[4936] 古典となった写真家の文章◇Apple Pencilの代替ペン先を使ってみた

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《「カチカチ」が「ボンボン」になる》
 
■日々の泡[025]
 古典となった写真家の文章
 【ちょっとピンボケ/ロバート・キャパ】
 十河 進

■グラフィック薄氷大魔王[640]
 Apple Pencilの代替ペン先を使ってみた
 吉井 宏
 
 



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■日々の泡[025]
古典となった写真家の文章
【ちょっとピンボケ/ロバート・キャパ】

十河 進
http://bn.dgcr.com/archives/20200122110200.html
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写真家の名前などまったく知らない人でも、ロバート・キャパだけは知っているという人は多い。なぜ、それほどキャパの名は知られているのだろう。僕は長く写真雑誌の編集者をしていたので、多くの写真家の作品を見たけれど、キャパの作品は特別優れているというわけではなかった。

もちろん写真作品には様々なジャンルがあり、記録性よりアート性を優先するものもあるし、現実のシーンをスナップ的に写し取る作品もあれば、画面の隅々まで作り込んで撮影する作品もある。キャパの作品は記録性が重視されるもので、初期のトロツキーの演説の写真など相当な歴史的価値がある。

キャパが一般の人々の心を捉えるのは、戦場カメラマンであったこと、最後には地雷を踏んで死んでしまったことなどから、ある種のロマンを感じるからではないだろうか。彼の年上の恋人だったゲルダ・タローも、スペイン戦争の時に戦車の下敷きになって死んでしまった。

キャパと言えばスペイン戦争での「撃たれて崩れ落ちる兵士」の写真が有名だが、沢木耕太郎さんが「キャパの十字架」で疑義を呈しているように、撮影者はゲルダ・タローで兵士は訓練中に滑っただけ、というのが真相なのかもしれない。「キャパの十字架」は大変に面白いノンフィクションで、沢木さんの実証的な追跡がスリリングでさえある。

キャパとゲルダは共にスペインに入り、戦場の写真を撮り、撮ったフィルムを未現像のままパリの通信社に送った。その中の一枚が「崩れゆく兵士」で、キャパの知らないうちに配信されて世界中の雑誌に掲載された。パリに戻ってみると、キャパの名は一躍有名になっていて、彼もゲルダも戸惑ったことだろう。

僕がキャパの「ちょっとピンボケ」を読んだのは、十五歳の時だった。ロバート・キャパという名前を誰かに教えられ、筑摩書房(だったと思う)の世界ノンフィクション全集の一冊に入っていたのを読んだのだ。図書館で借りた本だった。

「ちょっとピンボケ」の中に登場する「ピンキー」と呼ばれたキャパの恋人のことが、僕の頭の中に残った。「ピンキー」という呼び名がニックネームだとはわかったが、どういう意味なのかははかりかねた。翌年、「ピンキーとキラーズ」が登場し、「恋の季節」を大ヒットさせるのだけれど、ますます「ピンキー」の意味がわからなくなった。

キャパはゲルダ・タローの死に打ちひしがれていた時、オランダ人の映像作家ヨリス・イヴェンスに誘われて日中戦争の現場を取材している。日本軍の爆撃で死んだ中国人、呆然とする人々の写真が残っている。キャパが撮影に協力したイヴェンスの記録映画「四億」は、ニューヨークで公開された。当時、歌われたように「支那にゃ四億の民が」いた。

ちなみに、ゲルダ・タローもロバート・キャパも本名ではない。ゲルダ・タローの「タロー」は戦前にフランスで美術の勉強をしていた岡本太郎と知り合い、その語感が気に入って「タロー」と名乗ることにしたのだ。キャパは毎日新聞社パリ支局の仕事をしたり、日本人留学生と同居したり、その頃から日本と縁があった。

さて、僕は「キャパの遺言」という小説で第62回江戸川乱歩賞の候補になったので、それを書くためにキャパについては改めて詳しく調べてみた。特に昭和13年に中国大陸にいたこと、昭和29年に毎日新聞社の招きでひと月ほど日本にいたことが僕の小説の着想の元になっているので、その時期についてはかなり資料を読み込んだ。

キャパはインドシナの戦場で地雷を踏んで死ぬのだが、それはライフ誌派遣のカメラマンがアメリカへ帰る用事ができ、誰か別の人間を送らねばとなったとき「おお、ちょうどキャパが日本にいるぞ」というので、急遽、インドシナへいってくれないか、とライフ誌から依頼されたからである。

