わが逃走[264]ウンコの話の巻
── 齋藤 浩 ──

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授業中にウンコがもれそうになったことはありませんか。

誰でも必ず似たような経験があるものだと思っていたのですが、必ずしもそうではないということを最近知りました。

ごく親しい間柄の年上の女性Aさん(年齢非公開)に尋ねたところ、そんな経験は一度もない。あんたは異常だ、という。




ちなみにAさんは自宅以外でウンコはしない主義だそうで、出先で便意をもよおしたことなど一度もないという。

なんということだろう。

この人は、〈逆上がりができない子の気持ちがわからない体育教師〉ような女だったのだ。

私が育ったS玉県のO宮というところは、牛乳を飲まないと強い子になれない。すなわち、飲まない奴は弱虫だという論理で糾弾される社会だったので、幼い頃はとても苦労をした。

何食わぬ顔で牛乳を飲み、5時間目以降は常に怯える日々だった。

そう、私は牛乳やヨーグルトを食べると、通常の3倍の確率でウンコしたくなる体質なのだ。今でも、もし電車に乗ってるときにウンコしたくなったらと思うと気が気じゃない。

外出の予定のある日は、絶対に乳製品を摂取しないなどの対策をしている。

また私が育ったS玉県のO宮というところでは、一度でも学校でウンコをした奴は、一生後ろ指をさされるという慣習がある。

もらすわけにはいかないし、トイレでウンコすることすら許されなかったのだ。

なぜそんな話をしているかというと、実は先日、授業中にウンコがもれそうになったのだ。まさか教える側になってこのようなことが起きるとは!

幸い自宅からのリモート授業で、トイレはすぐそこだ。

何食わぬ顔で、では、制作に入ってくださいとか言ってカメラとマイクをOFFにし、事なきを得たわけだが。

で、便座に座りながら、この便器とも長い付き合いだなあ。もしコイツが人間だったら、もう高校生か。
などと感慨にふける。

17年前のことを思い出したのだ。

あの日あの時。新居を35年ローンで購入したのだが、新築の集合住宅であるにもかかわらず、納品された便器にはなんとウンコがついていたのだ!

新築のマンション買って、最初にウンコをするのは世帯主である私でなければならない。にもかかわらず、この便器はなんだ!

現場をそのままにし、翌日施工会社の担当者と建築士立会いのもと文句を言ったら、これはウンコによく似た泥だと言い張る。

玄関やベランダ付近ならまだわかる。泥がなんで室内の、しかもトイレの便器の中心部に沿ってこびりつくのだ?

電話で友人の建築雑誌編集者に相談したら「舐めてみろと言えば?」とアドバイスをもらった。さすがに上品な私には言えなかった。

いや、問題はそこじゃない。それが泥でも味噌でもクソでも、この際良しとしよう。とにかく私は新品の便器を買ったのだ。汚れている便器は新品とは言えない。なので交換しろと迫り、交換してもらった。

無事新品の便器で新居初のウンコをすることができた。

交換された便器は集合住宅の共用部にしばらく仮置きされ、いつのまにかなくなっていた。

施工会社にしてみれば、あれは泥がついただけの新品ということなので、どこか他の物件に設置されたのかもしれない。その後施工会社は経営破綻したので、それを調べる術はもはやないといえよう。


【さいとう・ひろし】
saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。