わが逃走[244]地味な街を少しだけ歩く の巻
── 齋藤 浩 ──

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地味な街とはS玉県の本庄市のことである。

ものの本によると、本庄はもともと中山道でも有数な宿場町で、本陣2軒、脇本陣2軒、旅籠70軒を数えたとある。また幕末から明治にかけては繭の集散地としてたいへん栄えたらしい。

現在の本庄は、東京から新幹線に乗れば駅弁を食べ終わらないくらいで着いてしまうが、在来線だとそれなりにかかるという微妙な距離感。都会でもなければ田舎でもない。いや、田舎か。

分岐駅があるというわけでもないし、有名観光地というわけでもない。新幹線ができる前も、すでに特急はほとんど通過してたんじゃないかなあ。すでに昭和も終わりに近づく頃には、地味な存在だったといえるのではないか。





で、なぜ本庄かといえば、とある仕事のロケハンがあったからなのだが、その帰り道、やや日が傾きかけた市内をほんの少し歩き、これはもしかしてとても面白い散歩道なのではないか! と気づいたのでこの場を借りてご報告させていただく次第。

今回の起点はココ。本庄市立歴史民俗資料館。館内はハニワなどステキ造形物多数。建築は明治期のもので、旧本庄警察署を改装して使っている。

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入口には田村本陣の門が移築されている。それにしても、この唐突感がすごい。周囲との調和など皆無。しかしこれぞ現代日本の原風景であるとも言える。昭和の繁華街が区画整理や地上げで更地となり、手前に江戸時代の本陣、奥に明治期の洋館。

ブレードランナーの美術設定は、さまざまな時代の建築が多層化して高く積み上げられていく、というものだったが、本庄は平面上に、江戸から令和までが並ぶ。そのぶん、空は高い。

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脇には市内文化財MAPが。文化財を「点」として残すだけでなく、それらを繋ぐ「線」を風景として残せるか? こそ肝要。次回は9箇所すべてを訪ね、検証を試みたい。

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民俗資料館の近所に昭和な美容院が。看板が秀逸。書体は清楚な「美容」そして健康的は「ぼたん」の使い分けがイイ。行灯の形状と上下の唐草もタマラん。

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そして資生堂のサイン。この左右対称に見えて全く非対称という美学は、学ぶべき点が多いと思う。

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すぐ近くに理髪店。いわゆる切断建築だろう。この建てられっぷりからすると、両脇にも同様な商店長屋が続いていたのではなかろうか。

このスジが保存されていれば、昭和ドラマのロケ地として観光地として脚光を浴びていたかもー。街灯の形状も質素でイイ。街はところどころ歯抜けになってきてはいるものの、懐かしい昭和な日常を感じさせる建築が多数残っている。

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更地が増えてきたためか、いままで家々の奥に鎮座していた土蔵もちらほら見える。これがいいことなのか否かは判断つけがたいが、今しか見ることができない風景であることは確かだ。

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トマソンも多数。かつてこの壁に接していた隣家の形が刻まれている。

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70年代的不思議建築。窓に「ストリップ」の文字が見られることから、そのテのお店だったのだろう。

それにしても、なんたる昭和感。偶然にもチェッカーズの鼻歌まで聞こえてくるし。これ以上周囲に更地が増える前に、昭和の残像をめぐる散歩をしなければ!

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これも見事な切断建築。ここまでくると、このまま保存してもらいたい。そもそも長屋というものが今後増加するとは思えないし、土地や建物の権利関係も今以上に複雑になることはないのではないか(憶測)。

そうなると、こういった建築も風前の灯ということになる。技術的な革新があって、高層建築が部分的に切断されて歯抜けになってゆく、なんてことがあったらビジュアル的にスゴイかもしれないが。

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というわけで、約30分にも満たない散歩だったが、実に興味深いものがあった。

行きは新幹線だったが、帰りは上野東京ラインにひょいっと乗った。ビール片手にグリーン車という豪勢なコースとしたが、新幹線よりずっと安上がり。しかも夕暮れの関東平野を楽しみながら。これぞ旅ってもんだろう。

300キロで流れる景色は速すぎて記憶に留まりにくい。それに対して在来線は、関東の街並みがグラデーションで徐々に東京になってゆく。そのさまをしみじみながめながら飲むビールの味は格別だった。

帰宅後、地図を見ると、本庄にはまだまだ昔ながらの路地が残っている印象。風景が消されてしまう前に、再訪の計画を練らねば!


【さいとう・ひろし】
saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。