ところで、僕の「キャパの遺言」は最終候補の4作品に残ったけれど、選考委員の湊かなえさんには「ノンフィクション部分が面白い」と書かれ、今野敏さんには「事実が書きたいのならノンフィクションを書けばいい」と評され、受賞は佐藤究さんの「QJKJQ」に決まった。

そんなこともあって、「キャパ」と書くといろいろ複雑な思いもあるのだけれど、「ちょっとピンボケ」を初めて読んだときの印象は今も鮮やかで、もっと文章を残してくれればよかったのにと思う。写真家で名文家といえば藤原新也さんが思い浮かぶけれど、「ちょっとピンボケ」も写真家が書いた古典としてずっと残るだろう。

ところで、ゴタールの「気狂いピエロ」で「映画って何?」と訊いたジャン=ピエール・ベルモンドに、「映画は戦場だ」と答えたアメリカの映画監督サミュエル・フラーの膨大な自伝を読んでいたら、ロバート・キャパの写真に一兵士として写っているフラーが掲載されていた。

すでに何冊か小説を出版し、また映画監督として名を成していたサミュエル・フラーだったが、第二次大戦にアメリカが参戦すると、志願して歩兵となる。ヨーロッパ戦線に派遣され、様々な経験を積んでいく。彼の第一歩兵大隊は「ビッグ・レッド・ワン」と呼ばれ、その勇敢さをうたわれた。その歩兵たちの写真を、ロバート・キャパが撮っているのだ。

キャパは従軍カメラマンとして、ノルマンディー上陸作戦に参加する。兵士たちと一緒に上陸用舟艇に乗り、ノルマンディーの海岸に飛び降りる。そのときのブレた兵士の写真は有名だが、これも未現像フィルムをロンドンに送ったときに技師が現像に失敗し、数枚の写真しか残らなかったという。

サミュエル・フラー監督は自分の体験をベースにして「ザ・ビッグ・レッド・ワン」という小説を書き、後に映画化した。日本では「最前線物語」(1980年)として1981年1月に公開された。

リー・マーヴィンが演じる古参の軍曹とマーク・ハミル(スターウォーズで人気者になった直後)などの新兵たちが戦いの中で成長する物語だった。「最前線物語」のヤマ場は、やはりノルマンディー上陸作戦だった。


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■グラフィック薄氷大魔王[640]
Apple Pencilの代替ペン先を使ってみた

吉井 宏
http://bn.dgcr.com/archives/20200122110100.html
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昨年書いた「『弾力』の点で決定版になりそうなApple Pencil用サードパーティ製品をいくつか試した」の件です。

Apple Pencilのペン先カバーや、代替ペン先ってものがあるのを、先日まで知らなかった。

iPadのガラスに樹脂のペン先は「カチカチツルツル」。こんなの描けるわけないじゃん! って、ビニールを貼ったり、ペーパーライクフィルムをいっぱい買い込んだり、ペン先にエポキシ接着剤をつけて硬化させたり、いろいろ試してたけど、うまくいかない。

ツルツル対策的にはWACOM Cintiqなど、液タブでもさんざん試したけど、標準で用意されているフェルト芯やエラストマー芯はそこそこ使えた。iPadでも、誰かエラストマー製とか、いろんな素材でApple Pencilのペン先作ってくれないかなあとか思ってたら、すでにいろいろ出てたのだった。

◯3種類買って使ってみた感想。シリコン製のペン先カバー2種と、代替ペン先1種(商品名が長いw 特徴の列記で、ある意味わかりやすいので、下にそのままコピペした)。

http://www.yoshii.com/dgcr/Pencil-IMG_2409

・ペン先カバー

PZOZとIUGGAN、両方とも薄いシリコン製のキャップ。PZOZのほうが薄い。Apple Pencilの先端に密着するように被せて使う。ちゃんと装着すれば、描いてる最中にズレたり外れたりすることはない。

書き味は、「薄いシリコン越しに硬いガラスにペン先が当たるとどうなるか?」の予想そのままだった。フニャフニャと頼りない感じ。「カチカチ」が「ボンボン」になる。iPad登場直後に流行した、黒い導電スポンジのタッチペンにも似た感触。

