[4961] パンツから垣間見える、肖像権法の早急な整備の必要性

投稿:  著者:  読了時間:29分(本文:約14,300文字)



《目指せシンギュラリティ一番乗り》

■ Otaku ワールドへようこそ![325]
 パンツから垣間見える、肖像権法の早急な整備の必要性
 GrowHair
 



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■ Otaku ワールドへようこそ![325]
パンツから垣間見える、肖像権法の早急な整備の必要性

GrowHair
http://bn.dgcr.com/archives/20200228110100.html
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前々回、電車内で、短いスカートを穿いた女性が向かいの席に座ってきたことを卑近な例として取り上げ、生命体が内部平衡状態を維持するための原理として、エントロピーを減少させようとする働きがあることをみた。

『パンツから垣間見える、生命体の内部平衡状態維持の原理』
http://bn.dgcr.com/archives/20200214110100.html

こんなネタで丸々一回分書いたってだけでも、よく引っ張りに引っ張ったもんだなぁと我ながらあきれるが、今回、さらにパンツを引っ張る。今度は、少し違う角度からパンツを眺めてみよう。理科の次は社会。

白い逆三角形が目にまばゆいけれども、あれはいったいぜんたい、下着なのだろうか、それとも、短パンか何かを重ね穿きして防備しているのだろうか。この疑問を解決することによって、内部エントロピーを減少させたいが、いくら目を凝らしてみてもテキスチャが判然としないとき、精密なカメラで高精細な写真を撮影し、後で引き伸ばして確認するのは、社会的にまかり通るだろうか。

さすがに重量級の一眼レフを取り出して、ズームレンズを望遠側にギューンと伸ばしたりしたら、タダじゃ済まなそうな感じはする。うまくブレを抑え、ピントをカッチリ合わせることができれば、布目からコンニチワしたお毛々まで写るはずである。それは怒られそうだ。

しかし、スマートグラスを常時着用して、見たものすべてを動画で記録しているのだとしたら、どうだろう。不審な挙動をせずとも自然に目に入ってくる光景を、いかにも撮ってますという圧迫感を相手に与えることなく、ただ淡々と記録していくだけなら、そんなにイケナイことをしているとは言えないのではあるまいか。

ウチに帰ってから一人、ニヘラニヘラと薄笑いを浮かべながら、よだれをぬぐいぬぐい再生していたとしても、人様にそれほどの迷惑はかからないのではあるまいか。

それに、記録した映像が、社会的にもプラスの価値を生むケースだって考えられる。たまたま犯罪行為や事故を目撃したとき、記録した映像を当局に提供することで、捜査や検証に貢献することができる。証拠としての価値は、目撃証言よりも格段に高い。

また、犯罪行為をはたらいておきながら、証拠不十分で捜査の手を逃れるなどということが、もはやほぼ起こりえないのだと共通認識化されることで、犯罪を未然に防止する効果も大きいはずだ。占有離脱物横領(他人の忘れ物を拾ってネコババ)すらできなくなる。

意図的にプライベート空間をこっそり覗き見たり、人や衣服などに手出ししたりすることなく、自然に目に映った光景を常時撮影し、映像データとして記録していく行為は、積極的に推奨されてよいのではないか。これは時代の流れだ。いずれ、森羅万象がデータに反映される時代が来る。

しかるに、現行法において、盗撮は禁止されている。これとの線引きはどうなっているのだろうか。法的に問題ないはずだと信じてとった行動が、後から黒判定を受け、犯罪者に仕立て上げられたのでは、たまったものではない。

2004年ごろ、神田敏晶氏は原宿の公道でセグウェイを走らせたかどで有罪判決を受け、デジクリに獄中記を寄稿している。神田氏がスマートグラスでまたやってくれるならいいが、私はそういう目には遭いたくない。

KNNエンパワーメントコラム 東京拘置所獄中記(A)
http://bn.dgcr.com/archives/20040830000000.html

いやいや、そういう問題ではなく、有用なテクノロジーが新たに登場してきても、世に普及するのが著しく遅れたり、下手すると、永久に日の目を見なくなったりしかねない。それは社会にとって損失だ。

