まにまにころころ[171]ふんわり中国の古典(論語・その34)非効率ですが、それが礼というもの。
── 川合和史@コロ。 Kawai Kazuhito ──

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コロこと川合です。NHK大河ドラマ『麒麟がくる』、ようやく始まりましたね。

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昨日が第二回。松永弾正の計らいで鉄砲を手に入れた光秀、火事の一件で懇意になった医者の望月東庵らと美濃へと戻りますが、その美濃には織田信秀軍が迫っていて……というお話らしいですね。ええ、まだ初回しか観ていません。

初回を観て、何よりもまず視聴者が驚いたのはおそらく、色。目に痛い画面!4Kとの絡みで色の設定に失敗しているとの噂ですが、まあとりあえず仕方ない。そのうち慣れると信じて、そこはひとまず諦めます。

色味に目をつぶされ、もとい目をつぶれば、あの時代のこと、面白いポイントはいくらでもでてきます。なんといっても日本史に出てくるメジャー級の人物が、次から次へと登場しますから。





まずは美濃のマムシと名高い斎藤道三。美濃は土岐氏の国ですが、その実権は守護代である斎藤道三が手にしています。光秀は土岐氏の親戚筋、斎藤家とも縁続きの説が採用されています。

旧来、道三が油売りから成り上がり、下克上を果たしたと言われてきましたが、今回の大河では道三の父からの二代で成り上がったという説を採用しています。油売りから身を立ててという、道三の前半生とされてきた部分は父の話に。

初回放送ではまだ土岐頼芸も健在ですが、ほどなく道三に追われる身に。で、頼芸は織田信秀を頼るわけです。その後二転三転で結局は力を失いますけども。

織田信秀は、言わずとしれた信長の父。一進一退しつつも信長へと続く基盤を作り上げたやり手です。こういった顔ぶれからも分かるように、今回の大河は、三英傑が表舞台に出てくる少し前の時代から始まっています。

光秀の生年ははっきりしないのですが、信長よりもかなり年上説が採用されている感じですね。先ほどから、説が説がと連発していますが、あやふやなことが多いんですよ、今回の大河周辺は。謎の多い人物だらけ。

謎で言えば、濃姫こと帰蝶もそう。沢尻エリカだと思っていたら川口春奈に、なんて話もぴったりな役どころかも知れません。信長の正妻として有名ですが、信長に嫁ぐ前に土岐氏のほうにも政略結婚で送られていて、信長とは再婚との説が採用されています。生涯の大部分が謎の女性です。

あと初回から登場した中で外せない人物といえば、松永久秀。紹介しきれないほどのエピソードを持つ怪人ですが、なんと言っても有名なのは、その最後。信長に茶器を差し出すのを拒み、茶器を抱いて爆死したと言われています。

果たして松永久秀は爆死するのかと、今から注目されています。(笑)

この時代、まだまだ話は尽きないのですが、個人的には何が面白いかというと、出てくる舞台のほとんどが行ったことある土地でして。

光秀が主に活動していたのは、岐阜、愛知、福井、京都、滋賀、あとは大阪や奈良、兵庫と、だいたいが関西なので、馴染み深いんです。

もっとも、家康が歴史の舞台を東に持っていくまでの時代は、だいたいそうなるわけなんですけどね。それでも真田幸村だと長野、黒田官兵衛だと福岡、井伊直虎だと静岡、武田信玄に上杉謙信だと長野と新潟、伊達政宗だと宮城と、同じ戦国時代でも主役次第では馴染みの薄い土地も出てくるので、だいたいが関西にまとまる明智光秀はありがたい。聖地巡礼もはかどるというものです。

その中では岐阜がいちばん遠くて馴染みがないので、放送序盤のうちに一度はふらっと行ってみたいものです。岐阜城(稲葉山城)あたりにでも。

この岐阜、名前を付けたのは織田信長であるとの説が有名で。岐阜の岐は、周が殷を打ち破った時に鳳凰が舞い降りたとされる岐山から。岐阜の阜は、孔子生誕の地である曲阜から、と言われています。

