映画ザビエル[92]通行手形をめぐる歴史合戦絵巻
── カンクロー ──

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◎作品タイトル
翔んで埼玉

◎作品情報
英題:Fly Me To The Saitama
公開年度:2019年
制作国・地域:日本
上映時間:107分
監督:武内英樹
出演:二階堂ふみ、GACKT、伊勢谷友介、中尾彬、京本政樹

◎だいたいこんな話(作品概要)

今は昔、埼玉県民は東京都民から酷い迫害を受けていた。都会指数が低いというだけで蔑まれ、通行手形なしに東京へ足を踏みれることも出来なかった。

そんな中、東京都知事を代々輩出している名門校白鵬堂学院に、アメリカ帰りで都会指数も極めて高く容姿端麗な麻実麗が転校してくる。都知事の息子で生徒会長でもある壇ノ浦百美は、麗への対抗意識から彼に全校生徒の前で「東京テイスティング」で自分と競うことを要求し、恥をかかせるつもりだったが逆に完敗してしまう。これを機に、百美は麗に強い恋心を抱くようになる。

ところが実は、麗は埼玉県出身で「埼玉解放戦線」の主要メンバーだった。麗に憧れ行動を共にしていた百美は、デパートで麗が埼玉出身の家政婦をかばったことで、その事実を知ってしまうのだが。





◎わたくし的見解/「パタリロ!」ってスゴくない?!

本作については当初、ご当地ものの成功例としてヒットの様子だけを傍観するに過ぎなかった。特に地元の扱い方として、東京近郊の各県にありがちな自虐を多分に用いて、該当する埼玉県民が大いに盛り上がったようだし、TVのバラエティー番組「秘密のケンミンSHOW」なるものの人気を鑑みても、さもありなんと言ったところで、結局あまり関心を持つことはなかった。

日本アカデミー賞の受賞には幾らか驚いたものの、ここまで評価されたのならば面白いに違いないから、機会があれば観てみようとは思っていた。

その割には、テレビ放映されたタイミングでも何となく見逃してしまっていたのだが、コロナウィルスの影響で4月に予定されていた「007」の新作は秋まで公開が延期してしまい、さてもさても困り果てた私は、Amazon primeで公開中の本作にとうとう飛びついたというのが今回の経緯である。

要するに本作については、何か話題になってるなぁと眺めていただけなので、鑑賞して兎にも角にも一番驚いたのは、原作が魔夜峰央であることだった。なるほど、だからGACKTなのか。とか、だからGACKTはあんな髪型なのか。さらに、だから後半は戦国時代の合戦のような異常な盛り上がりを見せているのか、と至極納得した。

何しろ魔夜氏の代表作「パタリロ!」は、「だーれが殺したクックロビン」と歌い踊るだけのナンセンスギャグ漫画のようで、時にMI6の諜報部員という設定のバンコランを中心にスパイアクションが繰り広げられたり、彼を探偵役に置いて本格ミステリーが展開したりと、唐突にスペクタクルな一面を見せてくる不思議な作品だった。

また、80年代にはアニメ化され、子供向けの時間帯であることなどお構いなしに平然と美少年同士の恋愛を映像化していた。今でこそ、田中圭さん主演のドラマの影響などで、BLみたいなものが一部の女性ファンにとどまらず一般的に受け入れらるようになったが、ふと当時の「パタリロ!」のことを何かの拍子で思い出して、随分と感心したものである。10年いや20年以上先を行っていたと言っても過言ではない。

まだ、BLという言葉もなく(当時は「やおい」と呼ばれていた)実際に現在のBLコミックとは趣きも違ったかも知れない。「パタリロ!」では少女漫画らしくロココ調の花々に囲まれながら、美少年同士が接吻して画面は切り替わる。それ以上の直接的な性描写はない。(喘ぎ声だけ聞こえるなどのニクい? 演出が施されているが)

主人公のパタリロと召使いのモブキャラ(玉ねぎみたいな人々)以外の主要な登場人物は全員見目麗しく、性別の見分けもほとんどつかなかったので、テレビアニメで件のキスシーンが映っていても、親から「そんなものを見るんじゃありません!」と叱られることはなかった。たぶん同性愛だとは気づいておらず「キャンディ・キャンディ」が、アルバートだかアンソニーだかとキスしているのと大差ないと思っていたのだろう。

「翔んで埼玉」でも、そのあたりの品位は保ち、主人公の少年は思いを寄せる相手と「もう一度キスを」とうっとりするばかりで、ある意味可愛らしい。また、その美少年の一人を二階堂ふみが演じることによって、BLファンの取り込みというよりは「パタリロ!」の踏襲を意識しているように感じた。

そうは言っても現代のニーズにも対応するためか、GACKTと伊勢谷友介の濃厚なキスシーン(主人公の妄想に過ぎない)を用意してもいたが、他にセクシャルな表現と言えば、千葉のレジスタンスに捕まると穴という穴に落花生を詰められて地引網を引かされるという謎の拷問を描いたシーンくらいで、これも明らかにお笑いにベクトルが向いており全般的に、パタリロ!ism(主義)が徹底されていた点が、私には微笑ましく映った。

どうしようもない、くだらなさと自虐の中から垣間見える郷土愛という図式は大変に興味深いものだが、原作者が出身者ではなく一時期、埼玉に暮らしたことがあるだけというのも滑稽で良いと思う。映像配信のサブスクリプションが色々フリーになっているタイミングなので、お出かけ出来ない昨今、このような愉快で気楽な作品を鑑賞するのも一つの手ではとお勧めしたい。


【カンクロー】info@eigaxavier.com

映画ザビエル
http://www.eigaxavier.com/

映画については好みが固定化されてきており、こういったコラムを書く者としては年間の鑑賞本数は少ないと思います。その分、だいぶ鼻が利くようになっていて、劇場まで足を運んでハズレにあたることは、まずありません。

時間とお金を費やした以上は、元を取るまで楽しまないと、というケチな思考からくる結果かも知れませんが。

私の文章と比べれば、必ず時間を費やす価値のある映画をご紹介します。読んで下さった方が「映画を楽しむ」時に、ほんの少しでもお役に立てれば嬉しく思います。