羽化の作法[98]現在編 音のフェティッシュを分かち合いたい!
── 武 盾一郎 ──

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曲を好きになる時、「音のフェティッシュ」から入ることが多いのですが、あなたはどうですか?

小学生の頃、ピンクレディーは爆発的に人気がありました。自分たちで組んだミニバスケのチーム名を「渚のシンドバッド」と名付けて、体育館で遊んでいたくらいですから。学期末に行われる「クラスのお楽しみ会」では、ピンクレディーを男子たちで踊ったものです。

『渚のシンドバッド』


これが数年上の世代だと、キャンディーズなるんですよね。ピンクレディー動画を今観ると結構エロいんですが、小学生の頃はまったく分かりませんでした。





そのピンクレディーなのですが、「この音が好き!」と、テレビで流れるのを心待ちにしていた曲がありました。

『サウスポー』です。


イントロの部分で、歌の直前「デデデデ、デデデデ」の後に「ピュピュピュピュピュピューン」とシンセドラムの音のフィルインが入るのです。

分かりますか? ただ、この動画だとちょっとシンセドラムの音のニュアンスが違うんです……

子供心にこの音が衝撃的で、そして心地良かったのでした。この「ピュピュピュピュピュピューン」という音が聴きたくて、ピンクレディーがますます大好きになっていたのです。

ところが、当時のテレビは生演奏なので生ドラムの場合も多く、その時は泣くほどがっかりするのです。

例えば、「'78 FNS歌謡祭」のこの動画では、歌の直前は生ドラムのフィルインの音なのです。


生演奏で口パクではなく生声。今からしたらとても贅沢な歌番組なのですが、「ピュピュピュピュピュピューン」音の感触だけがお目当てだったで、ガクッとなるのです。がしかし、ピンクレディーの振り付けが楽しくて、すぐに気を取り直して楽しく観るんですけどね。

ちなみに私はミーちゃん派でした。

中学生に上がったか上がらないかくらいでしょうか。さらに衝撃的な「音」を聴いて、死ぬほど焦ります。焦るんです。どうにもしようがない気持ちが全身を駆け巡り、爆発しそうになるのです。思春期のこの感覚、分かってもらえますでしょうか?

それがこの曲です。
リップスの『ファンキータウン』


「ピピピピ、ピッピ、ピピピピ」という衝撃的に直線的なメロディ音。「なんだこれは!」×10です。これがエリック・クラプトンが弾くようなメローなエレキ・ギターの音だったら、スルーしてたかも知れません。

更にすごいのが、歌い出しのボーカルの音が人間の声とは違うのです!「なんだこれは!」×100です。

のちに「ヴォコーダー」という機械であることを知りました。思春期真っ盛りに、このヴォコーダー音を探し廻って「クラフトワーク」にハマるのです。

『The Robots』


曲に痺れるのではないのです。音に痺れてるのです。分かってもらえますか? このクオリア。

例えば、このクラフトワークの『ロボット』という曲は、短調なので重くて暗い感じしますよね? 幼少の頃から私は長調の曲が好きだったので、曲自体は大好きか? と問われるとそうでもないのです。

このヴォコーダーのボーカル音が聴きたくて、レコードをひたすら聴いたのです。ただ、聴いてるうちに曲も好きになってしまうのですけどね。

で、クラフトワークには地声で歌う曲もあるのですが、猛烈にがっかりしてたのです。

例えば、『Radioactivity』とか。いや、いい曲ですよ。好きですよ。


「長調でヴォコーダーの声の曲がないかなあ」って、ずっと探していたところで見つけたのが『アウトバーン』でした。

最初の「アウトバーン」ってところだけがヴォコーダーの音で、そのあとは地声の歌なのでちょっとがっかりしたのですが、何と言ってもクラフトワークでは珍しい長調の曲なので本当に大好きでした。

『Autobahn』


そしてYMO。『テクノポリス』の冒頭で「TOKIO」って言ってるのですが、その音を聴いた時は夜が開けたような気分でした。で、メインテーマの楽曲に入るともうあんまり聴いてないんです(笑)いや、好きですよ。曲も。もちろん。

『Technopolis』


それから、思春期の心を鷲掴みにした音と言えばベース音です。小学高学年から中学生くらいだったでしょうか。汗っかきで太っちょの友達、H君が貸してくれたカセットテープが、なぜか「クイーン」でした。

「この曲の最初の音ってなんなの!!!??」と焦りました。それは『地獄へ道づれ』という曲のイントロのベース音でした。

でも、普通のエレキベースの音とは違いますよね? 「グニョッ」っていう感じがするのです。この「グニョッ」て感じの低音、痺れませんか? あと、がらんどうな感じ? 空っぽな感じの音も好きでした。

