わが逃走[258]オモシロイ被写体の巻 その5
── 齋藤 浩 ──

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新型コロナといえばトヨタ。

中でも、「ジェームズ・ボンドのテーマ」とも、「サンダーボール」とも、微妙に違う音楽にのせて、ロジャー・ムーアが颯爽と運転する7代目コロナのコマーシャルは強烈な印象だった。

当時、私は中学生だったわけだが、素直にカッコイイと思ったものだ。

ところで、コロナとは火の輪っかという意味だそうで、花の輪っかがカローラ、火の輪っかがコロナ、王様の輪っかがクラウンとグレードを表しつつも、イヤミな印象がない。

昭和のトヨタのネーミングセンスは、なかなか秀逸だったと言えよう。

後にカローラとコロナの間の車種が必要になり、名称を検討したところ「冠でよいのでは?」ということで、カムリと名付けられたという話もステキだ。

イイ女になれる基礎化粧品=IONA、と同じくらいイイ話である。





さて前回、前々回、前々々回、前々々々回に引き続き、1月に撮影した尾道の写真を紹介していこうと思ったのだが、予定していた写真をあらためて見てみると、暗い感じのものが多くてどうもいただけない。

まあ当日は曇りだったし、日も傾いてきていたわけだが。

とはいえ、どうせなら明るい気持ちになれるような写真がよいなーと思うに至り、何年か前の快晴の日に撮影した写真を現像し直してみたところ、けっこう楽しかったので、これでいくことにする。

冬だけど夏のような雨上がり
https://bn.dgcr.com/archives/2020/04/09/images/001

アーケード商店街が歯抜けになって久しい。かつて商店だったところが駐車場になっている。

現地到着時は暗雲が立ち込めており、雨もポツリポツリと落ちてきた。尾道ラーメンを食べているうちに本降りになった。

ところが店を出る頃にはすっかり上がっており、ふっと空が見えて、その下の車がシャワーをあびたせいか、どれもピカピカに輝いていた。

率先して駐車場を被写体に選ぶヒトは少ないかもしれないが、『大きな白い雲の下には、瀬戸内海があるよ』的な情報を添えると、こういう写真もけっこう楽しめるんじゃないかなあ。

隙間の向こうに尾道水道
https://bn.dgcr.com/archives/2020/04/09/images/002

ほんとに似たような写真ばかり撮っている。こういった写真が、いずれ人類の役にたつ日が来るのだろうか。

それはそれとして、私はスリットフェチのようだ。チャイナドレスのスリットも嫌いではないが、隙間の向こうにチラっと見える空と海、というのはタマランね。

一日中チャイナドレスのおねいさんのそばにいたい人と同じくらい、一日中ここから海を見ていたい。

立体的なY字路
https://bn.dgcr.com/archives/2020/04/09/images/003

訪れるたびにこの道を通り、訪れるたびにここで写真を撮っている。しかし、訪れるたびに光が異なるのだから、撮らないという選択肢はないのだ。

塀にはさまれた細い道だが、トタン板の隙間から見える海だとか、ちょっと階段を上って振り向くと空だとか、解放と抑圧の対比がタマラナく楽しい路地だと思う。

対比というのは散歩でもデザインでも写真でも大切な要素だ。それが具体的モチーフであれ、概念であれ、「あ、これイイな」と感じるものには、たいてい「対比」が内在しているように思う。

柿とホウキ
https://bn.dgcr.com/archives/2020/04/09/images/004

ヒトサマの庭だったか畑だったか記憶が定かではないが、木の枝にホウキが固定されており、上から落ちてきた柿の実を受け止めている様子にオモシロさを感じてシャッターを切った。

なにかのオマジナイなのか、実用品(柿の実キャッチャー)だったのか。いずれにせよ構造がイイのだ。形状としての構造もそうだが、ストーリーとしてもイイ。

理屈っぽくいえば、「作為(ホウキの固定)によって無作為(柿の実の落下)を可視化している」と言える。

このように言葉にしておくと、仕事の際ヒントとなることが多い。同じ構造をまったく異なる状況にサシカエてビジュアライズしてみると、そのまま商品広告のアイデアとして成立した! なんてことがよくある。

積み重ねられた幾何形態
https://bn.dgcr.com/archives/2020/04/09/images/005

ブロックとビールケースとタイヤである。言われなくても見りゃわかる。そうですね。これはもっと粘って、もっとオモシロイ構図を狙えばよかった! と思っている。

積んだ人は必要だから積んだのであり、色彩の対比だとか視覚的な図形のリズムなんてことは考えていない。

撮影者はそれらを絶妙な構図で切り取り、独自の抽象画を描くことこそ目指すべきだったのだ。こうなったらまた行くしかない。

ブロックとビールケースとタイヤを撮るために、最適な機材を用意して瀬戸内へと向かうのだ。

うわー、いい季節だけになあ。外出するなといわれても行きたくなるね。まだ行かないけど。また行く。きっと行く。


【さいとう・ひろし】
saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。