●法的にはどうなっているか

街なかで人物のスナップ写真を撮影したり、撮影した写真を印刷物やウェブサイトなどで公開したりする行為の是非は、法的にはどのように定められているのであろうか。

関係する概念として「肖像権」がある。肖像権とは、他人から無断で写真や映像を撮られたり、無断で公表されたり利用されたりしないように主張できる権利である。

権利といいながら、ほんとうにちゃんと権利として存立しているのかというと、実にきわどい。まず、肖像権について規定する法律がない。

肖像権の根拠になっているのは日本国憲法第13条「幸福追求に対する国民の権利」である。「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」。肖像権はここから派生した権利だと考えられている。

法律がない場合、裁判所の判例に根拠を求めるのが筋だ。「京都府学連事件」における最高裁の判例が、肖像権を初めて認めた事例とされる。ただし、判決文の中で、個人が有する権利として肖像権を一般的に認める見解を、表明するのを巧みに避けている。

判決文では、「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容貌・姿態(以下「容貌等」という)を撮影されない自由を有する」と認めている。じゃあ、肖像権が一般的な権利として確立したのかというと、実に微妙な言い回しで断定を回避している。

「これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容貌等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されないものと言わなければならない」。

まあ、細かいアヤに目をつぶれば、実質的に、肖像権が個人の権利として認められたとみることができる。正当な理由がないのに、本人の承諾なく、個人の容貌等を写真撮影してはいけないのである。

じゃあ、「正当な理由」として、どこまでが認められるのか。この事件では、警察官が犯罪捜査の目的で現場の写真を撮影することの適法性・合憲性が問われている。そこは適法・合憲と判断された。

「次のような場合には、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、警察官による個人の容貌等の撮影が許容される」として、「現に犯罪が行われもしくは行われたのち間がないと認められる場合であって、しかも証拠保全の必要性及び緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法を持って行われるときである」。

公務執行妨害罪及び傷害罪で起訴された被告人は「巡査による写真撮影は違法捜査であるから、適法な公務執行ではなく、これに抵抗しても公務執行妨害罪は成立しない」と主張して争っていたが、結局、主張は退けられ、上告は棄却された。

詳しくは Wikipedia の「京都府学連事件」の項を参照してください。
https://ja.wikipedia.org/?curid=1426741

この最高裁判決において、警察官が犯罪捜査の目的で写真を撮影するのであれば、本人の承諾がなくても、肖像権侵害にあたらないとされた。では、それ以外に、承諾なしに写真撮影できる正当な理由にどんなものがあるのか。この判例では何も述べていない。

スマートグラスで常時撮影しているのはどうか。京都府学連事件の司法判断をうーんと拡大解釈すれば、次のように言えないか。もし、犯罪行為を目撃したとき、その現場を撮影することによって証拠として記録し、のちに当局へ提出することによって、捜査に協力することができる。これは公益に利することである。

犯行を目撃していながら撮りのがす逸機の可能性を最小化しようとするなら、常時撮影しつづけるのが合理的である。もし、撮影していなかったことによって、犯罪者が証拠不十分で起訴をのがれる事態が生じた場合の重大性に比すれば、偶発的な作用によって向かいの座席の女性のパンツが撮れることは大きな問題ではなく、不可抗力として生じる、いたしかたないこととして許容されるべきである。

現に、街のそこらじゅうに設置されている防犯カメラは、常時、映像を記録している。春一番が吹き荒れる日など、スカートが派手にめくれ上がる場面がそこここで記録されているに違いない。短いスカートを穿いて出歩いているセーラー服のおじさんも例外ではないかもしれないが、いちおう、紺パンツかブルマを重ね穿きして防御している。

街なかの防犯カメラについては、その目的の重大性が優先され、偶発的な不可抗力によりプライベートな領域が写ってしまう可能性という副作用は許容しましょうと、すでに社会的に合意が形成されているようにみえる。スマートグラスについても、あともう一息ではないか。

とってもまっとうな理屈だと私は思うけれども、法的にどうかとなると、現時点ではグレーである。概念的に言って、肖像権とは、日本国憲法で保障された幸福追求権の一種である。正当な理由なくして、他人の姿を勝手に撮影しちゃいかん。これが基本にあるのである。

