[4895] 神を追究した作家◇AirPodsをつけたまま会話?

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《変な音楽を聴いてるのがバレるw》

■日々の泡[020]
 神を追究した作家
 【巴里に死す/芹沢光治良】
 十河 進

■グラフィック薄氷大魔王[632]
 AirPodsをつけたまま会話?
 吉井 宏




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■日々の泡[020]
神を追究した作家
【巴里に死す/芹沢光治良】

十河 進
https://bn.dgcr.com/archives/20191106110200.html

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機会があれば見てみたいと思っていた「りんごの唄」で有名な映画「そよかぜ」(1945年)をユーチューブで見た。公開は敗戦の二ヶ月後、昭和20年(1945年)10月11日だった。リンゴ園をヒロインが歌いながら歩くシーンは何度も見たけれど、どんな映画なのかはまったく知らなかった。

初めて「そよかぜ」を見ると、戦争があったことも、敗戦のこともまったく出てこないのに驚いた。これを当時の人々は、どんな想いで見たのだろう。完全な音楽映画である。映画は楽団の演奏で始まり、上原謙(加山雄三のお父さん)、佐野周二(関口宏のお父さん)、斎藤達雄(サイレント時代から小津作品に出演)がトランペットなどを吹いている。

NHKのテレビ小説などから深作欣二監督の「仁義なき戦い」(1973年)まで、戦後を取り上げたドラマで「リンゴの唄」はその時代を象徴的に表現した。焼け跡闇市の光景が映り「リンゴの唄」が流れれば、見ている人たちは「ああ、敗戦直後なのだ」と理解する。最近の若者たちの反応はわからないが、少なくとも僕らの世代までは時代を象徴する音楽的記号となる。

「そよかぜ」では上原謙らのバンドが出ている劇場の照明係で歌の上手な少女みちを並木路子が演じ、何度か「りんごの唄」を歌う。劇場の看板歌手が結婚引退するので、上原謙は劇場主に「みちを抜擢しては」と推薦するが、劇場主は拒否する。今風に言えば、「リスクが大きい」ということらしい。

上原謙、佐野周二、斎藤達雄らのバンド仲間とみつは、同じ家で共同生活をしている。みつは佐野周二を好きらしいのだが、佐野周二はみつに会うと憎まれ口を叩き、「子供のくせに」と子供扱いしかしない。ある日、とうとうみつは怒って故郷に帰ってしまう。そこがリンゴ園なのである。本当はみつが好きな佐野周二は、バンド仲間たちとみつの故郷に向かう。

最後は、看板歌手に抜擢されたみつが大きなステージの真ん中で「りんごの唄」を歌うシーンだ。昔の映画には、音楽ショー的な要素が強いものがある。テレビの音楽番組と同じ役割を、映画が担っていたのだろう。「そよかぜ」には歌手の役で霧島昇や二葉あき子が出ていた。監督は佐々木康。僕が子供の頃、東映時代劇をやたらに撮っていた監督である。

さらに「異国の丘」(1949年)もユーチューブで見ることができた。昭和24年4月25日の公開だ。冒頭、マッカーサー元帥がソ連に日本人抑留者の返還を要請し、冬季でも可能なように砕氷船を提供すると申し出ているがソ連からは何の返答もない、というクレジットが出て時代性を強く感じた。戦後4年経っていたけれど、まだ数十万人の日本人がシベリアに抑留されていたのだ。

引っ越しのシーンから「異国の丘」は始まった。広くて立派な屋敷だが、手放すことになったらしい。運送屋の会話から、主人はシベリア抑留から戻っていないことがわかる。トラックに積まれたピアノを、その家の少女が弾く。その少女に、祖母が母親を呼びにいかせる。その頃、母親(花井蘭子)は庭で夫とのことを回想している。

夫(上原謙)とは見合いで知り合い、結婚し、やがて夫を強く愛するようなる。夫は、音楽好きでヴァイオリンの名手だった。そのため、生まれた子供たちには音楽を学ばせようと、妻は高価なピアノを購入した。しかし、夫が出征し、戦後4年にもなるのに戻ってこない。妻は歯を食いしばって家を守り、子供を育て、姑に仕えてきたが、とうとう家を手放すことになったのだ。