クイーンは割と音が埋まってる感じの曲も多いのですが、80年代に突然ガランとした空っぽな感じの音になってそれが特に好みでした。

『Another One Bites The Dust』

(しかしこの時代の洋楽の邦題ときたら……)

クイーンのベース音はシンセベースではないのですが、私はシンセベースの「グニョ」音が好きになります。

そして、グニョッとした低音とヴォコーダー音のコンボである、ビックリするような音と出会うのです。そうです。アース・ウィンド&ファイアーです。

『Let's Groove』


聴くとなんだかもう、ヨダレが垂れてくるんですよ。もちろんモーリス・ホワイトのヴォーカル最高ですよ。けど、「生麦生卵(本当は“WE CAN BOOGIE DOWN DOWN DOWN”)」の音が好きなんです。

ヴォコーダー以外にも好きな音は当然ありました。例えば、吉川晃司の『サヨナラは八月のララバイ』では曲の最初にガラスの割れる音があって好きでした。

『サヨナラは八月のララバイ』


ちなみにこの頃の歌謡曲って、「Aメロの次にBメロが来てそしてサビになる」パターンが多いのですが、これが思春期心に大大大大嫌いだったんです。

この曲ももろにそのパターンなのですが、Aメロはとてもカッコよく感じていました。80年代独特の空っぽな音がしてますよね。

けれど、”サヨナラを切り出すほど強くない〜”と、Bメロに差し掛かると、なんだかすっかりがっかりするのです。

それから家にビートルズのレコードがあったので、小学生の頃から好きでかけてたのですが、曲が好きというよりかは、ジョンのかすれた声とか、息を吸う音や、口につばが溜まってる感じの発語、リップノイズが好きだったのです。密閉式のヘッドホンでその「音」を聴いていました。

思春期に最も痺れた曲として、ジョン・レノンの「ハッピー・クリスマス」があります。最初のささやき声とギターの音がなる前の数秒の「音」で、思春期小僧は痺れたのでした。

『Happy Xmas (War Is Over)』


歌い出しの“So this is Christmas”「ソー・ディスイズ・クリスマス」の「クリ」の発語で、もう痺れマックスです。ちょっとかすれた、引っかかりのある声。

そして、ギターが入ってからのジョンの、少し揺らぐ音程とかすれた声で、痺れ過ぎて泣き崩れました。曲もBメロとかないし。もう生きてられないくらいの、どうしようもない気持ちになったのです。

この気持ち、分かってもらえますか?

悲しいかな今はもうあの頃のように痺れません。思春期に痺れた記憶が蘇って、それでうっとりする感じです。

それから「たまらんわ!」となってしかたがないのがプリンスです。

『When Doves Cry』


イントロでリズム音が「ドカカコ チュチュ ドゥンコ ッコ」と鳴りますよね? この「ドカカコ」の「カカ」という部分の音に痺れて、よだれが出そうになるのです。

ああ、このクオリアを共有してくれる人がいたら本当に嬉しいのに! この「ドカカコ」という音は、曲の全編に渡って流れてくれます。もう本当に「どうにかして!」っていうくらいに痺れていました。

プリンスは痺れる音をよく出してくるんです。ご存知『Let's Go Crazy』ですが、この曲も痺れる音だらけでどうにかなりそうでした。

『Let's Go Crazy』


まず、イントロでオルガンが鳴るのですが、このオルガンの音が微妙に音程が揺らぐのです。まずそこで「クラッ」としますよね? どうですか?

「もうやばい、絶対なんか来る!」って、この時点で分かります。そして、超絶かっこいいリフに入ります。

リフは「ジャージャー ジャージャー ドゥルルーン」ですよね。これが繰り返されます。で、この「ジャージャー ジャージャー ドゥルルーン」のあとに「カラッカ」っていう音が入るんです! 分かりますか?

これでノックアウトです! この音も曲全般に渡って入ります。
痺れて文字通りレッツ・ゴー・クレイジーです。

この音のフェティシズムに、「うんうん分かる!」という方がいてくれるといいなあ。(つづく)


【武 盾一郎(たけ じゅんいちろう)/厨二心を大切に】

iPhone11と第7世代iPadとApplePencil、そしてSonyスマートスピーカーとイマドキの機械だらけ。MacBookAirとiMacもある。なんだか自分でもすごいなあと思ってしまいます。

それも13月世大使館に来ていただく方のため。頑張ろう! ということで12月もオープンします!

◎『13月世のクリスマス展』
日時:2019年12月14日(土)13:00〜18:00
場所:ギャラリー13月世大使館

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