ええ、とりとめのない話がなんとか論語に近づいたので、ここからは本編へと移りたいと思います。


◎──巻第五「郷党(きょうとう)第十」十一

・だいたいの意味
他国の人を訪ねさせる際は、使者を再拝して送り出す。

巻第五「郷党第十」一について

使者の背中越しに、訪問先に礼を尽くすんですね。もちろん、遙か彼方の訪問先からは見えるはずもないんですが、それが礼の心というものです。


◎──巻第五「郷党(きょうとう)第十」十二

・だいたいの意味
季康子が薬を(孔子に)贈られた。孔子先生は拝してこれをいただきつつ、私は薬には通じておりませんので口にするのは差し控えますと仰った。

──巻第五「郷党第十」十二について

もらっておきながら慎重な孔子先生。一説では、食べ物を贈られた時はその場で口にしてから礼を述べる習わしがあって、でも今回は薬なのでそれはやめておきますね、という話だとのことです。

次の次に、まず口にして云々という話がでてきます。


◎──巻第五「郷党(きょうとう)第十」十三

・だいたいの意味
厩(馬小屋)が焼けた。孔子先生は朝廷から下がり戻って「人に怪我はなかったか」と仰った。馬のことは問われなかった。

──巻第五「郷党第十」十三について

ここだけ少し、口調を変えて書いてまいります。

えー、話自体は説明不要、さすが孔子先生、立派なお方という話でございます。このエピソードは日本でも大変有名なもので。と申しますのも、落語のネタに厩火事っていう話がございまして、その話の中でこの話が出てまいりまして。

昨年のいだてん、かなり前ではタイガー&ドラゴンと、落語の出てくるドラマの中でも、この厩火事にひっかけた話が出ておりました。

時は明治、おサキさんという髪結いがおりました。髪結いの亭主、なんて言葉がございますが、まさにその通り、このおサキさんの亭主ときたらおサキさんの稼ぎで昼間っからだらだら遊んで酒ばかり飲んでいる。

今で言うヒモというやつですな。

おサキさんのほうから惚れて一緒になった年下の亭主ですが、遊んでばかりの亭主を相手に喧嘩が絶えない。年がら年中喧嘩をしては、そのたびに仲人の所へ愚痴を持ち込むおサキさん。

もう我慢できないわ。

だったら別れちまいなよ。

でもあの人にもいいところだってあるのよ。

しらねえよ、よせと何度も言ったのに、なんであんなのと一緒になったんだい。

だって寒かったんだもの。

なんて、そんなやりとりが毎日毎日、のべつ続くもんですから、仲人もさすがに疲れて、一度あいつの了見を、あいつがお前さんをどう思っているのかってのを、試してみるってのはどうだい、と、おサキさんにこんな話を聞かせます。

昔、もろこしの国に、孔子先生という偉い学者がいて、その先生は馬が好きで、白い愛馬をことのほかかわいがられていた。世話を怠るなと日頃から家の者にきつく仰る孔子先生。ところがある日、馬小屋が火事にみまわれた。

火事と聞いて出先から飛んで帰った孔子先生、開口一番!

みなの者、怪我はないか! 無事であるか!

馬のことなどひと言も申されない。

一方こちらは日本、麹町のさる殿様のお話だ。

あら、サルの殿様なんて珍しい。

サルじゃねえ、話の腰を折るんじゃないよ。

この殿様、たいそうな瀬戸物好きで、中でも特に大事にしていた高価な大皿があった。ある時、その皿を運んでいた奥方が、階段を降りる時に足を滑らせ、がらがらどしーん。あわてて階下を覗いてこの殿様!

皿は無事かー! 皿は割れてないかー! 皿はどうしたー!

ほどなく奥方に三行半を叩きつけられたってえ話だ。

あら、うちの亭主も瀬戸物好きで、大事にしている茶碗があるわ。

そうだ、そこでだおサキ。お前さん、亭主の前でその茶碗を割ってみろ。怪我はないかと心配するか、茶碗の心配をするか、試してみるんだよ。それで茶碗を心配するようなら、今度こそすっぱり別れちまいな。

そう聞いたおサキさん、さっそく家に帰りますと、いまだ不機嫌なままの亭主を尻目に茶碗を取り出し、あっ、と手を滑らせた振りをして、がしゃーん!

おい、おサキ! 大丈夫か! 指切ったりしてねえか! 怪我はねえか!

