羽化の作法[91]現在編 「意識の力」を実感したとき/武 盾一郎

投稿:  著者:  読了時間:11分(本文:約5,400文字)



●意識が起こした奇跡?

身内の話で恐縮なのですが、妹の旦那のお父様が前立腺癌になりました。その事実は妹の旦那から聞いたのですが、どうやらすでに末期のようでした。医者から受けた病状の説明をしてくれた彼の喋り方に、「父の死の覚悟」のようなものが感じられました。

「そうなんですか。。。」と、言うより他はありませんでした。手術の日取りも整ったとのことなので、手術後に妹家族とお見舞いに行くことにしました。

しばらくして、前立腺癌の手術前に一通の手紙が私に届きました。お父様からでした。なんだろう? と思って封筒を開けてみると、

「私、〇〇〇は癌を完治致します。」

と便箋に大きな字で宣言文が書いてありました。一瞬、「なんだこれは!?」と驚きました。





お父様は叩き上げの陸上自衛隊員でした。息子である妹の旦那も同様の陸自です。何かものすごく込み上げてくるものがありました。軍人らしい、というか。「男」というか。

「男なら負けると分かっていても戦わなければならないときがある」を地で行ってました。byキャプテン・ハーロック


「す、すごい。。。」と思うと同時に、私は「そ、そりゃアニメだと勝つよ! でも現実って違うじゃん!」
みたいな気持ちも当然、湧きました。

強がり? 自己陶酔? ロマン? それとも心配させないための命がけのユーモア? 命にかかわることはお父様もご理解してるはずだから、「本気」であることは確かだろう。

自分の人生と照らし合わせると、私もキャプテン・ハーロックのような気持ちで突っ込んだことがあります。死にはしませんでしたが、敗北を喫しました。

負けると分かっている戦いに、勝つことは基本ないのです。それができるのは経験値のない馬鹿だけで、「若さの特権」なのです。ただし、突破して勝利する奇跡が起こることも歴史的事実で、人はそこに「ロマン」を夢見るのです。これは確率として理論的に説明可能なものだと思います。

いろんな思いが渦巻き、私は深くため息を付いたのでした。

手術は無事終わり、お見舞いにも行きました。退院後は放射線治療を続けていたようです。日々は過ぎて行きました。

そんなある日、妹からラインが来ました。

「お義父さんの癌がなくなっちゃったって!」

一瞬意味が分かりませんでした。

私「え? どう言うこと?」
妹「よく分からないけど、完治しちゃったみたい」
兄「え、本当? すごい!(スタンプ)、やったー!(スタンプ)」

みたいなやり取りをしたのです。そのことを知った私の母も感激し「完治のお祝いをしましょう!」ということになりました。

とても嬉しいことなのですが、なんだかすごく思うところがありました。

末期癌だと知らされた時、悲観して「俺はもうダメ、死ぬなあ」と負のイメージを思考し続けるタイプの人間だとしたら、まったく同じ病状の場合、結果はどうだったのだろう?

「意識の力」は癌も直すかも? と直感したのです。もちろん手術して治療する現代医療があってこそですが、それにプラスして「気のもの」、「思う」とか「意識の向け方」って相当重要だなあって強く思ったのです。それから「他者に宣言する」効果もあったかも知れません。

お父様のやり方は一見古めかしい精神主義にも見えそうですが、現代心理学や脳科学に照らし合わせると、とても合理的なことをしたのかも知れません。

私の母が企画した「完治祝い」は、地元駅前の鰻屋「まるますや」さんで開かれました。妹夫婦と甥っ子姪っ子、お父様とお母様、母と私の計8人。

そこでお刺身、うなぎの蒲焼き・肝焼き、焼き鳥などのご馳走に舌鼓を打ちました。ところが、実を言うとこの時の宴で、私は食中毒を起こしたのでした。

参照:羽化の作法[90]現在編 子供の頃の時間感覚を取り戻せ
http://bn.dgcr.com/archives/20190820110200.html

ちなみに、寝込んだのは私と妹だけでした。けどそれで気付きがあったので、何故か食中毒に感謝している(笑)

●癌も消せる(?)3つの心得

ここで癌を克服したお父様の特徴をピックアップしてみます。そんなにしょっちゅうはお会いしていないのですが、その中での私の印象です。

1.いつもニコニコしている
2.お酒が好きで酔っ払うと「最高です!」と嬉しそうに言う
3.伴侶をとても大切にしている

手術後のお父様は、さすがにちょっと笑顔のパワーに陰りが見えたものの、相変わらずいい顔でした。お酒は控えてるようでしたが「完治祝い」の時だけは、ほんの少し生ビールを飲んでご機嫌になっていました。そしてあい変わらず夫婦仲が良さそうでした。

何かここに、癌を消し、幸福に生きるヒントがあるような気がしました。

1◎いつもニコニコしている

ふとしたときに、あなたの口角は上がっていますか?

この無意識状態での口元が「微笑み」なのか、「仏頂面のへの字口」なのかで、きっと脳内での自己対話の傾向が相当違ってくると思うのです。

人と対面した時には、誰でも少しにこやかになります。しかし、パソコンやスマホに向かっている時、車の運転をしている時、何か作業をしている時、待機している時、考え事をしている時、何もしていない時などなど、自分がどのような顔になっているのか分からないでしょう。

その長時間の無意識の顔の表情は、恐らくあなたの思考の性質を決めていると思います。

楽しいから笑うのですが、笑うと楽しくなるというのはよく言われてることですよね。さらに、無意識でも笑顔になっているようにできたら、かなり人生変わりそうではありませんか?

