グラフィック薄氷大魔王[629]YMO◇どの曲が好き? 問題
── 吉井 宏 ──

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僕個人がYMOにどう影響を受けたか? を、一度ちゃんと書いておきたかった。実は、結成40周年だった昨年に書き始めたのに、僕の中でYMO観はいつも微妙に変化してることもあって、まとめられなかった。なので、断片の雑記です。全4回、その4。





●どの曲がいちばん好き? 問題

・「問題」と書いたのは、時期によって好みが変わるし、人それぞれ思い入れのある曲は違ったりするし、紛糾・波乱含みだから。10年ほど前に「僕のワーストは『チャイニーズ・ウィスパー』と『過激な淑女』。」とかツイートしたら「それ、一番好きな曲なんです」って返信されて反省……すみませんでした。

今回も「自分の基準で好き嫌いを書いてるだけ」ですので、念のため。みなさんが好きな曲やその理由も知りたい!

・YMOの真髄は中期の「BGM」と「テクノデリック」だと、前世紀までは思ってた。曲で言えば当然「QUE/キュー」や「ジャム」。聴いたことのない響きの音楽なのに、最初からツボにハマって超お気に入りに。

・アルバム「増殖」の「Jingle 'YMO'」→「ナイス・エイジ」は繋がりのカッコよさで随一。「ナイス・エイジ」は中期のアルバムに通じるマニアックな暗さを感じさせながらも、明るい表現が大好き。この曲の「ピコピコ音」はYMO全部の中でベスト。

・「君に胸キュン。」は1983年3月25日にリリースなのだが、専門学校を修了してデザイン事務所に就職する直前ってこともあって、その時の感情や空気など全部含んだ、僕的に特別なもの。イントロの美しさ! 後期に差しかかったアルバム「浮気なぼくら」は日本語の歌入りの楽しいアルバムだったのに、今では逆に、ネクラさが際立って聴こえる。

・後期で言えば、「SEE-THROUGH」も長いことベストだった。散開前のラストアルバム「サーヴィス」は、「企画ものや個人作品の寄せ集めだけど一応YMO名義」みたいな寂しい感じ。高橋幸宏がプッシュしたという、三宅裕司率いるスーパー・エキセントリック・シアター(S.E.T.)のコント入り。今聴くと、う〜ん、やっぱ余計かなあ……。

・S.E.T.といえば、84年の高橋幸宏プロデュースのアルバム「THE ART OF NIPPONOMICS」を題材にデザインして応募した、第5回NAAC展で奨励賞をもらった。全国区のデザイン雑誌に作品が初めて載ったのだった。
http://www.yoshii.com/dgcr/1984-NAAC

・中後期のアルバムはずっと大好きだったけど、次第にそれほどでもなくなってきた。好みが変わっていくのは仕方ない。派手に強調されたスネアドラムが今ではやかましく聞こえる。

・で、初期の2枚に落ち着いてきた。一曲しか選べないとしたら別格扱いの「ファイアクラッカー」しかない。YMO結成のコンセプト「マーティン・デニーのエキゾチックな曲をアレンジ、コンピュータでシンセを自動演奏したチャンキー・ディスコで世界制覇」そのもの。緻密で分厚く、何百回聴いても飽きないどころか、どんどん好きになる。

・別格を除く普通の意味で、僕の輝くYMOベスト1は……「ABSOLUTE EGO DANCE」だと思う。少なくとも21世紀になってからずっと、ベスト1の座に留まってる。沖縄民謡を解析したという陽気なリズムと「ハッ、ハッ」の合いの手。サビの伸びやかなシンセと、広大な空間を感じるボコーダーのコーラス。間奏部のタガが外れたような暴走ぶり。全部大好き。

・あまりYMOらしく思えず、眼中になかったファーストアルバムの「マッド・ピエロ」がしばらく前から僕の中で急上昇w 楽器フェア2014での松武秀樹氏らによるオリジナル楽器を使った(自動)演奏の映像にシビレたのがきっかけ。実に濃い。「ブリッジ・オーバー・トラブルド・ミュージック」→「マッド・ピエロ」への繋がりも素晴らしい。


・ライブ盤はあまり興味なかった。だって、コンピュータや機材を駆使して凝りまくったスタジオワークから生まれる音楽なのに、それをライブで無理に再現するのはピンと来なかった。それでも、ライブアルバム「パブリック・プレッシャー」の「コズミック・サーフィン」などで聴ける、ヤケクソのように荒々しいサウンドはかなり好き。

・80年代半ば以降ともなると、他にも好きな音楽がいろいろ増えた。YMOは年に一度くらい聴き返して「やっぱいいなあ」とあらためて感激したり、集中して聴きすぎて飽きてしまったりを繰り返すことになる。苦手な曲もいくつかはあるけど、基本的に全部好き。中でも細野晴臣の曲はお気に入りが多い。

・ベスト盤はもちろん、リミックス盤やリマスター盤、「アルファ商法」とか揶揄される数多くリリースされた再編集CDはいちいち買ったけど、結局はオリジナルの曲順でないと満足できなかったりw 曲順といえば、特にA面最後の曲とB面最初の曲は、明らかにふさわしい曲が入ってる。CDや配信でA・B面の区別が無いのがもったいない。

●もうちょっと似た曲が多くても良かったんじゃ?