摩擦は大きい。手を大きく動かして描くときは導電スポンジペン同様、なかなか良い感じ。ざっくりと勢いで力任せにドローイングするには向いてると思う。しかし、細かい動きはツライ。摩擦が大きくてペン先が動かしづらいのだ。

どちらも書き味はほぼ同じだけど、どちらかというとPZOZのほうが薄い分描きやすいかも。シリコン素材はちょっと柔らかすぎる印象。もう少し硬いエラストマーか、ポリエチレン的な素材だったら付けっぱなしで使って具合いいかもしれない。

・代替ペン先

白→黒になるだけでペン先の外観は同じ。標準のペン先を外して交換する。書き味は標準ペン先とそれほど違わないような気もするけど、標準ペン先の「ガラスにクククッと吸い付き、弾力で摩擦が生まれる」的なものがなく、乾いた感触。柔らかい樹脂を使ってるようで、摩耗が早いとのこと。

イマイチかと思いきや、ペーパーライクフィルムを貼って描くと、標準ペン先より素直な安定した摩擦になる。フィルムを貼ってる人は試す価値アリかも。(パッケージに不思議な折り紙が入ってた。どうもハートらしいw)

・「PZOZ Apple Pencil ペン先 アップルペンシル 2 保護 カバー 第1世代/第二世代 ペン先 つけペン 超薄 tips 脱着简单 摩擦を増やす 静かな 滑り止め 6個入り(グレー)」

https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B07WG6N97C/dgcrcom-22/

・IUGGAN Apple Pencil ペン先 カバー アップルペンシル 保護 ケース ペン先スリーブ 8個入 柔らかい 滑り止め 静かな 超薄 脱着簡単 書き込み摩擦を増やす ペンの摩耗を防ぐ キャップ 第1世代 第2世代 適用

https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B07X3QP65X/dgcrcom-22/

・吉川優品 Apple Pencilチップ 2個入り Apple Pencilペン先 【柔らかい 書き心地が良い】第1世代 / 第2世代 Apple Pencilに対応 保護フィルムに適用 アップルペンシル専用ペン先 Apple Pencilにぴったり Pencil Tips 交換用 予備の先端 iPad Pro/iPad Air 3th /iPad mini 5thに対応 ブラック

https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B07RQTP8HY/dgcrcom-22/

まあ、「サードパーティのアクセサリやプラグインで小細工するよりデフォルトで使いたい」という性分なので、期待せずにちょっとだけ試すというスタンス。気が向いたら他の製品も買って試してみるつもり。


【吉井 宏/イラストレーター】
HP  http://www.yoshii.com
Blog http://yoshii-blog.blogspot.com/

以下、載せるタイミングをはずしそうなので先に載せちゃう小ネタを2つ。

●液晶タブレット「WACOM ONE」

安っ! Cintiq 16も安かったし。本気で格安液タブメーカーと勝負しようとしてるな。小さいけど気軽なピンポイント使用には良さそう。僕的には板タブメインでの補助的使用に。スマホやタブレットとも連携できるのも面白い。細いケーブル一本なのが良い。パソコン側もUSB Type-C一本になってくれたらなあ。iPadでできてるんだから、可能っぽいのになあ。

https://www.wacom.com/ja-jp/products/pen-displays/wacom-one

●Adobe Illustratorのブラシに「筆圧」が設定できない件

Illustratorのブラシサイズを筆圧で可変にできない! 2Dイラストのサンプルを描いてみようと意気込んだのに、ぶち当たったこの問題。

WACOMドライバのアプリケーション欄にIllustratorを追加して、あらためて起動すると「筆圧」が選べるようになる。Facebookで外国の記事を教えてもらったのがヒントに。

http://www.yoshii.com/dgcr/AI-hitsuatsu-3

○吉井宏デザインのスワロフスキー

・三猿 Three Wise Monkeys
https://bit.ly/2LYOX8X

・幸運の象 LUCKY ELEPHANTS
https://bit.ly/30RQrqV


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編集後記(01/22)

●偏屈BOOK案内:
北尾トロ「なぜ元公務員はいっぺんにおにぎり35個を万引きしたのか」

こんな長い(しかもマヌケな)タイトルの本、初めて出会った。PRESIDENT Onlineで月間5000万超PVの人気連載「北尾トロのビジネスマン裁判傍聴記」から選抜した33話。第1章「ビジネスマン裁判傍聴記」は、お金、女・酒・薬、小事件、情欲、被告人を助ける人々の5ジャンル、19本の傍聴記がある。