嘘でもいいんですよ、これ。形からで。例えば姿勢。嘘でも姿勢を正すとシャキッとしてしまうものです。

最初は気が付いたらその都度、意識して姿勢を正しますが、常に姿勢を正すことを意識することで、段々と意識しなくても姿勢を正していられるようになっていくでしょう、そうするとシャキッとしてる時間をキープし易くなるのです。それと同じです。

昔、「スキップしながらネガティブなことは思考できない」と聞いたことがあり、実際にスキップしてみたことがあります。スキップなんて子供の時しかしないですよね。で、スキップしてみたのです。

あなたもスキップしてみてください。不思議と笑顔になってしまいませんか? すごいですよね。これ、ひょっとしてどんな麻薬より効果あるんじゃないですかね。ただ、街中でスキップするのは若干勇気が必要ですが。

家の中でもオフィスでも、常に笑っていて、歩く時は常にスキップできたら、この世界は極楽に見えてくるのかも知れません。

2◎お酒が好きで酔っ払うと「最高です!」と嬉しそうに言う

リラックスできる「場」で、その喜びを言葉にしていますか?

気のおけない仲間と飲むのは楽しい時間ですが、先輩や先生や上司や社長の悪口を言ったり、サークルや学校や会社や業界への不平不満を愚痴ってる人と、宴の場の楽しさを素直に表現する人と、どちらが魅力的かと言ったら当然、後者でしょう。どっちが人から好かれるか問題としてもそうですが、思考の傾向もそこにあります。

ですけどね、「くそったれ! くだらねえ!」とくだを巻きながら呑んだくれてしまう時だってありますよ、そりゃ。人生で一度も腐ったことがない人なんていないと思いますわ。

そんなイキリ立ってる時期は、自分と違う考えを持つ「奴ら」を批判し、同じ敵を確認し合いながら、正しさに酔いしれる閉鎖的なコミュニティに身を寄せることも必要だったりしますよ。

また、胸の内がつっかえて、でも言葉にできなくて、苦しくて苦しくて、悲しくて悲しくて、そんな気持ちを長年抱え、少しそれを言語化できそうになった時、出し切るまでネガティブな言葉を吐き出すことも重要なんですよね。

吐き出すのも苦しいかも知れないけど、でもそんな時は嘔吐するべきなんです。

「私は苦しかった! 悲しかった! 痛かった! 理由も分からず辛かった! あいつが憎かった! 好きだった! オエ〜ッ!!(ゲロゲロ、ドボドボ)」って。

そしてまた、そうやって吐き出してる友人の、背中をさすることによって救われている介抱する側、というのもあったりするのです。そして、それは酔った時だからこそ出来る場合もあるのですよ。次の日、汚物まみれでボロボロになってたとしても。

でも、ですよ、やけ酒三昧で痛い目にあいまくった私は、今はこう思います。楽しく呑み、次の日目覚めたら胸が軽くなっていることこそ重要だ、と。ひとりで呑んだとしても。

3◎伴侶をとても大切にしている

最も身近な人を褒めたりお礼を言ったりしていますか?

未婚だったり付き合ってる人がいなかった場合は、親とか、親も兄弟もいない場合は友達になるでしょうか。友達もいない場合は、職場の同僚になるかもしれません。親兄弟も友達も職もなければ、たまに挨拶する近所の人が最も近しい人になるでしょう。

自分にとって最も距離の近い人は存在するはずです。もし「誰もいない」と本気で思うなら、多分病気です。

最も身近な人に「一緒に時間を過ごせて楽しかった」とか「ありがとう」とか、喜びや感謝の気持ちを伝わるように表現することってとても大切です。けど、これって案外難しい。

例えば、母親という最も身近な人。小学高学年になると、母と外出するのがすごく恥ずかしくなります。例え母と一緒に外出しても、喋らなかったり、離れて歩いたりしてしまいます。

悩める青春期は、ともかく親を避けるようになります。ようやく母と外出することに抵抗がなくなる頃は、自分が楽になっていく時期と重なっている気がします。母を褒めたり感謝の言葉を言えるようになってきても、ついつい暴言を吐いたり、冷たい態度をとったりしてしまいます。

赤の他人には優しくして外面は良くできるのに、身内や親しい人にはつらく当たってしまう精神状態ってあります。自分が許せなかったり、劣等感に苛まされてるんです。近いからこそ、そんな自分を投影して攻撃してしまうんです。

あるいは、甘え足りない欲求不満を抱えて、自立できずにいる未熟な状態であるとか、依存心が強い時期であるとか。個が未確立で共依存状態だと、そのネットワーク内の人に牙を剥いてしまうんだと思います。

日本語には謙譲語があります。それは「おくゆかしさの表現」であるとして、美化されています。しかし「愚妻」とか「愚息」とか、他者に向かって自分の身内を蔑む表現は「奥ゆかしさ」と言うよりも、「甘え」や「未熟さ」や「共依存」で支え合っている、父権社会だからこそ生じた表現なんだと思うのです。

身内に素直になれないというのは、自分に素直になれないことと結構近い。かつてはそういう男を、シャイで不器用で愛おしいものと解釈しましたが、そんな昭和ノスタルジー的「古き良き甘えの共依存性」は、今や通用しない。

ただ、もうちょっと考えてみると、個など確立させず未分化のままに共依存が成立しているコミュニティの方が、幸福のような気はします。かつての、日本型「子ども社会」から、年功序列男尊女卑を取り除いた社会は、案外正解かも知れません。

いずれにしても、親しい人に対して常に「褒めちぎり、感謝の言葉を伝える」のは心身にとても良いと思うのです。それができる人は、自分を尊重できてるってことになるから。(つづく)


【武 盾一郎(たけ じゅんいちろう)/キッチンと脱衣所の床貼り】

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