◎奈々さんの七七の話
最近、中山奈々さんに俳句を教わっている。中山奈々さんとは、関西の人気の俳人さんである。俳句、超上手の方である。
こんな風にあっさりまとめると、俳句関係者から「オドレに中山奈々俳句の何がわかるんじゃあ」と大クレームが来そうだが……安心してください。当エッセイは2年近く「日刊デジクリ」さんで掲載してもらってるが、いまだ御意見御感想をメールでいただいたのは、デジクリの編集長さんからもらった、1件だけなんです。
文末にメルアドとかツイッターアドレスを張り付けておりますので、読者の皆様、貴重な御意見、応援メッセージ待ってます。
話を元に戻すが、中山奈々さんには、俳句独特のルール・季語のこととか、旧仮名使いのこととか、専門用語とか、疑問に思ったことを丁寧に教えて頂いてて深謝している。
今年(2019年)月「第3回円錐賞」という俳句のコンクールがあり、それに応募する時もアドバイスを貰った。結果、15句のうち1句を特選句として採ってもらい、もう奈々さんの住む地に足を向けては寝られなくなった。
その中山奈々さんも「円錐賞」に応募しておられ、特別賞に入選された。
「円錐」編集部様に贈ってもらった「円錐」誌で、受賞作を読んでみた。他の受賞作が5、7、5の定型を守っているのに対し、奈々さん句は7、7という変則句形で編まれた連作だった。1句だけが7、7の句というのでなく、全部の句が七・七形。
こういうのもありだったのかと、とても驚いた。
「名前が奈々なので、七七で作ってみた」と、あっさり説明されて「何て小気味良いのだろう」と感動したのだった。
俳句を作るようになる、ずっと前に漫画家・業田良家先生の『百年川柳』という漫画を愛読してて、『百年川柳・虎の巻』という読者公募企画本で、川柳の句として5、7、7と7、7がある、と書いてあったので、川柳での変則句形だと思い込んでいた。
その後ツイッターをするようになって、#(ハッシュタグ)武玉川という1ジャンルを見つけた。調べると、『武玉川』とは江戸時代中期に編まれた雑排撰集だった。
俳諧連句のうちから、秀逸な付句(つけく)をぬき出して編んだ高点、つまりハイレベルの付句集であるとのこと。俳諧連句でいうところの付句として、七七形というのがあるらしいと当時知った。
俳諧、当時俳句という独立したジャンルはなくて、575の句形を発句として、その後77、575、77と、代わる代わる詠んでいく座の文芸(連想ゲームの、高度なスタイルといえるか)が、俳諧と呼ばれるものだった。
その一番前の発句だけを切り取って発達したのが現在の俳句なのだ。
#武玉川、それを目撃したのは4年ぐらい前のことで、すっかり忘れていた。
そこにもってきて、七七句の使い手が忽然と現れたのである。
紋白蝶の腹嗅ぐ旅路
盗られしものをみな夜濯ぎす
月映るまで鏡を傾ぐ
『七十七日』中山奈々より抜粋
円錐誌第81号所収
http://ooburoshiki.com/haikuensui/
http://ooburoshiki.com/haikuensui/2019/05/01/362/
奈々さんの七七は季語も入れてるし、構造としてカッキリと計算がなされてる印象があって、俳句素人の自分が見ても陶然とさせられてしまう。後日、中山奈々さんに、この句形のルーツについて伺ってみた。
「元々は連句で、ね。五七五の発句の次に七七が来るでしょ? それがルーツ」と教えてもらった。
季語を組み入れることについては、「字数がね、俳句より3音少ないうえ、季語を入れるとね、ふっふっふっ」と酎ハイを飲み、ビールを飲み、日本酒を飲んで、いつの間にか違う話になった。
そして介護の話になり、下の話になり、また俳句の話になり、何かが何かを経由して、最終的にローストビーフの話で大いに盛り上がった。ぼくも酒が回ってたので、何でビーフの話になったか、良く覚えてない。
おわり
◎タマの世界
今日ぼくらは、タマを尾けることに決めた。
タマは15歳になる婆猫だ。
高齢にもかかわらず頻繁に、かつ敏速に姿をくらます。
タマがブリリアントなアフタヌーン、一体何をしているのか誰一人知らない。
いや知ってる人は、いるかもしれない。ぼくらが知らないタマを知ってる人が。
まるで胡蝶の夢。
ぼくらはチームプレーでタマを追跡する。夢と現実の境界を越えてやろう。
たとえば三叉路にまで追いつめたら、タマは速度を上げるだろう。ぼくらは三手に分かれるのだ。また道が分かれたら、さらに。GPS携帯電話で各位置を捕捉し、ぼくらは徐々にタマを包囲するのだ。
ナオ!
と、タマはぼくらの方を振り向いて短く鳴き、竹垣へと飛翔した。
「あっ!」
「ああっ!」
老描とは思えぬジャンプ力に、ぼくらは感動と絶望と驚きをまじえ、叫んだ。
嗚呼、ブロック塀だったらまだ追跡もできたろうに。少年探偵団のように鍵縄も用意してきたんだ。
タマは遂にぼくらの掌の世界に掴まる事はなかった。
【海音寺ジョー】
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