ラスト近く、国立病院の患者たちの慰問にいき、妹がピアノ、兄がヴァイオリンを弾く。患者のひとりが「異国の丘」をリクエストし、ふたりは演奏する。すると、ひとりの患者が立ち上がり、「私は、シベリアで抑留されていた。ここには『異国の丘』の作曲者である吉田もいる」と言い出し、吉田正が患者として登場し「早く同胞たちを帰還させよう」と訴えた。後に昭和歌謡の作曲者として活躍する吉田も長く抑留されていたのだ。

ウーム、古さは感じるが、やっぱりその時代の空気がストレートに伝わってくるなあと思いながら、資料を観察するように「異国の丘」を見ていたのだけれど、原作者が芹沢光治良であるのにはちょっと驚いた。調べてみると、昭和22年(1947年)に出た「夜毎の夢に」という小説の映画化だった。芹沢光治良が、こんな小説を書いていたのか、と何だか感慨に耽ってしまった。

僕が高校生の頃、芹沢光治良の本はいくらでも書店で見かけたものだ。その頃、芹沢光治良は日本初のノーベル賞作家・川端康成の跡を継いで日本ペンクラブの会長を務めており、その後、芸術院会員になった。芸術院会員になるというのは、美術・音楽・演劇・文学などのジャンルでの最高峰の名誉である。

芹沢光治良の小説は、「巴里に死す」を読んだことがある。十代半ばのことだった。出版は太平洋戦争真っ直中の昭和十八年(1943年)だ。そんな時代に、よく出せたものだと思う。1952年に森有正がフランス語に翻訳し、フランスで1年で10万部も売れたという。そんなことは、まったく知らなかった。

ところで、僕は大学生の頃、森有正の本を愛読していた。当時、筑摩書房から「バビロンの流れのほとりにて」というエッセイ集が出ていたのだ。哲学者でフランス文学者でエッセイスト。代表作は「遙かなノートル・ダム」である。明治の文部大臣であり「日本語をやめて英語にしてしまえ」と提唱した森有礼の孫だ。森有礼は暗殺されたけど、彼の提案が受け入れられていたら、今頃は僕も英語をしゃべっていた。

外国語が苦手なわりには、なぜか僕は大学でフランス文学を学んだのだが、僕がフランス文学科を選んだ理由のひとつに「巴里に死す」を読んだことがあると思う。芹沢光治良は1925年にソルボンヌ大学に入学するが、その後、結核にかかりスイスのサナトリュウムで療養し、1929年に帰国する。よき時代の巴里を知る日本人だった。

僕が高校生だった頃、芹沢光治良は長大な自伝的長編「人間の運命」を刊行中だった。1962年から1968年にかけて新潮社から刊行され、後に新潮文庫に7巻でまとまった。しかし、その長さに怖れをなし、結局、僕は「人間の運命」を読まなかったのだけれど、博識な友人が「天理教の話だろ」と一言で片付けたのを記憶している。

確かに、芹沢光治良の生涯と天理教は密接に関係しているが、それは両親が天理教に入信したこと、また、育ててもらった叔父の家も天理教の教会になったということであり、彼自身が入信していたかどうかはわからない。晩年、「神シリーズ」を書き続けたこともそういう印象をもたらしたのかもしれないが、僕は「巴里に死す」以外は読んでいないので何も言えない。しかし、未だに気になっている作家なのである。

【そごう・すすむ】
ブログ「映画がなければ----」
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■グラフィック薄氷大魔王[632]
AirPodsをつけたまま会話?

吉井 宏
https://bn.dgcr.com/archives/20191106110100.html

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●AirPodsをつけたまま会話?

AirPods、通称「うどん」(好きな呼び方ではない。イラッとするw )。新しいカナル型のAirPods Proも先日出た。

あまり話題にされないようだし、僕の感覚が古いのかもしれないのだが……。

AirPodsを片耳につけたまま会話する人を、ちょっと失礼に感じてしまう。お店の人でいたし、打ち合わせでもいた。さすがにメインの人ではなく、同席の一人だったけど、それでも。目の前の人と、全力でコミュニケーションする気がないように見えてしまうのだ。

従来のインナーイヤー型のAirPodsは、外の音は普通に聞こえてるはずだし、インカムとして使ったり、通知を聞けるようにしてるだけだろうけど。礼儀として、「あなたに向き合っていますよ」的なポーズを示してほしいなあ。そのうち慣れるのかな?