じゃあ、公共の福祉や表現の自由との兼ね合いで、どのような行為までなら正当な理由ありとして許されるのか。具体的な線引きについては、裁判所の下す判例に頼るしかない。逆に言えば、裁判が起こされたことのない事例については、アウトかセーフか誰にも分からない。境界線がちゃんと閉じていないのである。スマートグラスによる常時撮影を肖像権侵害であるとして訴えた事例はまだない。

この宙ぶらりん状態だと、いきなり犯罪者に仕立て上げられるリスクが恐くて、たいていの人がスマートグラスの使用を躊躇するだろう。製品の注意書きには「被写体のプライバシーや肖像権などを十分に考慮のうえ、本製品を使用してください」なんてあるけど、どう考慮すべきか分からんだろ。

トラブルが起きたときの責任をユーザーに押しつけるためだけの、無内容な免責条項。このままだと、スマートグラスの普及にブレーキがかかりかねない。

ここらで誰かが訴えを起こし、がんばって最高裁まで持っていってくれるとありがたい。私はやりたくないけど。限りある人生をそんなことに費やしたくない。「ウェアラブル伝道師」の異名をとり、普及に熱心な塚本昌彦氏(神戸大学教授)、いかがでしょうか。

塚本氏は防衛する側なので、まず誰かが塚本氏を訴えることで話が始まる。最高裁まで防衛しきって、常時撮影が安心してできるようになれば、スマートグラスの普及がおそらく一気に加速する。なんてったって、街なかで正々堂々と大手を振ってパンチラ写真が撮れるのだ。ただし、のぞき見はダメで、偶然見えた場合に限る。

というか、判例を作るよりも、法律を作れよ。

●写真を公開してよいかの基準は案外厳しい

さて、写真を撮影する行為と、撮影した写真を公開する行為とは、区別して考えるべし。写真を公開してよいかどうかの判定基準は案外厳しい。

最高裁ではなく地裁だが、代表的な判例に「街の人事件」がある。DOLCE AND GABBANAというブランドのTシャツを着た女性が銀座を歩いていた。株式会社コロモ・ドット・コムの撮影担当者が、この女性を承諾なく撮影した。

撮影された写真画像が、株式会社コロモ・ドット・コムと日本ファッション協会が共同開設しているウェブサイト内で、この女性の承諾なく、公開された。

このTシャツは、胸部に大きく赤い文字で「SEX」というデザインが施されている。巨大掲示板「2ちゃんねる」において、ウェブページへのリンクが張られた上で「エロ女発見!」等の誹謗中傷書き込みがなされた。

この女性からの訴えに対し、東京地裁は、本件は原告女性の肖像権を侵害していると認定し、原告女性が負った精神的苦痛に対する損害賠償として被告らは原告女性に35万円を支払うようにとの判決を下した。

パンツでなくても、Tシャツでさえ、無断公開はアウトと判定されたわけである。本人はこのTシャツを隠そうとしてなく、銀座の街なかで堂々と着て歩いていた。その時点で、みずから進んで公開しているのだから、すでにリアル世界で本人が公開した情報を第三者がネットで公開しても何も変わらないではないか、という理屈が成り立ちそうではある。

しかし、司法判断としては、リアル世界でのその場限り、その時限りの公開と、ネットでの全世界への半永久的な公開とは異なると判定されたということのようである。

珍しい写真や映像が撮れたら世界に自慢したくなるかもしれないが、それをやってよいかどうかの基準は案外厳しいのだと、意に留めておいたほうがよさそうだ。

たぶん2007年の冬コミのときだったと思うが、知り合いのコスプレイヤーを撮影する際、ローアングル(※)で撮ったほうが背が高くみえてカッコいいだろうとの配慮から、私が東京ビッグサイト西展示棟屋上展示場のコンクリートの床面に寝転がって一眼レフを構えた。

