ローマでMANGA[159]ローマでコロナ その7 よく頑張った まだ終わってないけど
── Midori ──

投稿:  著者:



ローマ在、マンガ学校で講師をしているMidoriです。私の周辺の事情を通して、現在のコロナ渦中の話題を。

●フェーズ2

3月9日に始まった、イタリア全土をレッドゾーンとする外出禁止令からはや5週間。一か月経ったあたりから、退院する人の数が入院する人より多くなり、医療関係も少し息をつけるようになった。新たな死亡者数も4桁から3桁になってきた。人と人と接触しないことが、感染を抑える特効薬だということが良くわかる。

「医療崩壊」はロンバルディア州のベルガモ市。私が住むラツィオ州始め、感染者数が少ない南イタリアでは起きていない。

感染者が増えれば、当然症状の重い人数も増えていき、入院患者数が増える。普段以上に入院患者が殺到するのだから、ベッド数が足らなくなる。しかも、患者は感染する病気なのだから、大部屋に詰め込むわけにもいかない。患者を選ぶことになり、それが医療崩壊だ。

ベルガモ市のような惨事に陥ってなっていない他の都市でも、イタリア人はよく頑張った。まわりは何も変わっていない(感染者がいない)のに、学校は閉鎖、事務所も店も閉鎖。

当初許されていたジョギングも禁止(運動することで心拍数が上がり、呼吸が深くなって吐息が普通の呼吸より大きくなり、飛沫の浮遊範囲が、特にジョギング者の後ろでは20mに及ぶことがわかったため)。

生活必需品を買いに行く以外は、家に閉じこもる状態で、よく頑張った。おしゃべりが最大の娯楽というイタリア人が、よく頑張った。





まだ終わってないけど、4月26日の夜半にテレビを通じて新たな首相令が出されて、5月4日から第二フェーズへ入ることが確認された。

改訂は以下の通り。まず、家の外へ出て良い。ジョギング、散歩ができるようになる。ただし、一人で。未成年者の付き添いの場合は連れ立ってよい。マスクは必須。

住まいが属する州内の移動は可能。「関係者」を訪ねることは可能。この「関係者」イタリア語で「CONGIUNTO」。意味は法律用語で親戚、婚姻関係あるいはそれに準ずる関係にある者のこと。

つまり、婚約者、恋人もそれに入る。恋人であることの法的証明書はないのだから、誰でも会いに行っていいことになるではないか、と、その曖昧さに困惑が広がっている。友達などの知り合いに会いに行くのはダメ。

公共交通機関を使うことはできる。駅や空港の入り口で熱を計ることになるはずだ。地下鉄のホームには青で印がつけられ、安全距離を保つ。(車内はどうするんだ?)事務所は時差通勤が奨励される。

5月4日に続いて、18日がフェーズ2の第二段階になり、博物館、美術館、図書館を開館してよい。床屋、美容院、エステ、スポーツジムについては6月1日から、9時から午後6時まで、週に5日。

BAR(珈琲屋さん)レストランは、お持ち帰りやお届けは良い。お客を迎える営業方法については、どのように安全距離を保つかの基準、規制ができてからになる(席と席の間に衝立の設置???)。

商業施設の再開については検討中。再開する場合は、現在スーパーマーケットが行なっているように、安全距離を保った入場制限は必須。衣料品店の場合は、試着室の安全距離を確保すること、試着した服の消毒が必須になるだろう、との意見。

医学の知識はないド素人だけれど、まだ再開は早いのではないかと思う。でも、経済活動ができないと、そっちの方で死者が出る可能性も出てくる。

感染者数が多い北イタリアでは、まだ、フェーズ2に入らないことにしたようだ。

●すわ、感染者が身近に!

