わが逃走[65]信州巨大構造物の巻
── 齋藤 浩 ──

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ご無沙汰してます。齋藤です。なにやら前々回の『わが逃走』にコメントを寄せてくださった方がいたにも関わらず、全く気づかずに1ヶ月以上放置してしまいました。月夜の流しさん、失礼しました。コメントありがとうございます。こんなくだらない文章を読んでくださる方がいると思うだけで感無量。

えー、さて今日(5/20)発売になった(であろう)雑誌『カメラ日和』に、なんと趣味の写真家・齋藤浩(とはオレのことさ)が紹介されてしまいました。以前書いた『わが逃走[51]顔に見えるコレクションの巻』系の写真がどどっと掲載されていますので、皆さん是非立ち読みしてください。気が向いたら買ってください。
< https://bn.dgcr.com/archives/20090924140400.html
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なお、私の写真にまつわるウンチクはこの『わが逃走』にもたびたび登場していますので、よろしければバックナンバーを読んでいただけるとウレシイ今日この頃。
・わが逃走[23]尾道とカメラの巻
< https://bn.dgcr.com/archives/20080612140300.html
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・わが逃走[24]人はなぜ写真を撮るのか。の巻
< https://bn.dgcr.com/archives/20080626140200.html
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・わが逃走[38]ツァイスがスゴいの巻
< https://bn.dgcr.com/archives/20090212140300.html
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まだまだあります。みなさんよろしくね。



という訳で、以上が前置きです。今回は前置きとは無関係に、この連休に信州は佐久市臼田にある臼田宇宙空間観測所なる施設を見学してきたので、そのときのレポートのようなものを書こうと思います。ここは昨年秋にも行ってきまして今回は二度目なのですが、グッとくる人にはグッとくるのですが、そうでない方にはまったくどうでもいいという場所です。

宇宙空間観測所はその名のとおり、宇宙空間を観測するJAXAの施設です。現在、数々の苦難を乗り越え地球に帰還する小惑星探査機『はやぶさ』や、5月21日(金)6時58分22秒に打ち上げられる『あかつき』らとの通信を担う直径64mの巨大パラボラアンテナを持つ施設で、"うすださん"の愛称でそのスジの方には有名。ちなみにこのパラボラは野辺山の電波望遠鏡よりもはるかにデカく、東洋一の大きさを誇る。

どーでもいいけど、日本の観光地では"東洋一"をよく見かけます。ってことは、西洋なるところはさぞかし凄いところなんだろうなあ。

さて、ここを訪れる人は主に『宇宙好き』と思われますが、私は宇宙に関してはあまり知識がありません。今回はどちらかといえば『ただの巨大構造物好き』として見学してきましたので、ご了承くださいませ。

5月3日、山道に向かない車で山の中のさびしい一本道をひたすら走って行くと、突如前方に巨大なパラボラアンテナが出現した。
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デカい。ものすごくデカい。しかも唐突。パラボラといえばウルトラマンな印象がオレにはあるのだが、円谷プロ的というよりも、スターウォーズepisode6に登場する森の惑星エンドアの、帝国軍レーダー基地にロケーション的にもそっくり。形状自体がとてもSFチックなのだが、決してフィクションではなく、純然たるサイエンスの施設だ。

さらに車を走らせ、いくつかのカーブを曲がると施設の入口に到着する。ちなみに入場は無料だが、簡単な手続きが必要。一旦停車し、受付にて住所と氏名、そして車のナンバーを記入すると見学者ワッペンをもらえる。これを付けて見学が許可されるのだ。

ちなみに客商売という訳ではないので、受付の対応もこちらを客とは思っていない。そのへんを理解しておいた方が気持ち的にも安心だ。参考までに私が目撃した受付と主婦との会話をここに記してみよう。( )の中は私の感想。

家族連れの車が『一時停止』の表示を無視して施設内の駐車場に車を入れ、車を降りる(この表示自体もイマイチ緊張感に欠けるので、ついそうしてしまう気持ちはわからなくはない)
受付:「おい、そこの人! 受付!」
(いくらなんでも「おい、そこの人」はないだろう。また「受付!」のように体言止めで怒鳴る人を久々に目撃しました。)
主婦:「あー?」 家族に向かって「なんかここで書くんだってさー」主婦、
見学者ノートに記入する
主婦:「あのー、ここって何があるんですか?」
(そんなことも知らずによくこんな山の中の一本道をここまで来たもんだ)
受付:「何って...」アゴをしゃくり上げ、見りゃわかるだろという感じで
「パラボラー。」
主婦:「ふーん」主婦、それきり何も言わずに去ってゆく 以上。

まあ、片や最先端科学技術を扱う施設の番人であり、一方はなんだかわからないけど来ちゃった家族連れである。今まさに、小惑星探査機『はやぶさ』へTMC-1(探査機を地球へ誘導するための姿勢制御プログラムの指令のようなもの?)実行のための通信が行われている、その巨大最先端設備の下では、こんな会話がなされていたのだ。

ちなみに近くでパラボラを見ると、こんな感じ。やはり巨大構造物好きとしてはシビレます。空のヌケといい、周囲の環境といい、パラボラとの対比がたまらん。色的にも質感的にも、絶妙なコントラスト。
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また、シンプルなトラス構造の集合体であるパラボラと周囲の森林は一見無関係そうに見えるものの、両者にはフラクタル的な美を感じます。
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さて、ここ臼田宇宙空間観測所には、もうひとつ素晴らしい物件がある。縮尺1/5500000000スケールの太陽系の模型。何が凄いかというと、惑星の模型ではなく、太陽系の模型という点。すなわち、星の大きさだけでなく惑星間の距離までもが正確な縮尺で再現されているのだ。

ここでは太陽がバスケットボールくらいの大きさで、そこから30mくらい離れた場所に米粒より小さい地球がある。ちなみに写真は地球から金星、水星、太陽を見ています。遠くの赤い玉が太陽。
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この施設の総敷地面積がどれだけかは知る由もないが、とにかく広い。が、この広大な土地をもってしても太陽系全ては入りきらず、土星から先は心の目で見ることとなる。太陽系ですらこんなにデカいってことは、宇宙ってけっこうスッカスかじゃん! ということが体感できる。これってかなり凄いです。

ここ信州では夜、空を見上げると普通に星空が見えたりするのですが、この模型を見る前と後では見え方というか感じ方が全く変わってきます。そんな訳で、タダで宇宙を体感できる素晴らしい施設、臼田宇宙空間観測所の紹介でした。といったところで、今回はこのへんまでにいたします。

もうすぐ『はやぶさ』が帰ってきます。こんどアオシマから発売されるはやぶさのプラモデルでも組み立てつつ6月13日を待ちたいと思います。ああ、なんか21世紀だなあ。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。