……よかった、あんたはもろこしだ、麹町のサルじゃなかったよ。

何を言ってやがる、怪我はねえのか。

ああ、怪我はないよ。お前さん、茶碗より私のことを心配してくれるんだねえ。

当たり前じゃねえか。お前に怪我なんぞされちゃ、明日から遊んで暮らせねえ。


◎──巻第五「郷党(きょうとう)第十」十四

・だいたいの意味
主君から食べ物を賜れば、必ずきちんと座を正して、まず少しこれを口にする。主君から生肉を賜った場合は、必ずこれを煮て、祖霊に供える。主君から生きたまま賜れば、必ずこれをそのまま飼育する。

──巻第五「郷党第十」十四について

飼うんだ……(笑)


◎──巻第五「郷党(きょうとう)第十」十五

・だいたいの意味
主君について食事をする際は、主君がその食事を取り分け祀られるのを見て、先に口にする。

──巻第五「郷党第十」十五について

前回、「郷党第十」八で、

粗末なご飯、野菜汁、瓜といえども、祭祀で捧げる時は必ず敬虔な態度で扱う

という一説がありましたが、きちんとした食事の際は、まず最初にその一部を取り分けて祈りを捧げる儀式があったそうです。それを食として口にした古の先人に対する感謝だそうで。

主君と食事を共にする際は、まず、主君がその儀式を行う。続いて、下の者が先に食事に手を付けるのが作法。毒味の意味があったのではないかとのこと。

現代では普通、目上の人が箸をつけるまではじっとステイですよね。


◎──巻第五「郷党(きょうとう)第十」十六

・だいたいの意味
病気の時、主君が見舞いに来られたら、東枕にして、朝服をかけて、礼装の帯をさらにその上にかける。

──巻第五「郷党第十」十六について

病気で寝てるけど気持ちは出仕してるんだよ的なポーズですね。

朝服に着替えて横になるという説もありますが、病気で寝てれば、掛け布団か何かは体にかけたいですよね。服着て布団かけて帯かけて、ってのもちょっと不自然だと思うので、やっぱ布団の上から朝服と帯をかけるんじゃないかと。

どうでもいいですが。


◎──巻第五「郷党(きょうとう)第十」十一

・だいたいの意味
主君の命で召されれば、馬車の用意が整うのを待たずに出発する。

──巻第五「郷党第十」十一について

準備ができた馬車は後から追いついて乗せるんで、到着時間は変わらないんですけども、一刻も早く向かおうとする姿勢が礼の作法なんですね。

非効率ですが、それが礼というもの。気持ちが大事です。

さすがに今時ここまでのことは誰もしないですが、そういった気持ちは忘れず大切にしたいものです。

現代ではこういうものを時代錯誤だナンセンスだと馬鹿にするのがかっこいいとする風潮さえありますが、効率化はともかく、気持ちや想いをないがしろにする態度がかっこいいとは思えません。

無駄と一緒に心まで省いていては、いつか自分の存在も省かれる日が来るかと。無駄を省くのはいいですが、その無駄を馬鹿にするような態度は慎みましょう。


◎──今回はここまで。

厩火事の話がずいぶん長くなってしまいました。落語は元々好きなんですが、最近は講談にハマってまして、落語なのにどこか講談調で書いてみました。

共に話芸として親しまれる落語と講談ですが、講談はその名の通り、元々は、軍記物などの物語を語って聞かせるもので。いわば、今で言うオーディブルのはしりだと言っても過言では、うん、ちょっとしか過言ではないでしょう。

ここ数年、ラジオやテレビでも活躍する神田松之丞が大人気で、講談にスポットが当たっています。来月には六代目・神田伯山を襲名する新進気鋭の講談師で、その講談は誰が聞いても面白く、まさに逸材だと思いますので、ぜひどこかでチェックしてみてください。

あ、講談はまさに名人芸ですが、トークはまさにゲスの極みですので、講談のほうをくれぐれも是非。(笑)

面白いと思ったら他の講釈師にも食指を伸ばしてみてください。私はそうして、すっかり講談にハマってしまい、毎日のように誰かの何かを聴いています。

講談についてはここからまだまだ延々と話し続けたいところであるのですが、残念ながら、お時間となってしまいましたので、本日はこれにて。


【川合和史@コロ。】koro@cap-ut.co.jp
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