※ローアングル:仰ぎ見上げる角度。これを「煽り撮り」と呼ぶ人がいるが、厳密には正しくない。煽り撮りとは、レンズの光軸とフィルムや撮像素子の感光面の中心から立てた法線とが、位置的に、または角度的に一致しない撮影方法をいう。

その撮影している姿を、何者かが勝手に撮影していたようで。写真がネットに上がった。そうまでして下から覗き見たいか、と揶揄するような悪意が感じられた。さらに、その画像が出版社によって勝手に拾われ、紙媒体の書籍に掲載され、コンビニで販売された。

 『バカ画像500連発!!!! 裏モノジャパン 2008年3月号別冊』
 鉄人社(2008/3/1)
 https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00AO0C4QO/dgcrcom-22/

前述した判例から類推すると、もし私が肖像権を侵害されたとして出版社を訴えれば、勝てるような気がする。しかし、実際のところ、精神的苦痛は大したことなく、笑って見過ごせるレベルだったので放置した。

もしやるなら、人格権の一種である肖像権をめぐってではなく、売り上げの一部はオレの懐に入ってきてしかるべきであろうと財産権を主張したい。

もし、事前に連絡してきて、1部売れるごとに1円支払う条件を提示して、掲載の許可を求められていたら、承諾していたと思う。あれは28万部売れたらしい。28万円ではないか。

2011年にはそれの復刻版を出している。2018年には文庫版まで! 自分の画像がまだ使われているかどうか、買ってまで確認しようという気が起きないけど。

 『バカ画像500 連発!!!! 復刻版』
 鉄人社(2011/1/1)
 https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4904676130/dgcrcom-22/

 『復刻版 バカ画像500連発!』文庫版
  鉄人社(2018/1/22)
 https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4865371109/dgcrcom-22/

当時、鉄人社さっさと潰れろ、と呪いをかけておいたけど、いまだに健在か。『セックスより気持ちいいオナニーテクニック』、『全国 過激すぎるHなお店100』、『悪の手口(メソッド)70』などを世に送り出している。まあ、コンビニに置いてもらえなくなって、そうとう苦しいだろうけどな。

●盗撮はもっといけない

ここまでは、生活上の自然な行動の中で、受動的に目に入る光景を撮影することの是非を論考した。

では、通常は見えないプライベートな領域を見るべく、能動的行動に及んで撮影した場合はどうだろうか。風呂やトイレを覗き見るとか、エスカレーターで前の女性のスカートの下にカメラを差し入れて撮影するといった行為である。受動的な場合よりも罪が重くなるのは当然だ。

これについては、ちゃんと法律が定まっている。「軽犯罪法」と「迷惑防止条例」である。軽犯罪法とは、比較的軽微な秩序違反行為について刑罰を定めた法律である。第1条第23号で「のぞき見(窃視)」の罪が定められている。

一方、迷惑防止条例は、各都道府県や市町村によって定められているため、正式名称や内容にばらつきがある。東京都の条例の場合、盗撮行為は第5条第1項第2号に規定されている。条例は法律よりも軽いとは言え、ナメてかからないほうがよく、これに違反する行為はれっきとした犯罪である。刑罰は軽犯罪法違反よりも、迷惑防止条例違反のほうが重い。

盗撮行為に対してどちらの法律または条令が適用されるかは、犯行現場が私的な空間であるか、公共の場所であるかによる。

軽犯罪法の条文を見てみよう。
第1条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
二十三 正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者

「のぞき見」に該当するのは、肉眼で見る行為に限定されない。例えば、トイレ内に盗撮用のビデオカメラを設置する行為自体がのぞき見にあたるとされている。トイレ内に人がいたかどうか、カメラが作動したかどうか、映像を再生したかどうかにはよらない。

東京都の迷惑防止条例の条文を見てみよう。

第5条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
(2)次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物

実際に撮影していなくても、撮影するつもりでカメラを差し向けただけで、盗撮にあたる。もし仮に、スマートグラスによる常時撮影が法的にセーフだったとしても、自分から積極的にのぞき見しに行く行為はアウトだ。調子に乗ってはいけない。

