装飾山イバラ道[254]作ってもらったものは美味しい〜/武田瑛夢

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「町中華」が好きだ。古き良き昭和を感じさせる中華屋さん。ラーメンや餃子はもちろん、中華丼とか天津飯や中華定食が食べられるようなお店。カウンターか、小さなテーブルがあって、たいがい床が脂っぽいので滑らないように気をつけて歩く必要がある。

昼に行くことが多いけれど、ランチ時間は店が忙しいので、店に入るまでに食べるものを決めておくのが望ましいようなお店だ。夜行く時でも食べるものはそう変わらず、ビールと餃子を先に注文するとかの変化が起きる。

独身時代も好きだったけれど、私たち夫婦と同じように家族で来ている人も多い。たまに選択する食事の一つの手段として、生活に溶け込んでいるのだ。

先に運ばれてきた赤いチャーハンがテーブルにトンと置かれる。一口頬張ると、「他人が作ったものって、美味しい~」とつくづく思うのだ。

チャーハンがなぜ赤いのかは私もよくわからないが、赤いチャーハンはなぜかクセになる味なのだ。下北沢に買い物に来たら寄りたくなる。





●日常の料理

私の結婚の挨拶のときに、親戚一同集まっていたのだけど、女性陣に囲まれて「料理は得意?」と聞かれたことを覚えている。「あ、あんまり、でも料理は好きです」「まー。いいわねぇ」

料理が好きかどうかが、何故そんなに気になるのか、当時の私にはよくわからなかった。しかし、今はわかる。

日々の家事の中で「料理」は、かなり多くのボリュームを占める。これが負担にならない「好き」という性質は、後からではなかなか身につけられない財産なのかもしれないのだ。

手抜きを覚えた今でも料理は好き。しかし、第一次研究期とも呼べる、作ったことのない料理を作れるようになる時期を過ぎると、料理に対するチャレンジ精神もググッと減ってくる。誰もがそうかは知らないけれど、料理に対する好奇心がやる気を助けていた時代が終わる時が来るのだ。

●手作りに囲まれて

思えば小さい頃は母の手料理を食べて、学校では給食のおばさんが作った給食を食べて育った。

給食センターの巨大セントラルキッチンで作っている昨今とは違い、私の頃はおそらく学校にいる給食のおばさんチームの手作りだったと思われる。

自分で何も出来ない頃は、他の人が作ったものに囲まれて、それをいただきながら大きくなったのだ。

働くようになって、母の料理を離れる時期もあった。それが結婚し、夫との食事や、たまには母の食事を作るようになる。日々の食事は完全に自分が作ったものへと変わったのだ。

●なぜ美味しいのか

そして、「自分で作るようになると、買うのが馬鹿らしくなるよね」とは、よく聞く言葉。

確かに一旦は素材から選び、自分の好みで微調整できるので、自分で作ったものの方がずっと価値が高いと思える。粉ものや麺類も、自分で作れば一食分は驚くほど安い。

しかし、時には外食やデリの惣菜にも助けてもらう。そうすると、「よく出来てる、やっぱり専門店は違う」と、思うのだ。

自分が作ったものばかり食べていると、ヒトが作ったモノが妙に美味しく感じられる時がある。

私はこのネタで今まで何回か文章を書いたと思うけれど、プロの料理人の作る味だから美味しく感じるのだろうと、以前は思っていたところもある。

しかし、実は「プロの技」で作られているから美味しいと感じるのではなく「他人の脳」で考えた味だから、口に入れた時に新鮮さがあるのではないだろうか。

自分の料理は、自分で考えた味でバランスを整えたものだ。さらに作る過程の「味見」で何度もその味を確認してもいる。

そうなると、食事の最初の一口を食べる時に、「やっぱりちょっとしょっぱかったかな」とか、まだまだ味見の延長戦になってしまうのだ。調理する者のつらさ(?)ってここにあるような気がスル。

食事中も反省が続くことがあるのだ。出来の良い日は嬉しさが続くのだけれど、自分の味に飽きるのはある程度しょうがない。

そして、もう知っている味なのに町中華が美味しいのも、他の人に完成度の責任を任せているからだ。

町中華へ行って、「今日のチャーハン、ちょっとパラパラが足りないけど、やっぱ美味しい」とか、気楽に言えるのが美味しいのだ。夫の選んだラーメンの味見をしたり、そっちの方が美味しいと奪ったりできる楽しさもある。味や量に責任のないことの自由さが嬉しい。

よく行くのが私も大好きな赤いチャーハンで有名な、下北沢「みん亭」。「世界で3番目にうまい」というキャッチコピーが店先に書かれている。※みん亭 のみんは王(おうへん)に民

それによると、1番うまいのが、「あなたのオフクロの味」、2番目が「オヤジのスネの味」、3番目が「みん亭のソバの味」だそうです。なかなかですね。

読者には働いて忙しい世代の方も多いと思うけれど、母の手料理を食べられるうちに、たくさん食べておいて欲しい。たまには実家に帰ってゆっくり時間を過ごすのは、お互いに大切な時間だ。

うちの母は高齢なので、もう料理は作らない。母の手料理を食べられなくなったのがいつからなのかはっきりしないが、今は自分が作る番なのだと思う。

私は母に料理をしてもらってきた時間と、自分が作る時間、どちらが長くなるのかはわからない。食べてくれる人がいるという有り難さを感じながら、今日も料理をする。


【武田瑛夢/たけだえいむ】
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
http://www.eimu.com/

みん亭の半ラーメンに半チャーハンがつく「ラーチャン」がおすすめ。
半チャーハンでも十分多いですよ。