わが逃走[254]オモシロイ被写体の巻 その1
── 齋藤 浩 ──

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尾道に行ってきた。
尾道にはオモシロイ被写体がたくさんある。

というよりも、もしかしてこれはオモシロイ被写体なのではないか? と思える風景や物件であふれている。

ちなみに、オモシロイか否かは誰かに決めてもらうのでなく、自分で決めるのだ。「何事に対しても積極的にオモシロがり、人と違うことをしなさい」と大学時代の恩師・コタニ先生は言う。言語化されると明快だ。





他人が決めた名所旧跡を、他人と同じ角度で撮っても無意味なのである。皆が通り過ぎる場所に立ち止まり、皆が見上げている場所で足元を観察する。ツマラナイものも、角度を変えたり、寄ったり引いたりしてみると、
意外な発見があるものだなあ、とつくづく思う。

タモリ倶楽部の名投稿人・高橋力さんは、空耳探しのコツについてこう語っていた。「外国語の歌を日本語だと思って聴くのです」。

オモシロイ被写体探しにも、同じことが言えると思うのだ。

たとえば階段を彫刻として見る、洗濯物をインスタレーションとして見るよう意識するだけで、今見ている世界が全部美術館になるのだ。

中でも、とくに優れた作品を展示しているのが、瀬戸内方面。とくに尾道。という気がしている。気がしているだけなのだが、私がそういう気になって、かれこれ30年が過ぎた。

そこで、先月もカメラ片手に1泊2日の旅に出て、写真を撮ってきたので見てください。


早朝の新幹線で出発、尾道に着いたのは朝の10時半。

初日はレンタカーを借りてしまなみ海道を往復し、翌日はひたすら山手を歩くこととした。

天気は快晴。向島まで船で渡り、しまなみ海道で一気に大三島へ。青い空に青い海。景色が穏やかだと、心も穏やかになる。ちなみに生口島までは広島県尾道市で、大三島から先は愛媛県今治市です。

昼メシの後、海に沿って島を一周しつつ気になる物件を探す。
こ、これは!

https://bn.dgcr.com/archives/2020/02/13/images/001

子供の頃、誰もがこの“顔”に恐怖を感じたのだ。うーん、久々に見たが今でもコワイ。コワくてこれ以上近寄れない。副葬品として使うと泥棒よけになるのではあるまいか。

そういえば、笑っているように見えるハニワ、実は墓荒らしに対する威嚇の表情なのだと聞いたことがある。我々にとってかわいいと思える表情も、古代人にはこのように見えていたのだろう。

さて、さらに海沿いをゆくと、クリストの新作! と思われるようなアートが出現した。

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モノクロでコントラスト強めに仕上げると、雪山のようにも見える。実際、雪山のように見えたのだが。

この写真は、ここ数年に撮った写真の中でいちばんイイな、と思っている。

暖かい日差しのもと、瀬戸内海をバックに、なんじゃこりゃ! な唐突感。たぶん、この写真を見せられた人のほとんどは、なんの写真だかわからないだろう。

撮ってる本人が、なんじゃこりゃ! な訳だから、わからなくて当然なのだ。むしろ、わからないことが伝わればしてやったり、なのである。

どうやらこれは、柑橘類を守るためのシートのようだ。カラーで見ると、こんな感じだ。

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もともとこの写真はモノクロで仕上げるつもりで撮ったので、カラーだど、やはり説明的になってしまう。タネ明かしているみたいで、ツマラナくなるのだ。

デジカメの光学ファインダーを覗きながらモノクロ前提に撮る、ということはフィルム時代のように、モノクロフィルムを詰めているという意識が撮影時に必要になってくる。

モノクロ変換された液晶モニターを見ながら撮るスタイルを、否定するつもりはないが、鮮やかな光学ファインダー越しに無彩色の世界をイメージしてシャッターを切る方が、オモシロイ写真が撮れるから不思議だ。

趣味の写真は依頼仕事じゃない。ということは、「失敗」することなど絶対にないのだ。だったらカメラはすべてを提示せず、少しくらい撮影者に想像の余地を残してくれてもいいじゃないか。とも思う。

さらに海沿いの道をゆく。西側からの日差しが眩しい。あっ! いま通り過ぎた橋の向こうにフシギ物件が見えたぞ!! すみやかに車を脇に停め、カメラを持って道を駆け戻る。そこには、いとあはれな風景が。

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美学! 水のない川。船上に寝転んで潮が引くのを待ち、着底の瞬間を背中で感じたい。

島の人にしてみれば当たり前の風景なんだろうけど、訪れた地の当たり前と、自分の当たり前の対比こそ、オモシロがる価値があるのだ。

そして、さらに行く。
冬の海水浴場に、冬のシャワーが。

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私は趣味で全国各地の構造美をみつけてはオモシロがっているわけだが、実態よりも影をオモシロがることも少なくない。

影を見ると、その実体はどんなかたちなのか? とつい想像するでしょう。するんです。

フレームの外をイメージしてもらうためにも、影を積極的に画面に取り入れるという手はアリだよなあ、と思う昨今である。つづく。


【さいとう・ひろし】
saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。