エセー物語(エッセイ+超短編ストーリー)[56]水に濡れた電化製品は、はたして復活するのか? トンネルを抜けて
── タカスギシンタロ ──

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◎水に濡れた電化製品は、はたして復活するのか?

ポタポタと音がして見上げれば、なんとクーラーから水漏れである。光の速度で風呂場へ走り、洗面器を取ってきて、テレビにしたたる水を受けた。その姿勢のまま足を伸ばしてティッシュの箱をつまみ、手繰り寄せる。

びしょ濡れのテレビを拭きつつ「そうだ、電源!」と気づき、クーラーを切り、家電の電源を大元から切った。と、今漏れている場所とは違う場所からも水漏れが! 

そこにはなんと、録画用のハードディスクが……。しかし今、洗面器を移動させるとテレビが濡れてしまう。降って湧いたトロッコ問題であるが、もはやハードディスクは諦めるしかない。だってテレビの方が高いから。

テレビの上のポタポタがおさまってから、遅ればせながら洗面器をハードディスク上に移動。やがて水漏れは治まった。ずいぶんと長い時間に感じたが、おそらくはほんの数分の出来事であった。

それではここで被害の様子をまとめてみよう。





・ちょい濡れ:壁かけスピーカー(新品)、ノートパソコン、AmazonのFire TV Stick 4K(新品)

・びしょ濡れ:壁かけテレビ、ミニアンプ(新品)、録画用ハードディスク、掛け布団

以上のごとく大惨事となったわけだが、なぜ新品の電化製品が多いかというと、そもそもコロナ禍で、家で映画を観たいのに近所のTSUTAYAが撤退。妻がAmazonプライム会員なのでFire TV Stickを買うことになったのだった。

さらにSpotifyも聴けるので、せっかくなら良い音でとアンプにスピーカーも新調である。今回の事故はまさにプライムビデオで「ゲームオブスローンズ」と「鬼滅の刃」を交互に観ている最中の出来事であった(しんどい組み合わせです)。

さて、軽く濡れたものはさっと拭けばいいのだが、問題はびしょ濡れの電化製品である。とりあえずは内部にたまった水を捨て、表面を拭いた。ハードディスクドライブから急須みたいに水が出てくる絵は、なかなかシュールである。

このまま完全に乾かすわけだが、ちょうどサンルームがあるので、そこで干すことにした。気温が40度以上に上がるので早く乾くのではないかとの目論みである。電化製品を高温の環境にさらすのも心配たが、なにより早く乾いてほしかった。

数日放置して、完全に乾いてからいよいよ電源を入れました、さあお立ち会い。

なんとなんと、すべて無事。問題なく使えたのであった。めでたしめでたし。

問題の水漏れエアコンであるが、ドレンが詰まったことが原因と判断した。そこでドレンの排出口に雑巾を巻いて掃除機で吸ったところ、どろどろした藻みたいなものが出てきた。これが詰まりの原因だったと思われる。

エアコンの水漏れ時にお試しあれ。ただし掃除機が水を吸い込まないように気をつけて。あと、二階の屋根から落ちないようにご注意を。

◎超短編 トンネルを抜けて

この電車に乗っている乗客は、偶然にも全員、鼻が詰まっていた。
しかしそのことを知るものはいない。
「まもなくトンネルに入ります」
車内アナウンスの車掌の鼻も、もちろん詰まっていた。ところが。

トンネルを抜けると、偶然にもすべての乗客の鼻が通るようになっていた。
しかしそのことを知るものはいない。ところが。

「ただいまトンネルを通過いたしました」
車内アナウンスの車掌の鼻が通っていることには、誰もが気づいたのだった。


【タカスギシンタロ/超短編作家/フリーペーパー「コトリの宮殿」編集長】

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