●万物は情報である

生まれてこの方57年間に目にした光景のすべてが、映像として記録されている。どんな場面も、たちどころに再生できる。地上を走っていた中央線が環状七号線と交差する踏切。幼稚園の庭によくいた白いふさふさした毛虫。小学校低学年のとき、木造校舎の教室で、朝、新聞紙と薪で石炭ストーブに火をおこす用務員のおじさん。

中学1年の遠足で登った高水山の山頂からの眺め。高校のとき、2限と3限の間の休み時間に食堂に山積みになっていたパンの中から、気に入ってよく買っていたメロンパンとくるみの乗ったチーズパン。

駿台予備校市谷校舎での授業の帰りがけ、シャープのショールームでのラジオ収録を見学し、終了後に一言だけ言葉を交わすことができた倉田まり子。

初めてのチューなんて、いつ、誰とだったかも覚えてないけど、そんなのまで引っ張り出せる。時間とは、積み重ねていくもの。

もちろん、モーレツキョーレツなあれやこれやも。「文化湯」という銭湯の脱衣所で殿方と御婦人を仕切る黒いパタパタドアはどっちからでも押せば開き、小さい子供が勢いよく通り抜けるたびに全開になった。小学校6年のとき、開いたドアの向こうに、同学年のH内S子が真正面を向いて立っていて、意外とおっぱいが大きかった。

映像履歴は本人の位置情報とセットで記録されているだけでなく、この世界のありとあらゆるデータと紐づいている。店での買い物や飲食店での注文の明細とか。公共の乗り物の運行記録とか。気象情報とか。事故や事件の記録とか。

2020年1月13日(月・祝)8:01am、私は中野駅5番線ホームから総武線三鷹発千葉行に乗った。電車は10両編成で、私が乗ったのは最後尾の10号車。電車は定刻運行しており、8:24amに秋葉原駅6番線ホームに到着した。そのホームにある「そば処 新田毎」で天玉玉そば(そばにかき揚げ天ぷらと生玉子2個)を注文し、ネギを多めに盛ってもらった。代金570円をSuicaで決済した。こんな調子で57年分が蓄積されている。

丸一日分の映像を再生して見るのに、丸一日かかっていてはたまらない。その日のハイライトをかき集め、1分でも3分でも10分でも、指定した長さのダイジェスト映像に自動編集してくれる。1週間分でも、1年分でも、生まれてから今まで全部でも、好きな長さで振り返れる。

防犯カメラの映像や、たまたま近くに居合わせた赤の他人の目に映った映像とも紐づいているので、それらをつなぎ合わせれば、自分を被写体とした映像で行動履歴を眺めることもできる。この世の森羅万象がデータとして記録され、すべてが関連づいて蓄積されていく(※)。

※この段の記述はフィクションです。実在する人物や団体などとは関係ありません。

●未来社会のあり方を見据えた法整備を

いつ実現するかは見通せないけど、いずれそうなっていくに違いない。個人の目に映った光景をスマートグラスで常時撮影していることは、本人に対しても、社会に対しても、還元される利点が非常に大きい。

ところが、常時撮影は現時点で法的にグレーである。この状態のままだと、いきなり犯罪者に陥れられるリスクが恐くて、おちおち使っていられない。ぜひとも早急に法を整備してほしいところである。

その際、上述した利点を考えれば、縛りを極力緩める方向で着地させたい。盗撮や無断公開にあたらない限り、できれば、常時撮影を全面的に許容したい。

とは言え、基本的人権や、その一部である肖像権だって非常に重要だ。国の基本方針に属することなので、最大限に尊重されなくてはならない。そこを考慮すれば、常時撮影に制約を設けるべきだ、という論に傾いたとしても一理ある。

テクノロジーの力でうまく調停できないだろうか。違法行為をはたらける状態にしておいて、違反者を罰するよりも、どうやってもそんなことができない仕組みにしておいたほうがスマートだ。

軽犯罪法に「正当な理由がなくて他人の標灯又は街路その他公衆の通行し、若しくは集合する場所に設けられた灯火を消した者」とあるが、どうやったらそれができるのか。

Facebookで私の友達になっているSatoshi Okimoto氏は、想像たくましく、あるべき仕組みを考察している。彼は、元半導体実験屋で元機械学習屋で現在は数値解析屋である。