・この連載の第366回「偽バリエーションとボツ作品」に書いたけど、やはり曲が少なすぎる。似た曲もほとんどなく、「CUE/キュー」の続編として作られたという「手掛かり KEY」がある程度(あまり似てないが)。

アーティストは似たような曲や、レコード会社が喜ぶ売れ線の曲は作りたくないだろうけど、ファンとしては黄金期の傑作曲のバリエーションをもっと聴きたいよねえ。散開前のオリジナルアルバム7枚は作風がぜんぜん違うけど、それぞれ3枚ずつ計21枚あったらなあって思うw
https://bn.dgcr.com/archives/20131106140100.html


・ただ、オリジナル曲は少なくても、メンバーのソロアルバムや、YMOとして参加のアルバム、また「テクノ歌謡」として知られてるように、当時YMOやメンバーが曲作りやプロデュースした歌謡曲が大量にあるのが救い。変な企画もの歌でも、ボーカル以外は完全にYMOの音だったりするしね。

・「イエローマジック歌謡曲」や「テクノ歌謡」、メンバーの提供曲集など、後年CDに収められたものだけでも相当たくさんあるけど、プロデュースした歌手やアーティストをWikipediaなどで調べていけば、楽曲はそれこそ無数にあるにちがいない。たった数年間なのに、どんだけ働いてたんだ?w

・上で書いた「過激な淑女」は中森明菜に提供した曲だったが、同時にプレゼンした細野晴臣の「禁区」のほうが採用されたとのこと。あと、YMOとして初のオリコン1位を目指した「君に胸キュン。」が、細野晴臣自身による松田聖子「天国のキッス」に阻まれて実現しなかったっていう話は大好きw そういう風に、歌謡界に深く入り込んでたんだな。

●YMOのCDジャケットをデザインしたことがある

「YMO I」「YMO II」という、ベスト盤2枚のジャケットをデザインしたことがある。自称YMOチルドレン的にはめちゃくちゃうれしかったのだが……。

1993年夏、アルファレコードではない別のレコード会社のデザイナーからの依頼。普通にお店で売るものではなく、通信販売用か何かの廉価盤だったはずだけど詳細は不明。発売元もCD盤面もちゃんとアルファレコード。OEMみたいなものだったのかも。

本当に発売されたのか自信がなかったのだが、リンクのブログで初めて確認できた。
https://ameblo.jp/byjcr203/entry-11487278117.html


他にもデータベースにあることを確認。
https://www.discogs.com/Yellow-Magic-Orchestra-YMO-I/release/6381593


デザインは今見ると確かにビミョーかな……。

当時、Macを入れてちょうど1年。「デジタルっぽい模様を敷き、YMOの3文字を乗せる」という注文。購入したばかりのKai's Power Toolsでいくつか試作した中から選ばれたのだった。立体文字は書体集をスキャンしてIllustratorでトレースして輪郭を作り、Photoshopのエアブラシで陰影を描いたもの(レイヤー機能はまだなかった)。

CDとケースはあるんだけど、ジャケットの紙が行方不明。たぶん本の表紙の刷り見本などといっしょに、クリアーブックに移したはず。

●「コンセプト」が作品を左右する

・1回目で、現在の感覚に置き換えて年数的比較をやったけど、YMO時代から遠ざかるに従って、俯瞰で見れるようになったかも。彼らの5年間の活動は、進歩する音楽テクノロジーによってどんどん進化したものと思ってたけど、ちょっと違う感じに捉えてもいいかなと思ってる。

・3人は結成当時すでに実績のあるベテランなので、YMO前後で5年の間に急に成長したわけじゃない。コンピュータ利用の音楽テクノロジーといっても、機材は結成当時からあるものを使ってる。新しく加わったのはサンプラーくらいか。MIDI規格の公開は81年だけど、松武秀樹はアンチだったそうで、YMOでは使われなかっただろう。

・たった5年であんなに変化したYMOの作風を左右したのは、個人の成長やテクノロジーの進歩ではなく、アルバムごとに時代から導き出された「こういうアルバムを作る」というコンセプト。細野晴臣のプロデューサー志向がそうさせたんだろう。それで作品や作風が決まるし、ファッションもビジュアルも連動する(93年再成時のアルバム「テクノドン」は、コンセプト先行な感じが鼻についてちょっと苦手だった)。

・アーティストらしく「思いのままに作る」でもいいんだけど、幅が狭くなりがち。アイディアにコンセプトが掛け算として働き、予想もしなかった新しい表現が生まれるのは僕にもよくわかる。ちょっとそのあたり、あらためて「YMOに受けた影響」的に、コンセプトを決めて活動するのもアリだな……。


【吉井 宏/イラストレーター】
HP  http://www.yoshii.com

Blog http://yoshii-blog.blogspot.co


YMO全4回、僕同様に思い入れの大きい読者も多いだろうから、ヘタなこと書けないし、気を遣って疲れたw 最終回は丸3日もかかって書き足しを繰り返して2回分以上の分量になっちゃったし、午前中に柴田さんに送ろうとメールにコピペして読み直してたら、また直したくなって、夕方までかかって手を入れたりw はい、もうこれで終わり! キリつけた。

来週からは、しばらく書けなかった2週間から一か月半遅れの、普通の話題が続く予定。YMOは五月雨式で出せばよかったな。

次回はmacOS Catalina。いきなりメインマシンに入れるのは、さすがに躊躇。まずサブマシンのMacBook Proに入れてみた。iPadを液タブ化するSidecarも試してみた。Astropadとくらべてどうか?など書く予定。

◯Studio City Macauのデコレーション展示中
https://bit.ly/30olPNF


○吉井宏デザインのスワロフスキー、7月半ばに出た新製品4つ。

・幸運の象 LUCKY ELEPHANTS
https://bit.ly/30RQrqV


・HOOT HAPPY HALLOWEEN 2019年度限定生産品
https://bit.ly/2JZVVcm


・SCS ペンギンの赤ちゃん PICCO
https://bit.ly/2JStbC4


・SCS ペンギンのおばあちゃん
https://bit.ly/2YbmnJ7