第2章「法廷の人に学ぶビジネスマン処世術」は、被告人(表情・外見)、被告人(言い訳・答弁)、弁護士、裁判長、検察その他の5ジャンル、15本の傍聴記。ここでは被告人や法曹関係者のことばや態度から、ビジネスシーンで使えそうなポイントを選び観察した。口調や表情のすべてが情報の宝庫だった。

本のタイトルにもなった「元公務員がなめた苦渋“おにぎり35個万引き男”の真相」とは? ワクワク。被告人は無職(自ら公務員をやめた)43歳・男性・罪名は窃盗。早朝のコンビニで店にあるおにぎりをありったけカゴに入れ、そのまま店を出て行こうとして捕まった。所持金は147円。「4日間何も食べずにいてもう限界だったんです」って、35個(約5000円相当)はないでしょう。

裁判長は「あまりに大胆すぎないですか?」と問う。現行犯逮捕されて刑務所に入りたくて、わざと目立とうとしたのではないかと疑っているようだったが、被告人は路上生活中で、盗めるだけ盗んでおこうという気持ちが働いたと言い張った。同じような路上生活者に売る考えはなかったのか、との問いに「それはないです。やろうとしても取られるだけですから」。そりゃそうですわ。

被告人は三つの大学を卒業している。市役所に勤め、勤務態度は真面目で、手話通訳もできてやる気のある職員だった。なぜ安定した生活から転落して、路上生活者になったのか。障害者福祉を担当していたが、そこは路上生活者など社会的弱者を食い物にして儲けようとする、法律の穴を狙ったタチの悪い連中が集まる場所だった。理想と現実との間の激しいギャップが彼を苦しめた。

福祉の現場で味わった絶望感は大きく、彼は公務員を辞め、手話通訳で直接ろうあ者の力になろうとした。ところが、仕事は暴力団がらみばかりだった。そんな連中に利用されて食べていくのに耐えきれず、せっかくの技能を封印し、結局路上生活者に堕ちた。被告人は心の優しい“いい人”なのだ。だからこそ悩み、うまく立ちまわれず、矛盾だらけの世の中で生き方を見失ったのだ。

この「自分を曲げない生き方」に裁判所中が心を動かされた。論告で検事は型どおりの責め文句を連ねたが、ルールだから仕方ないんだという雰囲気ムンムンでおざなりに6か月の求刑。弁護人も同じで、執行猶予がつかなかったらただではおかないという気迫。それを受けた裁判長は判決を下す。求刑通りの懲役1年6か月、執行猶予3年。やさしい激励の言葉を添えた。いい話であった。

被告人は土壇場で言い訳を連発するほど大損する。見苦しい、責任転嫁だ、反省してない、などと思われる。基本はイエスかノーでいいのだ。“負けて勝つ”ための執行猶予付き判決を得るためにも、言い訳してはならない。筆者はいまだかつて、裁判で被告人の言い訳が奏功した場面を見たことがない。よく分かる。家庭内裁判の言い訳でドツボにはまるわたしには、よく分かる。(柴田)

北尾トロ「なぜ元公務員はいっぺんにおにぎり35個を万引きしたのか ビジネスマン裁判傍聴記」2019 プレジデント社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4833423359/dgcrcom-22/


●「リード プチ圧力調理バッグ」を買ってみた。材料と調味料をこのバッグに入れて、数分チンするだけで料理ができる。バッグは冷蔵冷凍ができるので、作り置きにも向いている。

フリーザーバッグの真ん中に、空気穴があって、膨らむとそこから少しだけ空気が逃げて爆発しないようになっている。蒸気で圧力がかかるため、加熱ムラが少ないとのこと。この方式は、冷凍食品で見たことがあった。

パッケージの中には説明書とともに、レシピが入っていた。サイトにも紹介されている。

失火や、服への燃え移りのことを考えると、独り暮らしの高齢者には、こういう便利なものはアリじゃないかなとふと思った。一人分だけ調理するのって、食材が余るし面倒だし。(hammer.mule)

リード プチ圧力調理バッグ
https://reed.lion.co.jp/pressurebag/

レシピ
https://reed.lion.co.jp/search/reed8_1.htm

リード プチ圧力調理バッグ 3個パック
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B079Q97YTF/dgcrcom-22/