crossroads[93]専門学校新人講師 目に見えない戦い
── 若林健一 ──

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こんにちは、若林です。

今年の6月から大阪の専門学校で、非常勤講師として実習系の授業を担当しています。

6月からという中途半端な時期なのは、新型コロナウイルス感染症による休校措置の影響。

本当は4月から始まるはずだったのですが、2か月遅れてのスタートとなったためです。そんな波乱のスタートを切ってからの3か月、私の日々の戦いについてお話したいと思います。





■学生たちのIT環境

スマートフォンの所有率は非常に高く、私が見た限りでは100%です。

iPhone、Androidの割合は半々というところでしょうか。特にどちらが多いということはありません。比較的新しい機種を持っている方が多いので、親のおさがりではなく自分用に購入したもののようです。

一方、PCの所有率は高くはありません、持っていない学生が目立ちます。もちろん、比較的高性能なPCを使っている学生、自分で組んだPCを使っている学生もいます。

私が担当しているのは工業系の授業なので、この分野の学生であればPC所有率は高いのかなと思っていましたが、半数ぐらいは所有していませんでした。

話を聞いてみると、個人でPCを持つ必要性を感じていない、スマートフォンでこと足りるとのこと。

確かにそうなのかもしれません。就職活動で作成する履歴書やお礼状も手書きが基本のようですし、であればわざわざ高いお金を出してPCを持つ必要はないというのもうなずけます。

とはいえ、働き始めたらPCは必須。

いつかは仕事も、タブレットやスマートフォンだけでできる時代がくるかもしれませんが、まだまだ当面は仕事をする上ではPCが必要。

企業側もある程度はPCに慣れていることを期待しているはずなので、できれば日頃からPCを道具として使う感覚はもっておきたいところ。

PC選定の目安を伝えた上で、事情が許すのであれば自分のPCをもつことを勧めています。

【初心者向け】Windows PCを購入する時に知っておくべきポイント(2020.8)
https://crssrds.jp/note/what-to-look-for-when-buying-a-Windows-PC


もちろん、強制することはできませんから、私たちにできることはここまで。個別に相談があった場合は対応しますが、それ以上踏み込むことはありません。

PCが生活する上で必須アイテムになっている私としては、なんとかできないものかと思いますが、必要性を感じていないのであれば大きなお世話なのかもしれません。

そう思うと、とても悩ましいところです。

■学生とのコミュニケーション

週初めの授業では、必ず「この一週間で気になったニュースや記事について話す時間」をとっています。

それぞれがどんなことに関心を持っているのかを知ることができますし、コミュニケーションの練習にもなるだろうというのが大きな目的。

ここで私がやってるのはあくまでも雑談ですが、雑談というのは意外と難しく、日頃からやっておかないと、いざやろうとしてもできないものです。

とはいえ、積極的に発言してくれるメンバーは、ほぼ固定しているというのが実情。もちろん、ここでできなくても必要な場面でできれば、まったく問題はありません。でも、ここでできないのに、他でできるのかなぁとも思う……。

また、学生から見ると先生というのは「偉そうに見える」かもしれません。しかし、実際のところは学生からの反応をとても気にしています。

こちらが話している時に、うなづくなどのレスポンスを返してくれると、とても安心できます。ポジティブなレスポンスでなくても構いません、わからない時は首をかしげるでもいいのです。反応がないよりは全然いいです。

反応のないのが一番やりにくい……。

レスポンスを返してくれる学生がいると、話しやすいのでついその方ばかりを見て話してしまいそうになります。

そうすると反応の薄い学生さんとのギャップが、さらに広がるかもしれない。

この悪循環を起こさないように、常に意識してクラス全体を見渡して話すようにしています。これは会社の会議の時にも実践していたことなのですが、なぜか学生相手だとより難しく感じますね。

講師側もいろいろと気苦労を負っていることを、学生のみなさんにもわかってもらいたい、というのが正直なところです。

学生と私では、親子ほど歳が離れているので、価値観や考え方が違っていてあたりまえ。

私も自分の価値観を押し付けるつもりはありませんが、とはいえ学生たちの好きなようにしていたのでは、講師としての存在価値がない。

ある程度は自分の価値観を前面に押し出すことも必要、ここのバランスを取るのがとても難しいのです。

ここでも、キーになるのはコミュニケーション。

学生たちがどう考えているのかがわかれば、それに対してアプローチを考えることもできるのですが、何しろ学生からのレスポンスが薄い。

いや、学生を責めるつもりはありません。

ただ、学生時代を終えてからの長い人生、コミュニケーションはとても重要な要素。今のうちに経験を積んで欲しいのです。

「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」といわれるように、最後は本人次第なので難しいところです。

「コミュニケーション」という軸では、とうてい書ききれないほどの苦悩を抱えています。

■学校の先生ではなくスポーツジムのトレーナーのように

私は教育分野の専門家ではなく、社会人経験者のひとりとして指導にあたっているので、「生きるための武器を与える」ことをイメージして授業を進めています。

これから生きていく上で役に立つけれど、教科書には載っていないようなこと、学校の先生からは得られないことを提供していこうと。

それらを進める上での私の役割のイメージは、学校の先生というよりもスポーツジムのトレーナー。

スポーツジムで普段使っていない筋肉を伸ばしたり、今まで使ってこなかった筋肉を鍛えるように、学生が今まで経験したことがないこと、やってこなかったことを、少しずつ一緒にやっていくイメージでいます。

しかし、それらは学生には理解しにくいだろうとも思っています。

スポーツジムのトレーニングであれば、体がやわらかくなった、筋肉がついたことを実感できます。しかし、私がやっていることは働き始めてから、もしかすると何年か働いてみて、ようやくわかるようなことかもしれません。

教科書に沿って勉強するようなことの方が、学びの実感を得やすいとは思うのですが、だからといってそこに合わせにいくのは違う。

今すぐに全員に理解してもらうことは難しいかもしれないけれど、私は私にできること、私だからできることをやっていこうと、自分に言い聞かせています。

学生との目に見えない戦い(戦いと思っているのは私だけかもしれない)は、まだまだ続きます。

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