映画ザビエル[89]ちょうど良い二流感
── カンクロー ──

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◎作品タイトル
コードネーム U.N.C.L.E.

◎作品情報
原題:The Man from U.N.C.L.E.
公開年度:2015年
制作国・地域:アメリカ、イギリス
上映時間:116分
監督:ガイ・リッチー
出演:ヘンリー・カビル、アーミー・ハマー、アリシア・ヴィキャンデル、
ヒュー・グラント

◎だいたいこんな話(作品概要)

1960年代の東西冷戦下、アメリカのCIAに所属するナポレオン・ソロと、ソ連KGBの工作員イリヤ・クリヤキンは、東ドイツで重要人物を確保するために敵対していた。

その人物とは、テロ組織によって核開発に利用されているウド・テラー博士の娘ギャビー。彼女を無事手中に収めたナポレオン・ソロは、上司からの命令で、ベルリンでは敵だったイリヤ・クリヤキンと手を組み、核爆弾を完成させたテロ組織と闘うためにローマへ向かう。

プレイボーイで元泥棒のナポレオンに対し、女性に奥手で無骨なイリヤは、ことごとく対立しながらも、互いにズバ抜けて優秀な工作員であることを認め合うようになる。しかし、重要人物とは言え、ただのエンジニアだと思われたギャビーには裏の顔があり、ナポレオンとイリヤは窮地に立たされることになるのだが。

1960年代に、スパイものとして人気を博したTVシリーズ「0011 ナポレオン・ソロ」のリメイク映画。





◎わたくし的見解/シュッとしてはる人達

「スパイ大作戦」のリメイク作品「ミッション:インポッシブル」シリーズが設定を現代に置き換えているのに対して、本作は時代設定を当時のままにファッションも車もスパイ道具までも、レトロ感を楽しめるものになっている。

とは言え「ミッション〜」シリーズも「007」シリーズも、スパイ道具に関しては、あえてのレトロ感を演出している部分がある。往年のスパイものへの憧憬であったり、ファンサービスなのだろう。

そういった「はい、ドバイ! 次は、アゼルバイジャンへっ」と世界を華々しく飛び回る王道のスタイルから、一時期、脱却を図る作品が主流になった頃があった。

「ジェイソン・ボーン」シリーズなどの、質実剛健タイプである。漫才コンビ金属バットのネタで、星のカービィー似の可愛い女の子が爪楊枝一本で戦車を倒せるというものがあるが、それと近い。

ランボーはサバイバルナイフ一本から始まるが、それさえ持たず、ほぼ素手から銃器を携えた連中を制圧する卓越した技術(多くの場合、悲しい過去の中で訓練が行われている)を楽しむ系統の作品群だ。

総合格闘技のようなもので、時に地味だが特有の面白さがあり、私も好きだ。しかし、年を重ねるうちにプロレスの良さも身にしみてきた。華々しく演出された少々わざとらしい格闘も、一周回って楽しくて仕方がない。

往年のスパイものの系譜にある作品には、プロレス的な決まりきった展開への安心感と、エンターテインメントを享受できることへの満足感がある。

本作はプロレス系で、肩ひじ張らずに楽しめるものになっている。話も単純。俳優も演出も一流になりきれていない感じが、かえって心地よい。最高級の二流とでも言えようか。

かつての邦画黄金期に、トップスター石原裕次郎の主演映画と、抱き合わせで上映するために作られた作品みたいだ。梅宮辰夫や菅原文太は、そういった二軍作品のスターだが、思わぬヒットシリーズが生まれたりもした。

本作の監督ガイ・リッチーは、マドンナと結婚後しばらく迷走していたが(今はすでに離婚して久しい)元々は、俳優をとにかくセクシーに見せられる人だった。

ジェイソン・ステイサムの映画、という男臭いがセクシーでアクション満載のジャンルを確立してしまった彼の出世作は、ガイ・リッチーによるものだった。本作では、その手腕を遺憾なく発揮しスタイリッシュなものに仕上げている。

よぉーし、今年はスパイ映画を楽しむぞぉ、とエンジンをかけるのに、つくづくちょうどいい作品だった。


【カンクロー】info@eigaxavier.com

映画ザビエル
http://www.eigaxavier.com/


映画については好みが固定化されてきており、こういったコラムを書く者としては年間の鑑賞本数は少ないと思います。その分、だいぶ鼻が利くようになっていて、劇場まで足を運んでハズレにあたることは、まずありません。

時間とお金を費やした以上は、元を取るまで楽しまないと、というケチな思考からくる結果かも知れませんが。

私の文章と比べれば、必ず時間を費やす価値のある映画をご紹介します。読んで下さった方が「映画を楽しむ」時に、ほんの少しでもお役に立てれば嬉しく思います。