もじもじトーク[118]手書き職人の神技を見た/関口浩之

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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。今日のもじもじトークは、「手書き職人の神技を見た」をお送りします。





●Type&(タイプアンド)というイベント

Type&(タイプアンド)というイベントをご存知だろうか? フォントメーカーMonotype(モノタイプ)が主催するイベントで、書体に関するセミナーやワークショップなどを毎年、開催しています。

Type&は今年で6回目の開催です。国内外のさまざまなゲストが出演し、参加者と一緒に、フォントがもつ可能性を探り、書体を愛でる楽しいイベントです。

過去の出演者の一部を紹介すると、永原康史さん、小林章さん、田代眞理さん、鳥海修さん、藤田重信さん、佐藤好彦さん、児山啓一さん、高橋貴子さん、Akira Yoshinoさん、髙岡昌生さんなど、僕が日頃から尊敬している大好きな方々ばかりです。

また、企業においてコーポートフォント制作に携わる方、ブランディング関連で活躍されているプロデューサー、海外で活躍されている書体デザイナーや著名なクリエイターの方々が出演します。毎回、新しい学びと感動があります。

今年のType&も、見逃すことのできない豪華な出演者でした。2日間のイベントで、合計で四つのセッションがありましたが、今回、その中のひとつ、「看板職人の技に迫る、手書き文字ライブペイント」の参加レポートをお送りします。

●手書き看板職人の上林修さんと板倉賢治さん

まずは、この写真をご覧ください。
http://bit.ly/2KigW2D

これ、手書きで書いた看板なのです。しかも、左半分と右半分は、異なる2人で書いているのです。えーーー、凄すぎる!

次に、こちらの動画をご覧ください。
http://bit.ly/2KihWnp

神業と言わざるをえません。文字の下書きなしの一発書き(ブッツケ書き)なのです。手書きとは思えないよね!

まるで一人で描いたような看板ですよね。ベースラインの高さや文字の太さも、違いを感じられません。こんな完璧な合作看板が書けるのは、上林さんと板倉さんのコンビしか存在しません。長い間、看板職人として一緒に仕事をしてきたので、阿吽の呼吸なのでしょうね。

平行を保つための下書き線もありませんでした。見ての通り、左右別々に書き始めているので、横方向の風通しの良さといい、文字間隔の歩調の良さといい、ここまで、ピタッとおさまるのは神業です。

最近の看板は、カッティングマシンや印刷機で製作できてしまうので、手書き看板の仕事は激減しているようです。

上林さんと板倉さんがイベントで書いた看板文字は、中村征宏さんのナールの端正さと温もりに通じるものがあると思いました。ナールを制作した中村さんも、看板文字やテレビテロップ文字を、手書きで描く仕事に就いていました。

イベントが終わったあとに、上林さんと板倉さんと「ナールが好きです」のお話や、「使っている筆」のお話などをして盛り上がりました。そして、写真も一緒に撮りました。その時の写真を何枚か掲載します。
http://bit.ly/2KiqESE

自分が学生だった頃、そして社会人になった当時、「ビジネスシヨウ」や「データショウ」という事務機器・OA機器・コンピュータの展示会が、晴海で開催されていました。

僕はパソコン好きだったので、学生の頃から会場へ足を運んでました。社会人になり、電子機器メーカーに勤務したので、出展企業側として、毎年、「ビジネスシヨウ」や「データショウ」に説明員として参加しました。

当時のイベント会場の大きな看板は、看板職人が手書きしていました。ハシゴの上で、筆を手にして大きな文字を書いてました。

看板に一発書き(ブッツケ書き)するケースと、大きな紙に書いたものを後から看板に貼り付けるケースがあったようです。「凄いなぁ…」「面白いなぁ…」と思ったことを、今でも記憶しています。

あれっ、当時から、僕は「フォントおじさん」だったのかもしれない・・・(笑)

1980年代前半のことなので、まだ、8ビットパソコンが最盛期で、パーソナルコンピュータよりも、ワードプロセッサ(通称、ワープロ)が元気だった時代です。当時の看板は手書き、または手作業での製作が主流でした。

