わが逃走[266]ヒトとの接触を避けつつ近所を歩くの巻
── 齋藤 浩 ──

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ステイホームしながら「go toトラベル」せよとは、アクセル踏みながらブレーキ踏む、それすなわち飛んでるはずが落ちてる、ってビートニクスの歌詞みたい。

てなことを考えながら遠慮がちに過ごしていたけれど、たまに散歩くらいしたって構わんだろうという気になってきた。

そんなわけで、ヒトとの接触を避けつつ、家の近所をカメラ片手に歩いてみようと思い至った次第。

取り壊しが決まった、前川國男設計の世田谷区役所にTOKYO2020フラッグというのは、なにやら世紀末じゃないのに世紀末感にあふれている。

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このフラッグは、この時代を象徴する良いモチーフなのではなかろうか。無事開催できればもちろんめでたいし。仮にできなかったとしても、また戦後からやり直せると解釈するなら、おのずと希望もわいてこよう。

この日の気温は体温よりも高かった。

銀行に行くため世田谷通りを少し歩いたんだけど、汗を2リットルくらいかいた印象。

あまりに暑く、道を歩いてる人も少なかった。

白いビルの外階段に落ちた影がものすごくシャープで、そのコントラストに驚いてシャッターを切ったのがこの写真。

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ファインダーを覗きながら見上げると、目に汗が入り込んできて、ものすごくしみる。ああ、日焼け止めが全部溶けているんだろうなあと思うのだった。


暑いんだからとっとと帰ればいいのに、ちょっとだけ遠回りした。三軒茶屋における昭和の残像が見え隠れする『三角地帯』を歩く。

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路地裏とか、裏路地とか、そういった街並みにはやはり懐かしさを感じてしまう。また改めて電線の面白さを実感する。

社会人になったばかりの頃、ポジからスキャンされたデジタル画像の電線消しを毎日のようにしていたが、それら消された電線の先には、実はたくさんの人の生活があったのだ。

てなことを思った。

数日後、ケーキ屋にツケを払いに行く途中、ふしぎなやつに遭遇した。

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ネタバラシをしてしまえば、保育園のプールが自転車カバーらしきものの上に干してあるのだが、怪獣のような笠地蔵のような、無作為の造形がおもしろい。

写真にせよデザインにせよ、こちらの作為が伝わった時点で相手は興ざめする。最強の存在である「無作為」に学ぶべき点は多い。

影鑑賞会。

暑すぎて外に出る気がしなかったので、家から5歩の範囲でオモシロイものを探したところ、手すりの影が構成主義っぽかったので70年前のレンズで撮影。

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モノクロ全盛の時代に製造されたからなのか、階調がキレイだなー。

黒の中の黒から白の中の白まで、いろんなグレイがあるんだなあと思った。

そのレンズが設計された頃につくられたものを探して撮ってみる、なんてことも楽しそうだと考えた次第。


【さいとう・ひろし】
saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/


1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。