腕時計のスペック表をみると、「石」の数が表記されていることがあります。この「石」は、腕時計に不可欠なパーツです。知っている人は知っている、知らない人は知らない「腕時計の石」について解説します。
◎ルビー
実は、ほとんどの腕時計には「石」が内蔵されています。石の正体は「人工ルビー」です。ルビーは血のような赤い色をもった美しい宝石ですが、なぜ腕時計にルビーが使われているのでしょうか。
◎酸化アルミニウム
宝石としては高価なルビーですが、化学的には酸化アルミニウムの一種に分類され、比較的安価に作ることができます。1900年代初頭には人工ルビーの合成方法は確立していました。
白い酸化アルミニウムにクロムが入ると、美しい赤に変化します。天然のルビーは合成のルビーに比べると不純物が多く、素人には見分けがつきにくいようです。一方で、価格は千倍ほどの開きがあります。
◎硬度
ところで、ルビーはモノの硬さをあらわす「モース硬度」という指標で「9」となっており、これは世界で一番硬いと言われているダイヤモンドの「10」に次いで、二番めに硬い物質である、ということを意味します。ちなみに、サファイヤのモース硬度も9です。
◎摩耗から守る
この比類ない硬さを利用して、腕時計を壊れにくくしているのがルビーの役割です。とはいっても、ケースや風防、裏蓋などに使われているわけではありません。歯車の軸を支える、「ほぞ穴」と呼ばれる箇所にドーナツ型のルビーがはめ込まれており、絶え間なく動く歯車の軸から機械を保護しています。
腕時計はとても小さな力で駆動するのですが、受石としてルビーを使用していない場合、金属同士の摩耗でほぞ穴が広がり、軸のブレやガタツキが生じます。その結果、精度が低下するだけではなく、ひどいときには時計が動かなくなってしまいます。
◎石の数
とはいえ、すべての歯車の受けにルビーを採用する必要はなく、腕時計の基本となる手巻き式腕時計では17石、英語では「17jewels」のものが定番です。一時期、「石が多いほうが高級品である」という風潮があり、30石とか40石を内蔵した腕時計が販売されていましたが、ほとんどは飾りのために用いられており、実際に摩耗から受けを保護する効果を発揮していたのはその一部です。
◎石の少ない腕時計
逆に、石の少ない腕時計も存在します。安価な置時計や子供用の腕時計、戦時に用いる使い捨ての腕時計などでは、1石や2石のものもありました。コストカットの目的で、一番良く動く箇所にだけルビーを採用していたのでしょう。
アンティーク時計やヴィンテージ時計を探していて、デザインも状態も良いけれど妙に安いな、と思ったら、一度石の数を確認してみてください。
【吉田貴之】info@nowebnolife.com
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兵庫県神戸市在住。Webサイトの企画や制作、運営を生業としながら、情報の整理や表現について研究しています。