歌う田舎者[64]気を揉んでます
── もみのこゆきと ──

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皆様、気を揉んでますか。

コロナに感染するのではないかと気を揉み、自宅に引きこもっている……という方が一番多い、昨今なのではないかと拝察いたします。

かくいう吾輩も、お国の要請に応え、STAY HOMEでテレワーク……なんぞまったくしておりません。出張に次ぐ出張で、この国賊めと、石もて追われても仕方がない毎日でございます。緊急事態宣言とは……。

まあ、かろうじて肥後の国や日向の国の関所を越えているわけではないので、藩主の仰せに背いているわけではございません。そもそも薩摩藩は江戸時代から鎖国しておるので、コロナ感染者も関所破りのもらい事故だけ。

どうか、どうかその十手をお納めになって、お赦し賜りたい。吾輩、藩命には逆らえぬ、一介の下級武士なのでごわす。

そういや、藩命をあまねく知らしめるための藩主会見時に、背後にある記者会見用バックパネル。蝦夷の国イケメン藩主のバックパネルに書いてあった「ウポポイ」が気になって話が入ってこない……など、ときに話題になることがあるが、わが藩のバックパネルは、フォントが気になって話が入ってこない。

[ウポポイな記者会見バックパネル]


[薩摩藩の記者会見バックパネル]
https://www.pref.kagoshima.jp/aa02/move/1ch/chijikaiken020501.html






薩摩藩ではこの秋、国体が開催される予定なので(開催できるのか?)、記者会見バックパネルには国体PRシンボルやロゴなどが貼ってあったのだが、さすがに今それはどうなんだとの声を受け、コロナ対策のキャッチコピーなどに差し変わったのであるが、あるが、あるが……そ、そのフォントは創英角ポップ体では??

「いや、あのその、いいんですけどね、ええ、確かに目立ちますもんね。でもそのフォントは、スーパーのPOPとか、そういうところに使うと大変よろしいのではないかと思いますんですが、記者会見バックパネルに大々的に使うのはどうかと。フォントが纏っている雰囲気というものがあるんじゃないかと、ええ、あのその……」

「やかましい! 黙って聞いてりゃ寝ぼけた事をぬかしやがって」
「あ、いや、お、お上に逆らうなんて、そのようなつもりは毛頭ございませなんだ」
「ええい、引ったてい! 無礼千万なるその振る舞い、御公儀より追って沙汰する!」
「おおお、お奉行様、勘弁してつかあさい。お前さん、お前さん、助けておくれよ!」

……何を言っているのだ、お前は。なぜこうも脇道にそれてしまうのか。本題は記者会見バックパネルの話じゃない。

話を元にもどす。緊急事態宣言にもかかわらず、旅烏の毎日。大量のマニュアル類とノートパソコンを背負い、重すぎる荷物に老骨はミシミシと悲鳴を上げる。歩く二宮金次郎とは吾輩のこと。

いや、二宮金次郎は薪を背負っているものの、手に持っているのは薄そうな本一冊である。吾輩は荷物がパンパンに入った紙袋まで、両手に下げているのだ。人生の黄昏どきに、なぜこのような苦役に従事しなければならないのか。

答えはただひとつ。そこにお客様がいるから(目に星!)。

IT化で悩みを抱えるお客様の手となり足となり、思いを丁寧に汲み取って、よりよい業務フローを提案する。そこに命を燃やすことこそが、吾輩の人生に課された任務なのだ(棒)。

たとえ誰も見ていなくても、吾輩のことを誰も覚えていなくても、粛々とひとり任務に立ち向かう……なんと崇高な使命感に満ち満ちた人生であることか。

♪風のなかのす~ばる~
♪砂のなかのぎ~んが~
♪みんなどこへい~った~
♪みおく~られることも~なく~

もちろん任務に命を捧げるのは、平日にとどまらない。GWも吾輩の心にいるのはお客様である(目に星!!)。出張の間に、とあるオンライン会議システムの導入を巡って、お客様の中で反対派と賛成派が一触即発の危機にあることを察知した吾輩。すわ一大事、これは情報をお知らせしておかなければ……と、社内SNSで営業のえらい人の耳に入れておくことにした。

GW初日のことである。報・連・相。吾輩は立派な社会人なのだ。組織で働く人間の鏡と言っても過言ではない。すべてはお客様のために。ジークジオン!(目に星!!!……もうええっちゅーねん)。

原稿用紙2枚分ほどの報告をしたため、送信しようとしたとき、自分の書いた報告の最後の文言がふと目に留まった。

「……ということで、GW明けに妙なことにならなければいいなと気を揉んでいるところです。」

そう、気を揉んでいるのだ。揉んでいるのは気だ。ほかでもない。ほかでもないのだが、ふと頭に浮かんだ下ネタを追加せずにはいられなくなった。

「……ということで、GW明けに妙なことにならなければいいなと気を揉んでいるところです。揉むのはおっぱいがいいですよね!」

……いや、まあ、いいよね。これくらい。社内SNSに投稿する雑談風の報告みたいなもんだし、うん、まあ大丈夫、大丈夫に違いない。思いついた下ネタは、ちゃんと出しとかないと健康に悪いのではないかと、常日頃から便秘に悩む吾輩、かように考える次第である。

……よくなかった。よくなかったよ。誰だよ、こんなこと書いたの!

懸案事項については、厳かに、かつ懇切丁寧な返信が戻ってきたのだが、おっぱいは既読スルー。この壮大な空振り感。なぜゲスな発言を我慢できなかったのか吾輩は! 普通に考えたらわかるだろ! こんなこと、Twitterかデジクリでしか言っちゃいかんのだよ! 

