に入る。
https://www.akitashoten.co.jp/works/nagi/


「空気を読みすぎてストレス溜まって過呼吸になってしまった凪さんが、自分らしく生きよう」とする話。絵はイマイチなんだけど、コマ運びや感情の表現、セリフがうまい。演出がいいっていうことか。

今は無料の30日お試し期間だけど、月額980円で続けてしまうかも。お金出してまで欲しくないけどちょっと興味あるかな、という本や、知らない漫画家さんの一巻目など読める。日本語の本はあっという間に読めて良い。

息子のバンドPSYCOLYT [注・親ばかリンク] (活動停止中)


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