▽ ▽ ▽

盗撮がらみで、時々考えていることをここに書いてみる。

防犯カメラや車載カメラなど、無断撮影によって防犯や自衛に寄与する装置は多い。これら装置がもっと普及すれば、人間の行動力や注意力や時間などが防犯のために使われることは減り、人間はそれらのリソースを好きなことや有益なことに使えるだろう。

そこで、どこかの先進国(例えば日本)が「防犯用自動記録装置を肌身離さず携帯することは基本的人権のひとつである」という憲法解釈を採用したらどうなるか。

防犯装置産業が興隆するだろう。犯罪は激減するだろう。人間の可処分リソースが増え、娯楽や仕事や創造が捗るだろう。それらがさらに産業を興すだろう。可処分リソースが増えれば、出生率も回復するかもしれない。

ところが、防犯装置の乱用として気をつけねばならないものが二つある。プライバシー侵害と知的財産侵害だ。これら二つを守る権利を「秘匿権」と勝手に呼ぶことにする。先進国が「秘匿権」を蔑ろにするわけにはいかない。

「自動記録権」は「秘匿権」と折り合いをつけるか、衝突しないようにする必要がある。どうすればよいか? 防犯用自動記録装置が以下の特徴を持てばよい。

・[端末の機能的特徴]端末の機能は7つのみ。撮影、録音、GPS、暗号化、暗号データの保存、送信、可視信号(後述)の発信(とアップデート)。受信と再生はできない。暗号化前のデータの保存もできない。送信されたデータはサーバに保管される。

・[サーバの機能的特徴]すべての読み出しと復号処理を、記録に残す。

・[法的特徴]暗号データを読み出したり復号したりするには裁判所の令状を必要とする(技術的には秘密計算の技術で実装可能と思う)。

・以上の特徴を持っていることを、技術の素人にも検証できるように設計し、不定期に抜き打ちで検査し、検証の過程を全て公開する(復号鍵の内容のヒントを得ずに検証することは可能だろうと思う)。

上記特徴を持った防犯用自動記録装置なら、秘匿権に衝突しないだろう。「可視信号」は、人が、「目の前の端末が、上記特徴を満たした防犯用自動記録装置の端末なのか、それとも、ただの盗撮用デジカメなのか分からなくて不安だ」という不安を抱くことを防止するように設計する。

「可視信号」の偽造に重罰を科すれば、偽札と同様に、ほぼゼロの状態を保てるだろう。

さて、このような法律とインフラが整備され端末が普及したとしよう。その国では、人間や社会を理解できる人工知能を産み落とすに十分な、ビッグデータが蓄積されるのではないか。人工知能が人間や社会を理解できたなら、チューリングテストには合格できる。

チューリングテストに合格できるということは、汎用人工知能であると言ってよかろう。目指せシンギュラリティ一番乗り。うかうかしていると、秘匿権を平然と無視する国が一番乗りするぞ。

△ △ △

なるほど。常時撮影する装置の主たる目的を防犯に限定しておき、クラウドに上げた映像は、人工知能に食わせるビッグデータとしても副次的に活用できる、というわけだ。

また、撮影した映像は、犯罪の証拠として司法の場で使う目的以外、本人にも再生できない仕組みになっている。おかげで被写体側の基本的人権が守られている。その仕組みが導入された装置であることは、装置の外見的特徴から一目で分かるようになっているので、被写体側からも撮影者側からも安心できる。

ううむ。被写体側の権利を真面目に考えて、最大限に尊重しようとすると、こうならざるを得ないのかなぁ。使う側からすると、もっといろいろ利点を享受したいところなのに、だいぶ不便な感じがする。

私の構想では、一般のスマートグラスの常時撮影をほぼ全面的にOKにできないかなぁ、と思っていたのだが。撮影者側は自由自在に何でもできる感覚があるけれど、実は裏で調停がはたらいている、というような。

未来社会へのスムーズな移行と、被写体側の権利の尊重とのバランスを考慮し、さらに、未来のテクノロジーで実現可能性のあることまで先読みした上で、常時撮影にまつわる法整備について、できるだけ早急に、識者が真面目に検討してほしい。