そんな事態が起きた。結果は陰性だったのだけど。ことの次第はこのようだった。元農村地帯にある我が家の真前に、農業を営むオッサンがいる。自分で耕して収穫したものをトラックに積んで、青空市場で売るのだ。

ただ、自粛の現在は、青空市場は閉鎖なので、畑の前にトラックを置いて、野菜を並べ、常連さんにその旨をつたえて買いに来てもらう。電話でお届けを受ける、という売り方に変えた。

老齢の母上と同居。アルツハイマーなので、お守りの女性が毎日来る。その母上が肺炎を起こして入院し、熱が下がらないので新型コロナに感染したのではないかと医者に言われたそうだ。

母上はずっと家にいたのだから、外で人に会うおっさんが持っていったと考えるしかない。あいつ、わりと適当だからなぁ、マスクをしたりしなかったり。手だって頻繁に洗ってるかどうか……と旦那(夫)は言う。

母上は高齢の上、病もちでもあるので、もう助からないんじゃないか。おっさんだって、母上が陽性だったら、自分も検査を受けなければならず、受けたら二週間は隔離。二週間も畑を放っておいたら、野菜はダメになってしまう。ひとごとながら心配した。

それに、旦那はしょっちゅうこのトラックに野菜を買いに行き、おっさんとお喋りをする。私たちだって感染してるかもしれない……。ちょっとゾッとしたけど、「私たちに限ってそういうことは……」と、あまりあてにならない考え方をして過ごした。

そして、結局、母上の検査結果が陰性と出て、一同ほっとしたのだった。

●救済

ウイルスがあってもなくても、ホームレスはいるわけだけど、人通りがなくなった道では施しをする人もいなくなり、マクドナルドなどのショップも閉まって、トイレに困ったりしてるそうだ。

そうした人たちを、ウイルスに関係なく手を差し伸べる組織があって、コロナウイルス渦中の取材をテレビで見た。

カリタスという教会系の組織で、眠る場所と食べ物を提供する。安全距離を保つために、普通は60台あるベッドを40台に減らした。

寝るため、あるいは食べるため(あるいは両方)にやって来ると、係員がまずトイレに案内し、石鹸で手を良く洗わせる。食卓は八人がけなのだが、二人だけ座ってもらう。だから、日に100食提供していたのが60食になったという。

ここでの食事の材料は、スーパーのCOOPが協力している。期限切れ間近の食品を無料で提供、オリーブオイルや食塩なども提供してくれるそうだ。

●クアランティンに関する豆知識

細菌感染で謹慎することを「クアランティン」という。この単語はだいぶあちこちで聞かれると思う。この言葉はイタリア発祥なんですね。

時は1347年。欧州でペストが大流行して、欧州人口の三分の一が亡くなったほどの勢いだった。人の出入りが多かった国際都市のベネツィアの、ドゥーチェ(総統)が、外国の船をすぐに入れずに沖合に40日間停泊させ、感染者が出なければ街に入れることにした。

40日を表すベネツィア方言がクアレンテーナ(QUARENTENA)で、このベネツィア方言がイタリア語として「細菌感染病流行時の謹慎」と言う意味になり、40日間を表すイタリア語、QUARANTINAを英語読みにしたのがクアランティン、というわけ。

●Eラーニング

3月末から、我がマンガ学校でも授業が再開になった。御多分に洩れず、ZOOMを使っての授業だ。

私の受け持ちのコースでは、受講者が8人と少数なので、ZOOMでの授業は実に快適だ。
https://photos.app.goo.gl/fM3Hkwt7MZkpbCyGA


授業は週に二回、普段は火曜担当と金曜担当(私)で、担当でない日は報酬も出ないし、顔を出したり出さなかったりするのだが、Eラーニングではどちらの講師も互いに顔を出している。通勤に時間がかからない、というのもいい。

一つ気がついたのは、教室での授業時より、全員の集中力が高い。ちゃんと聞いている。教室での授業の時は、講義の時に絵を描いていたり、ボーッとしたり、おしゃべりをしたりで、聞いてない生徒が必ず何人かいる。8人しかいないのに。

