わが逃走[257]オモシロイ被写体の巻 その4
── 齋藤 浩 ──

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よくよく考えると、同じもの、もしくは同じようなものばかり撮っている。

機関車だけ撮ってる人もいるのだから、階段や手すりだけ撮っている人がいてもおかしくはないはずだ。

しかし、そこに美を感じる人の絶対数が少ないようなので、こうして啓蒙しているのか、と思ったが違う。
機関車は誰が見ても機関車だが、たとえば階段を撮って「こ、これが階段なのか! なんと美しい!!」
と誰かに言わせたい。

と思ったが、これはおそらく機関車を撮ってる人も同じだろう。

などと考えつつ、今回も尾道で出会ったステキな構造美をご紹介します。いかにしてオモシロがったかを記しますので、日々の生活にお役立てください。
 



細い道は楽しい。スイッチバック階段を上から見下ろしたの図。

https://bn.dgcr.com/archives/2020/03/26/images/001

ここも何度も通ってる場所なのだが、90ミリレンズで撮ったのは初めてかもしれない。本来こういった風景には広角が適しているとされるが、あえて、というか率先して定石をはずしてみると、なにかしら新しい発見がある。

側溝の緑に気づくことができたのも、いつもと違う視界に新鮮さを覚えたからだろう。もしズームレンズをつけっぱなしにしていたら、こんな発見はできなかったはずだ。

金網というか柵というか。

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これは既製建材ではあるけど、最近あまり見なくなったタイプだ。昭和40年代の香りが残る。当時を知る者として懐かしさを感じるが、とくだん優れた意匠というわけではない。しかし、サビが良い。

サビとかキズというものは意図してつけるものではないので、雨だれの流れる方向や構造的に水の乾きにくい箇所、モノが当たりやすい場所をあらためて知ることができる。

知ったところでどうということはないのだが、人工物をより自然に見せる演出方法を学べるので、なんかトクした気分になる。

サビといえば学生の頃、道端で拾ったボルトがかっこよくて、同じように錆びたボルトを作ろうと思い、
腐食液(塩水のようなものだったか)に浸けてから放置しておいた。何週間か経って見てみると、サビが発生していたのだが、何かが違うのだ。

コレジャナイ感というか、まがい物感というか、やはり天然モノにはかなわんと思った記憶がある。

尾道を散歩していると、頻繁に天然物の鉄板に出くわす。道端に落ちてたり、かつて機能していたものが錆びついて放置されていたり等々。今回出会ったコレも天然物である。

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寺の境内に立てかけてあったものだが、じっと見ていると、いろんなものに見えてくる。
撮影時は草を食む牛に見えたのだが、こうしてあらためて見直すと、オオカミの後ろ姿にも見えてきた。

月の模様がウサギや女性の横顔に見えるのと同じようなもので、作者の意図などないのだから、どう捉えてもかまわない。その自由度が楽しいのだ。

しかし、鉄板をじっとみつめる男は一般的に言えばアヤシイやつだ。鉄板鑑賞の際は、隣におねいちゃんを従えて世間話をしているとアヤシさが払拭されるという統計結果が出ている。

くねくね急階段を背景に、手曲げの手すりを鑑賞。

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やはり現場の状況にあわせて曲げられた手すりは美しい。これも通い続けている階段なのだが、何度見ても飽きない。

と同時に、いつまでたってもこれぞ!という1枚が撮れないのだ。アイドルや鉄道はなにかと引退するので追いかける方も大変だろうけど、階段の解散や廃止はそこまで頻繁ではないので、時間ができたらまた会いに行こうと思う。

段差のある板状の構造物。

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カメラ位置には以前住宅があり、その裏手が坂道で、道と土地との境界線に、このような構造物だけが残ったようだ。一段ずつすべて形状が異なる。二段目と三段目のの天面、中央がゆるくくぼんでいるのは何故か??

もしかしたら、かつてここに出入り口があり、長年にわたって踏まれていたからかもかも。といった仮説をとなえるごっこは楽しいけれど、生活の記憶が少しずつ消失してゆくのは寂しいものだなあ。

4回連続で尾道の構造美をオモシロがってきたわけだが、世の中的に外に出るなという風潮があるし桜の季節だからといって、みんなそろって同じもの撮るのもねえ……。というわけで、つづく!


【さいとう・ひろし】
saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。