ローマでMANGA[149]サイレントマンガオーディション(SMA)に参加
── Midori ──

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ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺のマンガ事情を通して、特にmangaとの融合、イタリア人のmangaとの関わりなどを柱におしゃべりして行きます。

●SILENT MANGA AUDITION

私が講師をしているユーロマンガコースでは、コアミックス社主宰のサイレントマンガオーディション(SMA)への参加を義務付けている。
https://www.manga-audition.com


その名の通り、サイレント、つまり吹き出しを使わないでキャラの感情を表現するので、演出力を磨くいい訓練になる。

このオーディションは年に二回開催され、その他、番外の「エクストラ」も行われる。ここ数年、少なくもユーロマンガコースが発足してから2年、毎回春の回は3月末日締め切りだったので、そのように授業のプログラムを組んだ。





10月の初めから12月のクリスマス休暇の前までの2か月で、私は既成のmangaのページを使って分析をしてみせ、生徒にも分析させ、演出の目を養わせる。

分析とは、「どのキャラの視線から描かれているか」「描かれている感情は何か」「以上の二点の情報を読者(我々)は、どんな視覚的な材料から得ているのか(何コマ使い、どんな構図を使っているか)」などなど。

その後、課題に従って1から2ページのストーリーボードを作らせ、枚数をだんだん増やしていく。そして、いちいちお直しをして「演出」を体験させ、ストーリーボード作成に慣れさせる。

もう一人の講師は、キャラクターデザイン、キャラの性格付けなどで、キャラに命を吹き込む術を教える。原稿作成に必要な資料集めと、資料をもとに背景作画を体験させる。クリスマス休暇中に物語の案をいくつか出し、そして年明けからSMAの制作に入る……という手順を決めていた。

時折、SMAのサイトを覗いては、来年のエディションの締め切りを確認しようとしたが、そのお知らせがない。ついに見つけたのが11月も終わりに近くなってから。これまでの3月末の締め切りではなく、1月末日! 2か月も早い。

マンガ制作プログラムのクリップスタジオでも、来年1月から募集が始まるコンテストがある。応募受付開始から、締め切りが4月27日と結構時間があるので、そちらに乗り換える、という案も出た。
https://www.clipstudio.net/promotion/comiccontest/ja/


でも、セリフを一切使わない、という演出力を磨くSMAは捨てがたい。無理してでも締め切りに間に合わせる、という体験もいいかも、ということで、2か月早いSMAへの参加を決めた。

コースの生徒だけではなく、「時間があまりない」という条件は、世界中のSMAの参加者も同じ。ゆっくりと体験させるはずだったストーリーボードを、ぶっつけ本番でやることになる。

SMAのエディション発表前に、予定通りの授業をしていたので、2ページのストーリーボードを2編、とりあえず課題としてやることができた。まだ初心者の段階だけど、ともかく始めなければ話にならない。

●ありきたりの物語で大いに結構なのに

まず物語の概要案を出させる。SMAは毎回テーマがあり、今回はユネスコとの協賛で「TOGETHER FOR PEACE」一緒に平和をという、いかにもなテーマだ。

開催側としてはテーマはどうでもいいんだよね。ただ全くの自由にすると、応募側も大海に投げ出されて困るし、審査側も応募作全体にある程度の共通項があった方が比較もしやすい。

テーマを告げると、生徒達はみな一様にあっけにとられた顔。どこから手をつけていいのかわからないのが、ありありとわかる。

「ユネスコで平和っていうと、何か戦争とか大きなものを考えがちだけど、もっと身近なところから考えて。家庭の平和とか、友達同士とか、動物と仲良くとか」

「短編なんだから、複雑な状況は無理。何か傑作を産もうなどと考えないこと。コンテストの主旨は物語の奇抜さとか面白さではなく、いかに人物の感情を表現できるかにあるのだから。ありきたりの物語で大いに結構」ということを、何度も繰り返した。

それぞれ、身近な話題で案を出してきた。一人、身近な(途轍もない壮大なファンタジーではないという意味で)家族の話でとんでもない話を持ってきた。

生徒「両親と暮らす男の子(成人)。母が病気で入院。主人公は母の看病。父が外に女を作って家庭から遠ざかる。母が亡くなり父が女と家に戻る。主人公はこの二人が憎くてたまらない。でね、結末のアイデアが二つあるんだけど。一つは主人公が自殺して、母の元へ行って幸せに暮らす。もう一つは、二人への憎しみが溜まりに溜まって……」

私「え、二人を殺すとか?」
生徒「そう! で、平和を得る」とあっけらかんとして言う。

大丈夫か? それを平和というか? 母が亡くなるまではいいとしても、誰も殺してはいけない、と言った。SMAの応募要項にも「心温まる話、ハッピーエンドでお願いします」と書いてある。