上林さんと板倉さんには、一昨年の大阪のイベント「看板文字と中村書体」の時、お目にかかっていました。でも、ちゃんとお話するのは、今回が初めてでした。

2年前にお会いした時から、上林さんと板倉さんのファンになってしまいました。なので、昨年、お二人がテレビ番組に出演した時、実家から東京に車でもどってくる途中だったので、路肩に車を止めてテレビを見ました。

Type&のセッションでは、約2時間のライブペイントのワークショップでした。その2時間、会場から随時、質問を受け付けて、その回答をしながら看板書きをするというスタイルでした。お二人とも、関西育ちなので、関西弁トークが炸裂しました(笑)

「書き間違いをすることはないのでしょうか?」の質問には、「あるよー」と回答したり、「弟子になりたいのですが」の質問には、「仕事があまり来ないよ。看板書きで生計立てられないよー」ってノリの漫談を聴きながらの、ワークショップでした。

すごく良かったのは、参加者が10名ぐらいづつ、交代でステージに上がって、看板文字を書いている様子を間近で見学できたことです。「写真や動画を撮ってSNSやブログにアップしていいよ」ということだったので、今日のもじもじトークで記事を書きました。

楽しくて、あっという間の2時間でした。ありがとうございました!

●米国の看板職人、ジョン・ダウナーさん

海外にも手書きの看板職人はいます。3年前のType&で、米国から来日したジョン・ダウナー(John Downer)さんの、サインペインティングの実演を観ました。その時の様子はこちらです。
http://bit.ly/2O715Fl

ねっ、すごいでしょ! 日本語と欧文の違いはありますが、基本的なことは変わりありませんでした。上林さん、板倉さん、ジョン・ダイナーさん、三人とも本当に凄いなぁと思います。尊敬します。人間国宝に認定してほしいです。

僕は学生の頃、アメリカの音楽や映画が大好きだったので、お気に入りの欧文のロゴやレタリング文字にトレーシングペーバーをのせて、レタリングの真似をよくしていました。

やはり、ここでも、「フォントおじさん」の片鱗がありました(笑)

ブログで知ったのですが、ジョン・ダウナーさんがType&に出演した後に、大阪で、この三人でライプペインティングをやっていました。その時の様子をご紹介します。

タイプディレクターの眼(ドイツMonotype・小林章さん)
https://blog.excite.co.jp/t-director/24778040/

パソコン上でデジタルフォントを活用すれば、昨今、簡単に看板文字が表現できてしまいます。しかしながら、数十年前までの看板は、手書き職人の情熱と丹精がこめられた技により作られていたのです。

では、また、2週間後にお会いしましょう。

【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
関口浩之(フォントおじさん)

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1960年生まれ。群馬県桐生市出身。1980年代に日本語DTPシステムやプリンタの製品企画に従事した後、1995年にソフトバンク技研(現ソフトバンク・テクノロジー)へ入社。Yahoo! JAPANの立ち上げなど、この20年間、数々の新規事業プロジェクトに従事。

現在、フォントメーカー13社と業務提携したWebフォントサービス「FONTPLUS」のエバンジェリストとして、日本全国を飛び回っている。

日刊デジタルクリエイターズ、マイナビ IT Search+、Web担当者Forum、Schoo等のオンラインメディアや各種雑誌にて、文字やフォントの寄稿や講演に多数出演。CSS Niteベスト・セッション2017にて「ベスト10セッション」「ベスト・キャラ」を受賞。2018年も「ベスト10セッション」を受賞。フォントとデザインをテーマとした「FONTPLUS DAYセミナー」を主宰。趣味は天体写真とオーディオとテニス。

フォントおじさんが誕生するまで
https://html5experts.jp/shumpei-shiraishi/24207/

Webフォントってなに? 遅くないの? SEOにはどうなの?
「フォントおじさん」こと関口さんに聞いた。
https://webtan.impress.co.jp/e/2019/04/04/32138/