インカムだったら、マイクが口元に伸びてるやつのほうが、業務連絡用っていう記号に見えて安心。

あと、先日も書いたけど、道端やスーパーとかで、ぶつぶつ独り言いいながら歩いてる人。AirPodsやその他マイク付きイヤホンをつけてるのを確認して、安心するのはすっかり習慣になってしまった。

電話してる人は耳に手を当てて電話してるポーズをするか、頭の上に旗を立ててくれ、と。社会を安心させる記号としてw

iPhone付属イヤホンと同じ形状の従来のAirPodsは、僕の耳に合わないことがわかってるので興味なかった。ずり落ちそうな位置で止まってる感じが気持ち悪いのと、その位置だと低音がぜんぜん聞こえないから。

新しいカナル型なら普通に使えそうだけど、高い!

●聴覚拡張機器?

新しいAirPods Proはカナル型イヤホンなので、片耳につけたままだと具合悪そう。と思ったら、ノイズキャンセルと外の音取り込みモードが、切替できるらしい。

GIZMODO「AirPods Proファーストインプレッション:これほどのものがサラッと出てしまうのか」
https://www.gizmodo.jp/2019/10/airpods-pro-firstimpression.html


外の音が何もつけてないように自然に聞こえるそう。つけっぱなしの人が増えそうだなw しかし、外の音取り込みをすごい技術で実現したとして、それがイヤホン外したのと結果が同じってのは面白い。

ショップジャパンの「楽ちんヒアリング」のように、音を大きく聞きやすくしてくれるやつとか、補聴器みたいに周波数特性を変えるとか、イコライザーみたいに好みに調整するとか。いろいろ可能性が広がりそう。聴覚拡張機器みたいになってくるかも。

つけっぱなし前提なら、もっと小型化しないとね。そのうち、耳の穴に完全に押し込めるようになるだろうな。

●ワイヤレスと有線

Bluetoothイヤホンはソニー製のを持ってるけど、電車とかでスマホ本体のスピーカーじゃなく、ちゃんとイヤホンから音が出てるかいつも心配で(変な音楽を聴いてるのがバレるw)、何度もつけたりはずしたりして確認してる。

ワイヤレス・イヤホン/ヘッドホンって、充電具合が気になるし、他の機器で使うときの設定し直しや、しばらく止めてると接続が切れて再接続しなきゃいけなくて面倒だったり。

ケーブルがないのは確かに快適だけど、いくつかの機器でBluetoothヘッドホンを使い回してると、めちゃくちゃ煩雑。イヤホンジャックに挿すほうがシンプルでラク。

まあ、AirPodsをiPhone用、iPad用、Mac用ってそれぞれ買えば、切替のわずらわしさってなくなるかも。

なので、総合的にはまだまだ有線イヤホンのほうが好きかな。例外として、独自のUSBレシーバーを使うLogicoolのワイヤレスヘッドセットは、挿した機器で確実に聴けるので好き。


【吉井 宏/イラストレーター】
HP  http://www.yoshii.com

Blog http://yoshii-blog.blogspot.com/


iPad版Photoshopキタ〜〜〜! ただし、まだ基本機能のみのリリース。完全版ってことをさかんに強調してたから、ちょっとがっかり。とりあえずインストールして10分くらいいじっただけ。まだどこに何があるか不明。

キーボードショートカットにも対応してるとのこと。iPad版Photoshopの出来次第で、これからの仕事スタイルが大幅に変わる可能性があるので期待!

◯Studio City Macauのデコレーション展示中
https://bit.ly/30olPNF


○吉井宏デザインのスワロフスキー、7月半ばに出た新製品4つ。

・幸運の象 LUCKY ELEPHANTS
https://bit.ly/30RQrqV


・HOOT HAPPY HALLOWEEN 2019年度限定生産品
https://bit.ly/2JZVVcm


・SCS ペンギンの赤ちゃん PICCO
https://bit.ly/2JStbC4


・SCS ペンギンのおばあちゃん
https://bit.ly/2YbmnJ7



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編集後記(11/06)

