わが逃走[255]オモシロイ被写体の巻 その2
── 齋藤 浩 ──

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前回に引き続き、尾道周辺を彷徨いつつ、さまざまな物件をオモシロがってきた話を書きます。

2日目は曇り。たしかに晴れた方が嬉しいが、曇りは曇りで味わいがある。ツブレず、トバず、光がきれいに行き渡るともいえる。

とくに狙ったわけではないが、この日はまず友人の形見である戦前の50mmレンズを装着した。シャープすぎず階調も豊かで風情のある描写が特徴。と言われている。しかし使い慣れてないので、撮影の際ははいろいろと悩んだ。





この写真もデジタルで撮ってはいるが、最新のカメラではないので高感度耐性はそんなに良くない。結果的に解放3.5で撮って、「コレジャナイ写真」を大量に産むことになってしまった。

さて、駅に荷物を預け線路を越えて、山手の路地に入る。ここ尾道では細い路地があるなーと思うと、そこから一気に階段道が迷路のように続くのだ。

一歩進むたびに景色が変わる。遠くに見える島の形もオモシロければ、足元の階段の形状ひとつひとつもオモシロイ。海も山も寄りも引きも、すべてがオモシロイのだ。

ふと脇を見ると、不思議な手すりを発見。

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この路地も、何十回も往復しているはずなのだが、あまりに自然すぎて気づかなかった。階段の手すりにしては低く、柵だったとしても設置する意味をあまり感じない。

よく見れば、シンプルかつ絶妙な三次曲線ではないか。これぞ無作為の芸術。角度を変え、複数回シャッターを切って思ったのは、立体としてのオモシロさを平面で伝えるのは難しいなあ、ということだった。

さらに階段をゆく。おお、これはオレの好きな手すりの根っこ!

https://bn.dgcr.com/archives/2020/02/27/images/002

尾道を訪れる度、ここに来てしまう。今回は見下ろしの構図で、4本分をまとめてフレームに収めた。

一見ただの手すりだが、よく見ると基部の形状がすべて違うのだ。しかも柱を構成する円柱の中心が全てずれている。このずれ方が絶妙なリズムを生んでいると言えましょう。

手すりだけに注目して散歩したら、ものすごい写真集ができるかもしれない。お、アイデア出る出る。

そして路地をゆく。尾道は東西に長く広がっている。この路地も、東西をむすぶ山手の幹線と言えましょう。

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レンズを90ミリに変えた。50年以上前のレンズだけど、気持ちいい写りをしてくれる。昔、富士フイルムから出ていた「ベルビア」というポジフィルムがあったのだが、そんなイメージで現像してみた。

構造を素直に伝えたいときはモノクロ現像しているが、曇りの日の尾道の家並みは、上品な色彩が魅力ともいえる。

もう少し手前にピンを持ってくればよかった。また撮りに行こう。たのしみが増えた。さらにちょっと脇の階段を上る。

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いつも構造を伝えることを第一義として撮っていたのだが、色彩を意識してみるのも楽しいものだなあ。と思うようになった。年取った証拠か。石の青ってこんなにきれいなんだなあと、今更ながら気づいた次第。

これは普通だったらヨコ位置の構図なんだろうけど、あえてタテ位置としてみた。タテ位置とすることで、平衡感覚が崩れてくる。

足を踏み外しそうな不安感、落下したとしても、画面の上の方が標高が低いという不思議な感覚が伝わればよいのだが。

何をどう伝えるかってことを、角度を変えることでコントロールできるようになれば、構図マスターだ! 精進します。

さらに東へ進む。階段に沿って固定されていたトタン板が、はずれてしまったところを鑑賞。

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波板のデコボコが階段といっしょに続く様子は、なんともかわいらしい!と思う。思い立って、これを90度回転させて鮮やかなカラー写真として現像してみると、まったく違う印象になった。

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画面をナナメに2分割し、左側が鮮やかエリア、右側がグレイッシュなエリア。何の写真か一瞬では判断できない、抽象画的な写真になる。

想像以上に赤が上品で、トタンの赤と、セメントに残った赤とをつなぐ距離とか空気とか、ヨコ位置モノクロでは気づかなかったものが見えてくる。こいつあ、オモシロイ。

こんどはカラーを意識して、また撮りに行こう(笑)。つづく。


【さいとう・ひろし】
saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。