羽化の作法[104]現在編 志村けんさんありがとうございました!
── 武 盾一郎 ──

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●牛乳配達にて

牛乳の配達が一通り終わってセンターに戻り、集金業務やら事務処理をしていると、ベテラン女性配達員のSさんが「ただいま〜」と言って戻ってきました。

チラシの枚数を数えている女性アルバイトさんが、きれいな声で「お疲れさまです」と応答した後すぐに、私も「お疲れさま〜」と事務ノートを書きながら応えます。

ベテラン女性配達員Sさんが簡易事務机のあるこちらの方まで近づき、セカンドポーチを机にゴトッと置く音がすると同時に、「志村けん死んだってよ!」と言い放ったのです。





私はびっくりして、座ったままピョンっとジャンプするようにSさんの方に振り向き、「えーっ!?」と自分でも驚くくらい変な声で、マスオさんのようなリアクションをしてしまいました。

Sさんは「ヤフーニュースで見た」と、配達中にスマホで知ったことを付け加えました。

私は再び「えーっ!?」と語彙力ゼロの反応をしながら、事もあろうに涙がこみ上げて泣きそうになってしまいました。

「だいじょうぶだぁ、じゃなかったのか……」とギャグで返した風にして必死に涙をこらえました。

そしてそこまでショックを受ける自分にびっくりしたのでした。

よりによって新型コロナウィルスの感染でお亡くなりになるとは……
心よりご冥福をお祈りいたします。

志村けんさん、本当にありがとうございました。あなたは私の表現の根幹をお作りになられたお方です。

●ファンクと志村けん

「志村けん」と言えばも、ちろんドリフターズの『8時だよ全員集合!』です。20代でもなく、厨二の思春期でもなく、小学生の頃のヒーローです。私の「文化形成」の基礎部分に「志村けん」はいます。

中学になると『オレたちひょうきん族』が出てきます。思春期小僧にとっては、未知なる大人の「知的でエロい笑い」です。そして『8時だよ全員集合!』を卒業するのです。多分、私と近い世代はそういう人すごく多いと思うんです。

私の印象ではドリフの笑いは非言語的で、フロイトでいうところの「肛門期」的な笑いでした。加藤茶のギャグ「うんこちんちん!」に、それは象徴されています。

志村けんのギャグとしてまず思い出すのは、「カ〜ラ〜ス〜なぜ鳴くの、カラスの勝手でしょ〜」です。全員で大合唱になるんですよね。今観るとお笑いというよりライブです。

『カラスの勝手でしょ 大合唱』


これには2番があったような気がして、探してたらなんと見つかりました。すごい。歌詞は割愛します(笑)

『【字幕付】8時だよ全員集合SP♪カラスの勝手♪』


あと、股間が白鳥の首になっているバレリーナの格好もありましたよね。

で、ドリフの笑いってどんなに下ネタでも、大人的エロさの笑いではなく、肛門期的ハレンチな笑いなんですよね。

『少年少女合唱隊』のコーナーの「東村山一丁目」の時に、法被を脱ぐと白鳥の首が飛び出すのが、なんといっても印象的でした。

全員集合 東村山音頭


今となってはあたりまえで、古臭い格好に感じてしまいますが「これ、思い付く?」って考えると、やっぱりかなりすごいですよ。

それに対して、こんな推理をしてる人がいます。

「志村けんの着る白鳥の頭部が突き出した奇態な衣装 あれは1930年代に一世を風靡した西海岸のお色気ダンサー、サリー・ランドのコスチュームが元ではないだろうか」 


サリー・ランドのダンスはこちらで観れます。素敵です。

『Sally Rand's Fan Dance in Bolero (1934)』


そもそもドリフは、漫才という話芸のお笑いではなくてコミックバンドだったので、元ネタを音楽やダンスから持ってくるのは充分有り得ますよね。

東村山音頭一丁目のシャウト「ワオーッ!」に小学生の私は痺れてたのですが、調べてみると元ネタはソウル、ファンクミュージックのようですね、やっぱり。

ドリフターズ初期の音楽は和風な歌謡です。ドリフの代表曲と言えば、『ドリフのズンドコ節』ですが、この曲を出した頃は志村けんはありません、荒井注です。

『ドリフのズンドコ節』


そして、ファンクといえばジェームス・ブラウンですが、このファンキーなノリが荒井注から志村けんに変わることによって、ドリフに混入されるのです。

『JAMES BROWN - Sex machine (Long 12'' Version Videoclip)』


例えば、ドリフのヒゲダンス。元はテディ・ペンダーグラスの曲です。

『ヒゲのテーマ』


『Teddy Pendergrass - Do Me』


ズンドコ節とはまるで違うノリですよね。

そう言えば、ドリフの早口言葉もファンキーですよね。

『早口言葉』


で、ですね、ファンクって、笑わそうとしてるのかカッコつけてるのか分からない、ステージ衣装だったりするんです。

例えば、これを観てください。ギター&ヴォーカルのゲイリー・シャイダーの衣装が「おむつ」なんですが、これ、笑わそうとしてるのか、クールにキメてるつもりなのか、分からないんです(笑)

『Parliament Funkadelic - Cosmic Slop - Mothership Connection
- Houston 1976』


ファンクにはお笑いが、というか、お笑いにはファンクが、あらかじめ溶け合っているんです。(特に「P-Funk」がということかもですが「ファンク」で括らせてください(笑))

ジェームス・ブラウンの「ゲロッパ!」のテンション、そして、めっちゃカッコいい音楽でオムツを履いちゃうキテレツ、それら「ファンク」のエッセンスを日本のお茶の間に拡散した人は「志村けん」だったと言っていいでしょう。

「ファンク」と「笑い」の関係のニュアンスを、言葉で説明するのは難しいですが、他の例をあげますと、カッコいい日本の大御所バンドに「米米クラブ」があります。コミカルでクールで独特な世界観ですよね。でもこれは「変わったことをしてる」というよりも、「ファンクに愚直に忠実」だと捉えると、ストンと見えてくるものがあるのです。

『米米CLUB SHAKE HIP』


「米米クラブ」はとっても大人っぽいのですが、志村けんの表現はどんなにエロいネタだとしても「子ども」(というより「クソガキ」)のノリのような肛門期的な表現です。

だから、小学生にウケたのです。言葉を使ってはいるのですが、非言語的なのです。今って「子どもがゲラゲラ笑い、大人が顔をしかめる」お笑い芸は、あまりないような気がします。

●音楽ベースの肛門期な表現

私は「音楽をベースにする」、そして「子どもに伝わる」を表現の理想軸にしてきたのですが、それは今思うと「志村けん」の表現軸と重なります。自意識が過剰になる前の原初的、無意識レベルに影響を受けているんだなあと思いました。

思春期から抜け出せない厨二病というのがありまして、自分は基本厨二病なのですが、でもやっぱり「自我」に棲んでるのは面倒臭い。もっと遡って、小学生とか幼児の心を取り戻して表現をしたい。そんなふうに思っていたところにきて、志村けんさんの訃報は何かのお導きのような気がしました。

志村けんさん有り難うございました!

最後にギャグで〆させてください。

「志村! うしろ! うしろ!」


【武 盾一郎(たけ じゅんいちろう)/断酒82日目】

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