いや、まてまて、もしかするとそこ、読んでなかった? そこ、そこが一番大事なとこよ。もうやだなあ。もっかい読んであげようか? 日本語読める? 「揉・む・の・は・お・っ・ぱ・い!」 わかった?

シーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン。

ここで一句。閑さや 岩にしみ入る 蝉の声。風流である。……風流じゃねえよ!ちょっと、ちょっとちょっとどうしたのよ。もしかして帰国子女? 「おっぱい」って意味わかる? おっパブとか行ったことないの? 吾輩もないけど。

シーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン。

古池や 蛙飛びこむ 水の音。ていうか、蛙一匹も飛び込まないとは、こはいかに。

モニタでTwitterを眺めつつ、そのうしろで常時社内SNSを開いていたのだが、ついに返信の赤いバッジは付かなかったのだった。たらり……。

今負けそうで泣きそうで消えてしまいそうな僕は、誰の言葉を信じ歩けばいいの? そんなポエムに、アンジェラ・アキ姐さんは、今負けないで泣かないで消えてしまいそうな時は、自分の声を信じ歩けばいいのと返してくれる。「おっぱい」……そんな自分の声を信じてはいけなかったのか。

ああ、営業のえらい人よ、相手も考えずに下ネタかますなど、どう考えても吾輩が悪うございました。あ、いや、でも、なんせ問題はおっぱいなので、下じゃなくて上についてますから、下ネタじゃなくて上ネタなんじゃないかと思うんですがダメですか? あ、ダメ、ダメなのね。

この上は、吹きすさぶ火山灰の中、三日三晩裸足で断食と祈りを捧げ、赦しを請いたいと、このように考える次第にございます。これが歴史書に記されているカノッサの……いや、もみのこの屈辱でございます。

人生の黄昏どきに、なんとか掴んだ勤め先。余計なことをやらかしてはならない。目立たぬように、はしゃがぬように、似合わぬことは無理をせず、人の心を見つめ続ける時代おくれの女として生きてきたのに、これまでの努力が台無しではないか。

……いや、吾輩は知っておるよ。若手男子から社内SNSにきた投稿に「うーんと、今チョコボール食べながら考えてる。ま、チョコボールと言えば向井だけどね」とか、「え、WordPressの無料テーマ? そうねえ、日本物じゃないとフォント感とか違っちゃうんで、洋物はやめたほうがいんじゃね? あ、洋物っつってもそっちじゃないけどげへへ」とか返した、前科者のババアがいることを。いや、誰かまっっっったく知らないけどよ。

もうほんとすいません。人生においては、もっと揉むべきものがありますよね。わかります。このコロナ禍の時代、STAY HOMEで健全に揉むべきものを揉もうではありませんか。

◎肩を揉め・腰を揉め

二宮金次郎的愛されスタイルで大荷物を背負っておるので、吾輩的には肩と腰がよほど緊急事態宣言なのである。揉むのはおっぱいじゃない。肩と腰である。

◎洗濯物を揉め

出張生活が続き自宅にいないので、冬物を出しっぱなしである。とっととアクロンでも使って、洗濯物を揉めばよいのである。揉むのはおっぱいじゃない。洗濯物である。

◎小麦粉を揉め

STAY HOMEでやることの最右翼と言えば、料理である。Twitterを眺めていたら美味しそうなレシピが流れてきた。

[ホテルオークラのスコーンレシピ]

[英国秒速パンケーキ]

[フライパンで作る焼き肉まん]
https://www.orangepage.net/daily/3157

[ぐりとぐらのカステラをつくろう!]
https://www.fukuinkan.co.jp/ninkimono/cake.html


そうだ、揉むのはおっぱいじゃない。小麦粉である。

ということで、早速取り掛かろうとしたところ、ないのである。小麦粉が。テレビで散々、ホットケーキミックスや小麦粉が品薄だと、繰り返し繰り返し報道しているので、下々のものが買い占めてしまったのであろう。日本の辺境薩摩藩でも入手できなくなってしまったのだ。マスクといいトイレットペーパーといい、もうテレビ黙ってろ!

肩・腰を揉み、洗濯物を揉み、小麦粉を揉むことによって、吾輩、今度こそ立派な社会人となれるはずだ。

そんなわけで、GW明けにどんな顔で営業のえらい人と顔を合わせればいいのか、気を揉んでいます。

※「地上の星」中島みゆき

※「手紙 ~拝啓十五の君へ~」アンジェラ・アキ

※「時代おくれ」河島英五

※チョコボール向井
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%83%A7%E3%82%B3%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%AB%E5%90%91%E4%BA%95



【もみのこ ゆきと】qkjgq410(a)yahoo.co.jp
(゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい!

で、GW明けましたけど、営業のえらい人とはどげんなったとでごわすか……とお思いの向きもあろうかと。ふっ、そなたたち下々のものと一緒にしてもらってはかなわんのだよ。GWなど明けてはおらぬわ。

え、そんなにホワイトな会社に勤めてるの? チッチッ、♪違う違う、そうじゃ、そうじゃな~い。GW明けたとたんに出張なのである。直出で出張なのだ。5月に出社するのはたった一日。これでは、吾輩の老骨が荷物の重さに耐えきれず、砕け散ってしまうではないか……ということで、その一日は休もうと画策しておる。

そうなると、6月になるまでGWは続くのだ。それをGWと呼ぶのかどうかは、もうよくわからなくなってきたが、とりあえず呼べ。下々のものたちよ、身分の違いを思い知るがいい。……明けないGWはない。