●偏屈読書案内:「警視庁防災対策課ツイッター 防災ヒント110」

オレンジ色の表紙が大目立ち。警視庁警備部災害対策課の人気ツイッターを編集し、人気&有用性が高い(という)110項目にまとめた防災ヒント集。むりやり110編という感じもしないではないが、「もしものとき」にも日常生活にも一応役には立ちそうだ。基本1ページに1ツイートと、写真、解説の構成。

警視庁警備部災害対策課は、警備部に所属する課のひとつで、地震や豪雨などにより災害が発生した際に、警察として必要な対策を行う部署である。救出救助部隊を被災地域に投入して、迅速な救援活動にあたるほか、必要な情報収集や部隊支援活動を行なう。このツイートは2011年の3.11東日本大震災の際に、ネット上のデマ情報の打ち消しと、正しい情報の発信のために始められた。

SNSを使っての情報発信・拡散・交流の中で、特に拡散力のあるツイッターを用い「警視庁警備部災害対策課」のアカウントから「正しい情報」を発信し、フォロワーの力で拡散していくことを目的に、2013年1月にツイートを開始した。リツイートが初めて1万件を超えたのが「ツナ缶で簡易ランプ」だった。7月9日現在、反響1位は「10円玉で袋を簡単に開ける方法」。しょぼい……。

お菓子の袋など、素手で開けられない時、袋上部の閉じた部分を2枚の10円玉で挟み込み、こすりあわせるようにスライドさせると簡単に開く。「水でカップ焼きそばを作ってみた」「水でカップ麺を作ってみた」なんてのも上位。カップ麺は15分、カップ焼きそばは20分、麺の固さと味はバッチリだという。袋麺は開けた袋に水を直接注いで15分。これらは簡単、試してみようと思った。

新聞紙はオールマイティだぞ。生ゴミを包み水分を吸収させ、ポリ袋に入れ密閉。ニオイは激減、見た目に不快感はなくなる。新聞紙で薪を作る方法(写真入り)、水でふやかし、形を整えて乾燥させる。木のような安定した火力を得られる。くしゃくしゃに丸めた新聞紙を70リットルポリ袋に入れる。そこに足を入れれば保温効果でとても温かく、避難所での防寒対策としてとても有効。

実践ロープワークは、災害時だけでなく日常でも使える。基本的な、もやい結び、巻き結び、本結びは、大人も子どももマスターしておかなければなるまい。針金ハンガーの左右先端をつぶしてペットボトルを差し込む。洗濯物をかければ空間ができているから乾きやすい。ホット用ペットボトルに沸騰前の湯を8割程度入れてふたをする。タオルをまいてゴムでとめれば湯たんぽになる。

ラップはスマホの防水に活用できる。食器にラップを巻いて使えば洗い物が出ない。ラップでおにぎりを握れば衛生的で手も汚れない。ラップを丸めてスポンジ代わりにすると少量の水でもきれいになる。ラップは新聞紙、ガムテープと並んでオールマイティだから、必ず防災用品に入れておくこと。和式トイレの使い方も絵入りで解説されている。もう和式を知らない世代も多いのだ。

ツイートは課員のうち30〜40名が交代で行っている。いま現在、80万人を超えるフォローワーがいる。メディアでの反響などからも好評らしい。災害による混乱が予想される中、必要な情報をタイムリーに発信することが使命だ。最近では動画も使ってより分かりやすい発信をしていて、本よりわかりやすい。しかしSNSなんかうざったいと思う偏屈老人は、絶対に近づかないのだ。(柴田)

「警視庁防災対策課ツイッター 防災ヒント110」
2019 日本経済新聞出版社・編取材協力:警視庁
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532176727/dgcrcom-22/



●「れもん、よむもん!」続き。何はともあれ、自分を追い詰めるまで頑張りすぎないでくだされ〜。

はるなさんも書かれていたけれど、私も今はあんまり本を読まなくなってしまった。毎日大量の文字に埋もれているからかもしれない。

あの時の山田詠美さんみたいなガツンと来る本に出会いたいなぁ。どちらかというと、スポ根漫画を読んで、気合いを注入する方が今は合ってる。大人になったのかもしれないし、成長を止めているのかもしれない。(hammer.mule)

れもん、よむもん!
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B07GZR273K/dgcrcom-22/

老眼の方にはKindle版をおすすめします……