Eラーニングでは、画面の前にいるのは自分だけだから、講師とサシでいるような気分になるのかな。準備しておいた画像を、画面いっぱいにして見せられるのもいい。

火曜日担当の講師は、プロ絵師だからワコムのタブレット「シンティック」を持っており、フォトショップを駆使して、生徒の課題にその場で手を入れて見せて感心されていた。だが、そのワークショップは中止になった。

学校であれば、生徒も使うコンピューターにフォトショップが入っているけれど、自宅ではこの高価なプログラムを持っていない生徒の方が多い。使ったことのない人から見ると、フォトショップでのリタッチは魔法のように見えるんだよね。

私が担当する講義ではフォトショップを使わないので、今度無理して使って、私も感心されたい、というちょっとセコい気持ちがムクムクしてしまったことを告白します。シンティックは持っていないが、AstropadをDLしたので、iPadをお絵かきタブレットとして使うことができるのだ。

このデジタル授業はかなり気に入っている。今後、もっと増えていってもいいんじゃないかな。生徒がローマにいる必要もないわけだし。

ただ、課題作品を提出してもらう時に、スキャナを持ってる生徒がほとんどいないのが問題だけど。スマホのカメラで撮って送って来るので、それこそフォトショップで明暗やコントラストを調整しないと、暗くて見にくい。

一つ困るのは、時々ネットの接続が悪くなること。何秒か、生徒の前から消えてしまう。こればかりはどうしようもない。

●祭日はウイルスに関係なくやって来る

というわけで、4月25日は解放記念日という国の祝日。ファシズムとナチスからの解放を祝う祝日で、現イタリア共和国の基になった出来事だ。

この日は毎年、大統領がローマのベネツィア広場にある無名戦士の墓(エマヌエレ二世記念館)へ月桂樹の輪を捧げる。その時には騎乗兵、国会議員のお供があり、パレードもあるのが例年なのだけど、今年は一人。

マスクをして車から降り、国家警察の代表者(マスク)の敬礼の挨拶に迎えられ、月桂樹輪を運ぶコラツィエリ(大統領付き護衛兵:彼らもマスク)と共に階段を上って輪を捧げた。


パレードはなかったけれど、イタリア空軍誇りのアクロバット飛行戦隊「フレッチャ・アッズーラ」は、ローマの空をイタリア国旗の三色雲で飾った。


5月1日はメーデーで、これも国の祭日。天候も良くなって、こぞって海へ山へ出向くのが例年だけど、もちろん、皆家の中で過ごさねばならない。我が家でも、家で過ごす。復活祭用に買った子羊の肉がまだあるので、またワイルドに直火焼きで食べるつもり。

郊外の広い庭付き一軒家という環境は、今の自宅待機状況ではとても都合が良い。テレワークで通勤の必要がなくなって、のびのびと空気の良いところで生活する……というのは、未来の生活のスタンダードになっていってもいいのではないかな。

家族間で仲良くしてないと、かえってストレスになるけど。

最近、家事をしながらYouTubeで、2チャンの修羅場スレの朗読チャンネルを聞いている。人様のスキャンダルなど興味なかったはずなのに。たぶん、人の不幸は蜜の味、というのと、DQN返しの話が多いので、家族、特に旦那に対する鬱憤を、これで晴らしているのではないかと推測してるところです。

それと、Babule GeniusというゲームをDLしてしまって、これもよく遊ぶ。同じ色の玉が二つ以上あるところに、もう一個の同じ色の玉を当てて消していく系のゲームで、これがまた没頭できていいんですね。頭が休まるというか。これもストレス解消。

何も起こらない日常生活こそ幸せ、とはわかっているものの、考え方や生活のリズムに若干違いのある「他人」と毎日毎日繰り返しの生活は、ストレスなんですよね。もう少し心広く柔軟になるための修行と思おう、と自分に言い聞かせつつ玉を壊しております。

家族や知り合いが誰もウイルスにやられていないこともラッキーです。


【Midori/マンガ家/MANGA構築法講師】
https://www.facebook.com/midori.yamane

https://www.instagram.com/midoriyamane


前記事
https://bn.dgcr.com/archives/midori/