まず、応募要項を自分達で読むように、と言ってある。言われなくてもやるべき事だと思うのだけど、言われてもやらない。自分事じゃないんだね。

どうも、高校を卒業してすぐ来るので、幼稚園からずっとこのかた義務として学校へ来て、その続きの受け身の気持ちでこの専門学校へ通う生徒が多いように思える。言われた課題をそこそこ仕上げて及第点をもらえばいいや、というような。

それぞれ案を決め、まぁ、とりあえず物語らしい形を整えた。これをストーリーボードに落とす。

授業の分析の課題では、皆けっこういい分析をしていた。認識までできた証拠だ。でも、それを応用できない。どうしても行動を中心にコマを進めて行く。それがわかっていたから、主人公の場面場面での気持ちを書き出してみるように言ったけど、誰もして来ない。

これも、やって見せねばならなかったのだと思う。来年への課題。山本五十六連合艦隊司令官の「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。」という言葉はどこでも、どの業界でも通じる名言だとつくづく思う。

ある事柄に対して、誰でもいつでも気持ちが動く。「感情を表現する」という言葉に生徒たちは、「何かを失った悲しみ」とか「思いがけない喜び」とか、ワーワー泣いたりガハガハと笑ったりする、大きな感情しか思い浮かばないのではないかと思う。

みな高校を卒業してこの学校に入って2年。20代の始まりだから経験が少ない、というのもある。あまり自身を振り返る、ということもしてないのではないかと思う。何にも増して、本を読まない。読むべき本も、コースの始まりに提示すべきかしら? 人の感情を上手く描いた小説の類を。

●ストーリーボードのお直し

いよいよ、ストーリーボードのお直し段階に入って来た。まだ全員ではないけれど。行動をベースにコマ運びが進んでいる……という事実を、なかなか理解してもらえない。

コマからコマへ、キャラが動く。何かしてる。顔がアップになったり、横を向いたりしている。キャラが何をしてるのかはわかるけど、どんな気持ちでいるのかは伝わらない。

コマ一個に不安な顔とか驚いた顔で済ませている。それは「感情を描く」とは言わない。「こう言う気持ちです」と、情報を読者に与えたに過ぎない。それでは、読者はキャラと一緒にその感情を生きられない。

行動の羅列から、キャラの感情を表現するために、いらない材料(いらないコマ)を見つけ出して捨てて行く。感情を表現するコマの場所を作るために。

ストーリーボードを早めにあげた生徒は、さっさと原稿描きを始めたがる。時間があまりないから無理もないし、私が他の生徒にかかっている時、彼女は手持ち無沙汰になってしまう。

コースに登録した10人全員が揃う事が珍しく、毎回6人くらいだけれど、どうしても一人にかかる時間が長引いて、手持ち無沙汰の生徒が出て来てしまう。作業が遅れている生徒は別にして。これも来年度は解決策を見つけなければ。

授業時間内ではストーリーボードをじっくり見ることができないので、私のメールアドレスを渡し(何度も黒板に書いている。書くたびに書き写す生徒がいるのが不思議でならない)、書いたストーリーボードを送ってくれるように言ってある。今、授業の翌日、送って来たのは一人。大丈夫かな。


【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師】

・政治家にはまともな政治をぜひしてほしい、と有権者の一人として切に思う。「桜」を国家の一大事とばかり問題にして、忖度などの経緯はなかったとハッキリしている「モリカケ」同様、さらに追及して国会を空転させるつもりの野党さま。

「桜」が無駄使い? 国会1日でどのくらいの国家予算が使われるのかは考えない模様。安倍首相憎しで落としたいなら、「ウイグルやチベット、法輪功の学習者への虐待、民族解放という名の民族浄化(虐殺)の大きな人権犯罪を犯す中国の習近平主席を国賓で迎えるというは如何なものか」と追求すれば、国民の支持を得られるだろうに。あ、野党さまの中には中国様に逆らえない人がいるのか。

・先月に引き続き、また旦那の血圧が下がる事態に。弱々しい声でトイレから私を呼ぶ旦那。また顔色が青白く、便器に座って頭を壁にもたせかけている。血圧を測ると上が65で下が45。先月より酷い。

今回は尿結石の発作ではなく、便秘。またまた土曜なのに(診療時間外)かかりつけの医者に電話をした。酷い急性便秘では血圧が下がることは普通なのだそう。知らなかった。言われたシロップ状の下剤を買って飲ませると、瞬く間に「栓」が抜けた。

普段、お通じの良い人なのに、抗生物質でちょっとリズムが崩れ、また、尿結石の炎症があちこちに影響を与えるとのこと。前回と今回の発作の合間にした血液検査の結果、前立腺にも炎症が出ているのがわかった。炎症って怖いのね。

[注・親ばかリンク] 息子のバンドPSYCOLYT (このバンドは解散。最近新しいバンドを組んでレパートリーを増やしてるところ)


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MangaBox 縦スクロールマンガ 「私の小さな家」
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主にイタリアのレストラン情報のブログを書いてます。
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