【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
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http://www.growhair-jk.com/

《人面瘡、引っ込んでくれた》

ぎゃーすかぎゃーすかやかましくてかなわない昔の女の人面瘡だったが、2月25日(火)、皮膚科の診察を受け、終結宣言を賜った。

まだ、新宿区の箱根山くらいの腫れが残り、中央には直径1mmぐらいの噴火口跡がかさぶた状になり、半分剥がれかかっているけど。ほどなく平らになってくれそうだ。

処方されていた合成ペニシリン系の抗生剤は土曜日に飲み終わっていた。なんか、この隙をつけ狙ってあわよくば侵入して、中で繁殖してやろうとの雑菌の攻勢の気配を感じる。かと言って、抗生剤をずっと飲み続けているわけにもいかず、以降は、自前の免疫力で防御していくしかない。

あの人食いバクテリアを黙らせるのに抗生剤が必要だったことは確かだが、あれのせいで腸内細菌がだいぶ死んでるのも確かなことで。自前の免疫力は下がっているに違いないのだ。腸内細菌は、抗生剤をやめるとまた増えてくると言われているが、一匹残らず撲滅しちゃったやつは蘇ってこない。

ご腸内のみなさま、生き残ってますかー?

さて、これからしばらく、腸内細菌の増殖に努める。産めよ増やせよ分裂せよ。

食物繊維は、人間の消化器官では消化できないので、栄養としては何の価値もないけど、実は、腸内細菌のエサとしての役割があったのだとか。海草類も。あと、発酵食品はいいらしい。納豆、漬物、味噌汁、ヨーグルト、チーズ。

しかし、納豆といいめかぶといいもずくといい、コンビニで売ってるやつはなんで3パックセットなんだろう。ウチ、冷蔵庫ないんだけど。3パック一度に食うと、さすがにちょっと調子が悪くなる。バラ売りしてくれ。まぁ、納豆は定食屋でつけることにしてるけど。

腸は第二の脳と言われる。腸内細菌は脳にとっての脳みたいなもんで、性格や心の健康状態まで左右する。脳内の主要な神経伝達物質であるセロトニンは、その80%を腸内細菌が製造してくれる。腸内細菌の分布状態と自閉症との間に関連性があることが見出されている。脳腸相関は、科学的解明がずいぶん進んできたようだが、まだまだ分かっていないことも多い。

腸内細菌のバランスが崩れてしまった患者への治療法のひとつとして、糞便移植がある。文字通り、健康な人の腸内のブツをもらってきて、患者の腸内へ移すのである。

私の勝手な想像だが、もし性格まで影響を受けるのだとしたら、たとえ健康であっても、あいつのはもらいたくないなぁ、みたいな気持ちが生じる。あと、細菌やウィルスを飼っているけど発症していないドナーからもらった患者が発症してしまうというケースがあり、2019年に米国で死亡例が1件ある。感覚的に、最後の手段だ。

なんとかなるうちは、食事でなんとかしたい。自分が食って美味いものよりも、腸内細菌のエサになるものとか、善玉菌そのものとか。

新型コロナウィルの拡散状況がどの程度なのか客観的に把握しきれていなくて、分からないことへの恐怖感のほうが拡散している感じがする。私の当てにならない感覚だと、もうすでに、かなりの確率で、そこらへんに感染者(発症しているとは限らない)がいるのかもしれない。

人混みを避ける、といった心がけも大事だが、自分の免疫力を高めておくことも大事なのではないか。免疫力を左右する要因として、腸内細菌のバランス以外にも、睡眠不足やストレスはよくないとか、適度な運動がよいとか、何日も続けて酒を飲んでいると白血球の数が減るとか、いろいろある。酒を飲みたくなったら、一人でカラオケに行くのが一石二鳥ではないか。


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編集後記(02/28)

●偏屈BOOK案内:片岡正人「市町村合併で『地名』を殺すな」

かつてわたしは「さいたま市」に住んでいた。日本屈指のワースト市名の。せめて埼玉市であってほしかった。戸田市に転居するまで何年か、このみっともない市名で年賀状を出していた。さいたま市ならどこにあるかわかるが、さくら市、みどり市って一体何県にあるんだ。この本は2005年に出版された。その後どんなトンデモ市町村名が生まれたかは、追跡するのが面倒なのでやらない。

「平成の大合併」により、日本中の市町村が競い合うように愚かな自治体名をぶち上げた。まるで幼稚園のようなひらがな名。つがる市、かすみがうら市、いすみ市、たつの市、いなべ市……。どこの自治体でも付けられる中央市、大空町、美郷町……。知名度のある地名を独占した奥州市、庄内町、南アルプス市、飛騨市、伊豆市、瀬戸内市、美作市、筑前町、奄美市……。枚挙に暇なし。

地域の歴史と伝統ある地名を容赦なく捨て去る一方、全国的に有名でブランド力のある地名は奪い合う。世間の耳目を引く名前を付ければ地域が発展すると考える、幼稚で阿呆な日本人だらけ。日本は子供だましのテーマパークのような国になってしまう。この本は、こうした現状を深く憂い、全国の新自治体名を総浚いするとともに、自治体の名称はどうあるべきかを考察したものだ。

まず平成の大合併の背景と地名というものの意味を確認し、「地名のつけ方」を本格的に検討する。カナ地名、瑞祥地名、僭称、CI地名、人名地名、合成地名など避けるべきだと断定する。さらに公募の問題点について考える。そして2005年4月現在、全国の膨大な数の新自治体名を、一つずつ適否を検討する。こんな無謀な企ては前代未聞である。問題のある物件、約800件を取り上げた。

全国各地の地名変更は、実はものすごく罪深い。歴史ある地名を簡単に捨て去りあまりに安易な地名に変更する。まさしく文化の破壊である。命名の発想がCIとしか思えない。地名を道具にしている。地名には「地霊」が宿る。簡単に変えたり、ないがしろにしてはならないものである。イメージアップなんて単なる「欲」の表れであり、すべての基本となる自治体の名称にはなじまない。

「湯陶里市」なる珍名が佐賀県で生まれそうになった。温泉の武雄市、嬉野町と陶芸の山内町、塩田町から「湯」と「陶」をとり「里」をつけ、流行の「ゆとり」にひっかけた。作った人たちは鼻高々だったが、武雄市民の反対多数で合併自体が崩壊した。後に、嬉野町と塩田町が嬉野市に、武雄市と山内町は北方町を含めて新たな武雄市に。一方で、東京都西東京市は2001年に誕生した。

東京の西部にあるのかと思ったら。地図で見ると東京都の中央より東ではないか。筆者は「東京という大なるものに寄りかかった、個性放棄した名前でまともではない」と考える。広い範囲の一部ということで方角を使うのならまだしも、大きな有名な都市から見てどっちだという発想で付けるのは、あまりに情けない。東西南北が頭についた新しい自治体名って、イージーに過ぎると思う。

「要は地名をその土地の歴史、文化、風土を一言で代表するこの上なく貴重な『無形文化財』だと認識し、それに敬意を払うべきだということである」。さて、筆者の断じる最低の地名は「さいたま市」だった。市名がいやで引っ越したわけではないが、結果オーライ。地味だが人口増が続く金持ちの市、とりあえず住み心地はよい。荒川洪水で壊滅の可能性も。スリリングだ。(柴田)

片岡正人「市町村合併で『地名』を殺すな」洋泉社 2005
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●火事続き。エレベーターホールへ。一台だけは動いていて、これで降りてもいいのかなぁと迷っていたら、そばの棟内非常階段が騒がしい。鉄製のドアを通して、人の声とともに鉄板の階段を降りていく音が聞こえてくる。

うーん、やっぱり避難した方がいいかな、と、棟内にあるもうひとつの非常階段に向かう。こちらはコンクリの階段でうるさくない。数階降りると、人がいた。続いて降りていると、他の人たちの姿も見えた。

と、上っていく人がいた。警備会社の人だろう。「状況を確認しています」とのことだった。地上では、警察官や消防隊員らとすれ違った。(hammer.mule)